係長 シムの桃色手帳 1

  18, 2016 07:31


あの要注意警報から数年―――

僕は今も、同じ職場で働き続けている。
もうすぐ三十を迎える僕は、現在係長の役職に就いている。
働くうちに先輩よりも後輩が増えて、いつの間にかここまで来てしまった。
係長と呼ばれる事には、未だに違和感を覚える。
若い頃、係長ってもっと歳を重ねてからなるイメージで、僕なんかには務まらない重役と思っていた。
それなりに頑張っているつもりだけど、歳ばかりが重なって中身は大きく変わっていない気がする。
僕は容量が良い方では無いので、仕事を熟すのには時間も気力も要る。
だけど、『仕事が出来る大人でありたい』 そんな願望が強くあったから、周りから認められるように頑張った。
今では「シムさんってクールですね」とか「格好良いですね」とか言われることが増えた。
本当は別にクールじゃ無いし、格好良い訳でも無いんだけど・・・・・・
きっとそう見せることが、少し上手くなっただけだ。
昔酔っ払った勢いで裸になって、それをネタに後輩にからかわれた事だってある。
恥ずかしい過去も、実はそんな姿の方が素に近い事も皆には秘密だ。
僕をからかったその後輩は、今は僕等の会社が所属するグループの本部で専務理事をしている。
名前はチョン・ユンホという。
前職は東方証券の幹部で、かつてその実力をライバル会社の広南に恐れられ、残酷な方法で排除されてしまった過去の持ち主だ。
ユノさんが本部に務めるようになってから、うちのグループは業績を上げ続けている。
しかし専務以上の役職に昇級することを、ユノさんは渋っている。
過去の苦い記憶があるので、周囲から注目を買うことを避けているようだ。
今でも充分目立ってると思うんだけど・・・・・・
そんなユノさんと僕は、実は恋愛関係にある。
僕が入職して五年目辺りから交際が始まり、もう三年程交際が続いている。
勿論、皆には秘密だ。









手帳をじっと睨んでいると、後ろから不意に声をかけられた。

「今月も大忙しでしたね。先輩」
「え・・・・・・?」

声の主は、主任を務める後輩のミンホだ。
手帳には会議や業務予定もろもろと、そしてところどころに『ミーティング』の文字があり、ひと月分のマスは殆ど埋まっている。
この『ミーティング』は、会社内の集まりでは無い。
僕がユノさんと会う予定のある日だ。
三年もの間、街中で食事したり待ち合わせすると、同僚の目に触れる事はどうしても避けられなかった。
言い訳が聞くように、手帳には謎の『ミーティング』が散らばっているという訳だ。

「いいなー先輩。マンツーで専務とミーティングなんて。若くして係長の秘訣って、やっぱりコレですか」
「そんな対したもんじゃ無いよ。入社当初からの付き合いだから、食事しながら情報やり取りするくらいで」
「それだけでも羨ましいですよ。僕等なんて、専務に挨拶するだけで緊張するんですから」
「そう?」

本当は、情報のやり取りなんて殆どしちゃいない。
飲んで話して、たまに何処かへ行って、たいてい・・・・・・セックスして終わる。
そんなこと、口が裂けても言えないけど。



今日はユノさんが朝会に来る日だ。
会社の部署の幹部の人間は、それに出席することになっている。
業務開始時刻が近付くと会議室に人が集まり始め、全員整列してユノさんの到着を待った。
八時半を回った時、会議室の扉からユノさんが姿を現した。
全員が声を揃えて挨拶し、ユノさんもそれに答える。

「おはようございます」
「おはよう」

互いの存在を意識するから、視線が合う頻度も多い。
勿論それは、不自然では無い程度にやる。
朝会の流れが一通り終わり、最後にユノさんがスピーチをする。
今回は全体を見ることの重要性についてだった。
真面目に聞いているつもりが、僕は知らぬ間に、動く唇をぼんやりと見つめていた。
そういえば、最後にキスしたのは何時だっけ。
お互い多忙で、空いた僅かな時間を見つけて食事へ行くことはあっても、かれこれ三週間くらい触れ合っていない。
舌が蕩けるようなキス、激しいセックスを思い出して、僕はひっそり欲情した。
馬鹿・・・・・・ちゃんと集中しないと駄目だろ。

「・・・・・・今月末から、僕は大田支店へ出張に向かいます。それを皮切りに、全支店の偵察を行う予定です。良い部分は周知と共有を、悪い所は洗い出して排除を促します。皆さんも常に、全体を見る姿勢を忘れずに」

全体の返事に、やや遅れながら僕も便乗した。
朝会が終わり人が履ける中、ユノさんが僕の横へやって来た。

「係長、おはようございます」
「どうも・・・・・・」
「僕の話、ちゃんと聞いてました?」

ぎくり。
内心狼狽えながらも、「勿論」と微笑みながら答えた。
ユノさんが、僕の首元を見ながら呟く。

「・・・・・・クールビズですか」

部署の方針で、この時期ネクタイはしなくても良い事になっている。

「はい。今月からです」

ぴらり。
ユノさんは距離を詰め、襟を指先で軽く弄りながら囁いた。

「色気が漏れてますよ・・・・・・。あまり無防備にしないで下さい」
「な、何言って・・・・・・」
「無意識に人を誘って、いけない人だなぁ」

誘ってるつもりは無いけど、久しぶりに会ったせいで、今凄くユノさんが欲しいのは確かだ。
目を細めながら薄っすらと笑われて、顔も身体も火照ってしまう。
そんないやらしい顔をしないで。
きっと頭に焼きついて、一日中仕事に集中出来なくなる。
恥ずかしさに黙り、取り合えず空いている手で髪の毛を弄る。
流れた前髪を耳にかけながら、僕はボソボソと呟いた。

「次のミーティングは・・・・・・何時ですか」

間接的ではあるけど、これは“会いたい”のメッセージだ。

「・・・・・・係長を、出張の補助役に任命しました」
「・・・・・・は?」

その言葉に、僕はぽかんと口を開けた。
「しました」って、もう決定済み?

「部長にも、既に話は通して了承を貰っています。今月最終週の一週間です。いいですね」
「でも、来週のこのタイミングで急過ぎません?」
「数日余暇があるでしょう。係長の抜けをフォロー出来ない程、貴方の部下はポンコツなんですか?」
「そういう訳じゃ・・・・・・」

ユノさんが僕の手首をぐっと引き寄せ、距離を更に詰める。

「仕事じゃ無く俺を選べよ、チャンミン・・・・・・」

低い声でそう命じられて、僕はコクコクと頷いた。
男らしい瞳、突然のタメ口。
もう、その顔、喋り、全てが好き過ぎる・・・・・・
僕は今目がハートになっていないだろうか。心配だ。
つまりこの出張は、半分仕事で、半分は僕とユノさんのデートのようなものだ。
二人共仕事に追われて忙しいのだから、仕事に便乗して少し遊ぶのも仕方無い・・・・・・よな。
後ろめたさを押し込めて、僕は自分に言い聞かせた。

こうして、僕の手帳に新しい予定が加わった。
出張という名の、ユノさんとのプチ国内旅行だ。
ああ・・・・・・
仕事そっちのけであんなこと、こんなこと考えてる僕の頭の中なんて、可愛い後輩には絶対見せられない。









To be continue



◇◇◇



出張といいながらラブラブ旅行。
幹部の権限。問題にならない程度にね~



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