愛することは、君が教えてくれた 20

  24, 2016 18:55




































一時退院から二日後、ユノは再び入院した。
その前夜も、俺達はセックスをした。
この先暫く出来ないと思うと、行為に及ばずには居られなかったのだ。
勿論、俺たちがシたのは感情が伴うセックスだ。
ユノと別れ病院を去る瞬間は、切なさを覚えつつ心は穏やかだった。
身体を重ねてから、何だか絆が深くなったように感じる。
離れていても傍に居るような、そんな安心感に満たされていた。









毎日が薄く重なるように、穏やかに、平和に過ぎてゆく。
ユノの症状は次第に軽快し、悪夢を見ることは殆ど無くなった。
夢は別に、父親の呪縛霊が見せていた訳じゃない。
ユノ自身が己に向けた、罪の意識が原因だった。
会う度に、ユノが明るさを取り戻しているのが分かって嬉しい。
一週間に二日、病院へ面会へ行くのが俺の楽しみであり癒しだ。
これまで孤立気味だった会社でも、周りの奴らとまあまあ仲良くやっている。
まさか、家族や親しい友達以外と、笑って話せる日が来るとは思ていなかった。
ユノを好きになって、俺は他人に優しくすることを覚えたのかも知れない。
まあ・・・・・・それでも、心の中で毒付いたり人を小馬鹿にすることはしょっちゅうだ。
ひねくれたこの性格が、そう簡単に直る訳ない。
だけど、ユノが笑ってそんな俺を好きと言うから、ま、いっかと思う。
今日も面会に来た俺に、ユノがハンドクリームを塗ってくれる。

「よくなったね、手荒れ」
「ん」

俺の強迫観念も、少しずつ軽減している。
今までは、周りの目を気にしたり、全てに完全を求めてばかりいた。
それを引き起こしていたのは、自己不信だったんじゃないだろうか。
ユノを必要とし、また必要とされることで、俺は前よりも自信が持てるようになった。
イトゥクさんが言った通り、主症状にとらわれても解決には繋がらない。
症状を引き起こしている原因を突き止めなければ、意味が無いと実感した。
俺もユノも、互いの存在が治療に繋がったと言える。

「大事だよなぁ。心の分析」
「そうだね」
「俺ら、相性が良かったんだな」
「そうかもね?」

ユノは微笑みながら、俺の手を優しく撫で続ける。
ひとつだけ、残念なことがある。
もし洗浄脅迫が治ったら、俺は・・・・・・

「大丈夫。これからも塗ってあげるから」

ユノの発言に驚いた。
まだ何も言って無いのに。

「・・・・・・心読めるの?」
「寂しそうな顔するんだもん、分かっちゃう」

くすっとユノが笑い、俺もつられて笑った。

「なら、心おきなく治療に専念出来るな」









ある日曜日の午後。
ユノが外出するというので、俺もそれに付き添った。
二人並んで電車に揺られ、街の外れにある終点を目指す。
暖かな陽の光が差し込む中、他愛ない会話を交わし、時に眠は眠気に身を任せて肩を寄せ合った。
ユノは「連れて行きたいとこがある」と言うだけで、それが何処なのかは告げなかった。
駅を降りたあと、ユノが目指したのは、芝が生い茂る小高い丘だった。
石段を昇りきったそこにあったのは、規則正しく並んだ幾つもの石。
墓だ・・・・・・
ユノが俺を振り返り、言った。

「父さんに会いに来た。チャンミンのこと、紹介しようと思って・・・・・・」
「・・・・・・なるほど」

ある墓石の前に立つと、ユノは静かに話し始めた。

「久しぶり。もう・・・・・・此処には来ないと思ってた。でもね、気持ちが変わったんだ。僕の大切な人を連れて来た。恋人の、チャンミン」

ユノがこちらを振り返り、俺はぺこりと頭を下げた。

「ども・・・・・・」

墓石を静かに見据え、ユノはゆっくり、気持ちを整理するかのように話し始めた。

「チャンミンに出会って、僕は前を向けるようになったよ。これからも・・・・・・そうして生きて行きたい」

さわさわと、静かな丘に風が吹き抜ける。

「だからね・・・・・・父さんの存在にはもう・・・・・・捕らわれたくない」

手をぎゅっと握りしめ、ユノが再び口を開く。
発した声は、泣きそうに震えていた。

「父さん、僕の誕生日の時だけは・・・・・・いつも、ケーキ買ってテーブルに置いてたね。ケーキ食べてる僕を・・・・・・貴方は何も言わず、ただ笑って見つめてた・・・・・・。その時だけは、父親の顔してたよ・・・・・・」

ユノは、涙を拭いながら続けた。

「心から嫌いになれなくて、ずっと辛かった・・・・・・。ほんと、無責任で最低な父親だったけど・・・・・・でもやっぱり、僕にとっての父親は貴方だけなんだ・・・・・・。僕はもう、父さんを赦すから・・・・・・・・・父さんも、僕を赦してくれ・・・・・・」

ユノの告白に、言葉一つ一つに、胸が締め付けられる。
聞いていると涙が込み上げてきて、俺も一緒に泣いた。
俯いたユノの肩を抱くと、ユノは何も言わず俺の腕に手を添えた。
ユノの父親が犯した罪は、決して許されることではない。
俺はこれからも、ユノの父親の存在も罪も、許すことは出来ないだろう。
だけど・・・・・・・
ユノは恨み続けるより、赦すことを選んだ。
きっと、前を向くために。
少しでも、楽しい時を感じ生きていけるように。
暫くすると、ユノは涙を拭って空を見上げた。
穏やかでいて清らかな、綺麗な横顔だった。



















『明日退院何時?』
『朝10時』
『了解。迎えに行く』

Tanks you!と、お馴染みのペンギンスタンプげ送られてきて、俺は顔を綻ばせた。
明日は、キュヒョン、テミナと、イトゥクさんも誘って快気祝いをしよう。
そして夜は・・・・・・
重なりあって愛を確かめ、転げあって口付けを交わそうじゃないか。
そんなことを考えてニヤけていたのが、昨日の夜・・・・・・
俺は今、町の中で立ち尽くしている。
電工掲示板、コンビニの新聞、雑誌・・・・・・
何処を見てもユノの顔ばかりだ。

“人気モデルユンホ 重度のセックス依存症”
“好青年の裏の顔。実はゲイだった。毎晩男遊び”
“精神病院へ入院し療養中”

表紙を飾る見出しから目を反らしても、今度はワイドショーから同じ言葉が聞こえてくる。

『しかし驚きですね。皆さん彼に爽やかな印象お持ちだと思いますが・・・・・・私生活は性行為に明け暮れていて、それが入院する程酷かったと言うんですから』
『更に、今年の○月には睡眠薬を大量服薬し、病院に運ばれていたことが判りました。スマートフォンを湯槽に沈め、周囲との連絡を絶った状態で知人の男性に発見されたそうです』
『自殺未遂ですか?』
『でしょうね。状況からして恐らく』
『その知人の男性というのは、ユンホさんとどのような関係なのでしょうか』
『詳細は分かりません。ただ、ユンホさんは複数の方と関係を持っていたらしいので・・・・・・性交遊がある相手の一人、と考えて間違い無いでしょう』

ばっかやろう・・・・・・
正真正銘の恋人だ!!
俺はコメントする奴等を睨みつけ、低い声で呟いた。

「にわかが適当なことほざいてんじゃねえよ」

ユノの著名度を考えると、もっと早いうちから情報は漏れていた筈だ。
それなのに今更集中的に報道するなんて、退院のタイミングを敢えて狙ったとしか思えない。
報道陣は明らかにユノを潰しにかかっている。
人気アイドルや歌手、好成績を残した選手・・・・・・どんな有名人でも、一度問題を起こせば恰好のネタにされる。
テレビの中から存在を消されることだってある。
そういえば、世間というものは時に残酷で、容赦無いのだった。
ユノと出逢ってからその感覚は薄れていたが、また実感させられた。
親父を攻略出来たと思ったら、次はメディアか。
気が済むまで勝手に騒げばいい。
俺は今まで通り、ユノの側に居るだけだ。



病室前に着くと、部屋からマネージャーとユノの会話が聞こえてきた。

「――『取材した記者から情報を入手した。クラブで出会ったユンホと関わりがある男性Bによると、彼は昔父親から性的虐待を受けていたらしい』へえー」
「・・・・・・そう言えば、酔った拍子に誰かに喋ったかも。えへへ・・・・・・」
「もう、ほんっと自己管理が出来ないのね!そんなてへぺろで済むと思ってるの!?」

マネージャーは相当憤慨しているようだ。
俺はドアを開け、部屋に入るなり文句を言った。

「デカい声出すな。病院だぞ」

俺の顔を見ると、ユノは笑顔を浮かべた。

「チャンミン」
「よう。随分な人気じゃん」
「・・・・・・まあね」

マネージャーが持参したのか、テーブルの上には週刊誌と新聞が置かれている。
それを見て、ユノは言った。

「誇張してる記事もあるけど、殆ど本当のことだよ。僕のことをよく紹介してくれてる・・・・・・雑誌に載ってるプロフィールと同じだ」

ふっと笑うその顔は、余裕あり気にも見える。
思ったより元気そうでホッとした。

「強いなユノ」
「・・・・・・誰のおかげ?」

ユノが俺の指先を握り、じっと見上げてくる。
浮かれて、ついニヤけてしまう。
ユノは微笑みながら、俺の手をゆらゆらと揺らした。

「そこ、イチャつかないっ!」

マネージャーが、手に持っていたバインダーで俺とユノの頭をバシッと叩いた。

「あいたっ」
「ってえ・・・・・・。何で俺まで・・・・・・」

マネージャーは、髪を乱暴に掻きながら大きく溜息をついた。

「アンタ達、もっと深刻になりなさい。・・・・・・取り敢えず、復帰は見送りよ。周りの経過を見て時期は要検討。良いわね」

しかしユノは頷かなかった。

「ラジオはやらせて」

その要望を聞いて、マネージャーが呆れ顔で笑う。

「馬鹿言わないで。どうせ叩かれて終わりよ。自殺行為だわ」

しかし、ユノのマネージャーを見る瞳は揺るがない。

「叩かれて終わってもいい。僕に皆の興味が向いてるうちに、気持ち伝えたい」
「もし失敗したら、どうなるか分かってる?」
「別に・・・・・・モデルが出来なくなってもいいよ。皆に忘れられても構わない。僕は、普通に生きられればそれでいい・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「自分に決着をつけるためなの。ボア、お願い・・・・・・」

先に目を逸らしたのは、マネージャーだった。

「全く・・・・・・問題児抱えると苦労するわね」
「ありがとう、ボア!」
「社長への交渉とセッティングだけやってあげる。あとは自分で何とかすんのよ」
「うん」

ユノは俺を見上げ、問いかけた。

「チャンミン・・・・・・一緒に、来てくれる?」
「もちろん」

周りを恐れず、自分の気持ちに正直なユノの姿は、見ていてとても気持が良い。
俺が思っているよりずっと、ユノは前に向かって歩き出していた。












ストロベリーナイトの再開が決まると、その宣伝や報道をあっちこっちで見聞きして、改めてユノの知名度の高さを実感した。
そして復帰後、放送第一回目の今夜・・・・・・
俺は今、収録ブースに座って話すユノを、窓越しに見守っている。

「―――皆さんは、きっと既にご存知かと思いますが・・・・・・僕は、長い間病気に悩まされていました。悲しみ、辛さに押しつぶされそうな時でも・・・・・・明るく笑顔でいるべきだと・・・・・・それが正解だと信じていたんです。そしていつの間にか・・・・・・自分と向き合うことを忘れていた。今回の報道は、そんな僕の未熟さが引き起こした結果です。僕を応援して下さっている方々に沢山迷惑をかけ、そして傷付けてしまいました。だけど・・・・・・」

ユノが、俺をじっと見つめて言った。

「そんな自分の事も、許してあげたい・・・・・・。それが、僕の思う“強さ”です」

俺もじっとユノを見つめながら、その言葉を噛み締め、しっかりと頷いた。

「・・・・・・皆さんも、ふとした時で良い・・・・・・自分に問いかけてみてください。私は今、大丈夫か?無理をし過ぎていないかと・・・・・・。今夜は、ゆっくりお休みください。それでは・・・・・・ユノがお送りしました」

収録が終わり、ユノがヘッドホンを外す。
俺は窓の外から拍手を送り、ユノは俺を見てニッコリと笑みを浮かべた。
ブースから出たユノが、俺に駆け寄って来る。
言葉を交わそうとしたタイミングで、マネージャーから声がかかった。

「終わったらとっとと帰りなさい。正面入口も裏も記者が張ってる。地下の非常口前にバンを手配したから、それに乗って」
「ありがとう、ボア」

マネージャーは何時もの顰めっ面を崩して、にっこり笑った。

「お疲れ様。頑張ったわね」

なんだ、やっぱイイ奴じゃん。



地下の非常口を出る前、俺とユノは足を止めて向き合った。
バンに乗れば、運転手が居るからあまり言葉は交わせない。
いまのうちに、少しだけでも話しておきたかった。

「よく言った」

頭を撫でてやると、ユノは小さく笑った。

「でも・・・・・・無責任な発言と思って、皆怒るかも」
「ま、何も知らない奴が聞けばな」
「でも、いい」

ユノは、屈託の無い笑顔を浮かべて言った。

「僕には、チャンミンさえ居ればそれでいい」

ああもう、どうしようもなくキュンとする・・・・・・!

「や~!あんま嬉しいこと言って調子に乗らせるなよ」

ほっぺたをぐにぐに揉むと、ユノは目を瞑りながらけらけら笑った。
周りからリア充滅びろと思われても、別に構わない。
ユノの心からの笑顔が、俺の一番の宝物だ。
ここへ辿り着くまでの苦労を、俺は知ってるから。
明日もきっと、その次の日もきっと・・・・・・
ユノは太陽のような笑顔で、俺の傍に居る。












To be continue



◇◇◇



あと一話で最終回です。
ハピエンに向かって全力疾走中・・・・・・
明日か明後日にはうpしたいなあ。
でも終わっちゃうのがちょっと寂しい。
また番外編書くぞ~~
申し訳ございません、返信は最終話の後にまとめてお返し致しますね。
コメントにはしっかり目を通していますよ。
どれもお話に真面目に向き合って頂いてると感じがして、嬉しくなります。
拍手も沢山どうもです!!
ラスト一話頑張ります!




気に入って頂けたら、ポチッとお願いします(*^^*)
   ↓

     

人気ブログランキングへ


にほんブログ村


スポンサーサイト

Comment 3

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Edit | Reply | 
-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Edit | Reply | 
yottssy (よっしい)  

毎晩とても楽しみにしてました

もう最終話なのですね…。まだまだまだまだ読みたかったです(*´ω`*) 
でも、二人ともが大きく成長?して、心穏やかに過ごせるようになったので
もう心置きなく終われるのかな(^w^)。

素敵なお話をありがとうございました❤
またお話を楽しみにしてます

Edit | Reply | 

What's new?