蒼いイト ~after story~ #4












あの夏から、もうすぐ二年が過ぎようとしている。
今日も、夜に向かう街の隙間に夕陽が沈む。
西の空が、茜色に染まりゆく。
沢山のひぐらしが鳴いて、命と夏の終わりを知らせている。
こんな時、ふと寂しさに駆られてしまうけど、俺は頼れる場所を見付けた。
丁度二年前に、あの店で愛を買って、彼に出逢った・・・・・・
筈だった―――――


















































「今日の夕飯何にしよ」

折角チャンミナがうちに来るんだから、少しは良いものを買おう。
この時間なら、デパートでセールしてる筈だ。
地下街に降りると、仕事帰りの人々で一歩進むのも大変な程混み合っていた。
あー、来るんじゃ無かった・・・・・・
強引なオバサンとか勢いある学生に揉まれながら、俺は何とか、幾つかの惣菜とスウィーツをゲットしたのだった。

「あーもう、速く帰ろ帰ろ」

こんな風に、帰りたいと思えるのも幸せなことだ。
近頃は、当たり前になりつつあるけれど。
近道をしようと、駅裏の狭い路地に入って暫く歩くと、ある別れ道に差し掛かった。

「此処って・・・・・・」

暫く来ていなかったから、頭からすっかり消えかけていた。
そういえば、この別れ道をずっと進んだ奥の突き当たりに、あの店があったんだ。
俺が愛を買った、あの店が・・・・・・
何となく気になってしまい、俺は知らぬ間に別れ道へ足を進めていた。
記憶の通り、突き当たりまで歩いたものの

「・・・・・・あれ?」

目の前に建っているビルは暫く使われていないようで、降りたシャッターに"テナント募集"の貼り紙がしてあった。
貼り紙自体も、文字が色褪せてたり、所々破れていて最近の物とは思えない。
丁度近くを通りかかった工事のおっさんに、俺は声をかけた。

「あのー・・・・・・此所にあった店、無くなったんですか?」
「店ぇ?」
「はい。有りましたよね?ボロい扉の、今にも壊れそうな・・・・・・何でも屋みたいな・・・・・・」
「知らねえな。そこぁだいぶ前からテナント募集してて、カラの筈だが」
「・・・・・・前からって、どのくらいですか?」
「さぁ。でも四年は経ってると思うぞ」
「え?そんなに・・・・・・・?」
「俺四年前から此処勤めてっから、間違いねぇよ。大体、そんな汚ねぇ物件誰も買わないだろ。早く壊しちまえば良いのに」
「・・・・・・・・・・・・」

おっさんはブツブツ言いながら去って行き、俺はビルの前に立ち尽くしていた。 
あれは、丁度二年前の筈。
はっきりと、当時を思い起こせるのに・・・・・・
今にも壊れそうな、レトロチックな木造の扉。
カウンターに立つ、愛想の無い店長。
そして、そこで買った愛も。
目を凝らしても、頭を振ってみても、目の前にあるのは、シャッターが降りた空箱だった。
















インターホンが鳴って、俺は扉を開けた。

「こんばんは」
「いらっしゃい」
「お邪魔します。あ・・・・・・」
「ん?なに?」
「片付いてる。珍しく・・・・・・」
「ははっ。珍しくは余計ー」

俺の突っ込みに、チャンミナも小さく笑みを漏らす。
言葉を交わすとき、チャンミナは前よりも笑うようになった。
相変わらず控え目ではあるけど、出逢った頃より喋るし、表情や反応が豊かになった。
多分、俺もそうだと思う。













ふたりしてベッドに潜り込んでから、俺はふと、今日の帰りのことを思い出した。

「ねぇ・・・・・・チャンミナ」
「・・・・・・はい」

チャンミナは眠りの世界に入っていたのか、俺の呼び掛けに遅れて返事をした。

"俺達は二年前、あの丘の上で会ったんだよな?"

"君は幽体で、ところが俺はそれに気付かず、愛の取り引きをしたよな?"

"でも、その愛を買った店が、今日行ったら無かったんだ"

そう伝えたかったけど・・・・・・
俺は、何となく言うのを止めた。
だって、過ぎ去ったことに執着して、それを突きとめて何になる?
今、幸せがちゃんと此所にあるのに。
俺は、チャンミナが一度死のうとした過去と、今生きているのが奇跡だってことを忘れなければ、それで良い。

「・・・・・・ユノさん?どうしたんですか?」
「・・・・・・・・・・・・そろそろ、一緒に暮らそうか」
「え・・・・・・?」

暗闇の中、大きな瞳が少し驚いた風に、俺の方を見ている。
俺は、微笑みながらチャンミナに覆い被さった。

「チャンミナが・・・・・・また俺に会いに行こうとして、魂が抜けないように」
「恥ずかしいから・・・・・それ、あまり言わないで」

チャンミナが、少し拗ねた顔で呟く。
そんな反応も愛しくて、俺はまた口を緩めた。

「僕のこと・・・・・・見張っててくれるんですか?」
「うん」
「嬉しい・・・・・・」

笑い合い、唇を重ねたのをきっかけに、互いの身体を貪った。
それは、YESのサイン。

「チャンミナ・・・・・・」
「あ・・・・・・ユノ、さ・・・・・・」

ぬくい体温を求めて、店のことは頭の隅に放り投げた。













































































あの店がもし、霊と同じで、俺の"寂しい病"が見せていたモノだとしたら?
俺がまた孤独になった時、同じ場所に行けばあの店が建っているのだろうか・・・・・・?
そんなこと、考えなくて良い。
愛を買う必要はもう無いのだから。
俺が、この先もチャンミナを亡くさない限り。

俺の霊感も、小指のマジックの跡も、そして店も無くなった。
あの日々の証はもう、今は互いの存在だけ。
過去の記憶は、時間の経過とともに薄れていくけれど。



" 蒼い糸 " が、今も俺たちを繋いでいる。

そういうことにして、歩いていこう。
独りじゃ生きられない・・・・・・
寂しがりの、俺達だから。




























END



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これにて、蒼いイトは完結です。
呼び方迷いつつ、出会って2年も経ってるからお互い名前呼び、ユノはタメ語にしました。
仲の深まりを感じて貰えると嬉しいです。
本編も今回も、最後は完全なるハッピーエンドより、悲しみや不安は忘れないけど前を向く感じにしてみました。
ふたりがもう愛を買ったり売ったりしないように、一緒に居られるように、皆さん信じて祈ってあげてください。
たぶん内容的に、その後のふたりを書くことはもう無いかな。寂しいけど・・・・・・!


「おかえり。」投稿から蒼いイト完結まで、今回も沢山の応援ほんとうにありがとうございました!
このあと、コメント返信も兼ねたあとがきアップします。



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2017/09/10 (Sun) 21:21 | EDIT | REPLY |   

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