小説家は愛を囁く ~忍ぶ恋こそ至極なり~

  09, 2017 12:23
 





しのぶれど 

色に出にけり わが恋は

ものや思ふと 人の問ふまで





訳:

私の恋の気持ちを

誰にも知られないように

じっと包み隠してきましたが

とうとう顔色に出てしまったようです

何か物思いをしているのですか?と

人が尋ねるほどに












小説家シリーズ・表紙


























「そこで、あの台詞だよ。『僕のこの心の炎は、君が灯したんだ。君が消して行ってくれ』ああ、堪んないなぁ。切ないなぁ」
「うん。ですよねぇ」

向かいの席で、染々語っているのは職場の先輩だ。
手には、人気小説家の新作を持っている。
作家の名は、チョン・ユンホ。

「やっぱ最近、作風少し変わったよな」
「・・・・・・・・・・・・」
「あ、良い方に、だぞ?お前の仕事っぷりとやかく言おうってんじゃないから」
「分かってますって」

先輩が必死に説明するのは、チョン先生の編集担当は俺だからだ。
先生の作品の評価は、俺の仕事の評価にも繋がる。
長い間先生のファンである俺の感想としては、以前よりも台詞や表現が豊かになったし、心理描写が分かりやすく、共感出来るものになったと思う。
始めて先生の作品を手にする人も、読み易いかも知れない。
先生は元々有名だったが、最近更に人気に拍車がかかっている。
俺は、昔の作品、今の作品、それぞれ魅力があるのでどちらも好きだ。
最近の作品は、資料集めに構成など、完成まで協力する事が多い為、特に思い入れが強い。

「でも、俺が思う先生の凄いとこはやっぱり、あの人柄ですね」
「ふぅん?」
「こんなにも凄い人なのに、絶対に威張らないんです。俺を対等に見てくれるし、意見も受け入れようとするし。怒ったり苛ついてるの、ほんと見たことなくて・・・・・・」

酒が回っているからか、気分の高まりが俺を多弁にする。

「凄いのは作品だけじゃない。傲らず誠実でいられる先生自身。生みの親が先生だから作品が輝く。先生も含めて芸術なんですから!」

言いたい事を言って満足したものの、目の前の先輩がキョトンとしているのを見て、少し焦った。
作品について話していたのに、先生本人について熱弁するなんて、不自然だったかも知れない。
編集者として関わっているし、元々ファンなのだから言い訳は効く筈。
俺が口を開くより先に、先輩が言った。

「お前って・・・・・・」

顔をじーっと見つめられ、心を読まれるんじゃないかとドキドキする。

「先生の事、ほんっと好きだよな」
「えっ」
「敬愛っつうの?そこまでいくと、どんな感じなの?好き過ぎて、同じ男だけど抱かれてもいい!とか思う訳?」
「なに言っ・・・・・・!」
「だってお前、先生ん家に泊まり込みで仕事とかしてるじゃん。そんで、先生の外見も中身も好しと来たら、なぁ?」
「そ、そんな訳無いじゃないですか」

あまりにも核心を突いた先輩の発言に、俺は今、かなり動揺している。
先輩は真剣な面持ちで、どうやら俺をからかっている訳ではないらしい。

「いや・・・・・・室長とこの前話してたんだよ。お前最近、垢抜けたっつーか、変な言い方すると色っぽいっつーか」
「へっ?」
「恋でもしてんのかなーと思って。その相手がまさかの先生だったら面白いじゃん」
「あ、はは。そんな・・・・・・まさか・・・・・・」

俺は今、ちゃんと笑えているだろうか?
実はその予想通り、仕事を口実に先生の書斎に泊まり込み、もう何度も愛し合っているなんて絶対言えない。
先生と交際している事実は隠していても、恋をしている事は隠しきれていなかったようだ。

「だとしても・・・・・・相手は先生じゃ無いですよ」
「ははっ、俺の考え過ぎか」

先輩が納得した事に安堵して、同時に少し悲しくなる。
否定したのは先生の為。
俺の意思では無い。
ひっそり落ち込んで居ると

「こんばんは」

後ろから、とても聞き覚えのある声がした。
振り返ると、そこには

「お疲れ様です。シムくん」
「チョン先生!?」

なんと、先生が立っていた。
いつもの浴衣姿では無く、スーツを身に纏っていて、長い手足と小さな顔がより引き立っている。
少し長めの髪は、後ろに流すようにセットしてよくきまってる。
まるでモデルみたいだ。
滅多に着ないスーツも優に着こなしてしまう、素材の良さ。
改めて惚れ惚れする。
・・・・・・じゃなくて!

「先生、どうしてここに・・・・・・」

息苦しいからと、滅多に街へは出てこないのに。

「雑誌の取材で昼から街に居たんだが、彼が誘ってくれてね」

『彼』と言いながら、先生は先輩の顔を見て笑った。
先輩もまた笑い、答える。

「俺がお呼び立てしたんだ。今夜お前と飲むから、先生も是非って」
「いつの間に・・・・・・」

そんな事が出来るのは、先輩が責任者クラスの人間だからだ。
そして俺は、今日取材の予定が有ることすら知らなかった。
先生が、スケジュールの全てを俺に伝える訳じゃない。
最低限、打ち合わせの日取りさえ決めれば仕事は出来るから。

「隣、座ってもいいかな」
「あっ、はい。どうぞ」
「ありがとう」

ふわりと先生が笑っただけで、頬がじわりと熱を帯びる。
いつも会っているのに、先生がスーツ姿だからか少しドキドキしてる。
浴衣姿の先生が一番好きだが、スーツ姿も凄くイイ・・・・・・
先輩の存在を意識してしまい、少しぎこちなくなりながらも、酒を飲みながら三人で雑談した。








「先生、恋人って居るんですか」
「さあ。どうかな」
「あー、さては居ますねその顔は!格好いいもんなぁ。周りが放っとかないですよね」

酔いが回ったハイテンションの先輩と、質問攻めを笑顔でかわす先生。
複雑な心境で、それを見守る俺。

「残念だったなーシム。先生多分、恋人居るぞ」
「せ、先輩!」

俺達の会話を聞いて、先生は首を傾げた。

「どういう事?」
「シムが、先生のこと好き過ぎるんですよ。目ぇキラッキラに輝かせながら『凄いのは作品だけじゃない。先生も含めて芸術なんです!』って」

ああもう、それ言わないで・・・・・・

「どうですか?先生。シムが恋人だったら。男だけど、頑張り屋だし可愛い奴なんですよ」

もう、何処かへ逃げてしまいたい。
そっとしておいてよ、俺達の事は。
先輩はいい人だし好きだけど、今は本気で恨めしかった。
恥ずかしさで死にそうな俺の横で、先生はいつも通り、穏やかでマイペースだ。

「ふむ・・・・・・」

先生が俺をじっと見つめながら、顎に手を当てて考えるポーズをする。
視線が絡んで、ドクドクと、鼓動が更に速くなる。

「悪くない」

にっこり、先生が微笑む。
ああ・・・・・・
相変わらず、俺を喜ばせるのがお得意ですね。
顔が赤い自覚があり、俺は黙って下を向いた。

「って、男でもいいんですか?先生」

驚く先輩に、先生が問いかける。

「君、利き手は?」
「え?」
「利き手はどっち?」
「右、ですけど」
「同性愛者は、左利きと同じくらい居るらしい」
「えー、そうなんですか?」
「僕は性別には拘らないよ。『右利きか左利きか?』それと同じ程度の話だと思ってる」

先輩はポカンと口を開けたあと

「これは、失礼なことを申しました!」

と、勢い良く頭を下げた。
先生はただ、にこにこと笑っている。

「シムくんは、右利きだったかな?」
「は、はい」

言葉選び、表情から先生の優しさを感じて、嬉しくなる。

「先生は・・・・・・両利き、でしたね」
「うん。当たりだ」

視線を合わせていると、自然と頬が緩む。
先輩はまた、ぽかんと口を開けて固まってしまった。
ごめんなさい、先輩。
もう俺、先生と二人っきりになりたい・・・・・・















先輩と解散したあと、俺は先生を都内の自宅へ招き入れた。
交際し始めてもう一年半以上になるが、自宅へ先生を招くのは今回が始めてだ。
先生は街へ出ること自体稀で、俺も先生と同じく、ゆっくり出来て居心地が良い書斎を好んでいる。
特に、家に呼ぶ必要性を感じていなかった。

「今、お茶を出しますから」
「ありがとう」

キッチンから部屋の様子を伺うと、先生は後ろで手を結びながら、鑑賞するみたいに本棚を眺めていた。
そこには、俺が昔からコレクションしている先生の小説が沢山ある。

「“硝子の棺”・・・・・・懐かしいな。こんな昔の作品まで持ってたのか」
「今は絶版になってしまったでしょう?高校の時に買ってて良かった。俺の宝物なんです」

先生の隣へ移動して、俺も本を眺めていた。
すると、顔を寄せられて・・・・・・

「先生・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・」

唇に、触れるだけの優しい感触。
そっと唇を離し、まだ鼻先が触れそうな距離で、先生が微笑む。

「ありがとう。凄く、嬉しい」

笑顔の先生を見て、俺も嬉しくなる。
互いに顔を寄せ合い、啄むようなキスを繰り返す。

「スーツ姿も素敵です、先生」
「スーツを着た、別人だったら?」
「何ですか?それ」

冗談だと思って俺は笑ったが、先生は真剣な表情をしている。

「もし僕が、小説家でなく一般人でも・・・・・・君は関係を問われて、嘘をついたかい?」

先生の言葉に、少し意表を突かれた。
思い起こされる、先輩と会話した時の、俺のあの言葉。 
―――『だとしても・・・・・・相手は先生じゃ無いですよ』
聞いていたのか。

「先生、あれは仕方無く・・・・・・」
「うん。君の選択はきっと正しい。分かっていても、やっぱり寂しいんだ。拗ねてるんだな、僕は」

目を伏せて、先生が小さく笑う。

「僕の心は芸術なんかじゃ無い。人並みだ」
「先生・・・・・・」
「君が好きだよ」

切なく、甘い微笑み。
穏やかでいて、熱を含んだ掠れたボイス。
頭の芯からジンと痺れ、思考の全てを奪われるような感じがする。
気付けば俺から顔を寄せて、再びキスを求めていた。

「ぁふ、ん、むっ・・・・・・」

先生が、俺の唇を少し乱暴に貪りながら、自らネクタイを引き抜く。
何時もと違う服装、違う仕草に心揺さぶられる。
スーツ姿で、俺の部屋で行為に及ばんとする先生は何だか新鮮だ。
山奥の小さな書斎が、俺達の本当の居場所。
だけど、たまにはこんなシチュエーションもいい。
ベッドの上で体を重ねながら、俺は先生を見上げ、口元を緩めた。

「なんか・・・・・・・今の先生、“カレシ”って感じがする」
「ふふ。恥ずかしいよ、シムくん」

目を細めて、照れ臭そうに笑う先生が可愛い。
ぎゅうっと、力いっぱい抱き締めた。

「先生・・・・・・欲しい」
「待ってなさい。もうすぐあげるから」
「あ・・・・・・ン、んんっ・・・・・・」
「チャンミナ・・・・・・」
「せん、せ・・・・・・好、きっ・・・・・・」


































眠る先生の横で、俺は、手帳にペンを走らせる。 




人知れず心通わせる日々も

いつまで続くことでしょう

時が経てば この想いは

溢れて出ていってしまうかも知れません




今ならば、あの歌の作者、兼盛の気持ちがよく分かる・・・・・・

「その時は、二人で何処か遠くへ行こうか」
「わっ!?」

いつの間にか起きていた先生が、後ろから俺の手帳を覗き込んでいた。
自前のポエムを読まれるなんて、恥ずかし過ぎる!
慌てて、手帳を布団の中へ潜り込ませた。

「あーもう・・・・・・ほんと恥ず・・・・・・」

布団に顔を埋めていると、ぽつりと先生が言った。

「困ったな。昨日から、君が可愛すぎる」

悩ましげな顔をして、先生は俺を見つめる。

「この消えない欲求は、どうしたものかな・・・・・・」

前髪をかき上げて、微笑みながらそんなことを言う。
まだ抱かれた記憶が新しい身体は、いとも簡単に反応して。
『抱いて欲しい』
そう言うより先に、俺は先生に押し倒された。
確認も無しに、穴に入り込む先生の熱いカタマリ。

「あぁ、アッ、はぁぁ・・・・・・ん」

ナカを満たされて、うっとりしながら長い溜め息をついた。

「ごめんシムくん・・・・・・止まらない」
「いい・・・・・・連れてって?せんせ・・・・・・」

何も考えられないくらい、愛と快楽に満たされたあの時間へ。
二人だけの、世界へ。












END





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久々に書いたけど、やはりエロに走りました(笑)
小説家シリーズも一年ぶりくらいに書きましたね~
いつもユノの台詞考えるのが楽しいでーす


 
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Comment 7

NB(のぶ)  

Re: No title

至急!
>ko☆kazuさま

今コメント見ました・・・!
もちろん覚えていますとも
もう二回も会ったじゃないですか~(^.^)
はい、初日まさにその格好でした。
吉野家の前も通ったと思います!
幕張駅周辺暫くうろついてたので・・・
まさかすれ違っていたとは!
私話に夢中だったのか、全く気付きませんでした、すみません゜゜(´O`)°゜
今幕張付近のホテルなので、午前中であればホテルから海浜幕張行けますよ。
昼から新大久保に行くので、11時には出発すると思いますが・・・
葉☆さんも一緒なんですね~!
とりあえず、また幕張行ってみます。
御返事遅くなりすみませんでした!

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723621mam  

シム君も含め、芸術なんですっ!
・・・って感じだね。うん。

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