僕は何度も恋をする 2









僕は何度も恋をする2
































その人は、微笑みながらこちらへ歩いて来る。
まるでスローモーションのように、僕はそれを捉える。
動揺しまくりなのに、どうしてか視線を離せず、緊張は高まるばかり。
目の前まで来ると、整った顔は笑みを深くした。

「チャンミナ・・・・・・」
「えっと・・・・・・ユノさん」
「そうだよ」
「こ、こんにちは」
「うん。昼休みだから来ちゃった」

ユノさんが、慣れた風にカウンター席に腰掛ける。
ぼんやり突っ立っていると、母さんが僕に言った。

「チャンミン、飲み物出してあげて」
「あ・・・・・・うん」

今度は、キッチンで調理しながら父さんが叫ぶ。

「ユノ、ハヤシで良いかー?」
「ああ、はい!いつも済みません」

こっちも、極自然なやり取り。
ああ・・・・・・そうか。
皆にとって、これは日常茶飯事なんだ。
初めての事のように思っているのは、僕一人だけ。
なんか、虚しい・・・・・・
実感が湧いてくると、落ち込む瞬間も増える。

「どうぞ」
「ありがとう」

僕が差し出したコーヒーを、すらりとした綺麗な手で受け取り、ユノさんは口元へ運ぶ。
猫舌なのか、注意深くちびちびと飲むのを見て、僕はつい口元を緩めた。
外見は男らしい印象を与えるけど、そんな姿はちょっと可愛いらしい。
ユノさんは、コーヒーをテーブルに置くと僕に言った。

「あのさ・・・・・・もし今日時間があったら、夕方ドライブに行かない?」
「え・・・・・・?・・・・・・えっと―――」

何となく、母さんに視線を投げる。

「好きにしなさい。明日土曜でしょう。あんたは休みにしてあるから」
「・・・・・・・・・・・・行きます」

ユノさんに向き直り、そう言うと

「ありがとう。嬉しいよ」

ユノさんはにっこりと笑った。
まっすぐな言葉に照れてしまい、下を向く。
戸惑いはあれど、不快感とかマイナスの感情が沸いてこないのは、一度は好きになった人だから・・・・・・?
ユノさんはハヤシライスを美味しそうに食べながら、僕や父さん、母さんと他愛無い会話を交わした。
頭の中、何時かの日記が断片的に蘇る。


―――昼休みと仕事帰り、ユノさんが会いに来た。

―――どうすればいいか良く分からなくて、話し相手をして終わった。

―――スーツ姿は、男から見ても格好良い。あとは、笑顔が良い感じ、かな。


正に、今の僕の心境である。
それもそうだ。
僕は、記憶を積み重ねられない。
毎朝白紙に戻るから、同じことの繰り返しな訳で・・・・・・
ユノさん、こんな僕とずっと付き合ってるのか。
優しい笑顔を見ていると、胸がぎゅっと傷んで、泣きそうになって・・・・・・
僕はまた、下を向いた。









17時30分頃。
職場から直行したユノさんが、僕を迎えに来た。

「お疲れさま」
「お疲れさまです。・・・・・・あ!スイマセン僕、今から着替えるんです」
「いいよ。急がないで」

ユンホさんは、のんびりと入口近くの椅子に腰掛けた。
穏やかな態度と笑顔にホッとする。
私服に着替えると、僕はユノさんの元へ向かった。

「済みません。チャンミナお借りします」
「ふふ。ちゃんと返すのよー?」

母さんは笑顔で返事をして、父さんはキッチンで作業しながら、チラリと視線だけ寄越した。
多分、父さんと母さんは僕等の関係を既に知っている。
日記にそういった事は書いてなかったけど、雰囲気で分かる。
親も関係を了承してるなんて、僕とユノさんはかなり親密だったのでは無いだろうか。









駐車場につくと、ユンホさんは車にキーを向け、鍵を開けた。

「どうぞ。乗って」
「お邪魔します」

オールブラックの車体に、キラリと映えるエンブレムが格好良い。
ユノさんによく似合っている。
僕等を乗せた車は、ゆっくりと夜の街へと滑り出した。

予想していた事だけど・・・・・・
僕は既に緊張して空回り状態で、気の利いた言葉ひとつ出てこない。
しん・・・・・・と静まり返った車内に、ラジオ放送だけが流れている。
聞き覚えのある曲だ。
ゆるやかな曲調は、僕の心境と正反対。
小音なのにやけに大きく聞こえるのは、きっと僕が緊張しているせい。
何か言葉を発さなきゃ・・・・・・
ユノさんに呆れられちゃう・・・・・・
下を向いて焦っていると

「フーンフーン・・・・・・フーン フフフーン フーン・・・・・・」

ユノさんが、メロディーに合わせて鼻歌を歌い始めた。

「あー・・・・・・何だっけ?この曲。凄い聞いたことある」

確か・・・・・・

「・・・・・・Somewhere over the rainbow?」
「あーそう!それだ、それ」

ユノさんが凄く笑顔でそう言うから、僕も釣られて笑った。
たったそれだけなんだけど、なんだかほっこりして気持ちが楽になった。
ユノさんは、今は歌詞を口ずさみながら、ハンドルを握る指をとんとんと鳴らしてリズムを刻んでいる。
ユノさんのマイペースさに、緊張を解される。
ちょっと勇気を出して、話しかけてみた。

「あの・・・・・・乗り物・・・・・・好きなんですか?」
「ん?うん。そうだね。割と」
「車、センスがいいなぁと思って」
「ははっ。中古で気に入ったのがあったから、買っただけだよ」
「でも・・・・・・バイクにも、よく乗るんですよね?」

ふと、ユノさんから笑みが消えた。
少し間を置いてから、ユノさんはこう答えた。

「・・・・・・今は、乗ってないんだ」
「そうですか・・・・・・」

『どうして乗らないんですか?』
出かけた言葉を、飲み込んだ。
何となく、聞いてはいけない気がして。









ユノさんは、街の中心を抜けた先の丘を目指した。
住宅が並ぶ坂を、どんどん上に登ってゆく。

「何処へ行くんですか?」
「着いてからのお楽しみー」
「・・・・・・・・・・・・」
「コンビニ寄っていい?飲み物買いたいんだけど」
「ハイ」

通りかかったコンビニに入り、ユノさんは僕の分もコーヒーを買って来てくれた。









「到着」
「此処って・・・・・・」

車が停車したのは、住宅街の一角。
辺りは真っ暗闇で、何も見えない。
車から降りると、ユノさんが目の前にやって来た。

「チャンミナ、目瞑って」
「え・・・・・・?」
「良いって言うまで、開けちゃ駄目だよ」
「な、何?」
「いいからいいから」

戸惑いながら目を瞑ると、ユノさんは、僕の手をそっと握った。
ゆっくりと、ユノさんの手を頼りに前に進む。
ドキドキ、ドキドキと、心臓が騒ぎ始める。
目隠しのせいだけじゃない。
きっと・・・・・・
ユノさんの手の温度が、そうさせてる。
暫く歩くと、ユノさんが立ち止まった気配がして僕も歩みを止めた。
そよそよと、涼しい夜風が身体を撫でて流れゆく。

「いいよ。開けて・・・・・・」

ユノさんの柔らかな声が、暗闇に落ちて。

「・・・・・・・・・・・・」

僕は、ゆっくりと瞳を解放した。

「うわぁっ・・・・・・」

目の前に広がるのは、遥か遠くまでも埋め尽くす、幾つもの光のカケラ。
ライトアップされた橋や、光を連ねる電車、海の上に浮かぶ船・・・・・・
僕らの住む街が、暗闇にくっきりと浮かび上がっている。
暗い場所から眺めると一層輝いて見えて、今まで見たどの夜景よりもずっと綺麗だった。

「すごいや・・・・・・」
「気に入った?」
「はい!」

大きく頷く僕を見て、ユノさんはにっこりと笑った。

「そこに座ろう」

ユノさんに促され、手摺の前のベンチに、二人並んで腰掛けた。
じっと夜景を見つめていると、ユノさんが言った。

「此処、前にも一緒に来たことがあってさ。チャンミナが凄く気に入ってたから、また連れて来たかったんだ」

そうだったのか・・・・・・

「御免なさい。僕・・・・・・何も思い出せなくて」
「そういうつもりで言ったんじゃないよ。喜んで貰えたら、それで充分」

月明かりが、ユノさんの柔らかな微笑みを照らし出す。
僕は知らぬまに、ユノさんに視線を奪われていた。

「・・・・・・近くに寄っても良い?」

ユノさんの問いかけに、僕は小さく、コクりと頷いた。
視線を落とした先で、腰かけた僕とユノさんの足が、ピタリとくっつくのを捉える。
ドキドキ。ドキドキ。
心臓が、また騒ぎ出す。

「・・・・・・これは?」

耳の傍からそう聞こえたあと、今度は手を握られた。
ドキドキが、より一層強くなる。

「えっと・・・・・・よく、分からない・・・・・・です」
「嫌・・・・・・?」

今は、黙って首を振るのが精一杯だ。
やがて指を絡め取るように、ユノさんは僕の手を握り直した。
掌に、ジワリと汗が滲む。
緊張も動揺も全て、きっと伝わってしまってる。

「チャンミナ・・・・・・」

先程よりも傍で、低い声を感じて―――
その呼びかけに、顔を上げたらどうなるのか・・・・・・
僕はもう、分かってた。
ゆっくりと視線を上げると、すぐ近くにユノさんの顔を見た。
すっと横に伸びた、切れ長の瞳に捉えられる。
ユノさんの顔が、少しずつ近付いてきて・・・・・・
僕は息をするのも忘れ、その時を待った。
やがて、柔らかいそれが唇に触れるのを感じて、僕は身体の芯から奮えた。

「っ・・・・・・」

触れたまま暫く留まって、ユノさんの唇は僕から離れていった。

微笑むユノさんを前に、今も、まともに息を出来ない。

「少し、強引だったかな・・・・・・」

言葉じゃ上手く伝えられる自信が無くて、僕はただ、握り合った手に力を込めた。
“嫌じゃ無い”のサインだ。
僕の記憶上、今日始めて会ったも同然なのに・・・・・・
この人が持ってる抗いがたい引力に、身を委ねてしまいたくなる。

「好きだよ。チャンミナ」

ユノさんが、形の良い唇に、そっと弧を描く。
低いトーンの甘い声は、僕の鼓膜を震わせて、心にジワリと浸透してゆく。

「ユノさん・・・・・・」

僕の声は、掠れ、震えていて・・・・・・
だけど確実に、ユノさんを求めていた。
壊れそうな物を大事に扱うみたいに、ユノさんは僕をそっと抱き締める。
厚い胸板に額を預け、そろそろと背中に手を添えると、僕は吐息を漏らした。















今日は、ユノさんとドライブに出かけた。

サプライズで夜景を見せてくれた。

凄く綺麗な夜景。

一緒に景色を見ていたら・・・・・・キスをされて、それから、抱きしめられた。

今日始めて会った感覚なのに、全く嫌じゃ無いなんて不思議だ。

思い出すと、今でも身体が熱くなる。

頭はユノさんを忘れてしまっても、心や身体は、何処かで覚えてるのかも・・・・・・?

寝てしまったら、明日になったら・・・・・・僕はまた、ユノさんの事を忘れてしまうのかな。

眠りたくないよ・・・・・・

ユノさんと一緒のまま、時が止まってしまえばいいのに。






ぽつり。
ノートの上に、涙が一粒落下した。
思い出したかのように、切なさがどっと込み上げて来る。
次々と溢れ出る涙が、ノートを濡らしてゆく。

「ふっ・・・・・・うぅっ・・・・・・」

ノートを抱いて寝転ぶと、僕は暫くの間泣き続け・・・・・・
知らぬ間に、意識を手放していた。









To becontinue



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いつも沢山の拍手ありがとうございますm(_ _)m
秋が近づくと、毎年切ない話を書きたくなります。
変態とは無縁の話を・・・・・・笑
まあ、そういった要素は取り入れますけど。勿論!
そしてミンホな話(子持ち?チャミ×保育士ユノ)が浮かんで来て、それも書きたいですええ、変態です♡
そしてホミン(幼馴染み設定)も浮かんでくるという・・・・・・
でも、消化していないものが他にも沢山・・・・・・
PSYとか苺の花とか・・・・・・常闇とか(^^;)
取り敢えず、面白いと思って貰えそうなの優先的に書いていこう。

コメントは今日中にお返しいたします。







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2016/09/21 (Wed) 02:20 | EDIT | REPLY |   

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