恋の方程式 4























恋の方程式・表紙






















カシャン・・・・・・
僕の手から落ちた眼鏡が、あかね色の教室に乾いた音を響かせた。
チョンさんはそっと僕の唇を解放し、至近距離のまま笑みを浮かべた。
何時もは少しキツめの印象を与える、細い瞳。
今は、柔らかく優しく・・・・・・だけど、何かを訴えているように感じる。
その瞳に囚われ無抵抗でいると、チョンさんはまた顔を近付けて来た。
やっと我に返り、僕はチョンさんの胸を強く押しやった。

「な、何するんですか!」

取り乱す僕と対照的に、チョンさんは何時もの調子で言った。

「何って、キスしたんだろ。さっきお前もオーケーしたじゃん」
「そうだけど・・・・・・そんな、何回もして良いなんて言ってない!」
「いいじゃん、ちょっとくらい」

僕はいっぱいいっぱいなのに、随分と余裕有り気なチョンさんの態度が腹立たしい。

「好きでも無い人とそう何回も出来る訳無いでしょう!?遊び慣れてる貴方と一緒にしないで下さい」

睨みを効かせて反論すると、チョンさんは少し寂しそうな顔をした。

「あー・・・・・・今の、結構傷ついたかも」
「ウソでしょ。遊びで、それも男と平気でキス出来る人が、そんな簡単に傷付くなんて」

そのセリフを放った直後、チョンさんの表情が変わった。
何時もの明るくておちゃらけた風では無く、少し怒っている顔をした。
暫く無言になってから、チョンさんは溜息をついて言った。

「お前、頭悪いな」
「は?」
「勉強頑張っても、人の事まるっきり分かんねえなら意味ねえよ。社会にも通用しねえし」

見下す発言、態度が腹立たしい。
僕は無言のまま、じっとチョンさんを睨みつけた。
チョンさんは僕の視線を躱すと、バッグを担いで出口へ向かった。
去り際立ち止まって、僕を振り返りこう言った。

「遊びでお前を振り回すような奴が、熱出した時にあんな世話焼くと思うか?」
「え・・・・・・?」
「ほんとにそうなら・・・・・・あの朝、俺は知らねえふりして学校に行ってた」
「チョンさん・・・・・・」
「俺の事、かなり嫌いみたいだから別に良いけど・・・・・・もう少し相手の心読むこと覚えな。じゃないとお前が困るぜ」

チョンさんはそう言い残して去って言った。
僕は被害者なのに、何故注意されなきゃならないんだ。
でも、反論できなかったのは心当たりがあるから。
僕はコミュニケーションが苦手だ。
友達も、同世代の男子に比べたら少ない自覚がある。
その原因が、チョンさんの言う“人の心を読めない”事だとしたら・・・・・・?
認めざるを得ない気分になって、一人落ち込んだ。






参考書を開いたものの、全く集中出来ない。
何時もはすんなり頭に入る文字も、ただの記号みたいだ。

「あーもう、駄目だっ」

本を閉じて、ベッドへ横になった。
放課後、チョンさんに言われた言葉を反芻する。

――――「勉強頑張っても、人の事まるっきり分かんねえなら意味ねえよ。社会にも通用しねえし」
――――「・・・・・・遊びでお前を振り回すような奴が、熱出した時にあんな世話焼くと思うか?ほんとにそうなら・・・・・・あの朝、俺は知らねえふりして学校に行ってた」

人の事を分かってないというのは、恐らく僕のチョンさんへの態度を指している。
そして、チョンさんは僕で遊んだ訳では無いという。
あのキスも、遊びでは無い?

――――「委員長・・・・・・あんただから言ってる。こんな事、あんたにしか頼まない」

キスの直前、チョンさんは確かそう言っていた。
もしかして・・・・・・チョンさんは、僕とキスしたかった・・・・・・?
ぼんやりと、ある可能性が見えてくる。

「・・・・・・いや、そんな・・・・・・まさか・・・・・・」

だけど、唇を触れ合わせた時の、チョンさんの眼差しが忘れられない。
僕は無意識に唇を触っていた。

「嫌じゃないなんて、変なの」

数式みたいに、答えが決まっていればラクなのに。
チョンんさんと接するようになってから、思い悩んでばかりだ。
その日の夜、結局勉強は手につかなかった。









僕はチョンさんに謝るべきだろうか?
思い起こせば酷いセリフを吐いてばかり。
助けられた借りもあるし、学期末考査の成績も負けたのに・・・・・・
廊下を歩いていると、友達を横に連れたチョンさんが向こう側からやってきた。
すれ違う瞬間。

「あ、あの・・・・・・」

話しかけようか迷って、中途半端に声を発した。
チョンさんは僕を見ることなく、友達と談笑しながら通り過ぎて行った。
ツキンと心が痛む。
今、僕の声聞こえてなかったのかな。
それとももう、愛想つかされてしまった・・・・・・?






放課後、窓の外を眺めながらひとり廊下を歩いていた。
校庭では、サッカー部が声を上げながらボールを追いかけて走り回っている。
その中にチョンさんの姿を見つけた。
チョンさんはダンス部所属だが、どんな競技もそれとなく熟すので、他の部に応援に呼ばれる事も多い。
何処の部にも友達が居る、そんな人間関係の広さも理由としてあると思うが。
僕はどこへも所属していない。
生徒会役員は仕事量が多い為、規則で無所属が許されることになっている。
勉強だけ頑張っても、他が蔑ろになっては意味が無い。
そんなこと、僕だって分かってる・・・・・・
この学校の、恋愛禁止って規則もどうかと思う。
だけど、僕には勉強以外に打ち込めるものがないのだ。
クラス委員になって、学校の方針から外れないように頑張るうちに、気付いたら勉強しか取り柄が無くなっていた。
本当は、もっと学生生活を楽しみたい。
あの人みたいに・・・・・・
笑顔のチョンさんを見つめながら、少しだけ泣きそうになる。
多分、僕は彼が嫌いなんじゃなくて憧れていたんだ。
羨ましく思う気持ちを、嫌いだと思い違いしていた。
自分の心もろくに分からずに、人の心が分かる訳ない。
自嘲的に、小さく笑った。



校庭を横切って、門へ向かっていた時のことだ。
サッカー部員が一部に集まっているのが見えた。
その中から一台の担架が出てきて、学校の中へと運ばれてゆく。
何故か嫌な予感がした。
丁度、サッカー部顧問の先生が目の前を通り過ぎて、僕は声をかけた。

「あのっ・・・・・・」
「どうした?」
「何かあったんですか?」
「生徒が倒れたんだよ。うちの部員じゃ無いんだが・・・・・・さっき、練習中に」

部員じゃ無い・・・・・・?

「もしかして、チョンさん・・・・・・ですか?」
「おお、よく分かったな。そうだよ。今保健室に向かったところだ」

チョンさんが倒れたと聞いて、自分でも驚く程動揺した。
返答を聞くや否や、僕は保健室めがけて走り出した。



保健室の前まで行くと、中から会話が聞こえてきた。

「直ぐ意識が戻って良かったな。恐らく貧血だろ」
「迷惑かけてすんません・・・・・・」
「周りの事は気にするな。それより、自分の身体をちゃんと気遣ってやらないと・・・・・・」

声で分かる。
話しているのは、チョンさんと、僕らの担任の先生だ。
僕は暫く、二人の会話に耳を澄ませた。

「バイト、止める気無いのか?」
「勿論っす。今のうちに、大学の学費貯めたいですもん」
「奨学金貰うって方法もあるんだぞ」
「俺の行きたいとこ、奨学金対象者の選考が厳しいんです。留年者は確実に弾かれると思います」
「そうか。ご両親には相談したのか?」
「いいえ。母さん、親父と離婚していまそれどころじゃ無いですから。これからも仕送りしてくれるらしいけど、今までより家計は厳しくなるし・・・・・・それに妹も大学進学を希望してるから・・・・・・自分で出来るとこまでやってみます」
「でも、やっぱりご両親には相談しなさい。お前はまだ高校生だし、親の力を借りるのは当たり前の事だ。ご両親も、知らないところでお前が苦しむのは悲しいと思うぞ」
「・・・・・・そうっすね、考えてみます」

二人の会話を聞いて、僕は静かに衝撃を受けていた。
チョンさんの両親、離婚していたのか・・・・・・
バイトに励んでいたのは、大学の費用を稼ぐ為。
貴重な金だろうに、タクシー代を躊躇い無く出したチョンさんを、僕は金持ちだから感覚が違うと思い込んだ。
バイトの疲労で居眠りが多いチョンさんに、腹が立つ、嫌いだと酷いことを言った。
ちゃんと事情があったのに、何も知りもせず。
僕は大馬鹿だ・・・・・・

「あ、先生・・・・・・バイトのこと、これからも内密にお願いします」
「分かってるよ。もう少し此処で休んでなさい」

頭を抱えていると、扉が開いて先生が中から出て来た。
ばっちり目が合って、隠れる暇も無かった。

「あ・・・・・・」
「シムじゃないか!なんだ、心配して来てくれたのか?」
「ええと・・・・・・まぁ・・・・・・」
「さすがクラス委員だな!ユンホ、シムが心配して来てくれたぞ」
「ちょっ・・・・・・」

先生は僕が動揺してるのなんて気付かずに、笑顔で去っていった。
こうなったら、行くしかない。

「お、お邪魔します・・・・・・」

そろそろと、保健室の中に足を踏み入れた。
ベッドの上に座ったチョンさんは、僕を見た途端眉を寄せた。

「何やってんだよ・・・・・・」
「え・・・・・・?」
「何で来たの?折角距離置こうとしてんのに・・・・・・」

少し、イラついているようにも見える。

「俺のこと、嫌でも心配してくれんだ?何で?」
「・・・・・・貴方が、倒れたって聞いて・・・・・・気付いたら、此処に来てました」

素直に事実を告げる。
そうする事で、自分の気持ちと、チョンさんと向き合える気がするから。

「へえ・・・・・・。有り難いけど、もう帰っていいぞ。大丈夫だから」
「・・・・・・此処に、居ます」

ベッドの一番端に、ちょこんと腰掛ける。

「期待させんな、バーカ」
「・・・・・・・・・・・・」

チョンさんが、瞳を揺らしながら僕のことを見ている。
小さな声で、ぽつりと呟いた。

「・・・・・・これで、本当に最後にする」
「え・・・・・・?」
「勉強熱心な委員長に問題。バイトしてるうえ、ぶっ倒れるまでテスト勉強頑張って・・・・・・それでも俺が勝ちたかった理由は・・・・・・キスを要求したのは何ででしょうか」
「・・・・・・・・・・・・」
「俺からしたら・・・・・・どんなに成績良くても、この問題が解けなきゃ意味無い」

その台詞、此れ迄のことを全部考える。
チョンさんに助けられた時、キスされた時。
今なら分かる。
どんな時も、実は、本気で僕と向き合っていたという事が。
答えが、出た。
多分正答だと思う。
チョンさんは・・・・・・

「僕の事が・・・・・・好き・・・・・・だから」

二人きりの静かな空間に、また沈黙が重なる。
チョンさんは少し驚いた顔をして、やがてふっと微笑んだ。

「その通り。よく出来ました。解けないかもって、半分諦めてたよ」

見つめられ、顔が火照る。
身体は、心よりずっと素直だ。

「だから・・・・・・申し訳ないけどこれ以上一緒には居られない。俺にとって、委員長は友達じゃないから」

そんな風に言われると、心が痛い。
僕も、答えが出た。

「・・・・・・じゃあ、僕から問題」

ドクドクと鳴る拍動が、この静かな環境で、チョンさんに聞こえやしないかと心配になる。
どうせもう時期、僕の心は読まれてしまうけど。

「僕が・・・・・・キスされても嫌じゃなかったのは、何ででしょう」
「え・・・・・・・・・?」
「これ以上一緒に居られないって言われて・・・・・・寂しいのは何故だと思いますか?」

チョンさんは瞳を丸くして、驚いた顔をした。

「おまえ・・・・・・もしかして・・・・・・」
「・・・・・・僕も、貴方と同じ答えです。チョンさんが・・・・・・好き」

そう告げた僕の声は、自分のものとは思えない程甘かった。









◇◇◇



やっと問題が解けた~
早々終わりが見えて来ました。
にしても読み返したら文章が雑すぎた・・・・・・
ちょっと修正します。



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3 Comments

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2016/07/27 (Wed) 10:37 | EDIT | REPLY |   

ゆき  

No title

やばすやばすやばすやばすやばすやばすやばすやばす!

久々きゅん死にしそうになりました‼

東方神起ばんざい!!!!!!

2016/07/26 (Tue) 22:44 | EDIT | REPLY |   

723621mam  

おお!空気が染まった!
シアワセ色に。

2016/07/26 (Tue) 20:53 | EDIT | REPLY |   

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