学校のか・い・だ・ん



#このお話は、ねぇ、センセイ。シリーズと繋がっております。












僕らの学校では、最近ある心霊現象が噂になっている。
夜になると、2階にある廊下の突き当たり―――奥の美術室から、泣き声が聞こえてくると言うのだ。



『寂しい、寂しいよ・・・・・・助けて・・・・・・』
『会いたい・・・・・・会いたい・・・・・・』

暗闇のなか、か細い声が何度も繰り返すのを、ある生徒は確かに聞いた。
そして―――

『見ーたーなぁー・・・・・・?』

地を這うような低い声で、生徒はそう問われたらしい。
生徒は、血相を欠いて必死に逃げた。
翌日、生徒は恐る恐る美術室を覗きに行ったが、特に何事も起こらなかったそうだ。
ただひとつ、前日の現象を物語る確かな証拠が、ある場所に残されていた。
一体の彫刻の身体のあちこちに、液体が流れた跡が見つかったのだ。
その彫刻は、精巧な顔立ちと溜め息が出る程の肉体美で、以前から校内でも有名だった。
その昔、彫刻の男性は恐らく実在した。
そして、男性に失恋した女の魂が、今も涙を流しながら美術室をさ迷っているに違いない―――・・・・・・



東方学園は今、この噂で話題は持ちきりだ。
そしてなんと、運悪くも美術部員の僕は、毎日心霊現象に怯えながら過ごしている。






キャンバスに筆を乗せていると、あっという間に時間が過ぎる。
心霊現象のこともあり、遅くまで残りたくないので、思いの外時間が進んでいたことに焦った。
回りを見渡すと、残っている部員は僕の他に2人。
そして、美術部顧問のシム先生だけだった。
シム先生は、今日もベストを小綺麗に着こなして、笑顔で生徒達の指導をしている。
童顔で中性的な顔立ち。天使のような笑み。モデルのような体型。
そんな外見から、シム先生は生徒から人気を集めている。
恋人の有無は不明だが、告白した生徒達(男も含む)は皆、天使の笑みで「御免ね」と一刀両断されるらしい。
シム先生は、外見は言うまでもなく、穏やかで優しく人柄も良い。
きっと結婚まで秒読みくらいの、素敵な相手が既に居ることだろう。

「テミン、どう?進んでる?」
「あ、は、はいっ」

考え事の途中で話しかけられ、つい慌ただしい返事になる。
シム先生は、静かに笑うと僕の耳元に口を寄せた。

「5分くらい前から、筆が動いて無いけど・・・・・・?」
「えっ」

そう―――
シム先生は、穏やかに見えて鋭いのだ。

「す、すみません」
「謝ること無いよ。集中出来ない時は、筆を休めて違うことをするのも大事さ」
「ありがとうございます・・・・・・」

気付けば、残っていた生徒達も居なくなっていた。
ついに、部員は僕一人だけ。
ソワソワし始めた僕を見て、シム先生は不思議そうな顔をした。

「どうしたの?」
「・・・・・・一人に、なっちゃったので」
「それが、どうかした?」
「こ、怖いなって。最近、噂されてるじゃないですか。彫刻の、あの話・・・・・・」

シム先生は、「ああ、あれね」と、平淡な口調で言った。
クールなその態度に、意外性を感じる。

「先生は怖くないんですか・・・・・・?よく一人で残ってますけど」
「全然」
「へぇ、凄いなぁ。皆ビビりまくりなのに」

シム先生は、目をパチクリさせてからふふふ、と口に手を当てて笑った。

「だって・・・・・・あの彫刻を作ったの、僕なんだもの」
「えっ、そうなんですか?」
「そうだよ」

そんなこと、全く知らなかった。
シム先生の技術がプロ並だとは聞いていたけど。
よく、博物館や美術館の補修作業に助っ人として呼ばれている位だから。

「産みの親なんだから・・・・・・怖い訳無いよ。むしろ、愛しいくらい」

優しく、愛のこもった視線で、シム先生は彫刻を見つめている。
いったい、どんな経緯でその彫刻を作ることになったのだろう。
何歳の時に?
女性の彫刻なら恋人だとか大体想像がつくけど、男性って・・・・・・?

「モデルの方とは・・・・・・その、どんな・・・・・・」

シム先生は、にっこりと笑って言った。

「僕の恩師だよ。高彼は高校時代の、僕の担任の先生だったんだ」
「へえー!そうなんですか」

―――ん?ちょっと待てよ。
あの彫刻って裸だよな・・・・・・
裸・・・・・・裸・・・・・・
えーと・・・・・・?
それに、今「愛しい」とか言ったような。

「・・・・・・・・・・・・」

シム先生と視線がかち合い、反応に困る。
スルーした方が良いのかな・・・・・・
でも凄く気になる。
シム先生から匂わせてる感じもあるし、聞いたら答えてくれそうな気がする。

「その、モデルの方とは・・・・・・今も・・・・・・?」
「うん。とても仲良しだよ」
「そ、そうなんだ」

僕の推測が間違ってなきゃ、もしかしたら、シム先生は彫刻の彼と―――
遥か昔に存在したかのように扱われていた、この彫刻の人物。
きっと、シム先生のプライベートを覗けば、実物が見られること間違いナシだ。
つまりは、そういう関係なのだろう。

「僕・・・・・・もう、分かっちゃったかも知れないです。先生」

シム先生は、何時ものように穏やかに微笑み、言った。

「内緒だよ?テミンと僕だけの、秘密」

その笑みは、なんだかちょぴっとエッチな気がした。

「何で・・・・・・僕だけに教えてくれたんですか?」

次に聞いたシム先生の返答に、僕は動揺を隠せなかった。

「テミン、何時もサッカー部のオニュを見てるでしょう?」
「え・・・・・・」
「それに、前提出してくれたスケブに、オニュのスケッチを見付けたんだ」

ぼ、僕としたことが・・・・・・!!
そう。
僕は男でありながら、男が好きな性癖の持ち主だ。
そして、クラスメイトであり、サッカー部キャプテンのオニュに想いを寄せている。
告白する勇気なんて全く無いけど、毎日遠くからオニュを眺めては、スケブにオニュの姿描き写しているのだ。
まさか、それをシム先生に気付かれていたなんて。
うっかり、オニュを描いたスケブをシム先生に渡した僕も相当馬鹿だけど!
赤面する僕を、シム先生は穏やかに微笑みながら見ている。

「僕と、彫刻の彼の関係も、そんな感じで始まったんだ。テミンを見てると、昔の僕と凄く重なって見えちゃってね・・・・・・」
「そ、そうなんですね」

シム先生は、彫刻のモデルの―――当時担任だった先生と結ばれて、今も関係が続いているということだ。

「先生・・・・・・僕にも、望みあるかな?男同士だし・・・・・オニュ、皆から人気だけど・・・・・・」

シム先生は、僕の頭を撫でながら優しい口調で言った。

「まずは、お互いを知るところからかな。オニュと沢山話してごらん。テミンの真面目で一生懸命な所を知ったら、オニュも好感を持ってくれるかも」
「は、はい」
「テミン、何時でも相談にのるからね」
「ありがとうございます、先生!」

そんなこんなで、僕には強い恋のアドバイザーができたのだった。
その日、部活を終えたあと、シム先生と学校の門まで一緒に帰った。






「いいなぁ。家に帰ったら、先生きっと、彫刻の恋人さんが居るんでしょ?」
「残念ながら、そう甘くは無いんだ、大人って」

シム先生は、夜空を見上げて切なげに笑った。

「え・・・・・・?」
「今は彼、遠くに単身赴任中でさ。週末の土日しか会えないなんて・・・・・・あー・・・・・・辛くてどうにかなりそう」

シム先生それ、遠距離にしては結構会ってる方じゃ・・・・・・?
シム先生は恋愛にのめり込むタイプなのかも。
それか、僕のほうがドライなのかな。

「でも、それも今月で終わるんだ。また一緒に暮らせる」

シム先生って、こんな顔もするんだ。
年下の僕が言うのは失礼だけど、可愛いという表現がぴったりだ。
何時もの天使の笑みより、はしゃいでる感8割増くらいの、それはそれはキュートな笑顔だった。
僕らの天使、シム先生をこんなに虜にさせる彫刻のイケメンは、一体どんな男性なのだろう。
ちょっと、会ってみたくなった。








ある日。
課外授業で帰る時間が遅くなり、僕は辺りが真っ暗になった頃に学校を出た。
すると、下駄箱の所でちょうど、クラスメイト数人とはちあわせた。

「あ、テミンじゃん!」
「お疲れ様」
「なあ、お前も行かない?」
「何処に?」
「肝試しだよ!美術室の例の噂、確かめに行こうぜ!」
「えー・・・・・・いいよ、僕は」
「ビビってんなよ。美術部員なんだから、いざというときの為に案内してくれよっ。頼む!」
「・・・・・・わかったよ」

皆が一斉に頼むから、僕は勢いに負けてしまい断れなかった。
シム先生から彫刻に纏わる良い話を聞いた後だから、怖いというより、気分が乗らなかった。



暗い廊下を突き当たりに向かって歩く時は、流石に寿命が縮むんじゃないかって位ドキドキ、はらはらした。
皆言い出しっぺの癖に、僕が美術部員だからと言って、背後に隠れてオドオドしている。
全く・・・・・・
そんなに怖いなら止めればいいのに。
美術室の扉を開いて、まず一歩、そっと足を踏み入れた。
中は、電気がついておらず真っ暗闇だ。

「ほら、いけテミン!」
「はいはい」

怖さがゼロな訳じゃない。
でも、あの日のシム先生の言葉のおかげで、恐怖心はだいぶ薄らいでいた。

―――『だって・・・・・・あの彫刻を作ったの、僕なんだもの』
―――『産みの親なんだから・・・・・・怖い訳無いよ。むしろ、愛しいくらい』

大丈夫、大丈夫。
シム先生の彼氏の彫刻に、霊がとりついてるわけ無い。
彫刻が置いてある奥の部屋は、カーテンで仕切られて殆んど見えなくなっていた。
そろり。そろり。
僅かなカーテンの隙間に向かい、緊張感漂うなか、足を進めて行く。
すると―――――




「っく・・・・・・ふ、うぅっ・・・・・・」

その声が聞こえた瞬間、皆、呼吸を忘れた。

「うっ、うっ・・・・・・うぅー・・・・・・っ・・・・・・寂しい・・・・・・会いたいっ・・・・・・」

高く細い、苦しげなそれは、確かに"鳴き声"だった。
カーテンに手をかけて、中をそっと覗き込む。
すると、次の瞬間―――
黒い影がぴくりと動き、ゆっくりと僕らの方を振り返った。
暗闇のなか、二つの瞳がギラリと光り、そして

「見ーたーなぁあーー・・・・・・?」

低い声で、そう聞こえた途端

「「「ぎゃああああああーーーッッ!!!」」」

後ろから、鼓膜が破れるんじゃないかってほど、デカイ声が上がった。
クラスメイト達は、ぼうっと立ち尽くす僕の手を引いて全力疾走した。

「何してんだテミンはやくっ!!」
「ああ・・・・・・うん」

今のって・・・・・・
僕の見間違いじゃなきゃ、"女"ではなく、たぶん・・・・・・
そして、"泣き声"ではなく――――――



















「シム先生?」
「ん?」
「心霊現象の"女"の正体って、シム先生ですよね?」
「何のこと?」

キョトンとした少年のような顔で、シム先生は首を傾げる。

「惚けないでくださいよぉ。僕昨日、見ちゃったんですから」

じっと見つめて訴えると、シム先生は「あはっ」と声をあげて笑った。

「やっぱりテミンの目は誤魔化せなかったか」
「ほら、そうだー!」

夕べ見たあの人影は、シム先生だったのだ。
これまでの噂も、恐らく全て先生の仕業だ。 

「でもね、僕を責めるのは大きな間違い。恋人代わりの彫刻と、戯れてる所を邪魔されて怒った。それは当たり前の事でしょう?面白おかしく噂にしたのは、皆だしね」

最もな事を言いつつ、明らかに確信犯なので素直に頷けない。
その証拠に、シム先生は楽しそうに笑っている。

「でも、丁度良かったかも」
「何がですか?」
「あの彫刻に、誰も寄り付かなくなったから。触ると恋が叶うとか、キスすると好きな人とファーストキス出来るとか?おかしな噂が広がって、女子達がよく触りに来てたんだ」
「へぇ・・・・・・」

シム先生、気にしてたんだ。
やっぱり確信犯じゃないか。

「虫除け効果と、退屈な学生生活の刺激にもなっただろうし・・・・・・結果的にヨシじゃない?ねえ、テミン」
「はは・・・・・・」

シム先生は、可愛い顔して結構大胆だ。
そして恐らく、独占欲が強い。
よく話すようになって、シム先生の意外な一面を見ることが多くなった。
いつも天使な訳じゃない。
だけど、恋人のことになると子供らしいというか、一生懸命な先生も可愛いし魅力的だと思う。

「先生?」
「なあに?」

もうひとつ、気になっている事がある。

「先生ってあの時・・・・・・泣いてたんじゃなく・・・・・・その・・・・・・」
「ん?」
「えっと・・・・・・」

その先が言えない僕を、シム先生は目を細めて笑う。
首筋を撫でながら、顔を傾けてエッチな空気を醸し出す。

「正解だよ、テミン・・・・・・」

シム先生の返答に、からだも顔も火照り、何故か僕のほうが狼狽えてしまう。
それじゃあ、あの彫刻に夜な夜な付着していた液体って、涙じゃなく・・・・・・

「テミンも、大人になったら分かるよ。心も身体も、愛に支配されるってことが」

そう言って微笑んだシム先生は、本当に綺麗過ぎて、言葉を返すのも忘れてしまった。
その時――――

「テミーン!」

窓の外から、突然呼び掛けられた。
顔を出して下を見ると、部活動を終えた、練習着姿のオニュが立っていた。

「良かったら、これから一緒に帰らないかー?」
「・・・・・・!!」

嬉しさのあまり、言葉を失いながら、シム先生と顔を見合わせた。

「良かったね、テミン」
「は、はい!」

急いで鞄を持ち、帰り支度をすると、窓の外に向かって叫んだ。

「いま行くからっ!」










オニュと並んで帰れるなんて、夢みたい・・・・・・

「急に声かけて、大丈夫だった・・・・・・?」
「う、うん!全然へいき」

ぎこちなく返答しながら、背後の校舎を振り替えると―――

『ファイティン、テミン』

美術室の窓から、シム先生が口パクでエールを送ってくれた。







美術室に居るのは、失恋した女の幽霊なんかじゃない。
天使みたいに可愛くて、恋人想いで、ちょっぴりエッチな・・・・・・
恋愛の、女神様だ。












おわり








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いつも作品に沢山の拍手ありがとうございます!
久々のねぇ、センセイシリーズ楽しすぎた。
チョン先生も彫刻も相変わらずチャンミンに愛されております。
心霊現象=エロ というワケわからんNB 的方程式な・・・

 
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3 Comments

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2017/07/01 (Sat) 01:57 | EDIT | REPLY |   

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2017/07/01 (Sat) 00:20 | EDIT | REPLY |   

723621mam  

そんなの見られた(見せた?)ってバレたら、お仕置きされちゃうよ♡
あ、それ狙いか?

2017/06/30 (Fri) 17:01 | EDIT | REPLY |   

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