愛することは、君が教えてくれた 16




































出勤前、いつも通り施錠場面を収めようと、俺は携帯を取り出した。
撮影を開始しようとして、ピタリと手を止める。
病気は、本人にその気が無いと治らない・・・・・・
俺がイトゥクさんに言われ、そしてユノに言った言葉だ。
言い聞かせた本人が実行出来なくてどうする。
俺はドアノブをガタガタと入念に引っ張り、それを写真に収めた。
カトクを起動し、キュヒョン、テミナ、俺三人のグループトークに、メッセージと写真を送信する。

『7時30分。俺は鍵を閉めた。俺は鍵を閉めた。俺は鍵を閉めた』

それだけじゃ不安で、ユノへもメッセージと写真を送った。

『鍵を閉めたか不安だから協力して。7時30分。俺は確かに鍵を閉めた』

ムービーが写真に変わっただけでも、大きな一歩だと思いたい。
ユノから、直ぐに返信が来た。

『おはよう。うん、チャンミンは確かに鍵を閉めた!』

ペンギンのオッケースタンプが一緒に送られて来て、俺は口元を緩めた。

「いちいち可愛いんだよなぁ」

思考はユノの事にシフトして、施錠のことは頭から消えてしまった。
俺って案外単純。
昼休み、今夜会えるかとメッセージを送ると

『今日はラジオの後も仕事あって、帰り遅いんだ。難しいかも』

と振られてしまった。
数日前の、ユノの話を思い出す。
毎晩クローゼットで眠らないと、安心出来ないなんて・・・・・・
小さい頃から今迄、父親の存在を払拭出来ずに、ずっとそれを続けてきたという事だ。
いつも笑顔で明るく、辛い過去を感じさせないユノ。
でもそうやって無理をした結果、きっと依存症になってしまった。
どれだけ辛かったろう。ユノの心の傷を思うと胸が痛む。
もうこれ以上一人で無理させたくない、遠慮せずに頼って欲しい。
でも、俺ばかりが気にかけるんじゃ駄目な気がする。
ユノが、自分から周りを頼る事を覚えないと・・・・・・
俺は返信せずに、携帯をしまった。









『―――そうそう、最近、知人からあるアーティストの歌を聞かされたんです。以前、特別企画でも紹介しましたが・・・・・・トンバンシンキのMAX。彼、本当に歌が上手ですよね』

「・・・・・・この知人って、まさか俺?」

問いかけても、ラジオなので勿論返答はない。

『それで、自分でもソロ、デュオと聞いてみたんですが・・・・・・結構良くて、実は最近ヘビロテしてるんですよ』

「いつの間に・・・・・・」

『ということで、今日皆さんに贈る曲はこれです。二人の綺麗な音色に癒されてください。トンバンシンキで “Heart, Mind and Soul”。・・・・・・僕も、こんな恋をしてみたいな・・・・・・なんてね』

くすり。ユノが笑った後、曲が始まった。
ピアノの音色が奏でる、流れるようなイントロ。
恋心を綴った綺麗なメロディーと歌声に、心を潤される。
俺はカトクを起動すると、ユノにメッセージを送った。

『いつの間にハマってたの?』

数分後、返信が来た。

『曲流しながら、チャンミンの事思い出してた』

思わず、口元が緩む。

『それって、この曲が俺宛ってことでOK?』

少しすると、返信ではなくスタンプが送られて来た。
朝と同じシリーズの、ペンギンが赤面しているスタンプだ。
だから、いちいち可愛いんだって・・・・・・!

『次、何時会える?』
『明日の夜なら、きっと空いてる』
『家泊まってもいい?』
『いいよ!』

「よっし!」と叫びながら、俺はソファにごろーんと転がった。
抱きしめて、キスして・・・・・・次は、もっと先に進みたい。
ユノが、それを受け入れてくれるなら。
ああ、俺の心と魂も輝いてるぜ・・・・・・
幸せを噛み締めて目を瞑ると、いつの間にか俺は、そのまま眠りについていた。









ブー ブー ブー・・・・・・
テーブルの上で、携帯が震えている音がする。
止まずに続くそれに、俺は起こされた。

「・・・・・・んー?」

寝ぼけ眼で時計を見ると、針は深夜の二時をさしていた。
こんな時間に一体誰だ・・・・・・?
携帯を手に取り、画面に表示された名前を見て俺はハッとした。
直様通話ボタンを押す。

「もしもし、ユノ?」
『・・・・・・はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・チャン、ミンッ・・・・・・』

苦しげな息使いが聞こえてくる。
声を発するのもやっとのようだ。

「おいユノ、大丈夫かっ?」
『助けて・・・・・・助けてチャンミンッ・・・・・・』

聞こえてきた声は、悪夢にうなされていたあの日のように震えていた。

「待ってろ、すぐ行く!今家か?」
『プレジールに、居る・・・・・・』
「分かった。そこから動くなよ」

俺は適当に上着だけ羽織ると、全力で家を駆け出した。






息を切らしながら、正面のドアから店内へと入る。
灯りは点いていないが、広いガラス張りの窓から差し込む月灯りが、店内をぼんやりと照らし出している。
あちこちに視線をさ迷わせユノの名前を呼んだが、返事は無かった。
奥の方から小さな嗚咽と息遣いが聞こえて来て、俺は進む足を早めた。
フロアの隅に、ユノの姿を見つけた。
膝を抱えながら小さく踞っている。

「ユノッ!」

名前を呼ぶと、ユノははっとして顔を上げた。
涙で濡れしわくちゃになった顔をそのままに、俺にギュッと抱きついてくる。

「チャンミンッ・・・・・・・・・」
「大丈夫だ・・・・・・もう、大丈夫」

背中を優しくさすり、額に口付ける。
顔を両手で包み込んで微笑みかけると、ユノは少しだけ落ち着きを取り戻した。
暫く抱きしめていると、嗚咽と呼吸苦も徐々に消失した。
休憩室に移動すると、ブランケットに二人包まりながらソファに座った。

「少しよくなった?」
「うん・・・・・・ありがと」
「また・・・・・・見たのか?親父さんの夢・・・・・・」

ユノは小さく頷いた。

「ラジオの後打ち合わせがあって・・・・・・帰りが遅かったから、ついソファでうたた寝したの」
「そうか・・・・・・」
「御免ね。手かけさして・・・・・・」

ユノの言葉に胸が傷んで、同時に寂しさを覚える。
遠慮しないでと言ってるのに。

「そうじゃないだろ。もし呼んでくれなきゃ怒るとこだ」

ユノが瞳を潤ませて、俺に問いかける。

「チャンミン・・・・・・何でそんなに優しいの」
「ん?・・・・・・・・・好きだから」

ユノは泣き顔になりながら、俺にぴったりとくっついた。
俺も、ユノの髪に顔を埋めながら身体を抱き直す。
家庭環境に恵まれた俺は、ユノの心境を真から理解してやれない。
ユノの痛み辛みを聞いてやるしかできない。それが悔しい。
少しでも支えたくて、こうして傍に居るけど。

「嬉しかった・・・・・・。曲のプレゼント」
「うん」
「あれってプロポーズ?」
「ふふ・・・・・・そうかもね」

ユノはそう言って笑ったが、また表情を曇らせた。

「でもね、チャンミンの事・・・・・・凄く好きなのに、一緒に居ると楽しいのに・・・・・・何でかな。どんどん、夢が酷くなってく。思い出に・・・・・・押しつぶされそうになる」
「・・・・・・・・・・・・」
「その度、衝動に駆られて辛い」
「俺が一緒じゃ、相手じゃ・・・・・・・・・駄目なのか?」

ユノはまた泣き顔になりながら、辛そうに言葉を紡いだ。

「俺にとって・・・・・・セックスは・・・・・・愛し合う行為じゃない。チャンミンを利用したくない」
「じゃあ、しなくてもいい。こうやって一緒に居る」

ユノは首を振った。

「それは、出来ない・・・・・・」
「何でだよ?俺は構わないって言ってるのに」

想いが通じないことについイラッとして、責め口調になってしまう。
ユノは、俺をまっすぐに見つめて言った。

「何故かって・・・・・・?チャンミンは俺の恋人だけど・・・・・・介護者じゃないから」
「ユノ・・・・・・」
「俺にばかり尽くしていたら、絶対チャンミンが疲れる。それは嫌なの。お願い、分かって・・・・・・」

ユノが、祈るように俺の手を握る。

「じゃあ、どうすんだよ・・・・・・」

ユノは、思いがけない事を口にした。

「俺を・・・・・・入院させて」
「え・・・・・・?」
「一人の時間があれば俺は絶対・・・・・・セックスに走るに決まってる。これ以上、チャンミンのこと傷付けたく無い」

ユノは眉を下げ、笑って言った。

「それに・・・・・・“俺は病気だ”。・・・・・・でしょ?」

ああ、俺が泣きそうになってどうする。
喉が、胸が、熱くて苦しい。

「これは・・・・・・前を向くための決断。だから、そんな悲しい顔しないで・・・・・・」

ユノが、触れるだけの優しいキスをする。
俺はついに、堪えきれず涙を流してしまった。
一番辛いユノが、今こうして笑っているというのに。

「絶対っ・・・・・・別れないからな」
「うん」
「絶対絶対・・・・・・離さないから」
「うん」

ユノの身体を、壊れそうな程強く抱き締める。
ユノが、前を向こうとして決めたことなんだ。
俺はこの決断を受け入れるべきだ。
必死に自分に言い聞かせた。









数日後。
ユノは、精神病院へ入院した。









To be continue



◇◇◇



病気ってほんと、容赦無くって辛いものですね。
趣味の小説、それもBLにしては重すぎる。でも書いてしまうのよ(-.-;)
楽しいかなぁこの話。えー、今更ですか(笑)
コメこれからお返しします。



ランキング参加中です♪
気に入って頂けたら、ポチッとお願いします(*^^*)



にほんブログ村

     

人気ブログランキングへ


スポンサーサイト

0 Comments

Leave a comment