僕は何度も恋をする 3








僕は何度も恋をする2


























―――その出会いは、三年前に遡る。
毎朝慌ただしく出勤して、帰宅すると飯を食って寝て終わる。
そんな仕事漬けの日々のなか、車やバイクが趣味の俺は、休日ドライブに出かけるのが癒しだった。
それまで恋人は居たり居なかったりで、当時は誰とも交際して居なかった。
気付けば三十まであと少し。
だけど気持ちが割と趣味に向き易い性格なので、特に焦ることも無く、好きなだけ乗り物に時間を費やしていた。
所属しているツーリングクラブの仲間と、遊んだり出かけることが一番の楽しみだった。
そして、ある春の日。
その出会いは、柔らかな風に乗るように、静かにそっと、俺のもとに舞い降りてきた。
淡い桃色の桜みたいに、可愛くて、穏やかで優しい・・・・・・
チャンミナに出会ったんだ。












バイクで会社に通う俺は、毎晩、帰宅後にバイクの手入れをするのが習慣だった。
二十時あたりになると、アパートの駐車場に出てバイクを磨き始める。
その日も、何時ものようにバイクを磨いていた。
すると、俺が入居する部屋の隣の扉が開き、一人の青年が出て来た。

「こんばんはー」
「・・・・・・・・・・・・」

俺が挨拶すると、その青年は黙ったまま小さく頭を下げ、気まずそうにしながら出掛けて行った。
それから程無くして、青年は再び現れた。
片手に、コンビニ袋をぶら下げて。
うっすら透けた袋の中身は、カップラーメンにお握りと・・・・・・
その他にも幾つか食べ物が詰め込んであって、結構なボリュームだ。
また礼だけすると、青年は部屋の中へ消えた。
見た目からして、きっと年下だな。
なんとなく、人と関わるのが不慣れそうだから新卒かも知れない。
この四月から、アパートで既に新卒らしき人達を数人見かけているし。
その夜以降、青年とはよく顔を合わせるようになった。
大体、コンビニへ買い物へ出かけては、食べ物をぶら下げて戻って来る。
そして、何時もバイク磨きを欠かさない俺。
かなり高頻度で顔を合わせるようになり、その度、気まずそうな青年を見てゴメンと思う。
でもバイク磨きは譲れないんだ・・・・・・



ある時、部屋に入ろうとする青年に、俺は声をかけた。
特に目的は無く、話しかけてみようという好奇心が、ふと湧いて来たのだ。

「・・・・・・今日は何買ったの?」
「へ?」

青年は、大きな目をパチクリさせて俺を見つめた。
驚いた表情が、徐々に戸惑いを帯びてゆく。
これまで話しかけなかったのに、突然声をかけて困らせたかな。
質問の内容も唐突過ぎるし。

「いや、いつも夜食買ってるから・・・・・・ちょっと気になって」

俺が笑ってそう言うと、青年は硬い表情のまま答えた。

「えっと・・・・・・菓子パン二つに、お握り三つ・・・・・・あと、飲み物・・・・・・」

戸惑いながらも、丁寧に教えてくれる律義さに笑みがこぼれる。

「男の一人暮らしは自炊大変だし、買った方が楽だよなー」
「・・・・・・・・・・・・」

丁度その時。
グゥーッ・・・・・・
俺の腹が、結構な音を立てて鳴いた。

「あー・・・・・・ははっ!俺も、夜食食いにそろそろ戻るかな」

青年は暫く考え込んだあと、ビニール袋に手を入れて

「・・・・・・良かったら、どうぞ」

お握りを差し出してくれた。

「え、いいの?」
「はい」
「やった!ありがと」

笑顔で受け取る俺を見て、青年も笑った。
初めて見る笑顔にホッとして、少し打ち解けられた気がして、些細な事だけど嬉しかった。
青年は、チャンミンといった。









「実は・・・・・・実家が洋食屋で」
「へえー」
「だから、食べるのが好きなんです」
「フフッ。成程ね」
「何か・・・・・・可笑しいですか?」
「んー?別に。可愛いと思っただけ」
「可愛い、かな・・・・・・」
「うん。素直で可愛い。親もきっと嬉しいんじゃない?」
「・・・・・・・・・ええっと、ユノさんは、バイク、凄く好きみたいですね」
「うん。大好き。ツーリングクラブ入ってるし」
「カッコイイなぁ。僕なんて、原チャリくらいしか・・・・・・」
「普通二輪の免許取れば誰でも乗れるよ。遠くにも行けるし、慣れると楽しいんだ、これが」

チャンミナとは、あの夜を境に少しずつ話すようになり―――
相変わらず控えめだったけど、徐々に素顔を明らかにするチャンミナを、俺は弟のように可愛く思った。
部屋も隣り同士なので、どちらかの家に上がって話す機会が増えていった。

「僕も・・・・・・免許取ろうかな」
「お!マジで?」

チャンミナは、俺の影響でバイクに興味を持ち始めた。
俺もそれが嬉しくて、バイクの事を積極的に教えた。
やがて、チャンミンは普通二輪の免許を取ると、俺の所属するツーリングクラブへも参加するようになった。
初対面のメンバーに囲まれ、チャンミンはかなり人見知りを発揮してしまい・・・・・・

「チャンミナ、大丈夫?」
「御免なさい。僕・・・・・・話すの苦手で・・・・・・迷惑・・・・・・」
「平気平気!皆良い奴だから。少しずつ仲良くなれば良いよ」

放っておくと一人になってしまうチャンミナを、俺はいつも傍に居て構っていた。
別に、苦では無かったし。
俺が繋ぎ役となって、チャンミナは少しずつ、周りの奴らと仲良くなっていった。









その年の夏。
サークル仲間とキャンプに出かけた時のこと。
バーベキューの最中、仲間の一人が、ニヤニヤ笑いながら俺に話しかけてきた。

「ユノってさぁ、チャンミナと家隣なんだろ?」
「そうだけど」
「で、どうなのよ」
「どうって・・・・・・?」
「手出したのかって聞いてんの」
「ええ?」

真顔で問い詰めるそいつが可笑しくて、俺は笑った。

「何でそんな話になるんだよ?確かに仲は良いけど」
「ふーん・・・・・・」
「弟みたいな感じかなぁ」
「でもさぁ、チャンミナの方は分かんないぜ?お前ん事よく見てるし・・・・・・あの視線は、ライクじゃ無くてラブかもよ」

全く自覚が無いので、急にそんなことを言われても信じられない。
仲間の視線を追って、後ろを振り返ると・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・ほんとだ、見てる」
「・・・・・・・・・・・・!」

俺を見つめるチャンミナと、目が合った。
チャンミナは少しビクつきながら、不自然に視線をさ迷わせて、戸惑ってるのが丸分かりだ。
もうそろそろ、笑顔で応えくれても良いのに。
くすりと笑って手を振ると、チャンミナは頬を緩め、小さく手を振り返して来た。
チャンミナを見て、また仲間が呟く。

「ほら・・・・・・あれはラブだって。顔赤いし」
「酔ってるからじゃない?」
「お前って結構鈍いよな。だーからその外見でも彼女出来ないんだよ!」
「別に・・・・・・そんな彼女欲しい訳じゃ無いし」
「そうかそうか、分かった。このまま知らないフリしとけ。応える気が無いのにチクッて悪かった!」

ソイツは、俺の肩をポンポン叩くと去って行った。
俺はやっぱりそんな実感が沸かず、そいつの背中を見ながら首を傾げた。









翌朝。
早朝にテントを出ると、山間から登る朝日がとても綺麗だった。
俺は急いでテントへ戻り、チャンミナの身体を揺すった。

「チャンンミナ、起きろ」
「・・・・・・・・・・・・んん」
「朝日見に行こう!バイク乗って。すっごい綺麗だぞ」
「い、今から・・・・・・?」
「俺が運転するから。な?」

まだ眠そうなチャンミナの手を引き、テントの外へ連れ出した。
すぐ目の前、真正面から上がる朝日を見て、チャンミナの寝ぼけ眼がぐんっと大きくなった。

「凄い、近い!綺麗・・・・・・!」
「な?」

駐輪場まで行くと、俺はバイクの後方の座面を叩いた。

「タンデムしよ?」
「・・・・・・うん!」

バイクに二人で跨り、ヘルメットを被る。
ハンドルを握ると、俺はチャンミナに言った。

「腰に、手回して」
「・・・・・・・・・・・・」

控えめに、手がそっと回される。

「そんじゃあ怖いな。もうちょっと強く」
「こ、こう・・・・・・?」
「オッケー!行くぞ」
「お願いします」

まだ闇の残る世界へ、チャンミナを乗せて走り出した。
山の隙間から、朝日が数本の線となって差し込んで来て、車道を照らす。
人気の無い広い道を走り抜ける開放感。
まるで、自分達しかこの世界に居ないような感覚。

「最高だな!チャンミナ!」
「うん、気持ち良い!」

風を切る中、声を張って会話した。
楽しそうなチャンミナの声が聞こえてきて、嬉しくなる。
ただ純粋に、可愛がっているチャンミナに綺麗な景色を見せたかった。
次の瞬間まで、俺はあの事なんて綺麗さっぱり忘れていた。

「ありがとう・・・・・・。ユノさん」

そう聞こえたあと、胴に回された手に、ぎゅっと力が込められた。
俺の肩口に、そっと重力がかかる。
チャンミナが、顔を寄せたのだと分かった。

「・・・・・・・・・・・・」

仲間に言われたあの言葉が、頭を過る。

――――『ライクじゃ無くてラブかもよ』

もし、チャンミナが本当に俺を好きだとしたら?
俺は・・・・・・
俺は、それでも構わない。
不思議と、戸惑いも困惑も無く、そこにあるのは嬉しいという気持ちだけ。
応える理由は、それだけで充分だと思った。
冷たい風を浴びるなか、密着したチャンミナの体温が、温かく、優しく、心地よかった。








帰宅後。
俺の部屋で一緒に夕食を食べたあと。

「楽しかったな」
「うん・・・・・・」

チャンミナは、座っていたソファに横になった。

「眠い?」
「ちょっと・・・・・・」
「何だかんだで動きっぱなしだったからな。ゆっくり休みな?」
「ん・・・・・・」

眠そうに微笑むチャンミナを、くすりと笑いながら見つめる。
さらりと流れた前髪を、指で掬ってやった。
それからも、暫く頭を撫でたり、髪を梳いたりして弄っていた。
チャンミナはじっとして、潤んだ瞳で俺を見つめている。
今度は、頬を何度か撫でてから、指で唇をなぞった。
言葉は何も発さぬまま。

「っ・・・・・・・・・・・・」

小さく瞬きをして、身を竦めるチャンミナ。
それでも、抵抗する気配は無い。
俺はゆっくりと身体を起こして、ソファの背とアームに手をつき、チャンミナの身体を囲った。

「・・・・・・・・・逃げないの?」
「・・・・・・・・・・・・」

チャンミナは何も言わず、ただ俺を見つめ返すばかり。
不安定な瞳に、朱色が浮かぶ頬。
薄い唇からふいに漏れた、掠れた吐息。
無抵抗の沈黙が、恥ずかしがり屋のチャンミナの答えだった。
ゆっくりと顔を寄せ、触れるギリギリで少し動きを止めてから、優しく唇を塞いだ。
柔らかい感触に、胸がじわじわと熱くなる。
薄く開いた視界でチャンミナを捉えると、長い睫毛を震わせて、目を瞑りながらキスに応えていた。
暫くそうしてから、そっと唇を離して

「もっと・・・・・・してもいい?」

問いかけると、チャンミナはほんとに小さく頷いて、それから笑みを浮かべた。

「チャンミナ、好きだ・・・・・・」
「ぼくも・・・・・・・・・・・・」



こんな風に、俺達の交際は、ゆっくりと穏やかに始まった。
いつの間にか傍に居て、同じ波長が心地よくて、見た目も中身も可愛いチャンミナに惹かれて・・・・・・
好きかと自問すれば、当然のように受け入れられた。
いつから好きだったとか、そんなのは良く分からないけど。









ずっと、そうして居られたら良かったのに。
思い出を、積み重ねられたら良かったのに。
チャンミナをバイクの世界に引き込まなければ、あんな事にはならなかった。
バイクも趣味も無くて良い。
だからどうか、どうか・・・・・・
チャンミナの記憶を返して欲しい。
張り裂けそうな心でそう願っても、叶う筈も無い。



あの事故以来、俺はバイクが嫌いになった。









To becontinue



気に入って頂けたら、ポチッとお願いします(*^^*)
   ↓

     

人気ブログランキングへ


にほんブログ村







らぶらぶからの・・・・・・
暗い展開・・・・・・(;_;)
(そしてボリューム多すぎ!)
今回のユノはちょっとのんびりってか穏やかな感じで、私のサイトでは珍しいかも?
いつもだいたい口悪くてエロいので。笑
秘めたる~にも沢山の拍手、コメントありがとうございますm(__)m
続きがぞくぞく沸いてきてますので、連載できそうです♡
頼むから、ミンホもっと広がって~~~!!!
ユンホ店長の新しいネタも思いつきましたけど、もうちょっと寒くなってからの方が良いと思いますので後ほど♪
秘めたる~はちょっとヘタレチャミなので、Sなチャミ書くのが楽しみです。ふふ。
お楽しみに~(^O^)





スポンサーサイト

4 Comments

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2016/09/22 (Thu) 18:41 | EDIT | REPLY |   

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2016/09/21 (Wed) 12:06 | EDIT | REPLY |   

まる  

ふふ。NBさんのミンホ好きですよ。
Sだけどかわいげがあって人間臭いチャンミンとか。
私もふとした仕草にに感じることがある「女性っぽい」ユノとか。
あ、でも私はめちゃめちゃユノペンです(笑)
とにかくどんなお話でも楽しませてもらってます!!

2016/09/21 (Wed) 12:00 | EDIT | REPLY |   

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2016/09/20 (Tue) 21:40 | EDIT | REPLY |   

Leave a comment