そのオトコ、要注意 2


















そのオトコ、要注意・表紙


















チョンさんが入職してから数日。
僕は毎日、チョンさんを指導しながら業務に励んでいた。
見込み客リストの作成、電話営業、外回り・・・・・・どんな時も、傍らにチョンさんが居る。
指導する立場なのに、僕は内心びびっていた。
チョンさんは東方証券の幹部だった・・・・・・ということはきっと、社員の指導経験もあるに違い無い。
僕の仕事ぶりが、彼を呆れさせたらどうしようと不安だった。
けどチョンさんは、新人と全く同じ姿勢で僕の見学について、分からないことは素直に質問してくれる。
そして、理解するのも覚えるのも早い。流石だ。
きっと“仕事が出来る”って、こういう事を言うんだ。
自分のプライドや立場にとらわれず、環境に臨機応変に対応出来る人。
一体どんな理由で東方証券を追われたのか、とんと検討がつかない。
今のところは・・・・・・






十五時過ぎ。
明日の収益目標と客リストを課長へ提出後、僕はチョンさんを連れて外周りへ出かけた。
僕は助手席に座り、チョンさんが車を運転してくれる。
始めの頃は「僕が運転します!」と粘ったのだが、「後輩の役目でしょう、運転は」と笑顔で断られ続け、今は結局任せてしまっている。
チョンさんがハンドルを切った拍子に、後ろに積んでいた荷物が崩れた。
訪問先でよく贈り物を貰うので、後部座席はいつも荷物置きになる。
会社からは新商品のサンプルや売れ残りを、一般世帯からは菓子や野菜などを貰う。
本当は受け取ってはいけないのだが、断ると皆寂しがるのでこっそり貰うようにしている。

「凄いなぁ、シムさん」

荷物をミラー越しに見て、チョンさんが言った。

「皆さんが優しいだけですよ」
「そうかな。彼ら、他の奴にも同じことすると思います?」
「え・・・・・・?」

どういう意味だろう・・・・・・

「外も中も可愛いと、得ですよね」

チョンさんは、ハンドルを操作しながらチラリと視線を寄越した。
微笑まれた途端、顔が一気に火照るのが分かった。

「無自覚でしょうけど、それ、シムさんの大きな武器だと思いますよ」
「そ、そんなこと・・・・・・」
「あるんですよ。自分の事って案外分かんないと思うけど・・・・・・もっと自信持って下さい」
「・・・・・・はい、ありがとうございます」

狼狽える僕を、チョンさんは笑顔で見守っている。
さらりと褒めちゃうのが格好良い、大人の余裕を感じる。
赤い頬をフニフニ揉みながら、僕は俯いた。
ああ、こんな動揺して恥ずかしい・・・・・・
やっぱり違和感だ。
僕が、こんな格好良い人の指導役なんて。






営業先を、徒歩で移動していた時の事だ。

「あれ?シムじゃん!」

元うちの社員だった男に出会した。
スーツを着ているので、同じく営業中なのだろう。
二年職歴が上の彼には、よく指導された。
正直、あまり良い思い出は無い。
彼のキツい物言いに沢山傷付いたし、からかわれたり、嫌味を言われた記憶ばかりだ。
新人の頃、僕は本当に何も出来なかったから、仕方無いんだけど・・・・・・
彼は手に持った紙の束を、得意げな顔で見せてきた。

「今日の成果はこんくらいよ。お前は?頑張ってるか」
「はい。ぼちぼち・・・・・・」

彼は、チョンさんに向かって頭を下げた。

「どうも、以前シムの上司だったハンです。人事部の方ですよね?シムがお世話になってます」

勢いがある・・・・・・というか、やや一方的な彼の挨拶に、チョンさんはただ小さく笑い、頭を下げた。

「お前って、マイペースっつうかトロいっつうか・・・・・・よく件数足りなくて、皆の前で課長に怒鳴られてたよなぁ。それでよくやってるよ。偉い偉い」
「はあ・・・・・・」
「俺はさ、今の職場でだいぶ出世出来たって感じかな」

心のシラけ具合が、顔に出ていないか心配だ。
もう今は、イラつきさえしなくなった。
件数が足りなかったのは、入職仕立ての頃の話だ。普通誰だってそうだろう。
それに、課長は僕を怒鳴ってなどいない。
僕の記憶では、「来月は頑張れ」と笑って言ってくれた、が正しい
黙り込む僕に、それまで無口だったチョンさんが声をかけた。

「シム先輩、そろそろ行かないと」
「え・・・・・・?ああ、うん」

“先輩”というワードを聞いて、彼が以外そうな顔をする。
チョンさんは、時計に目をやりながら続けた。

「16時から明洞輸送と手張りでしょ?その後はロワーズhotelで予想会の講師、夜はT株式の社長と食事・・・・・・もたもたしてられませんよ」
「え・・・・・・?」

チョンさんが、嘘の内容ばかり口にするので驚いた。
それが自然過ぎて、一瞬本当の事かと、僕の把握ミスかと思ってしまった。

「行きますよ、先輩」
「うん」

チョンさんに背中を押され、僕はその場を後にした。
去り際、彼は「マジかよ・・・・・・」と呟いて、気不味そうにしていた。
悔しがっているようにも見えた。
嘘の内容でも、彼に一発食らわすことが出来てスッキリした。
彼は僕が思っていた以上に、ストレス要因だったようだ。



暫く歩いて彼が見えなくなると、僕は言った。

「明洞輸送なんて、まだ相手に出来ないです」
「・・・・・・・・・・・・」
「予想会の講師なんておっかないし」
「・・・・・・・・・・・・」
「T株式の社長と食事って・・・・・・もう、何がなんだか・・・・・・」

最後のほうは、笑っている自覚があった。
それまで黙って聞いていたチョンさんも、息を吹き出して笑った。

「傍で聞いてたら、すっげー頭にきて・・・・・気付いたら嘘言ってた。ごめん!」

ハハッと声をあげて笑う。
あ・・・・・・初めてタメ口きいてくれた。
チョンさんの、素の一面顔が見れた気がして嬉しくなる。
そして、人懐っこい笑顔にも若干きゅんとする。
これっておかしい?セーフだよね。

「ありがとうございます。助かりました」
「いや・・・・・・俺が勝手にやったことだから、迷惑でなきゃ良いけど」
「全く」

二人笑い合っていると、何だか楽しい。
その日。
退勤したあと、僕とチョンさんは二人で飲みに出かけた。






お酒は好きだけど、そんなに強い方じゃない。でも沢山飲んだ。
明日は休日だから、酒の影響を気にする必要は無い。
一週間を終えた開放感もあるが、一番は・・・・・・
昼間の件で、チョンさんと少し打ち解けられたのが嬉しかった。
一番傍にいながら、手の届かない場所に居る人と思っていたから。



グラスを空にすると、僕はカウンターテーブルにうつ伏せた。

「あぁ・・・・・・飲みすぎた、かも・・・・・・」
「そうみたいですね」

チョンさんは、僕を横目で見てクスッと笑った。
また、敬語に戻っちゃったな・・・・・・
僕は、チョンさんのスーツの袖をくい、と引っ張った。
チョンさんが、少し驚いた顔をする。

「タメ口で・・・・・・いいですから」
「え?」
「会社では、敬語がいいかも知れないけど・・・・・・こういう時は遠慮しないで・・・・・・」

チョンさんが、頬杖をつきながら僕をじっと見つめる。

「酒に酔うと甘えるタイプですか?」
「え・・・・・・?何時もと同じですよ」
「成程。自覚が無いんですね」

チョンさんの言葉を聞いても、ハテナしか浮かばない。
目にかかった僕の前髪を、チョンさんはすっと掬って耳にかけた。
肌を掠める指がくすぐったい。
肩を竦めながら、僕は顔を緩めた。

「・・・・・・自分が、どんな風に他人の目に映ってるか、考えた事ありますか」
「ありますよぉ。僕は平凡で、つまらない男です」

へらへら笑ってそう言うと、チョンさんは溜息をついた。

「全くズレてる・・・・・」

チョンさんが、静かな声色で言った。

「同僚だったあの男・・・・・・何故シムさんにちょっかいを出すと思います?」
「僕を嫌いだからでしょ」
「本当に嫌いなら、話そうとすらしない」
「そうかな・・・・・・まあ、言われてみればそうか・・・・・・」
「きっと、苛めたい、困る顔が見たい・・・・・・そんな欲求があるんです。狙われてるかも知れないから、注意した方が良い」
「んな、大げさな・・・・・・」

笑って流そうとしたが、チョンさんは真顔のままで、ぼそりとこう言った。

「大げさじゃありません。彼の気持ちが・・・・・・僕にはよく見える。きっと、同じ欲心の持ち主なんでしょう・・・・・・」
「何言って・・・・・・」

チョンさんの、意味深な発言が気なる。
だいぶぼうっとしているせいで、一つ一つが繋がり、理解するまで時間を要す。
駄目だ・・・・・・
もっと話したいけど、すごく眠いしダルい。
今日は飲みすぎた。

「一度痛い目に合わないと、分からない・・・・・・ですか」

眠りに落ちる寸前。
チョンさんの呟きを聞いた。
感情を交えない口調、表情・・・・・・
あれ?なんか、チョンさんが違う人に見える。
そこで僕は、眠りの世界へすとん、と落ちてしまった。












うっすらと、意識が浮上して・・・・・・
目を閉じたまま、心地よい温度を感じる。
暖かくて気持ちいい。いい匂いがする。
僕は、すぐ傍にあるそれにぎゅっと抱きついた。
暫くすると頭も覚醒してきて、ふと疑問が浮かんだ。
僕今、何処にいるんだっけ。
何を触ってるんだろう?
目を開けて、まず初めにそこに映ったのは・・・・・・

「チョン・・・・・・さん・・・・・・?」

目を閉じて、静かに眠っている。
どこのホテルか知らないが、ある一室の・・・・・・ベッドの中だ。
しかもチョンさんは、上半身裸で何も纏っていない。
これって、まさか・・・・・・
恐る恐る、自分の身体へも視線を移すと・・・・・・
やっぱり服を着ていない!下着は着けてるけど、後は何も着てない!
これって、どういうシチュエーション!?やっぱり、そういうシチュエーション!?

「え?ちょっと待って、待ってよ・・・・・・」

チョンさんから身を引いて、僕は頭を抱えた。
するとチョンさんが「うーん」と唸り声を上げた。
うっすらと目を開いて、前髪をかき上げる。
切れ長の瞳に捉えられた途端、ドキッと心臓が跳ねた。

「んー・・・・・・もう朝かぁ」

チョンさんは、呑気にそう呟いた。

「寒いから離れるなよ・・・・・・」

強い力で身体を引き寄せられ、僕はまた、チョンさんの腕の中へ戻った。

「わーわーわーっ!!!」

動揺して、思わず大声で叫ぶ。
何が起きてるんだ?恋人扱い?展開に全く付いていけない!!

「でかい声出すなって」
「だ、だって・・・・・・」

僕は身を捩って腕から抜け出すと、チョンさんに向かって叫んだ。

「ちょっと待って下さい!今何が起きてっ・・・・・・も、訳分かんないです!」

チョンさんは、キョトンとしてから、ぽつりとこう言った。

「なんだ。記憶、飛んじゃったのか」
「っ・・・・・・」
「まあ、相当酔ってたしなぁ」

飲み屋で話した所までは覚えてる。
そして眠りについた。その後のことは綺麗さっぱり記憶に無い。

「シャワー、先に借りるよ」

ベッドから抜け出し、部屋を出ようとするチョンさんに問いかける。

「ちょっと待ってください!」
「んー?」
「あの・・・・・・僕たちって、その・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「ヤッ・・・・・・っちゃった・・・・・・んで、しょうか?」

暫くの沈黙のあと、チョンさんは・・・・・・

「ふっ・・・・・・・・・くくく、はははっ・・・・・・」

肩を震わせながら、声を出して笑った。

「あーおっかし・・・・・・。お前って、ほんと面白れぇ」
「えぇ・・・・・・?」
「自分の事は自分で管理しな。そんなに気になんなら、尻に指でも突っ込めば?何か出てくるかも」
「・・・・・・・・・・・・!!!」

開いた口が塞がらない。
記憶を無くした僕だって悪い。でも・・・・・・
今目の前に居るのは本当にチョンさんか!?
物言い、態度全てが、昨日までとは全くの別人なんですけど!!

「んじゃ、おっ先ー」

去り際。僕をチラリと見て、チョンさんは口をつり上げた。
不信感、恐怖、怒り・・・・・・今は、マイナスな感情しか湧いて来ない。
今度は確実に、頭の中で警報が発令される。

そのオトコ、要注意。
そのオトコ、要注意・・・・・・!!!









END



◇◇◇



ブラックユンホふぅ~(^O^)
あ、このお話、シムも証券会社の営業をしてる、という設定です。
はたして二人はヤっちゃったのか~?
いつか分かります、はは。

ああ、創作以外のトン活したい。
オフ会とか企画してるブロガーさんが羨ましい。
行ってみたい、というか・・・・・・ほんのちょっと開きたい、というか。
まあ、私の統括能力では企画出来ませんけどね!話せなそうで怖いですし!
みなさん、GW楽しんでください。
NBは出勤してきますよー



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3 Comments

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2016/05/07 (Sat) 17:32 | EDIT | REPLY |   

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2016/05/04 (Wed) 23:00 | EDIT | REPLY |   

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2016/05/04 (Wed) 18:45 | EDIT | REPLY |   

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