恋の方程式 3

  23, 2016 21:17






















恋の方程式・表紙






















「あ、タンマタンマ!」

通りかかったタクシーを、チョンさんは手を上げて呼び止めた。
タクシーに乗り込もうとするチョンさんを、僕は弱々しい声で制止した。

「だ、駄目・・・・・・」
「あ?」
「家まで結構あるのに・・・・・・今、そんなお金、持って無い」

電車でひと駅以上ある僕の家まで、タクシーを使ったらきっと5万ウォンは飛ぶ。
そんな余裕、僕の財布には今無い。

「俺が出すから気にすんな。電車使うよかタクシーの方が楽だろ」
「そんな・・・・・・でも・・・・・・」
「いいから乗った乗った」

チョンさんに押し込まれるようにして、僕はタクシーの中に乗り込んだ。

「行き先、ほんとに病院行じゃなくていいの?」
「うん・・・・・・」
「家は?どこ?」
「えっと――・・・・・・」

僕は運転手に住所を伝えた。
いちいち議論する気力も無くて、結局促されるまま行動してしまう。
本当は駅まで付き添って貰って、あとは一人で帰ろうと思っていた。
喧嘩腰になり、チョンさんに酷い言葉を浴びせたことは記憶に新しい。
手を借りることが、とても後ろめたかった。






家の前に着いて、僕等はタクシーを降りた。
やはり五万ウォン近くかかったが、チョンさんは躊躇せずそれを支払った。
高校生の僕らにとっては大金なのに。
散々バイトしてるから、金銭感覚が違うのかも・・・・・・

「直ぐそこにコンビニあったよな。何か欲しいもんある?」
「もう、いいから・・・・・・。それより、学校行って下さい」

僕の返答を聞いて、チョンさんは眉を寄せた。

「それじゃあ、ここまで来た意味ないじゃん」
「それは、そうだけど・・・・・・」
「何か適当に買って来る。あとは帰るから安心しろよ」

コンビニへ向かおうと、チョンさんが背を向けた。

「あ、待っ・・・・・・」
「・・・・・・ん?」
「・・・・・・ポカリと・・・・・・アイスが欲しい、です」

僕の要望を聞いて、チョンさんはクスッと笑った。

「最初っからそう言やいいのに。家入って待ってな」

ついさっきまで意地を張っていたのに、結局強請ってしまったのが恥ずかしい。
僕の大嫌い発言をチョンさんは覚えている筈。
そのうえこんなにも振り回して、怒ってもいいくらいなのに・・・・・・
朝会ったあの時から、チョンさんはずっと優しい。
遠ざかる背中を少し見届けてから、僕は家の門を潜った。
顔が熱い・・・・・・
また、熱が上がったかな。



チョンさんが寄越した袋には、ポカリとアイス、他にもレトルトの粥や熱冷ましの薬が入っていた。

「こんなに沢山・・・・・・」
「あんまり世話妬いて、ウザかった?」

その問いかけには、首を振って素直に応えた。

「助かりました、本当に」
「そ。なら良かった。・・・・・・んじゃ、もうそろそろ行くわ」
「ありがとうございました。色々」

ふっと笑みを浮かべて僕を見ると、チョンさんはドアの向こうに消えた。
それからは、ベッドへ横になって一日寝て過ごした。
腹が減ると、チョンさんが買ってくれたアイスと粥を布団に包まりながらちびちび食べた。
有り難さを感じ、味わいながら。









翌朝、起床時に直ぐ分かった。
身体の怠さはすっかり無くなっていて、頭もクリアだ。
熱は下がったに違い無い、そう確信した。
体温を測ると三十六度台で、すっかり平熱に戻っていた。
小遣い袋から金を取り出して、僕は学校へ向かった。









「これ、昨日の分です」

封筒を差し出すと、チョンさんは不思議そうに首を傾げた。

「何ソレ」
「何って・・・・・・昨日のタクシー代と、コンビニの分」
「いらね」
「そういう訳には・・・・・・。ちゃんと受け取ってくれないと、僕が嫌だ」
「じゃあ、お前が持ってて」
「え?」
「今度飯行こうぜ。それで奢ってくれよ」

にっこり。チョンさんは笑みを浮かべて言った。
素直に受け取ればいいのに、何故そんな提案をするのか全く解らない。

「外食なんてしてる場合か・・・・・・?これで参考書二冊は買えるのに」
「ちょ、お前っ・・・・・・ほんっと可愛くねえー!!」

急に叫ばれて、僕は身体をビクつかせた。
チョンさんは身体を乗り出して、顔を接近させながら僕をじっと睨んだ。

「参考書・・・・・・?必要ねえな。そういうセリフは俺に勝ってから言え」
「ひっ・・・・・・」

口の端をくいっと釣り上げると、チョンさんは僕から身を引いた。
最後まで流し目で睨まれて、思わず身震いする。

「あー、すっげやる気出た!ぜってぇ勝ーつ!」

デカい声でそう口にしながら、チョンさんは教室の外へ消えた。
僕、怒らせるようなこといつ言ったんだろう・・・・・・?
封筒を手に持ったまま、暫くつっ立っていた。









数日後、学期末考査が始まった。
テスト期間は一週間。
僕は日々勉強を怠らないので、直前になって焦ることも無い。
今回も何の問題も無く、順調に終わった・・・・・・と思っていた。
そう、僕はチョンさんの成績なんて気にも留めていなかった。
勝てる自信があったから。
最終日の翌週、順位が発表された。
掲示された順位表の前に行くと、生徒が集まり何やら騒いでいた。
偶然居合わせた友達に、僕は声をかけた。

「どうしたの?」
「チャンミン・・・・・・ヤバいぜ」
「え・・・・・・?」
「お前、チョンさんから恨みでも買ったの?」
「何言って・・・・・・」

友達が訳のわからない発言をするので、僕は首を傾げた。
近寄って、順位を確認すると・・・・・・


“四位 シム・チャンミン”

そして・・・・・・

“三位 チョン・ユンホ”


「なっ・・・・・・!!!」
「三位の座、奪われちゃったな・・・・・・」
「そんな・・・・・・有り得ない・・・・・・」

誰か、夢だと言ってくれ・・・・・・
「奇跡が起きた」「不正でもしたんじゃないか」
そんな周囲のザワめきを聞きながら、僕は青ざめたまま、暫く動けなかった。



期末考査が終われば、今度は学園祭の準備に追われる。
テスト終了の翌週から早々会議がセッティングされており、今日も一時間程参加して帰ってきた。
会議の間、順位を落としたショックのせいで殆ど抜け殻だったけど。
敗因は何だろう。何がいけなかったんだろう・・・・・・
俯きながら考え込んでいると

「ちーっす」
「っ・・・・・・」

教室の戸が引かれると同時に、声が聞こえて来た。
今、一番聞きたくない声だ。

「いやー、悪いね。三位奪っちゃって」

チョンさんは笑顔でそう言うと、僕の前の机にドカッと腰掛けた。

「こんな事って・・・・・・信じられない。一体どうやって・・・・・・?」

情けないくらい弱々しい声だったが、それでも真相を知りたくて、僕はチョンさんに問いかけた。

「親戚に予備校の講師してる人が居てさ、毎日みっちり扱いてもらったんだ」
「でも・・・・・・それだけで?」
「俺、無事進級すんのが目標だから、別に順位とか興味無かったんだよね。まあ、本気出せばこんなとこかな」

その発言には、かなりプライドを傷つけられた。
努力をして、相応の結果を得ている僕とはきっと違う。
この人には、才能的なものを感じる。
人に与えられた能力には差がある、よくあることだ。
チョンさんを恨んでも仕方無い。

「悔しいけど、僕の負けです。貴方の望みを聞きましょう」

このゲームのルールは、敗者は勝者の望みに応える、だった。
出来る範囲の事ならしよう。

「うーん。どうすっかなー・・・・・・」

考え込むチョンさんを見て、僕も考える。
何を要求されるだろう。
遅刻や居眠りを見逃せ・・・・・・これは大いに有り得るな。
あとは、飯を奢るとか・・・・・・?
金を寄越せ・・・・・・いや、それは無いな。持ってそうだし。
一人考えを巡らす僕に、チョンさんは有り得ない要求をした。
静かに、微笑みながら。

「・・・・・・委員長の、唇が欲しい」
「・・・・・・・・・・・・は?」

一瞬、聞き間違いかと思った。

「キスして」

き、聞き間違いじゃなかった・・・・・・!
混乱しながら、僕はやっとの思いで声を発した。

「な、何で・・・・・・?何でそんな事しなきゃ・・・・・・」
「分かんねえの?」
「わ、分かららない!もっと他にあるだろ?ノート貸すとか、昼飯買わせるとか・・・・・・」
「バーカ。んなこと誰にでも頼めるだろうが」
「バッ・・・・・・」

喋りかけた僕の唇に、チョンさんの人差し指が当てられた。
黙った僕をじっと見つめて、チョンさんが囁く。

「委員長・・・・・・あんただから言ってる。こんな事、あんたにしか頼まない」
「・・・・・・・・・・・・」
「まだ、分からない?」

分からない。
全く知らない外国語と同じくらい、理解出来ない。
ハテナマークを浮かべる僕を、チョンさんは呆れ顔で笑った。

「そうっとう鈍いな・・・・・・。まあ、あとで分かればいいや」

独り言を零してから、チョンさんはまた僕に向き直った。

「さ。くれよ、ご褒美」
「そ、んな・・・・・・無理、です」
「へえー。あんなに見下してた留年男に負けたうえ、約束まで放棄すんの?」
「う・・・・・・」
「男らしさに欠けるなぁ。いや、人としてどうなの?」

全て本気で言ってる訳じゃ無い。
笑ってるし、ふざけてるのも分かってた。
でも、その言葉は僕を刺激するには充分だった。
やってやろうじゃないか・・・・・・
何考えてるのか知らないけど、キスくらい何てことないだろ。
一瞬で終わるんだから。
僕は、チョンさんの座る机に手をついて距離を縮めた。
勢いに任せて、目をぎゅっと瞑ったまま顔を寄せる。
位置が微妙にズレて、鼻と唇の間あたりに、擦れる程の軽さで触れた。
直ぐに顔を離すと、フリーズしたチョンさんと目が合った。
気まずさから、即目を逸らす。

「・・・・・・これでいいんでしょ?あーもう、最悪。眼鏡ズレたし・・・・・・」

何か口にしていないと、作業していないと沈黙に耐えられない。
眼鏡を外して、前髪をかき分けながらぶつぶつ呟いた。
僕は今、顔が赤くなっていないだろうか?
ドキドキが止まず、身体中、熱くて仕方無い。
不快感で一杯なら良かったのに。
僕は被害者だぞ。

「・・・・・・眼鏡取ったとこ、初めて見た」

その呟きを聞いて、僕はチラリとチョンさんに視線を向けた。
大人びた微笑みを浮かべ、潤んだ瞳で僕を見ていた。

「他の奴の前で取るなよ、眼鏡」
「へ・・・・・・?」
「凄く、綺麗だから」

綺麗・・・・・・?
男相手に何言って・・・・・・
戸惑って、動きを止めたその瞬間。
チョンさんが、僕にキスをした。
ふたつの唇は、今度はちゃんと、ぴったり重なった。
戸惑いながらも、僕はチョンさんのそれを感じた。
柔らかく、暖かくて、少ししっとりしていた。



どうして直ぐに振り払えないんだろう。
どうして不快じゃ無いんだろう。
熱はもう下がったのに、僕、やっぱりおかしい・・・・・・










◇◇◇



日本語難しいんですが・・・・・・語彙力くださーい。
委員長、鈍いですね~
でもふたりとも学生って良いですね、爽やかで(笑)
そういえば今まで書いたことなかったな。



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