片耳ピアスの君 3

  13, 2016 06:56


高校時代から、恋人のユノと言い合う事はよくあった。
僕らは正反対のタイプだから、それも仕方無いと思っていた。
大学に進学しても関係は続き、変わらず喧嘩もした。
今までと違うのは、遠く離れているせいで相手の顔を見られない事、空気を感じられない事。
電話で声だけのやり取りが続いて・・・・・・
これ迄は割とあっさり解消した食い違いが、残留したまま少しずつ、徐々に募っていった。
出口が見えない言い合いが嫌になり、僕がある日発した言葉。

―――「じゃあ、別れる!?」

本当にそんなつもりは無かったけど、勢いでそう言った。
ユノは一方的に通話を切ったけど、その翌日また電話があった。
「俺が悪かったから仲直りしよう」と。
それからというもの―――
喧嘩が長引くと、僕は無意識にその言葉を口にするようになった。
言葉とは裏腹に、そのセリフは喧嘩を終わらせる最終手段のようなもので、心から別れを望んだ事は一度もない。
現実になるなど、考えたこともなかった。









ユノへ近況報告をした時、僕が眼鏡からコンタクトにした事、友達との旅行の写真に文句を言われて苛々した。
そんな些細な事が、喧嘩の発端だった。
だらだらと、何日も言い合いが続いて

『別れようか?もう』

その言葉をユノに浴びせるのに、躊躇いは無かった。

『またその話か・・・・・・』

冷めたユノの声が、胸に刺さった。
今は話し続けても解決しない気がして、頭を冷やしたかった。
ユノから来るメールも電話も返さないまま、一週間が過ぎようとしていた。
そんなある晩。
ユノが突然、僕のアパートにやってきた。
連絡を返さずに避けていたから、友達と談笑しているのを目撃されて後ろめたさがこみ上げた。
折角ユノと会えたのに、ネガティブな感情を抱いたことが悲しかった。









友達を帰してユノを部屋に通すまで、何も言葉は交わさなかった。
玄関の扉が閉まる音が、やけに重く感じられた。
しん、と静まり返った部屋にふたりきり。
僕は重い口を開いた。

「・・・・・・来るなら、言ってくれれば良かったのに」
「言ったら逃げんじゃねーかと思ってさ」
「逃げたりなんて・・・・・・」

ユノが僕との距離を詰める。
優しくて明るい、何時ものユノとは違う表情、声。
喧嘩の時たまにそうなるけど、今はそれを余計感じるから凄く辛い。
ユノの手が、僕のシャツに伸びてきて襟を引っ張った。

「な、何・・・・・・?今そう言う気分じゃ・・・・・・」
「見せたくない・・・・・・?跡でも付いてんの?」
「え・・・・・・?」
「他の奴と寝たのかって聞いてんだよ」

その言葉は、あまりにもショック過ぎた。
僕が、そう簡単にやれると思うのか・・・・・・?
ユノ意外の誰かと。

「さっきの奴、帰して良かったの?」
「は?」
「邪魔者は俺の方だったりしてな」
「何言って!」

そんな訳無いじゃないか。
もう、何も聞きたくない。
ユノの心が全然見えない。
こんな事口にしても、僕もユノも辛いだけなのに。

「もうヤダ止めてっ・・・・・・」

耳を塞ぎ、ギュッと目を瞑って首を振る。
ユノはお構い無しに、僕をベッドの上に転がした。

「っぁ・・・・・・」

ユノが僕の上に跨って、じっと見下ろしてくる。

「チャンミン・・・・・・」
「嫌だってば・・・・・・!」

身体を、力無く捩るだけの僕。
ショックを受けたせいで、抵抗する気力も湧いてこない。

「俺のこと嫌なら、本気で抵抗してみな。出来んだろ?」
「嫌、だ・・・・・・いやぁっ・・・・・・」

僕はすすり泣きながら、結局ユノに抱かれてしまった。
嗚咽は、いつの間にか官能の色を帯びていき・・・・・・
それでも、頭の片隅に残った理性が悲しみを知らせるから、快感に完全に溺れられないのが辛かった。

「渡すかよっ・・・・・・誰にも・・・・・・」

僕に埋もれながら、低く呟くユノを見上げて胸が痛くなった。
一方的で言葉も荒っぽいのに、切なげに歪んだ顔、震える声。
涙を流していなくても、ユノは泣いているように見えた。









ベッドから起き上がり、僕はボンヤリと部屋を見渡した。
日を跨ぐ前だけど、もうだいぶ明るい月あかりが、電気の消えた部屋に影を作り出している。
先程まで、僕を後ろから抱き込んでいたユノの姿は無い。
カーテンの向こうに、ふわふわと浮いては消えゆく煙が見える。
ガラス戸から外のベランダを覗くと、煙草をふかすユノを見つけた。
横顔を見つめ、また男っぽくなったと感じる。
僕の知らない世界で、ユノがどんどん大人になっていく事に寂しさを覚え、時間が重なるごとに遠くなる気がしてしまう。
僕等の間に溝が出来てしまったのは、離れているから。ただそれだけだろうか・・・・・・?
僕はそっと戸を開けて、ユノの隣に腰を下ろした。

「・・・・・・中入らないと匂いつくぜ」
「・・・・・・煙草なんて美味しいの?」
「吸う?」

ユノが煙草を差し出して、僕はそれに口を付けた。
苦く喉を刺すような空気が、口に広がってけほけほと咳き込んだ。
そんな僕を見て、ユノはクスッと笑った。

「まっず・・・・・・」
「俺もそんな旨いと思わないけど、気付くと吸ってんだよな」
「身体に悪いから、依存する前に止めたら?」

煙草を見つめながら、ユノが呟く。

「・・・・・・依存する前に止める、か・・・・・・。そっか・・・・・・そうだよな・・・・・・」
「ユノ・・・・・・?」

煙草を灰皿に押し付けると、ユノは空になった掌をじっと見つめて、それから僕の手を握りしめた。
指を絡め取るようにして、ぎゅっと強く。

「ずっと離さない気でいたけど、俺・・・・・・お前んこと困らしてばっかだよな」
「・・・・・・・・・・・・」
「「別れる」ばっか言わしてるし・・・・・・最近、ひょっとして、俺の方が一方的に求めてんじゃないかって思ったりしてさ」

ゆっくりと重なるユノの言葉を聞いて、あの台詞が現実味を帯びてゆく。
続きを聞くのが、恐い。
ユノは手の力を緩め、そして言った。

「・・・・・・別れようか?お前がそうしたいんなら」
「え・・・・・・・・・」
「離すのは超辛いけど・・・・・・それより、お前を苦しめてる方がもっと辛い」
「・・・・・・・・・・・・」
「離れんなら、今のうちな。俺が依存しないうちに・・・・・・。まあ、もう依存してる気がするけど」

ユノの言葉に動揺を隠し切れない。
これまで散々「別れる」と口にしてきたというのに、今初めてそれが現実に成り得るのだと実感していた。
傷付いた顔で笑うユノを見て、僕は死ぬ程後悔した。
「別れる」と何度も口にした事、電話やメールを返さなかったことを。
それに、僕は気持ちを言葉にしたり自分から甘えるのが苦手で、ユノから求めてくれる事が多い。
ユノからしたら自分の想いばかり強く、僕は別れたがっているように見えた事だろう。
『さっきの奴、帰して良かったの?』
『邪魔者は俺の方だったりしてな』
そんなセリフを吐いたのは、僕を信用していないのでは無く、自分に自信が無かったから。
ユノは強い。ユノは僕を離しはしない。そう決め付けて好き勝手したのは僕のほう。
離ればなれで寂しく不安なのは一緒なのに・・・・・・
僕の愛情は伝わりにくいだろうけど、本音は―――
どんなに喧嘩しても、別れたくない。
誰にも渡したくないし、どうしようも無いくらい、本当にユノが好きだ。
簡単に言葉に出来たらいいのに、それが難しい。
僕は、涙を瞳いっぱいに溜めてユノを見つめた。
縋る思いで、強く手を握り返す。

「ちが・・・・・・ゴメンッ・・・・・・。別れるなんて、本気で考えたこと一回も無くて・・・・・・喧嘩の時、ユノがいつもそれで引き下がってくれたから、僕・・・・・・つい・・・・・・」
「じゃあ・・・・・・マジで嫌な訳じゃ無いの?」

ユノの問いに、コクコクと頷く。

「別れたくない・・・・・・」

涙が一粒、瞳から溢れ落ちる。
可愛いセリフなんて何も言えなかったけど、ユノは微笑みながら僕を抱きしめてくれた。

「良かった・・・・・・。じゃあ、これで仲直りな?」
「ん・・・・・・」

顔を寄せ合って、ゆっくりと唇を重ねる。
久しぶりのユノの唇は、ほんのりと苦い煙草の味がした。









ユノはバイトの予定が入っていて、翌日の午前中には家を出た。
新幹線で帰るユノを見送りに、僕も駅に向かった。
改札前で別れても良かったけど、ギリギリまで見送りたくて駅のホームまで上がった。

「じゃあ・・・・・・元気でな」
「うん・・・・・・」
「電話したら、ちゃんと出ろよ」
「うん・・・・・・」

ぽんぽん、と僕の頭を叩いてユノが笑う。
でも昨日の事があるから、無理をさせているんじゃないか?と不安になる。
多分、僕がコンタクトから眼鏡に戻っても、友達と触れ合わなくてもユノの不安は拭えない。
僕がすべき事は・・・・・・
言葉と行動で、ちゃんと想いを伝えることだ。
ユノにしてもらって満足しないで、僕からも伝えなきゃ意味無い。
丁度、新幹線がホームに到着した。

「んじゃ、行くわ」

ユノがデッキに乗り込んで、ドアが閉まるその時を待つ。
今、今伝えなきゃ・・・・・・

「ユノッ・・・・・・」
「・・・・・・ん?」

声が奮える。
気持ちを伝えるのに、こんなテンパるなんてカッコ悪いけど・・・・・・

「僕ほんとは・・・・・・喧嘩してから、夜も眠れないし、勉強も何も手に付かないくらい・・・・・・ずっとユノの事考えてた」
「チャンミン・・・・・・」
「伝えるの苦手だけど・・・・・・僕は何時もユノを大好きだって、忘れないで・・・・・・」

デッキに乗り込んで、一瞬、ユノの右耳のピアスに口付けた。

「此処・・・・・・僕意外の誰にも、渡しちゃ駄目だからね」

ユノが、驚いた表情を浮かべてフリーズしてる。
恥ずかし過ぎて、本当は今直ぐ何処かに隠れたかった。

「じゃあ・・・・・・」

ホームへ戻ろうと、ユノに背を向けて

“ドアが締まります。ご注意下さい”

アナウンスが長れ、ドアが閉まる直前・・・・・・

「わっ!?」

腕を引かれ、強く抱き締められた。

「ちょ・・・・・・ユノッ・・・・・・」

背後でドアが閉まり、やがて車体が動き始めた。

「ねぇ・・・・・・出発しちゃったよ」
「・・・・・・・・・・・・」

乗り込んで来た数人は、チラチラと視線を寄越して通り過ぎてゆく。

「ね・・・・・・ひ、人が見てるよ。ユノってば・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

僕を苦しい程の力で抱きしめて、首筋に顔を埋めたままユノはビクともしない。
やがて、掠れた声が耳元に落ちた。

「ヤバい・・・・・・嬉し過ぎて、死にそう」
「ユノ・・・・・・」

ああ、やっぱりこれが正解だったんだ。
気持ちを伝えること。シンプルだけど、凄く大事な事。
簡単なようで、僕にとっては難しかった事。

「あー・・・・・・このまま連れ去りたい」

僕を抱き締めたまま、ユノが呟く。
ドキドキと踊る胸。迸る身体。
僕も、昨日のあの時間だけじゃ全然足りない。
飽きることなく、何度でもユノを求めてしまう。

「いいよ・・・・・・?連れ去っても」

ユノを見つめて微笑むと、勢いよく唇を塞がれた。
デッキの中だけど、もう人が居ないからと、こっそり濃厚なキスをして・・・・・・
唇を離すと、僕らは照れ笑いを浮かべた。









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仲直り出来てよかったね~~
次回はらぶらぶえ☆ちです。
たくさん拍手ありがとうございますm(__)m♡
さて。NBはお盆休みぶっ通しで仕事なので今日も行って参りま~~す



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Comment 8

chika♪  

No title

わぁー、よかったー!!
喧嘩したままチャンミンが何も伝えられないまま意地張ったまま誤解したまま 切ない展開になってしまうのじゃないかと、読みながら「そんなのヤダヤダー!>_<」と思い心配しながら読んでいたのですが、ああ、よかったー!
仲直り以上にさらに甘くなったふたり、大好きです!(*^^*)

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ゆき  

No title

ヒぃーハぁぁー!!!!!!
(;//Д//)'`ァ'`ァ

もぅたまらーん‼

色々ありがとうございます☜╮(´ิ∀´ิ☜╮)うえーい

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723621mam  

チャンミン頑張れ!チャンミン頑張れ!
よっしゃ、ヤッターーーーー! 金メダルだーーーー!
・・・って、オリンピックか?(笑)

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