そのオトコ、要注意

  01, 2016 07:39




“笑顔の裏に隠された、闇に気を付けなさい”


職場の飲み会のあと、洒落でやった街角の占いで、そんな物騒な助言を受けた。
占いとか運勢はあまり信じない方だ。
だから僕は、その発言を特段気にする事は無かった。
あの日、あの瞬間を迎えるまでは・・・・・・



人生に起こるひとつひとつの事象は、未来に繋がってる、先に起こる事を暗示してる。
昔、じいちゃんにそう言い聞かされたっけ。
興味無くてただ聞き流してたけど、今になって成程と思うよ。じいちゃん・・・・・・






















そのオトコ、要注意・表紙

























話は一ヶ月前に遡る。






ある朝。
出勤途中、電車に揺られていた時のことだ。
停車したタイミングで、目の前に一人の女性がやって来た。
車内は混み合っていて、女性は座れずに吊革に捕まった。
お腹が少し出ている。
僕は、それをちらちら見ながら悩んだ。
妊娠中?
でもそう決め付けるには、膨らみが足りないような・・・・・・
妊娠初期?
席、譲るべきかな。
でももし妊娠中じゃなかったら、不機嫌にさせるだけだしどうしよう。
妊娠中?妊娠中なのか・・・・・・?
葛藤していると、ある男性が女性に声をかけた。

「良かったら、席どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「いいえ?」

男性は、小さく礼をする女性にニッコリ微笑みかけた。
女性は席につくと、少し出ているお腹を大事そうに撫でた。
に、妊娠中だったか・・・・・・!!
ぐだぐだ悩まずに、声をかければ良かった。
後悔していると、先程の男性が女性が立っていたスペースへ移動した。僕の、真ん前に。
男性を見上げた拍子に、パチリと目が合ってしまった。
咄嗟に目を逸らした僕に、男性が問いかけた。

「ここ、来ても大丈夫でした?」
「ああはい!勿論です」
「どうも」

ふっと笑って、礼をする。
整った顔の造りのためクールそうに見えるけど、笑うと凄く愛嬌がある。
素敵な笑顔だな・・・・・・
きっと、人に声をかけたり気を遣ったり、そういう事を負担を感じず自然に出来るんだろうな。
取分け何かアピールポイントが有る訳じゃない。そんな凡人の自覚がある僕は、見た目も中身もかっこよさが滲み出ている男性を、羨ましく思ったのだった。









ある夜。
帰宅途中、電車に揺られていた時のことだ。
スーツ姿のおじさんが、ヒクヒク言いながら車内をフラついて歩いていた。
完全に酔っている。
ある母親が連れた小さな子供が、ちらりとおじさんを見た時・・・・・

「おい、なーに見てんだ」
「っ・・・・・・」
「俺がそんなに珍しいか?ああ?」

おじさんは、子供を睨みながら絡み始めた。
ヤバイ、雲行きが・・・・・・
母親が子供を抱き寄せ、子供も母親の腕にすがる。
その光景を見ても、おじさんは詰るのを辞めなかった。

「どいつもこいつも、俺を邪魔物扱いしやがって!ムカつくんだよ!」

おじさん、会社で辛いことでもあったのかなぁ。
それにしても、いい大人が回りに迷惑かけちゃ駄目だろ。
手を出さなくても、暴言を吐き続けるのは親子や回りの人に大きなストレスだ。
僕が止めに入るべきかな・・・・・・
ちょっと怖いけど、誰もいかないなら僕が・・・・・・
また、うだうだ尻込みしていると

「その辺にしましょう」

ある一人の男性が、おじさんの肩を叩いた。
その男性の顔を見て、僕は思わず「あ・・・・・・」と漏らした。
男性は数日前、妊婦さんに席を譲ったあの人だった。

「何だお前はぁ・・・・・・透かした顔しやがって!」

おじさんが拳を振り上げた。
あ、危ない!
僕だけじゃなく、回りの乗客も息をのんた。
男性は、片手でおじさんの腕をあっさりと制止した。
平静な顔を保ったまま、静かな声色で言い聞かせる。

「お父さん・・・・・・・暴力は駄目です」

おじさんが、たらりと汗を流した。

「わ、分かったから離せ!痛いだろうがっ」
「ああ、これは失礼」

相当強い力で腕を掴んでいたようだ。
男性がおじさんから手を引いた時、丁度電車が停車した。

「お父さん、何ならここで飲んでいきましょうか?」
「いいから構うなっ」
「そう仰らず。僕が朝まで相手しますよ、ね」
「ちょ・・・・・・こら、押すな!」

男性は、強引におじさんを電車の外に連れ去った。
車内から消える間際、男性は親子に向かって視線を投げ、笑みを浮かべた。
もう大丈夫とでも言うように。
ドアが閉まったあと・・・・・・
もうすでに男性は居なかったが、車内にぱちぱちと拍手が沸き起こった。
僕も、それにつられて拍手した。
何て言うかあの人は・・・・・・何処までも完璧な男だな!
まるでヒーローみたいだ。
最近よく見るが、この辺に住んでいるのだろうか。
二度会っただけだが、男性は僕の中にとても深い印象を残していた。



翌日――・・・
その日は、僕が務める部署に新人がやって来ることになっていた。
これまでに社会経験があると聞いていた。
新年度では無いので、中途採用だ。
部長を前に、部署の全員がスタンバイする。
ドアの向こうには新人が居る。
部長が、コホンと咳を鳴らして言った。

「では、どうぞ」

ドアがカチャリと開かれる。
まず目に入ったのは、スラリと伸びた脚。
上に視線をスライドさせると・・・・・・

「あ!」

僕は思わず叫んでしまった。
その新人と言うのは、妊婦さんに席を譲り、そして酔っ払ったおじさんから親子を救った、あの男性だったからだ。

「どうしたシム」

部長が、不思議そうに首を傾げる。

「いえ!何でもありません・・・・・・」
「そうか。なら、自己紹介して貰おうかな」

男性は、爽やかな笑顔を浮かべて言った。

「今日から御一緒に働かせて頂きます、チョン・ユンホです。不慣れで至らぬ点もあると思いますが、頑張りますので御指導の程、宜しくお願いします」

ぱちぱちと拍手が起こる。
一部からは、格好いいとか爽やかだとか、女性社員の興奮している声が聞こえる。
まあ、そうなるよね。
男から見ても、チョンさんは格好いいもん。
それにしても、まさかこの人と同じ職場で働くことになるとは・・・・・・
驚きが抜け切らないうちに、部長は僕に更なる衝撃を与えた。

「チョンさんの主な指導は、シムに頼もうと思う」
「ええっ?僕ですか!?」

な、何故僕が・・・・・・

「宜しくお願いします」

チョンさんが、僕に向かって頭を下げる。
動揺して何も言えないでいる内に、最早決定のようになってしまった。
部長の命令には、基本応じる規則だから仕方無い。
でも何で、何で僕なんだ・・・・・・
こんな完璧な人に、指導できる自信なんて無い。









チョンさんの履歴書を見て驚いた。
前職は東方証券の社員。それも幹部として働いていたらしい。
東方証券と言えば、国内最大手の大きなグループだ。
働いている人間は皆、高学歴の持ち主、そして超一流と見なされる。
こんな中小企業に来た意味が分からないし、益々指導するなんて気が引ける。
さらに、チョンさんは僕よりずっと歳上だ。
オフィスで部長と二人きりになったタイミングで、僕は問いかけた。

「部長・・・・・・チョンさんの指導役、本当に僕で大丈夫でしょうか?」
「何で?」
「・・・・・・指導するには、力不足な気がして」
「彼の経歴を知ったから?」
「・・・・・・・・・・・・」
「彼にどんな財産があっても、新しい職場では新人と同じだ。それに、指導する方も色々学べるよ」
「はい・・・・・・。頑張ります」
「うん」

僕はその流れで、特に深く考えず発言した。

「でも・・・・・・何であんな凄い人がうちに来たんですか?」

部長は暫く黙ってから、小さく笑ってこう言った。

「まあ・・・・・・知らなくていい事もあるから」

な、なにソレッ?

「ど、どういうことですか・・・・・・?」
「ん?」
「言えないようなこと、ですか?まさか・・・・・・何か問題起こした・・・・・・とか?」

部長は、僕の質問には答えずにニッコリ笑った。

「ま、とりあえず頑張れ!!」
「ええっ!は、激しく不安なんですが!」

今の部長の態度、チョンさんは難有りだって、肯定しているようなものじゃないか。
丁度その時、オフィスへチョンさんが入って来た。

「部長、シムさん、どうもお疲れ様です」
「ど、とうも・・・・・・」

躊躇いがちに頭を下げる僕に、チョンさんは以外な台詞を言った。

「僕ら、会うの三度目ですよね」
「え・・・・・・?」
「前に会ってるじゃないですか。出勤の時に一回、帰宅途中に一回。もしかして、忘れちゃいました?」
「い、いえ!ちゃんと覚えてます」

まともに言葉も交わさなかったのに、僕のこと認識して、覚えてくれてたんだ・・・・・・
なんか、嬉しいな。

「先輩、御指導宜しくお願いします」
「や、やだな!先輩なんて・・・・・・」

差し出された手を、僕はぎこちなく握った。
チョンさんが、手に力を込めてニッコリと笑う。



ああ、気のせいだろうか。
チョンさんの笑顔が、ニセ物に見えるのは・・・・・・
頭の中で、警報が鳴っている。

“そのオトコ、要注意”。









END



◇◇◇



突発的に書いたお話。
リーマンほみん!
続きがちゃんと浮かんだら連載になるかも~(^_^)
連日、拍手沢山ありがとうございます!
涙が出るほど嬉しい((T_T))
しかしカラダノキオクが一位になっててガクブルでした。
チキン故一位とか怯えちゃうわ・・・・・・
コメントは今日中にお返し出来たらと思います。
言葉のリズム感がどうしても気になって
そのオトコ、注意せよ→そのオトコ、要注意 に変えました~
そんな違いは無いと思いますが、細かくてすみません・・・



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