愛することは、君が教えてくれた 20





































一時退院から二日後、ユノは再び入院した。
その前夜も、俺達はセックスをした。
この先暫く出来ないと思うと、行為に及ばずには居られなかったのだ。
勿論、俺たちがシたのは感情が伴うセックスだ。
ユノと別れ病院を去る瞬間は、切なさを覚えつつ心は穏やかだった。
身体を重ねてから、何だか絆が深くなったように感じる。
離れていても傍に居るような、そんな安心感に満たされていた。









毎日が薄く重なるように、穏やかに、平和に過ぎてゆく。
ユノの症状は次第に軽快し、悪夢を見ることは殆ど無くなった。
夢は別に、父親の呪縛霊が見せていた訳じゃない。
ユノ自身が己に向けた、罪の意識が原因だった。
会う度に、ユノが明るさを取り戻しているのが分かって嬉しい。
一週間に二日、病院へ面会へ行くのが俺の楽しみであり癒しだ。
これまで孤立気味だった会社でも、周りの奴らとまあまあ仲良くやっている。
まさか、家族や親しい友達以外と、笑って話せる日が来るとは思ていなかった。
ユノを好きになって、俺は他人に優しくすることを覚えたのかも知れない。
まあ・・・・・・それでも、心の中で毒付いたり人を小馬鹿にすることはしょっちゅうだ。
ひねくれたこの性格が、そう簡単に直る訳ない。
だけど、ユノが笑ってそんな俺を好きと言うから、ま、いっかと思う。
今日も面会に来た俺に、ユノがハンドクリームを塗ってくれる。

「よくなったね、手荒れ」
「ん」

俺の強迫観念も、少しずつ軽減している。
今までは、周りの目を気にしたり、全てに完全を求めてばかりいた。
それを引き起こしていたのは、自己不信だったんじゃないだろうか。
ユノを必要とし、また必要とされることで、俺は前よりも自信が持てるようになった。
イトゥクさんが言った通り、主症状にとらわれても解決には繋がらない。
症状を引き起こしている原因を突き止めなければ、意味が無いと実感した。
俺もユノも、互いの存在が治療に繋がったと言える。

「大事だよなぁ。心の分析」
「そうだね」
「俺ら、相性が良かったんだな」
「そうかもね?」

ユノは微笑みながら、俺の手を優しく撫で続ける。
ひとつだけ、残念なことがある。
もし洗浄脅迫が治ったら、俺は・・・・・・

「大丈夫。これからも塗ってあげるから」

ユノの発言に驚いた。
まだ何も言って無いのに。

「・・・・・・心読めるの?」
「寂しそうな顔するんだもん、分かっちゃう」

くすっとユノが笑い、俺もつられて笑った。

「なら、心おきなく治療に専念出来るな」









ある日曜日の午後。
ユノが外出するというので、俺もそれに付き添った。
二人並んで電車に揺られ、街の外れにある終点を目指す。
暖かな陽の光が差し込む中、他愛ない会話を交わし、時に眠は眠気に身を任せて肩を寄せ合った。
ユノは「連れて行きたいとこがある」と言うだけで、それが何処なのかは告げなかった。
駅を降りたあと、ユノが目指したのは、芝が生い茂る小高い丘だった。
石段を昇りきったそこにあったのは、規則正しく並んだ幾つもの石。
墓だ・・・・・・
ユノが俺を振り返り、言った。

「父さんに会いに来た。チャンミンのこと、紹介しようと思って・・・・・・」
「・・・・・・なるほど」

ある墓石の前に立つと、ユノは静かに話し始めた。

「久しぶり。もう・・・・・・此処には来ないと思ってた。でもね、気持ちが変わったんだ。僕の大切な人を連れて来た。恋人の、チャンミン」

ユノがこちらを振り返り、俺はぺこりと頭を下げた。

「ども・・・・・・」

墓石を静かに見据え、ユノはゆっくり、気持ちを整理するかのように話し始めた。

「チャンミンに出会って、僕は前を向けるようになったよ。これからも・・・・・・そうして生きて行きたい」

さわさわと、静かな丘に風が吹き抜ける。

「だからね・・・・・・父さんの存在にはもう・・・・・・捕らわれたくない」

手をぎゅっと握りしめ、ユノが再び口を開く。
発した声は、泣きそうに震えていた。

「父さん、僕の誕生日の時だけは・・・・・・いつも、ケーキ買ってテーブルに置いてたね。ケーキ食べてる僕を・・・・・・貴方は何も言わず、ただ笑って見つめてた・・・・・・。その時だけは、父親の顔してたよ・・・・・・」

ユノは、涙を拭いながら続けた。

「心から嫌いになれなくて、ずっと辛かった・・・・・・。ほんと、無責任で最低な父親だったけど・・・・・・でもやっぱり、僕にとっての父親は貴方だけなんだ・・・・・・。僕はもう、父さんを赦すから・・・・・・・・・父さんも、僕を赦してくれ・・・・・・」

ユノの告白に、言葉一つ一つに、胸が締め付けられる。
聞いていると涙が込み上げてきて、俺も一緒に泣いた。
俯いたユノの肩を抱くと、ユノは何も言わず俺の腕に手を添えた。
ユノの父親が犯した罪は、決して許されることではない。
俺はこれからも、ユノの父親の存在も罪も、許すことは出来ないだろう。
だけど・・・・・・・
ユノは恨み続けるより、赦すことを選んだ。
きっと、前を向くために。
少しでも、楽しい時を感じ生きていけるように。
暫くすると、ユノは涙を拭って空を見上げた。
穏やかでいて清らかな、綺麗な横顔だった。



















『明日退院何時?』
『朝10時』
『了解。迎えに行く』

Tanks you!と、お馴染みのペンギンスタンプげ送られてきて、俺は顔を綻ばせた。
明日は、キュヒョン、テミナと、イトゥクさんも誘って快気祝いをしよう。
そして夜は・・・・・・
重なりあって愛を確かめ、転げあって口付けを交わそうじゃないか。
そんなことを考えてニヤけていたのが、昨日の夜・・・・・・
俺は今、町の中で立ち尽くしている。
電工掲示板、コンビニの新聞、雑誌・・・・・・
何処を見てもユノの顔ばかりだ。

“人気モデルユンホ 重度のセックス依存症”
“好青年の裏の顔。実はゲイだった。毎晩男遊び”
“精神病院へ入院し療養中”

表紙を飾る見出しから目を反らしても、今度はワイドショーから同じ言葉が聞こえてくる。

『しかし驚きですね。皆さん彼に爽やかな印象お持ちだと思いますが・・・・・・私生活は性行為に明け暮れていて、それが入院する程酷かったと言うんですから』
『更に、今年の○月には睡眠薬を大量服薬し、病院に運ばれていたことが判りました。スマートフォンを湯槽に沈め、周囲との連絡を絶った状態で知人の男性に発見されたそうです』
『自殺未遂ですか?』
『でしょうね。状況からして恐らく』
『その知人の男性というのは、ユンホさんとどのような関係なのでしょうか』
『詳細は分かりません。ただ、ユンホさんは複数の方と関係を持っていたらしいので・・・・・・性交遊がある相手の一人、と考えて間違い無いでしょう』

ばっかやろう・・・・・・
正真正銘の恋人だ!!
俺はコメントする奴等を睨みつけ、低い声で呟いた。

「にわかが適当なことほざいてんじゃねえよ」

ユノの著名度を考えると、もっと早いうちから情報は漏れていた筈だ。
それなのに今更集中的に報道するなんて、退院のタイミングを敢えて狙ったとしか思えない。
報道陣は明らかにユノを潰しにかかっている。
人気アイドルや歌手、好成績を残した選手・・・・・・どんな有名人でも、一度問題を起こせば恰好のネタにされる。
テレビの中から存在を消されることだってある。
そういえば、世間というものは時に残酷で、容赦無いのだった。
ユノと出逢ってからその感覚は薄れていたが、また実感させられた。
親父を攻略出来たと思ったら、次はメディアか。
気が済むまで勝手に騒げばいい。
俺は今まで通り、ユノの側に居るだけだ。



病室前に着くと、部屋からマネージャーとユノの会話が聞こえてきた。

「――『取材した記者から情報を入手した。クラブで出会ったユンホと関わりがある男性Bによると、彼は昔父親から性的虐待を受けていたらしい』へえー」
「・・・・・・そう言えば、酔った拍子に誰かに喋ったかも。えへへ・・・・・・」
「もう、ほんっと自己管理が出来ないのね!そんなてへぺろで済むと思ってるの!?」

マネージャーは相当憤慨しているようだ。
俺はドアを開け、部屋に入るなり文句を言った。

「デカい声出すな。病院だぞ」

俺の顔を見ると、ユノは笑顔を浮かべた。

「チャンミン」
「よう。随分な人気じゃん」
「・・・・・・まあね」

マネージャーが持参したのか、テーブルの上には週刊誌と新聞が置かれている。
それを見て、ユノは言った。

「誇張してる記事もあるけど、殆ど本当のことだよ。僕のことをよく紹介してくれてる・・・・・・雑誌に載ってるプロフィールと同じだ」

ふっと笑うその顔は、余裕あり気にも見える。
思ったより元気そうでホッとした。

「強いなユノ」
「・・・・・・誰のおかげ?」

ユノが俺の指先を握り、じっと見上げてくる。
浮かれて、ついニヤけてしまう。
ユノは微笑みながら、俺の手をゆらゆらと揺らした。

「そこ、イチャつかないっ!」

マネージャーが、手に持っていたバインダーで俺とユノの頭をバシッと叩いた。

「あいたっ」
「ってえ・・・・・・。何で俺まで・・・・・・」

マネージャーは、髪を乱暴に掻きながら大きく溜息をついた。

「アンタ達、もっと深刻になりなさい。・・・・・・取り敢えず、復帰は見送りよ。周りの経過を見て時期は要検討。良いわね」

しかしユノは頷かなかった。

「ラジオはやらせて」

その要望を聞いて、マネージャーが呆れ顔で笑う。

「馬鹿言わないで。どうせ叩かれて終わりよ。自殺行為だわ」

しかし、ユノのマネージャーを見る瞳は揺るがない。

「叩かれて終わってもいい。僕に皆の興味が向いてるうちに、気持ち伝えたい」
「もし失敗したら、どうなるか分かってる?」
「別に・・・・・・モデルが出来なくなってもいいよ。皆に忘れられても構わない。僕は、普通に生きられればそれでいい・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「自分に決着をつけるためなの。ボア、お願い・・・・・・」

先に目を逸らしたのは、マネージャーだった。

「全く・・・・・・問題児抱えると苦労するわね」
「ありがとう、ボア!」
「社長への交渉とセッティングだけやってあげる。あとは自分で何とかすんのよ」
「うん」

ユノは俺を見上げ、問いかけた。

「チャンミン・・・・・・一緒に、来てくれる?」
「もちろん」

周りを恐れず、自分の気持ちに正直なユノの姿は、見ていてとても気持が良い。
俺が思っているよりずっと、ユノは前に向かって歩き出していた。












ストロベリーナイトの再開が決まると、その宣伝や報道をあっちこっちで見聞きして、改めてユノの知名度の高さを実感した。
そして復帰後、放送第一回目の今夜・・・・・・
俺は今、収録ブースに座って話すユノを、窓越しに見守っている。

「―――皆さんは、きっと既にご存知かと思いますが・・・・・・僕は、長い間病気に悩まされていました。悲しみ、辛さに押しつぶされそうな時でも・・・・・・明るく笑顔でいるべきだと・・・・・・それが正解だと信じていたんです。そしていつの間にか・・・・・・自分と向き合うことを忘れていた。今回の報道は、そんな僕の未熟さが引き起こした結果です。僕を応援して下さっている方々に沢山迷惑をかけ、そして傷付けてしまいました。だけど・・・・・・」

ユノが、俺をじっと見つめて言った。

「そんな自分の事も、許してあげたい・・・・・・。それが、僕の思う“強さ”です」

俺もじっとユノを見つめながら、その言葉を噛み締め、しっかりと頷いた。

「・・・・・・皆さんも、ふとした時で良い・・・・・・自分に問いかけてみてください。私は今、大丈夫か?無理をし過ぎていないかと・・・・・・。今夜は、ゆっくりお休みください。それでは・・・・・・ユノがお送りしました」

収録が終わり、ユノがヘッドホンを外す。
俺は窓の外から拍手を送り、ユノは俺を見てニッコリと笑みを浮かべた。
ブースから出たユノが、俺に駆け寄って来る。
言葉を交わそうとしたタイミングで、マネージャーから声がかかった。

「終わったらとっとと帰りなさい。正面入口も裏も記者が張ってる。地下の非常口前にバンを手配したから、それに乗って」
「ありがとう、ボア」

マネージャーは何時もの顰めっ面を崩して、にっこり笑った。

「お疲れ様。頑張ったわね」

なんだ、やっぱイイ奴じゃん。



地下の非常口を出る前、俺とユノは足を止めて向き合った。
バンに乗れば、運転手が居るからあまり言葉は交わせない。
いまのうちに、少しだけでも話しておきたかった。

「よく言った」

頭を撫でてやると、ユノは小さく笑った。

「でも・・・・・・無責任な発言と思って、皆怒るかも」
「ま、何も知らない奴が聞けばな」
「でも、いい」

ユノは、屈託の無い笑顔を浮かべて言った。

「僕には、チャンミンさえ居ればそれでいい」

ああもう、どうしようもなくキュンとする・・・・・・!

「や~!あんま嬉しいこと言って調子に乗らせるなよ」

ほっぺたをぐにぐに揉むと、ユノは目を瞑りながらけらけら笑った。
周りからリア充滅びろと思われても、別に構わない。
ユノの心からの笑顔が、俺の一番の宝物だ。
ここへ辿り着くまでの苦労を、俺は知ってるから。
明日もきっと、その次の日もきっと・・・・・・
ユノは太陽のような笑顔で、俺の傍に居る。












To be continue



◇◇◇



あと一話で最終回です。
ハピエンに向かって全力疾走中・・・・・・
明日か明後日にはうpしたいなあ。
でも終わっちゃうのがちょっと寂しい。
また番外編書くぞ~~
申し訳ございません、返信は最終話の後にまとめてお返し致しますね。
コメントにはしっかり目を通していますよ。
どれもお話に真面目に向き合って頂いてると感じがして、嬉しくなります。
拍手も沢山どうもです!!
ラスト一話頑張ります!




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3 Comments

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2016/04/29 (Fri) 09:12 | EDIT | REPLY |   

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2016/04/25 (Mon) 14:31 | EDIT | REPLY |   

yottssy (よっしい)  

毎晩とても楽しみにしてました

もう最終話なのですね…。まだまだまだまだ読みたかったです(*´ω`*) 
でも、二人ともが大きく成長?して、心穏やかに過ごせるようになったので
もう心置きなく終われるのかな(^w^)。

素敵なお話をありがとうございました❤
またお話を楽しみにしてます

2016/04/24 (Sun) 20:41 | EDIT | REPLY |   

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