恋の方程式 2























恋の方程式・表紙






















次のテストの結果、順位が良い方が勝者。
敗者は勝者の望みを聞く。
僕は、クラスメイトの不良、チョンさんとそんな約束をした。
次のテストは、七月上旬の第一学期末考査。
テスト開始当日まで、もう一ヶ月を切った。



物理の授業で、先生が僕を指名した。

「―――シム、この問題の答えは?」
「はい・・・・・・単位時間当たりに水が与えられる運動量、Mv/t = 1/6×20/(3π) = 10/(9π) [kgm/s^2]=[N]。 反作用でスプリンクラーが受ける力のモーメント2×10/(9π) × cos15°× cos60°× 0.5 = 0.286 [Nm] となりました」
「うん。正解だ」

周囲から「さっすが天才」とか「計算マシーンだ」とか色々聞こえて来る。
別に天才でも計算マシーンでも無く、ただ人一倍勉強を頑張ってるだけだ。
そんな僕の後ろで、チョンさんは今日も居眠りしている。
突っ伏す姿を視界の隅に捉え、僕は溜息をついた。
この人、ホントに勝つ気あるのか?
あんな事を言い出したのは、ただの気まぐれだったのかも知れない。
もう忘れているのかも・・・・・・
まあいい。
いつも順位の低いチョンさんが僕に勝てる訳無いし、勝敗が見えてるゲームなんてやり甲斐に欠ける。



休み時間に入った時のことだった。
僕の席にチョンさんがやって来て、当たり前のように机の上に腰掛けた。
座るなよ、それも、親しくもないクラスメイトの机に・・・・・・
不機嫌丸出しの僕に気付いていないのか、チョンさんは笑顔で話し始めた。

「さっきの流石だなー委員長。ってか、当てられて答えらんないこと無いよな」
「別に、あのくらい・・・・・・」

そう言いながら、僕はふと疑問を感じて首を傾げた。
確か僕が指名されて解答した時、チョンさんは居眠りしていた筈じゃ・・・・・・
本当は起きていていたのか?
次の台詞にも驚かされた。

「あの問題って、まず水の噴出の速さを求める。次に水の噴出によってスプリンクラーが受ける力を求める。からのー、うでに垂直な力の成分にうでの長さをかけて、力のモーメントを求めればオーケー・・・・・・だよな?」
「ああ・・・・・・うん、そうだね」

ビックリした・・・・・・
応用問題なのに、解を導くまでの分析、途中計算も完璧だなんて。
一度は学んだ分野・・・・・・チョンさんにとっては復習だからか?
それでも、留年レベルには難しい問題の筈だ。

「よっし、合ってんな!順調順調―」

チョンさんは、上機嫌で笑いながら去っていった。
背後から、チョンさんとその友人の会話が聞こえてくる。

「ユノお前、いつの間に委員長と仲良くなったの?」
「あー、勉強教えて貰ってた」
「え?どんな風の吹き回しだよ。今更勉強に燃えたって手遅れだろぉ」
「おい!勘違いすんなよ。俺は勉強出来ないんじゃ無いの、やらないの」
「出たー、言い訳」
「じゃねって」

今迄は、勉強出来ないのでは無くしなかった?
少し、嫌な予感がした。









期末考査が一週間後に迫った、ある日の事だった。
朝から身体が怠くて、体熱感もあり、鈍い頭痛を感じていた。
体温を測ると38度台だった。
熱発の原因なら、心当たりはある。
昨日の夕方、下校途中から雨が降り出して、傘も持っておらず濡れたまま帰宅したのだ。
きっと風邪をひいてしまったのだろう。
熱があることを、両親には話さなかった。
テストが間近に迫っているのに、学校を休む訳にはいかない。
これ位なんてことないだろ。
半ば強引に、自分に言い聞かせた。



電車に乗り、学校の最寄駅まで来た。
しかし・・・・・・

「駄目だ・・・・・・だっる・・・・・・」

人ごみに揺られたからか、蒸し暑い空気のせいなのか、家を出た直後より確実に気分が悪くなっていた。
不安定な足取りで暫く歩くと、僕は道端のベンチに腰を下ろした。
腕時計の針は、八時二十分を指している。
あと三十分後に教室に居なければ遅刻だ。
何時もなら余裕で間に合うだろう。
でも、この調子じゃ無事辿り着けるかどうか解らない。
遂に心が折れ、僕はベンチにぐったりと凭れた。

「がっこに・・・・・・電話、しなきゃ」

おもむろに携帯を弄っていると、道路を挟んだ向かい側に見覚えのある姿を見つけた。

「あれは・・・・・・」

チョンさん?
茶髪の長い髪、高い背丈。目を引く外見なので、直ぐに分かる。
車が流れた瞬間、チョンさんの隣に立つ、ある人物の姿も露になった。
そこには、腰が曲がった年配の女性がひとり。
チョンさんは女性の脇下を支えながら、僕まで聞こえるような大きな声で話しかけている。

「ばあちゃん、一人で歩いちゃ駄目だって、いつも言ってんだろ?」
「悪いねぇー、また迷惑かけて」
「俺は別に良いの。それより自分のこと心配しろよ。また事故りそうになって・・・・・・」
「そうね。でも、こんな格好良いお兄ちゃんといつもデート出来て、わたしゃ幸せだわ」
「あーはーはー!まだまだ若いな、ばあちゃん」

会話から推測するに、どうやらチョンさんと女性は他人のようだ。
チョンさんと女性は、数メートル先のクリニックの前まで行くと、そこで別れた。
女性を見届けると、チョンさんはふと時計に目をやって苦笑いを浮かべた。

「まさか・・・・・・いつもあの人に、付き添って・・・・・・?」

横断歩道を急いで渡り、僕の方へ駆けて来る。
こちらに気付かないで、どうかそのまま行って欲しい。
そんな望みを見事に裏切って、チョンさんの視線は僕を捉えた。

「あっれ?委員長じゃん」
「・・・・・・どうも」
「何してんの?こんなとこで」
「なん・・・・・・でも・・・・・・」

返事ひとつするのもやっとで、思った以上に体調が悪いことに気づく。

「なんか、顔赤くない?」
「だいじょぶ、です・・・・・・」
「ホントか?」

大きな手は、何の躊躇いも無く僕の額に触れた。
不意のことに、思わずビクつく。

「あっつ!熱あんじゃん!」
「いいから・・・・・・放っと」
「あほか。まともに動けないくせに」

あほ言うな・・・・・・
残り少ない気力で、僕はチョンさんを睨んだ。

「んな顔しても無駄。家ってこっから近いの」

話すのが辛くなって、僕は黙って首を振った。

「親は?」
「二人共仕事だから、すぐには・・・・・・」
「ふーん。家に帰るか病院行くか・・・・・・だな。どうする?」

僕の前に屈んで、チョンさんが顔を覗き込んで来る。
介抱するつもりか?
いけない、断るべきだ。
首を振りながら、僕は擦れ声で呟いた。

「駄目・・・・・・遅刻、しちゃう」
「いいよ」

頑に首を振る僕を見て、チョンさんは突然叫んだ。

「あぁあーもう!!良いっつったら良いの!!つかさ、俺の気持ちも考えろよ。今にも倒れそうなお前放っておいて学校行けだと?そっちの方が気持ちわりいよ」
「っ・・・・・・・・・・・・」
「ほら、負ぶされ」

チョンさんは、僕に背中を向けて目の前に屈んだ。
情けないけど、ここまで言ってくれてる事だし、甘えても良いかな。
体感的に、もう38度以上あるような気がする。
一人で、無事に帰れる自信が無い・・・・・・
気付いたら、広い背中に手を伸ばしていた。



病院を受診するのは時間を食うので、まっすぐ帰宅する事にした。
チョンさんは学校へ電話して、自分が遅刻する旨と、僕の休みの連絡も一緒にしてくれた。
僕は完全に怠さに負けて、すっかりチョンさんの背中に身体を預けていた。
ふと良い香りが鼻を掠め、少し考え込んでから、それが何か気づく。
チョンさんの髪の匂いだ。
男にしては長めの、茶色に染まった髪の毛。
肌で感じるそれは、細くて柔らかく、少しくすぐったかった。

「いつも噛み付いてくんのに、ウソみたいに静かだな。マジでだいじょぶ?」
「・・・・・・ひとこと余計なんだけど」
「はは。だいじょぶみたいだな」

笑った拍子に揺れる背中。目を閉じながら聞く、優しい声色。
知らぬ間に、チョンさんに癒されていた。
そしておばあさんを助けている姿を思い出し、心が和む。
いやいや、騙されるな。
この人には散々悩まされて来たじゃないか。
凄く嫌いな筈だろ・・・・・・?
今僕は、熱に浮かされているせいでオカシイんだ。
そう自分に言い聞かせた。
だけど―――

「お前、いつも超頑張ってるもんな。今日くらいゆっくり休めよ」

聞こえてくる声もことばも、やっぱり優しくて・・・・・・

「・・・・・・ありがと」

そう呟きながら、僕は首筋に顔を埋めた。



素直になってしまう理由は、弱っているから。
ただ、それだけだろうか・・・・・・?









◇◇◇



チョンさん良い人そう。
ゴメンなさい!コメへんは後ほど・・・・・・
次の更新前までにはお返しします。



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2016/07/23 (Sat) 02:33 | EDIT | REPLY |   

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