僕は何度も恋をする 5








僕は何度も恋をする2


























レトロチックなドアを開くと、揺れたベルが俺の訪問を知らせた。

「あら、いらっしゃい」
「どうも」
「チャンミンなら中に居るわよ?どうぞ」
「あ・・・・・・はい。お邪魔します」

俺が頭を下げると、おばさんはにっこりと笑った。
そして、おじさんに一言。

「お父さん、ユノ君にお昼」
「ん」

おじさんも、当然のように準備に取りかかる。

「すみません、いつも」
「まぁ、余りもんだから」
「ありがとうございます」

二人とも、いつも快く迎え入れてくれるのでとても嬉しい。
店を通って奥に進むと、俺はそっと、部屋に足を踏み入れた。

「・・・・・・チャンミナ?」

声をかけると、椅子に腰かけていたチャンミナが、俺を見上げた。
顔を合わせる時は、いつも先ず、表情を見て心を探る。
チャンミナの目に、俺はどう映るだろう。
チャンミナは、遠慮がちに名前を呼んだ。

「・・・・・・ユノ・・・・・・さん」

チャンミナが俺を認識出来るのは、今手元に持っている日記のおかげだ。
俺は内容を見たことは無いのだが、チャンミナは毎日、その日の出来事や会った人物の事を記録しているらしい。
翌朝読み返す時間を作り、可能な限り内容を頭に入れているようだ。
毎日それを繰り返すなんて、とても気が遠くなるし根気が居る作業だが、チャンミナが自分の意思で決めた事なので、俺も家族も見守り続けている。
今日こそ告白すると、心を決めてきたけど・・・・・・

「どう?店の仕事の方は」

いざ、俺と初対面かのようなチャンミナを見ると、いつも通り無難な言葉しかかけられない。
チャンミナは最近、実家の洋食屋で働き始めた。
元々器用だから向いていると思うし、楽しそうに作業している姿を見ると俺も嬉しい。

「・・・・・・えっと・・・・・・あ・・・・・・あの・・・・・・」
「ん・・・・・・?」

数秒見つめ合った後、チャンミナは逃げるように視線を逸らした。
何か言いたげだが、日記をぎゅっと握りしめ、眉を下げて沈黙している。

「どうした?」
「・・・・・・・・・・・・」

チャンミナは、俺に見えるようにそっと日記を開いた。
そこにあったのは、以前、出掛けた先で撮影した俺達の写真。
俺がチャンミナの肩を抱いていたり、ピタリと顔をくっつけていたり、誰が見ても恋仲だと分かるものばかりだ。
日記には、こう記してあった。



b月g日

ユノさんと僕は付き合っていた?いる?らしい。
男同士なのに驚きだ・・・・・・
正直信じられない。
でも写真を見る限り本当だろう。



写真を見付けたのはチャンミナだとしても、文面からして、誰かから事実を知らされたみたいだ。
真っ先に思い浮かぶのは・・・・・・

――――――『なら・・・・・・なら逃げないで?お兄ちゃんのこと、助けて下さいよっ・・・・・・』

あの日の、妹の顔だ。

「参ったな・・・・・・」

俺が先に、伝えようと思ってたのに。
それとも、俺が優柔不断なのを見越しての事だろうか?
確かにこんなきっかけが無きゃ、俺は今日本当に告白していたかどうか分からない。

「・・・・・・場所を変えようか」

俺が呟くと、チャンミナの瞳が小さく揺れた。









チャンミナと直ぐ近くの公園まで歩いて、俺はベンチに腰かけた。

「おいで」

隣をぽんと叩くと

「・・・・・・・・・・・・」

チャンミナは黙ったまま、オドオドと隣に腰を下ろした。
不自然に空いた距離。なかなか合わない視線。
動揺してるだけなのか、警戒されているのか・・・・・・
ちょっと傷付くなぁ。
小さく笑いながら、俺はゆっくりと口を開いた。

「その日記の事だけど・・・・・・本当だよ、書いてる事は」
「・・・・・・・・・・・・」
「俺とチャンミナは、恋人同士だった」

チャンミナは何も言わない。
胸に日記を抱えながら、俺の声に耳を傾けている。

「チャンミナが社会人になった年に、俺の隣の部屋に越してきて、それで知り合ったんだ。一緒に居ると楽しくて・・・・・・いつの間にかお互い好きになって・・・・・・その写真みたく、よく二人で遊んでたよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「あの事故の前まで、ずっとね」
「そう・・・・・・だったんですか」

小さく深呼吸をして、俺はまた、口を開いた。

「・・・・・・・・・ほんとに・・・・・・・・・お前の事、大好きだった」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

穏やかな午後の空気に、俺の呟きが溶け込んで

「それで・・・・・・・・・今も、お前が好きだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

少し涼しい秋の風が、沈黙を連れてくる。
ちらり。
チャンミナを見ると、潤んだ瞳とぶつかり―――

「っ・・・・・・・・・・・・」

視線は、また逃げて行ってしまった。

「・・・・・・俺とまた、付き合ってくれるか?」

そう告げると、チャンミナは下を向いたまま、ポツリと呟いた。

「・・・・・・明日には、ユノさんのこと、忘れちゃうのに?」
「・・・・・・・・・・・・」
「こんな僕でも・・・・・・一緒に居たいって思うの・・・・・・?」
「うん・・・・・・。それでも、やっぱり好きだから・・・・・・」

チャンミナは一時泣き顔になり、それから、写真の俺達をじっと見つめた。

「僕・・・・・・こんな風に笑ってたんですよね・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「また、笑いたいな・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「それで・・・・・・貴方のことも・・・・・・好きに、なりたいです・・・・・・・」
「チャンミナ・・・・・・」

消え入りそうな声で、必死に言葉を紡ぐその姿に胸打たれる。
記憶は消えてしまうけど、チャンミナはいつも、この瞬間を全力で生きている。
俺も、全力で受け止めたい。
驚かさないように、顔をそっと覗き込んでから

「ありがとう、チャンミナ」

優しく身体を抱き寄せた。
それに応えはしないけど、抵抗するでもなく、ただじっと腕の中に納まるチャンミナ。
段々と高くなる体温が、とてもとても愛しかった。



その日以来、俺はチャンミナの日記の中に“恋人”として登場するようになった。












休日。
チャンミナの実家を訪れると、チャンミナは定期受診で不在だった。
妹も付き添いでおらず、おじさんとおばさんは店に出て仕事をしていた。
帰ろうとする俺を、おばさんが引き止めた。
「折角だから何か食べて行って」と。
一度は断ったが、結局一品作って貰うことにした。
昼のピークを過ぎ、店内にはいつの間にか俺ひとりだけ。
何時ものカウンター席で料理を待っていると、おばさんが言った。

「今度、デートにでも連れてってあげて」
「え?」
「昔の事、思い出すかも知れないから」

おばさんは、普段通りの口調でそう言った。
何気無い会話みたいに、聞き流してしまいそうな口調で。
発言の背景を読み取った俺は、ピタリと固まってしまった。
気付いてたのか・・・・・・・
俺達が、そういう関係だって。

「あの・・・・・・・・・・・・何時から、その・・・・・・・・・・・・・・・」

おばさんは眉をクイッと上げながら、少し、悪戯っぽい表情で応えた。

「事故の後、あの子が引っ越した時かしら」

そんなに前から?

「アパートに行ったら、歯ブラシもコップも二つあるし・・・・・・チャンミンのとは思えない物もいくつかあるし・・・・・・ひょっとして?と思ったわ。貴方と写ってる写真が沢山出てきて、それを見て直ぐ分かったの。『相手はこの人だ』ってね」

妹よりもだいぶ前に、おばさんは写真を見付けて、俺達の関係に気付いていた。

「すみません。ずっと、伝えなくて・・・・・・・・・」
「言いにくい気持ちは分かるわよ。でも・・・・・・変わらず来るって事は、付き合う気があるのね?」
「―――はい」

俺は、おばさんの目をじっと見つめて頷いた。
目尻に皺を寄せ、おばさんは優しく笑う。

「じゃあ・・・・・・一緒に居てあげて。きっと良いリハビリになるから」
「あ、ありがとうございますっ」

頭を下げると、視線の先にカレーが差し出された。
随分と盛りが良い。

「残さないで食えよ」
「・・・・・・はい」

おじさんは、ちらりと視線を寄越すとキッチンへ消えた。

「ふふっ。あれがお父さんの精一杯ね」

事実を知っていも、何も言わずに優しく見守り続けてくれた。
そんな二人の優しさが、心に染みた。
カレーは、最高に旨かった。












「チャンミナ」
「ユノさん・・・・・・」
「“ユノヒョン”って呼んでごらん」
「・・・・・・ユノ、ヒョン」
「うん。そうやって呼んで」
「・・・・・・分かりました」

会う度チャンミナは初々しく、それが可愛くもあるけど、もどかしく感じたり、切なくなることの方が多い。
それでも徐々に、俺とのキスやハグに応えるようになってきた。
それはきっと、あの日記の中では日々増え続ける俺との思い出を、毎朝懸命に覚えてくれてるから。
無理をさせているかも知れない。
俺の存在が、負担になっているかも知れない。
不安は尽きない。
何が正しいのか分からず、手探り状態で毎日が過ぎて行く。
記憶は戻らないままで、それを感じる度、俺もチャンミナも傷付いて・・・・・・
それでも、チャンミナが望まない限り、手離すつもりはなかった。
何度だって・・・・・・
チャンミナを、俺のものにしたかった。









To becontinue



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相変わらず暗い。
あと、3~4話で終る予定。
相変わらず短い。

そして報告です!
昨日まで朱鷺メッセに居ましたが、なんと、新潟県在住の読者様から会いたいというメッセージを頂きまして・・・・・・
少しの時間でしたが、お茶しながらお話しました~(^.^)
初対面の方てすが、とても楽しくて話題が尽きませんでした!(・・・・・・と思ってます)
全く知人の居ない遠くへ行って、会いたいです!って言て頂けるってとても幸せですね。
散々な妄想書き散らしてるだけなのにね!
ち☆さま、楽しい時間を本当にありがとうございましたm(__)m♡




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2 Comments

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2016/09/26 (Mon) 19:55 | EDIT | REPLY |   

723621mam  

誰もみんな諦めていないから、
きっといいことがある。ね?

新潟デート、
楽しかったのが、嬉しかったのが、伝わってくる。
何よりのごちそうだ。

2016/09/26 (Mon) 07:59 | EDIT | REPLY |   

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