僕は何度も恋をする 6





生ぬるい水の中に、僕はゆらゆらと漂っている。
水面をじっと見つめるけど、外の景色は見えないままで・・・・・・
何か、大切な物を忘れて来てしまったような気がする。
目を瞑ると全身で感じる。
暖かくて、優しい何か。
これは何だろう?
懐かしくてとても恋しいのに、はっきりと思い出せない。
まじなりに浮かんだ涙が、水の中に溶け込んだ。














僕は何度も恋をする2

















今日は、何度目かの定期受診の日。
いつもは妹に付き添って貰うが、先生から大事な話があると言うので、母さんと一緒に来院した。

「――――これが受傷直後で、こっちが今日撮った写真です。脳の形が違ってるの、分かります?外傷部位が再生されてきてる証拠です」

先生の説明を聞いても、素直に期待を持つことはできない。
なぜなら・・・・・・

「でも、記憶障害は相変わらずです・・・・・・」
「脳の回復が、必ずしも記憶障害の改善に繋がるとは断言しかねます。もうしばらく、経過を見ましょう」
「・・・・・・はい」

僕はずっと、このままかも知れないのか。
毎日を必死に過ごすうちに、気付けば、受傷から四ヶ月が過ぎようとしていた。









日記の厚さが増し、朝、復習に費やす時間が増えてしまったようだ。
なかなか顔を出さない僕を心配して、今朝、母さんが部屋にやって来た。
暗記するには情報が多過ぎる。
頭から抜け落ちる事も多いのだろう。
日記意外にも、メモや付箋が家中に散在している。
記録は僕の脳ミソ代わりの様なものだから、縋りつくしか無い。
本当に忘れたくない事は、部屋の壁に貼り付けて、起きる時も寝る時も目に入るようにしてある。
それは主に、恋人の・・・・・・日記の多くを締める“ユノヒョン”という人の存在。
昨日の僕も、一昨日の僕も、そのもっと前の僕も―――・・・
いつも必死に“ユノヒョン”を想っている。
だから今日も、僕は“ユノヒョン”を求めるんだ。









「何処行こうかなぁ」
「・・・・・・・・・・・・」
「チャンミナ、行きたいとこある?」
「うんと・・・・・・どこでも・・・・・・」
「どっか店入ろうか。腹減ってる?」
「はい」
「よーし」

笑顔のユノさんを見て、昨日の日記が蘇る。




ユノヒョンとキスした。

ちょっと、濃いやつ。

パニクって、ちゃんと息できなくて、心配かけちゃった・・・・・・

きっと僕、進歩してない。

次にキスされる時も、あたふたするんだろうな。

記憶が無くならなきゃ、こんな事にはならないのに・・・・・・

ユノヒョン、呆れてたらどうしよう



ユノさんは、今の僕との関係が物足りなくないんだろうか。
以前の僕らは、とても親密そうだった。
キス以上の触れ合いも、あったかも知れない。
それともプラトニックな関係だったのかな・・・・・・
ユノさんの唇をぼんやり見つめていると

「・・・・・・どうかした?」

不思議そうに問いかけられて

「・・・・・・いえ、なんでも」

僕は、目を逸らした。






それから、ドライブの途中通りかかった飲み屋に適当に入って、遅めの夕飯を食べた。
僕はビールを、ユノさんはノンアルを一杯ずつ頼んだ。

「いっぱい食べな。チャンミナは食いしん坊だからなぁ、そんなに細いのに」

料理を口に運ぶ僕を、ユノさんはニコニコしながら見つめている。
初めて食いっぷりを見た時は驚いたよ、と笑いながらノンアルを口にする。
穏やかで、優しくて、大人っぽくて・・・・・・
ほんとうに日記から感じた印象そのままで、焦りとか怒りとか、マイナスな感情とは無縁の人みたいだ。
いつもこうなのかな。
それとも、違う顔も見せるんだろうか。
僕はこれまで、どんなユノさんを見つめてきたんだろう。
どんなに過去を振り返っても、文面や写真でしかユノさんの事が分からない。
些細な表情とか、仕草とか、声とか・・・・・・
細かい事をちゃんと記憶出来たなら、もっと深くこの人を知れるのに。
無意味と分かってても、自分の脳ミソを恨まずにはいられない。

「チャンミナ・・・・・・?」

名前を呼ばれ顔をあげると、不安げなユノさんと目が合った。

「・・・・・・疲れた?連れ回し過ぎたかな」
「違っ・・・・・・!大丈夫、ですから・・・・・・」

僕は落ち込んでばかりで、でも貴方はずっと笑っていて・・・・・・
それが寂しいなんて、言えない。









日を跨ぐ少し前。
ユノさんに送られて帰宅すると、家の電気は既に消えていた。
しんとして、父さんも母さんも既に寝ている様だった。

「ありがとうございました」
「うん。またな」

ユノさん。
僕に“また”は無いんです。
何時だって、貴方とは“初めまして”だから・・・・・・
考えなきゃいいのに、そんな事。
悲しくなるだけなのに。
黙り混む僕をそっと覗き込み、ユノさんは言った。

「やっぱり・・・・・・もう少し、一緒に居て良い?」

指を絡め取る手が、じんと暖かい。
断る理由なんて無い。
指先に力を込めて、僕は小さく頷いた。









「・・・・・・どうぞ」

僕は電気をつけないまま、ユノさんを自室へ迎え入れた。
まだ、この空間を見せる事を躊躇っていた。
もしかしたら、以前入った事があるのかもしれないけど。

「チャンミナ、電気―――・・・・・・」
「・・・・・・ユノヒョン」
「ん?」
「驚かせたら、ごめんなさい」

僕はそっと、電気のスイッチを押した。

「これって・・・・・・」

壁一面を埋め尽くすのは、僕の記録達。
受傷後、恋人になってからの僕らや、ユノさんの写真。ユノさんが言った印象的だった言葉、言われて嬉しかった台詞が、部屋中を覆っている。
壁が写真やメモだらけなんて、はたから見たらおっかないかも知れないけど、僕はこれが一番落ち着くんだ。
ユノさんは暫く無言のまま、それらを見つめていた。
やがて、潤んだ瞳を掌で覆うと、下を向いた。

「・・・・・・・・・ユノヒョ―――」

遠慮勝ちに声をかけた時、身体を抱き寄せられた。

「い、たいよ・・・・・・・・・」

はぁ・・・・・・と、熱い溜め息。
掠れ気味の声が、耳に届く。

「ありがとう、嬉しい」

ユノさんをぎゅうっと抱き返しながら、ドクドクと鳴く鼓動を密着した身体越しに感じ、胸が熱くなる。

「でも、こんなに・・・・・・・・・俺との思い出に、捕らわれなくていい・・・・・・・・・」

聞こえたのは、泣きそうな声だった。
その言葉の意味を理解して、僕も泣きたくなる。

「どうして・・・・・・?」

貴方との思い出が無くなったら、僕は何処に過去を求めればいい。
こんなに必死に思っていても、明日になったら僕はまた貴方を忘れる。振られた事も忘れる。
貴方はそれを望んでいる?

「僕のこと、嫌になった・・・・・・?貴方のこと、どうせ忘れるから?」
「そうじゃない」
「じゃあ何でそんな事言うのっ!」

腕の中から逃げ出して、叫んだ。

「チャンミナ・・・・・・聞いてくれ」
「いやっ」

下を向いて、涙を散らしながら首を振る。

「何でそんなに落ち着いて、笑ってられるのっ・・・・・・?」

僕だけ、こんなに辛いの――――?

「聞けよっ」

ビクリ、身体が跳ねた。
ユノさんは、眉を寄せ、余裕無さげな表情をしていて、だけど真っ直ぐな瞳で僕を貫く。

「怖いんだよ・・・・・・こんなにいっぱい詰め込んで・・・・・・お前の心が壊れやしないか・・・・・・俺が、お前を苦しめてるんじゃないかって」

いっぱいいっぱいな表情、声に心は痛みながらも、僕は安心していた。
いつも笑顔で穏やかな恋人は、何処か現実味に欠けていた。

「全然・・・・・・余裕なんて無いよ。忘れられるの何時になっても怖いし、会う度、どうすれば好きになって貰えるだろうって必死だし・・・・・・キスしたいし・・・・・・本当は、沢山触りたい・・・・・・」

病気が怖いのは、僕もユノさんも同じだったんだ・・・・・・
笑顔の裏で、ユノさんも沢山悩んでいた。
本音を知って、心から解り合えた気がした。

「嫌になる訳・・・・・・無いよ」

ユノさんは、再び僕を抱き寄せた。
先程とは違う手付きで身体を撫でられ、肌の上を掌が行き来する感覚に、ぴくりと震えた。

僕は―――

「壊れたって・・・・・・いい」

貴方にされるなら、構わない。

「・・・・・・壊して・・・・・・ください」

もう狂っているのだから、いっそ全て手放してしまいたい。
何も、考えられなくして欲しい・・・・・・
次の瞬間、全く違う顔つきのユノさんを見て、僕は震えた。
ああ。
どうか忘れないで、僕のこころ。
今宵、この人が、必死に僕を愛してくれた事を―――――――










To becontinue



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もうすぐおわります。
秋はどうしても寂しいの書きたくなる。
そして明日から久々の二連休!
休むぞ~~




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2 Comments

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2016/09/29 (Thu) 21:58 | EDIT | REPLY |   

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2016/09/29 (Thu) 20:01 | EDIT | REPLY |   

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