スタンド バイ ミー 3

  18, 2017 23:27

















お決まりの公園の、噴水の囲いに腰掛けている後ろ姿に声をかける。

「はい。食糧」

パンやらおにぎりが入った袋を差し出すと、彼は俺を見上げて固まった。

「え・・・・・・?」
「要らないの?」

彼は、周りのホームレス達をチラチラ見ながら焦った顔をする。
俺の肩に手を添えながら、隅の方まで連れていくと囁き声で忠告した。

「ダメだって!皆の目の前で堂々と渡したら。俺だけズルいと思われる」
「んじゃ、要らないんだ?」
「・・・・・・そうは言ってない」
「ふっ。んじゃ、あっちで食おう」

歩き出した俺の後を、彼は口を尖らせながら着いてきた。
公園の奥に進むと、段々と視界が開けてくる。
川が見えてきて、川沿いに続く階段を二人で下った。

「ここなら良いだろ?誰も見てないし」
「・・・・・・・・・・・・」
「ん」

食べ物が入った袋を差し出すと、彼はニカーッと笑って袋を漁り出した。

「うあー、ちょー腹減ってたんだよー!!」

と叫びながら。 
何だ。人の目が届かなきゃこんな素直なのか。
それがおかしくて、俺も声を上げて笑った。
二人並んで、芝生の上に腰をおろし太陽の光を浴びる。
休日の穏やかな空気。
街中の雑踏から遠のき、自然に囲まれた空間。
心が安らぐ。

「いちごジャムパンうめぇー」

細い頬いっぱいにパンを詰め込みながら、彼は幸せそうに笑っている。

「そんな上手そうに菓子パン食ってる人、初めて見た」

笑う俺を見て、彼は真顔で言った。

「君って変わってるよね」
「そうかな?」
「自分から、男のホームレスに近付こうなんて。うん。変わってる。超」
「・・・・・・・・・・・・・・」

それは、好きだからでしょ。
なんて言う勇気は無い。
この"好き"は、美しいものを見付けた時のときめきに似ている。
その"もの"というのは、景色や花や、壮大な自然とかいう、自分が素直に綺麗と思えるものだ。
この人はきっと、外だけでなく中身も綺麗だという確信があって、初めて目にした時から心を惹き付けられた。
自分のものにしたい、触りたい、そんな欲求が沸いた時点で、俺は潔く認めてしまった。
これは"恋"だ。

「そう言えば、名前は?聞いてなかった」
「チャンミン」
「ふーん。俺はユノ」
「歳は?」
「31」
「・・・・・・思ったよりいってる」 
「はは。若く見えた?君は?25あたりだろ」
「ブー。29でした」
「マジ?アラサーにしちゃ可愛いな」
「可愛い言うな!」
「ふっ」

切れ長の目が、笑った拍子に黒く染まる。
余裕そうな笑みが、年上の雰囲気を感じさせる。
いいな。今の表情。
テンポがいい言葉のキャッチボールにも、テンションが上がる。
まるで俺たち、以前から友達みたいだ。 
きっと相性が良い。

「・・・・・・君に会った後さぁ」

パンを平らげたあと、彼はポツリと呟き、話し始めた。

「本当に死ぬかと思ったんだ。このままじゃ駄目だって・・・・・・。駅前に移動して、暫く物請いして過ごしてた」
「ふーん・・・・・・」

たから最近、公園で姿を見かけなかったのか。

「それで一週間過ごして・・・・・・驚くなよ?収穫は、飴玉ひとつだけだった」
「それは、まぁ・・・・・・」
「ウケるよな?たったそれだけ。ははっ。あーおっかしい」

身体を揺らして笑った彼は、顔を膝に埋めた後、声を詰まらせた。

「ふふっ・・・・・・くっ・・・・・・」

もう、笑ってはいなかった。
たぶん、初めから笑っちゃいなかった。

「・・・・・・・泣けばいいよ。俺が見ててアレだけど」
「っく・・・・・・・・・・・・」

ゆっくり顔を上げた彼は、泣き顔を隠さずに小さな声で言った。

「皆・・・・・・俺を汚いもの見る目で通り過ぎてく。こんなに辛いなんて・・・・・・思わなかった」
「・・・・・・でも、あなたに拾われる気はない」
「・・・・・・・・・・・・」
「そんな冷たい奴等の中に、こーんな優しい男がいるのにな?」
「俺も、ほんとに勿体ない事してると思う」

彼は、瞳に涙を浮かべたまま笑った。
やはり意思は揺るがないらしい。
辛いと泣きながら、何故今の生活に執着するのか。

「ねえ、何でホームレスになったの?」
「え・・・・・・?」

俺の質問を聞いて、彼は少し驚いた顔をする。

「俺の推測だけど、元々は違うだろ?それも、つい最近まで」
「・・・・・・・・・・・・」
「話せない内容?」

彼は、躊躇いがちに話し出した。

「俺のうち・・・・・・実家が、自営業してて・・・・・・家が焼けたんだ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「俺も家で働いてたけど、出来なくなって・・・・・・。それで・・・・・・」
「家族は・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・」

ああ、流石に突っ込み過ぎだろ。
何やってんだ俺。

「ごめん・・・・・・」
「いやっ・・・・・・俺の方がごめん!」
「え?」
「今の忘れて、お願い!」

切羽つまった表情で、彼は言った。
赤の他人の俺に打ち明けた事を、後悔したのかも知れない。
とりあえず何度も頷いたけど、そう簡単に忘れられる訳が無い。
家も家族も仕事も無くし、一人で生きていくしかないなんて・・・・・・


街に光が灯り始める頃、俺は公園を後にした。
彼を残して去ることに不安はあるが、彼が元気よく見送ってくれたので、また此処に来れば会えると思えた。

「ありがとう。ほんとに、感謝する」

身体を90度に折って礼をしたまま、彼は暫く動かなかった。

「また次、元気で居てくれればそれでいい」

振り返りそう叫ぶと、彼は顔を上げて笑った。
親指を立てた左手を、ぴんと掲げながら。
生ぬるい湿気を含んだ風が、俺達の間を流れてあさぎ色の空へ溶け込んでゆく。
今が初夏で良かった。
温かくなり始めた気候、日の長さが少しでも彼を救ってくれたらと思う。











彼の安否を確認する方法は直接会う他無く、仕事が忙しく会えないと不安に駆られた。
調べてみると、炊き出しは福祉センター以外の数ヶ所でも行われているらしい。
少なくとも、毎日一食は食べられる計算だ。
大丈夫、大丈夫。
必死に、自分に言い聞かせた。

泊まり込みの現場撮影を終えた、三日目の水曜日。
スタジオにこもるスケジュールだったので、公園に行く事は出来ず、もちろん彼にも会えてない。
最後に会ったのは日曜日だ。
現場から帰る途中、ポツポツと雨が降り始めた。
細く弱い雨が、街をうすぼんやりと霞ませてゆく。
彼が、また一人で泣いてやしないかと気掛かりだった。
でも彼はきっと、俺の助けを心から望んではいない。
近付いても拒まないのは、俺が食べ物を与えるから。
それだけが理由かも知れない。
一方通行の自覚はある。
俺、恋患いした女みたいだな。
それか、世話焼きのウザい母親。
みっともないかも。
どうかしてると思われるかも。
どんな言葉を自分に突き付けても、会いたい気持ちを抑制出来なかった。











雨が降り注ぐ公園に、たった一人佇む人が居る。
白いシャツと黒いパンツ姿で、手を組みながらじっと祈っている。
――――彼だ。
ゆっくりと息を吐いてから、彼は雨の中、両手を広げた。
スッと、まるで空気に乗せるかのように、右足を一歩踏み出す。
細い背中で軸を描きながら、ターンを2回。
胸に手を当てて、目を閉じながら空を仰ぎ、空気に乗るようにまた一歩踏み出す。
指先から爪先まで、流れるかのように、繊細に。
ダンスが出来るのか・・・・・・
その、しなやかで有りながら力強い動きに、俺は息をするのも忘れ、ただ見惚れた。
彼は、笑顔で踊り続ける。
時には恍惚の表情を浮かべ、うっとりとして。雨さえも味方にして。
無音の中でも、彼の身体はメロディーを奏でていた。
彼だけの世界が、そこにあった。



彼が視線を流した先に、俺を捉えた。
視線がかち合った途端、彼はピタリと踊るのを止め、呟いた。

「・・・・・・チャンミン」

覚えてたのか、俺の名前。

「俺・・・・・・」

知らぬ間に、

「俺・・・・・・貴方が好きだ」

想いが、声に出ていた。

「・・・・・・・・・・・・」

彼は少し俯きがちに厚い唇を緩めて、また俺を見つめる。

「やっぱり・・・・・・君って変わってる」

心なしか、白い頬に朱色をのせながら。
ダンスのせいじゃなく、俺の告白のせいだと、そう思うのは思い上がりだろうか?



雨はまだ、止む気配が無い。









To be continue ・・・・・・



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雨の中、路上でユノが踊ってたら絶対セクシーだと思ってそんな描写入れてみました。
平凡にゆっくりと過ぎるなあ。
今後も特に、クライマックスというクライマックスは無いかも・・・
たぶん、8話くらいで終わるかと。
毎度のことだけど、二時間半くらいの映画の尺をイメージして書いてるとだいたい10話以内に収まるの。

今はstand by me 聞きながら描いてます。 
ウキウキしながら妄想するから、書くのも楽しい。
一時は王道でウケるものを・・・と思って頑張ったけど、周りの評価を考えてお話書くとどうしても自分が苦しくなって。
だから今は自分が楽しいもの、そんなウケなくても誰か一人でも楽しんでくれるもの!と思って書いてます。
気持ちがラクだし何より楽しい。
仕事じゃなく趣味だし、これでいいんだなーって。

あー
これが終わったらリーマンしんきの小説も漫画も描きたい!
来月はボーナス月だから、いい加減ちゃんとした漫画ソフトも買いたい。
やりたいこといっぱい。
NBはつくづく趣味に生かされてるなぁ。
皆さま、こんな自己満野郎ですがいつも温かく見守ってくださりありがとうございます。
今回も最終話まで完走するぞー


 
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チカ*  

のぶさんユノが踊るシーン好き~
本当絵も描けて文才もあってすげーなっ!
目に浮かんだよっ!!

でもなんか切ない。

大丈夫!切ないはミンホの王道ですww
あれ?ミンホじゃなかったっけ?ww
でも好きな事書くって素敵~
私が楽しんでます!
突っ走って下さい(*ノ´Д`)ノ≪アナタのコトが好き*+:。.。:+*

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