スタンド バイ ミー 2

  12, 2017 21:12





























触れた冷たい身体が、なんだかとてもいとおしく思えた。
腕の中に居るのは、俺と同じ男だというのに。
彼のことが、まるで・・・・・・
今にも息耐えそうな、捨てネコのように思えたんだ。
暫くすると嗚咽は小さくなり、彼は泣き止んだのだと分かった。
途端に身体をビクつかせた彼は、勢いよく俺から離れた。
丸い目と厚い唇を震わせて、しばしフリーズしてから、上擦った声で言った。

「俺・・・・・・ごめ、その・・・・・・」

ああ、我に帰るってこういうことだな。

「・・・・・・別に」

俺もこんな行動に出た割には、人見知りで言葉少なだから、気の利いた言葉は何も言えなかった。

「でも風呂入ってないし、身体臭かったんじゃ・・・・・・」
「・・・・・・や、別に」
「そ、そう・・・・・・」

沈黙が落ちて、気まずい空気が流れる。
俺から声をかけるべきか・・・・・・

「どうするの?これから」
「え・・・・・・?」
「行くとこ。あるの?」

俺の質問に、彼は下を向きながら静かに首を振る。
やはり帰る場所が無い―――ホームレスなのか。

「うち来る?」

彼は、衝撃の顔をしてからまた大きく首を振った。

「なんで。嫌?」
「じゃないけど、だって迷惑・・・・・・」
「そう思うなら、初めから声かけてない」
「・・・・・・・・・・・・」

彼は、眉間に皺を寄せて暫く考え込んでから、恐る恐る言った。

「君って・・・・・・もしかして、ゲイなの?」
「はぁ?」
「だって!ふつうホームレスの男なんて家に入れないだろ?俺が女ならともかく・・・・・・同じ男なのに・・・・・・」

まあ、言われてみればそうなんだけど。
俺は、両手で四角を作って彼に向けた。
カメラを覗くときと同じように、囲いの中をじっと見つめる。

「見たところ―――20代後半・・・・・・俺と同い年か、歳上か・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「この暮らしが長いとは思えない。今にも死にそうな顔してるし」 
「う・・・・・・」
「そんなあんたを見殺しにしたら、俺が辛い。助ける理由、それだけじゃ不満?」

彼は、俺をじっと見つめて黙り込む。
沈黙の中、しとしとと雨音は静かに鳴り続き、小さな雫が、彼の影の落ちた目元、そこから細い頬を辿っていった。
黒い瞳は潤んでいて、頬が濡れているのは雨の仕業なのか、また泣いているからなのか、分からなくなる。

「優しいんだね、君って・・・・・・」

そんな風に思ったことは無いが、今の彼には俺はそう見えるのかも知れない。

「こんな"優しい男"の世話になるのは嫌?」
「・・・・・・・・・なりたいって、言いたいとこだけど・・・・・・それは、無理」

その返答に、眉をひそめ不満全快な顔をしてしまう。
俺がここまで言ってるのに。

「こうして暮らすって決めたから・・・・・・今は・・・・・・一人で頑張らないと」

何故、そこまで自分を追い込もうとするのか分からない。
瞳は濡れているのに、確実に意思を宿しながら、まっ直ぐに俺を見つめて来る。
それで悟った。
この人は何言ってもブレやしないって。
きっと、柔らかそうに見えて頑固なタイプだ。
俺はもう、説得する気が失せてしまった。

「今ので元気出たから。大丈夫だよ。ありがとう」

空元気だろ、どう見ても。
ため息をついて、俺はボソリと言った。

「それで、数日後にはまた死にそうになってるんじゃないの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「まあ、そん時にはもう知らないけど」

しゅんとした顔を見て少し胸が傷んだけど、本人にその気が無いなら仕方無い。
立ち去ろうと背中を向けた時、背後からぎゅるるー・・・・・・っと、長い長い腹の音がした。
ゆっくり振り返ると、彼は腹を押さえながら、オドオド俺を見上げていた。

「・・・・・・あーもう!」

俺はバッグの中を乱暴にあさり、夕飯用に買った食料を袋ごと放り投げた。

「それ、やる!」

今度こそ立ち去った俺に、彼は叫んだ。

「ありがとうっ・・・・・・本当に、ありがとう!!」

俺は、振り替えることなく足を進めた。

あー、俺カッコ悪・・・・・・
捨て猫が擦り寄って来たから、可愛いがってやろうとしたら逃げられた。
今の俺の心境表すなら、そんな感じ。
こんな気持ちにさせるなと、苛々して頭を掻いた。
「拒否られる」って、こんなにダメージ受けるもんだっけ?
そういや最近、そんな経験は殆んどしていなかった。
きっと、そのうち直ぐ忘れる。
もうあの人の事を気にしない、そう決めた。



それから何日経っただろう。
公園の前を何度も通ったが、彼の姿を見る日は無かった。
きっといつか忘れる。そう自分に言い聞かせ続けている。
けど、意識してる時点でそれは"気にしている"訳で。
あの人の事を"忘れられない状態"な訳で。
カッコ悪い自分に戸惑い、呆れている。






ある晩、仕事終わりに友人と落ち合った。
年下だが、学生時代からの長い付き合いで、気を許して笑って話せる親密な仲だ(と俺は思っている)。

「お疲れ」
「お疲れさまっす」

久方ぶりに会ったそいつは、相変わらずだった。
履き古したジンズと見覚えのあるシャツを身に付けて、職場から直行したのかデカいリュックを背負って来た。
ファッションや恋愛にあまり感心が無く、外見が折角整っているのに持て余していると感じる。
仕事一筋で、本人がそれを楽しんでいるのが分かるから、俺は何も言わない。

「先輩、メシどこ行く?」
「何処でもいい。あ、でもワインは欲しい」
「勿論。なら、気になってる場所があるんでそこにしましょ」

こいつの名前はミンホというが、俺と同じ芸大卒で、今はテレビや舞台の制作に携わっている。
主に照明や音響を担当しているらしい。
店に入って着席するなり、ミンホは笑顔で話し始めた。

「次の仕事決まったんですよ。来月は野外ライブの演出。その次は舞台なんすけど、もう超楽しみ」
「ふーん」
「それに、どっちもキャスト豪華なんです」
「へえー」
「興味無いもんなー、その返事が」
「良いよ。俺の事気にせず喋りな」
「止まらないですよ?」
「どーぞ」

こいつが何より輝くのは、仕事の話をしている時。
人は内から輝く。
こいつを見てると、それがよく分かる。
半分聞き流すくらいの感じで、俺は酒を片手に、微笑みながら話を聞いていた。
彼の事を話そうかとも思ったが、話す目的が無い。打ち明けたところでどうにもならないので、止めた。



店を出てほろ酔い状態で歩いていると、通り道に行列を見付けて立ち止まった。

「福祉センター前・・・・・・?」
「ああ、炊き出しか」
「え?」
「ここ、よく食事配ってるじゃないですか。並んでるの、殆んどホームレスですよ」
「え・・・・・・」
「先輩、知りませんでした?」
「・・・・・・・・・・・・」

知らない。
知ろうとも思わなかったし、興味なんて沸かなかっただろう。
あの日、彼に出会わなければ。
その時、頭で考えるより身体が先に動いていた。

「ごめんミノ、先帰っててくれ!」
「えっ、先輩!?」

俺は、人々の列に向かって駆け出した。
最後尾に着くと、列の横を、並ぶ人の顔を確認しながら足早に辿った。
必死で、彼を探していた。

―――居ない。居ない。居ない。

まさか、あのまま・・・・・・
いや、そんなまさか。
見殺しにしたなら、自分が許せない。
そんな罪悪の意識だけでは、説明できない。
この衝動は、この衝動の理由は・・・・・・?
皆俺を不思議そうに見たり眉を寄せて怪しんでたが、そんなの気にする余裕は無かった。
列の先頭まで走り抜けたが、遂に、彼の姿を見付けることは出来なかった。

「くそっ・・・・・・」

忘れることなんて、一ミリ足りとも出来ていなかった。
あの日からずっと・・・・・・
肩を落とし、出口へ向かっていると

「あ・・・・・・・・・・・・」

門の脇のベンチに、見覚えのある顔を見付けた。
俺と目があったとたん、向こうもぽかんと口を開けて止まった。
炊き出しのカレーを、口元に運んだ状態のまま。
そこに居るのは、間違いなく、あの日出会った彼だった。

「い、生きてた・・・・・・・」
「え・・・・・・?」
「生きてた・・・・・・!良かった!ははっ・・・・・・」

感情を抑えきれず、思った事がそのまま口に出て、笑顔が溢れる。

「何で笑ってるの?」

そう問いかける彼も、笑っている。

「嬉しいからだよ」
「そっか・・・・・ねえ、一緒に食べる?」

カレーを差し出した彼を見て、俺はまた、笑いながら首を振った。

「ははっ。要らないし」
「そう?」

"取り繕う事"も、"格好つける"ことも。
ほんとうの自分にくっつけていた、無駄なもの全て剥がれ落ちてゆく。
幼い頃、写真やカメラを好きになった時のように、"好きなもの"には、素直に、夢中になって―――――
ああ、そうか。

「俺・・・・・・」

好きなんだ。
この人のこと。

「また会えたね」

そう言って笑った彼は、やっぱり綺麗だった。




















To  be continue ・・・・・・



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誤字が凄くて恥ずかしくていったん下げました~
元々そんな、大したもんじゃないけど(笑)
やはり地味。
展開考えると作者は楽しいけどね・・・
色々なところに伏線はって回収するように仕上げたい。
なんて格好いいこと言ってみるけど、自信無いです(笑)
それと、チャンミンがSっぽいのワンパターンな気がして、リアルのチャンミンっぽいというか、一皮剥いたら素直で可愛い感じにしてみました。
知り合いはギュライン出しとけ手法。
これは作者あるあるだと思います。

そしてたまじゃーに拍手たくさんありがとうございます‼
コメ返本日中に返します!

では、後程(^^)

 
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michipon  

楽しみ(๑˃̵ᴗ˂̵)

あんにょん。
御曹司だったり、最強近衛兵だったり、ツンデレイケメンシェフだったりのイメージが強いから、今回のユノさんはとても興味深いです。カメラマンチャミが、本当は…って言うのはその先が気になってしょうがないですね。

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