そのオトコ、要注意 4



※苦情無し。






















そのオトコ、要注意・表紙


















僕は暫し放心状態だったが、何とか気を持ち直してチョンさんを追いかけた。
携帯を見せて貰おう。
拒まれたら、奪ってでも確かめないと!
僕はチョンさんのブースまで行くと、声をかけた。

「携帯見せてください!さっきの話が、ホントなら・・・・・・」

チョンさんは、鞄に書類を詰め込んで外出の準備をしていた。
今日は本部の会議へ同行する予定なので、僕と行動する時間は殆ど無い。
忙しなく準備しながら、チョンさんは答えた。

「構いませんよ。今は難しいので、帰って来てからでもいいですか?十九時には戻る予定です」
「え・・・・・・?あ、はい」
「じゃあ、行って来ます」

そう言い残して、チョンさんはさっさとフロアを出て行ってしまった。
あっさりと承諾されて、逆に気が抜けてしまう。
拒否るか、渋るとばかり思っていたのに。
取り敢えず、これであの日の真相を知ることが出来る。
ホッとする反面、怖くもある。
チョンさんが素直に携帯のデータを見せるということは・・・・・・
僕から誘ったという発言は、きっとウソでは無い。
見るからには、覚悟を決めなければならない。
何時も通り働いている風を装いながら、終業までろくに業務に集中出来なかった。









十九時半頃。
書類整理をしていると、隣のブースにチョンさんが戻って来た。

「・・・・・・お帰りなさい」
「どうも。お疲れさまです」
「あの・・・・・・」

僕が切り出すより前に、チョンさんが言った。

「場所、移動しません?ここじゃ微妙でしょ」
「ああ・・・・・・はい」

チョンさんと僕は、最上階の展望台へ移動した。
就業時間を過ぎているため、広いフロアには僕たち二人だけだ。
窓に寄りかかり、チョンさんは言った。

「本題に入る前に、いいですか?」
「・・・・・・何ですか」

チョンさんは、取り出した手帳に視線を落とし、神妙な顔で言った。

「移動中、明日の客リストを確認しましたが・・・・・・ST-LABOは、止めたほうが良いと思います」
「何故ですか・・・・・・?」

これまでの経験と知識を駆使して、自分なりに頑張って作ったリストだ。
経験豊富な立場から見て欠陥があったのだろうが、止める理由が気になる。
チョンさんは暫く黙ってから、硬い表情をして言った。

「・・・・・・上に立った奴にしか、分からないこともあります」

その発言に、つきんと心が痛む。
なんか、泣きたい気分だ。
一晩の過ちをネタにからかわれて、仕事でも、指導する立場なのに力不足で・・・・・・
僕って一体、何のためにチョンさんと仕事してるんだろう。

「そうですよね・・・・・・。貴方は・・・・・・僕なんかとは、もとから違う次元に居ましたし。ダメ出しされるのも・・・・・・からかわれるのも、仕方無いですよね?我慢、すべきですよね?」

駄目だ、声が震える。
これ以上自虐したら、確実に泣く・・・・・・
俯いていると、チョンさんがゆっくりと話し始めた。

「僕が東方に居た頃、社長婦人とデキてたって話、聞いたでしょ」
「・・・・・・はい」
「夫妻は、顧客としてほぼ定着していました。僕も出来るだけ信用を買いたかった。ある日、彼女が体の傷を見せ、相談を持ちかけて来たんです。旦那さまから暴力を受けていると。証拠写真を取りたいので手伝って欲しいと言われました。迷いましたが、引き受けることに決めました。それで僕はまんまとハメられたんです。全く名演技でした」
「そんな・・・・・・」
「夫妻は東方のライバル、広南証券が用意したダミーでした。僕を幹部から取り除きたかったようです。その事実は、今も明かされないままですが・・・・・・。ST-LABOは、ダミー役だった夫妻が経営する姉妹会社のひとつです。関わらない方が良い。貴方のためにも」

あの噂の裏に、そんな真相があったなんて。
打ち明ける最中、チョンさんは、絶望を噛み殺したような顔をしていた。
確かに平社員とは縁が無い、上層部の人間だからこそ経験した恐ろしい話だ。

「・・・・・・話して下さりありがとうございます。ST-LABOは、候補から外します」

僕には想像しがたいけど、相当辛かっただろうな・・・・・・
チョンさんは携帯を取り出して操作すると、そのまま僕に差し出した。

「さあ、これがデータです。どうぞご覧になってください」

携帯を受け取ると、動画の再生画面になっていてギョッとした。
生唾を飲み込んで、おそるおそる再生を押す。
ああ、一体ここに何が映っているのやら・・・・・・
読み込みが完了するまでが、やけに長く感じられた。
そしてついに、動画の再生が始まった。
そこに映っていたのは・・・・・・



『―――シム・チャンミン、脱ぎまーす!』

真っ赤になった僕が、へらへらと破顔しながら手を挙げる。
そして、スーツとシャツを雑に脱ぎ散らかし始めた。

『・・・・・・大丈夫ですか?いつも酔うとこんな風?』
『え?何がですか?』
『自覚が無いんですね・・・・・・。明日、確実に記憶飛んでますよ』

呆れたような、チョンさんの呟きが聞こえる。
パンツ一丁になった僕は、小走りでベッドへダイブして布団へ潜り込んだ。

『チョンさんチョンさん、一緒に寝ましょう!』 
『え?』
『一緒に寝たほうがきっと暖かいですよ!僕、体温高いんです。人間ホッカイロ!はは!』

そう叫びながら、ベッドの上に寝たまま飛び跳ねている。
ハ、ハイテンション過ぎる・・・・・・
これ、本当に僕?同じ顔をした、違う人にしか見えない。
というか、酔い過ぎるとこうなるなんて全く知らなかった。

『んじゃ、遠慮なく・・・・・・』

チョンさんが呟く声が聞こえ、画面は段々とベッドへ近付き、そこで映像は途切れた。
呆然とする僕を見て、チョンさんがクスッと笑いを漏らす。

「それがあの夜の全てです。貴方のことは、お言葉に甘えてホッカイロにさせて頂きました」
「じ、じゃあ・・・・・・その先は・・・・・・」
「何も無かったですよ。抱き合って眠っただけで」
「でも、チョンさんも朝、何も着てなかったですよね・・・・・・」
「もともと、寝る時は下着だけなんです。僕も体温が高いから」
「そう、ですか・・・・・・」

チョンさんは、穏やかな口調で言った。

「酔い過ぎたご自分の姿・・・・・・ちゃんと覚えたなら、どうぞ消してください」
「・・・・・・・・・・・・」

僕は、画面を操作してデータを削除した。
気のせいだろうか。
チョンさんから、今までの怖いオーラが消えている気がする。
静かに微笑みながら、チョンさんは言った。

「酔っている無防備な貴方を見て・・・・・・婦人にハメられた自分を思い出しました。このままでは、いつか僕よりも酷い目に合うだろう。そう確信しました」
「う・・・・・・」
「社会には様々な人間が居るし、罠も数え切れない程ある。貴方は元々の人柄から、苦労なくコミュニケーションが取れるようですが、その反面つけ込まれる危険性も高い。もう・・・・・・そんな無防備は駄目ですよ」
「はい・・・・・・スミマセン・・・・・・」
「怖い目に合って、少しは勉強になりましたか?」
「だいぶ・・・・・・」

チョンさんが、笑みを深くする。
初めて会った時と同じ、紳士的な笑みに見える。
もしかして・・・・・・

「今迄怖かったの・・・・・・全部、演技ですか?」

チョンさんは、口に手を当てながらクスクス笑った。

「まるで、俳優になった気分でした」

全身の力が抜けて、僕はへなへなと、そばにあったベンチへ座り込んだ。

「よ、良かったぁー・・・・・・!もうホント怖すぎて、どうにかなりそうだったんですよ」
「すみません」

やっとリラックスモードになった僕に、チョンさんは・・・・・・

「学習させる為とは言え、随分怖い思いをさせました。好きな人を苛めたくなるの・・・・・・僕の悪い癖だな」

そう言って、さらりと爆弾を落とした。
ん?
なんか今、告白された?

「実は、貴方の寝顔も一枚だけ撮ったんですが・・・・・・それは残しておいても良いですか?」
「ええっ?」

動揺に、また動揺が重なる。
ちょっと待ってくれ。

「今言ったす、好きな人って・・・・・・寝顔の写真取っておきたいとかも・・・・・・そういう意味の“好き”・・・・・・ですか?」

チョンさんは、一時の迷いも無く簡単に頷いた。

「ええ、勿論。あの夜も・・・・・・本当は人間ホッカイロじゃなくて、違う事で熱くなりたかったんですが・・・・・・ぐっと堪えました」
「ひぇっ」
「僕って、偉いと思いません?」

告白がストレート過ぎる・・・・・・
どんな反応をすれば良いか分からず、狼狽えるばかりだ。
ただ、顔が燃えるように熱くて・・・・・・確かなのは、僕は今、告白されて嫌じゃないということ。
僕は、チョンさんの気持ちに返事すべきか?
直接、交際を求められてはいないけど。

「め、迷惑かけてばかりで、すみません・・・・・・」

そう言って謝ることしか出来なかった。

「いいえ。貴方がこれからも、元気で明るく働ければそれが一番です」

チョンさんは、寂しそうに笑って続けた。

「僕はもうすぐ、此処から居なくなります」
「え・・・・・・?」
「今日の会議で、本部へ移動することが決まりました」

そんな・・・・・・
まだ出会って間もないのに。
話したいことも沢山ある・・・・・・気がするし。
実力のある人だから、本部から呼ばれるのは仕方の無いことだけど。

「先輩・・・・・・短い間でしたが、ありがとうございました。」

チョンさんが、僕に向かって丁寧に頭を下げる。
行かないで欲しい。もっと話して、貴方の事を知りたい。
そんなこと言えない。
気持ちがはっきりしない、この状態で。



でも―――
会えなくなると分かって、凄く寂しい僕はきっと・・・・・・
貴方に、惹かれているんだと思う。









END



◇◇◇



黒ンホさんは演技・・・・・・だったのか?(笑)
作中のチャンミンはそう解釈したようです。
実際どうなのかは、皆さんのご想像にお任せしま~す



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2016/05/08 (Sun) 22:39 | EDIT | REPLY |   

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