愛することは、君が教えてくれた 14




































『あれから調子どう?』

ユノへメッセージを送ると・・・・・・

『大丈夫。チャンミンのおかげで、元気になったみたい』

そう返信が来た。
しかし心配は絶えない。
ユノは典型的な“無理をするタイプ”だ。
いつも笑顔だが、接していればそれがよく分かる。
大丈夫じゃ無くても、正直にそう答えるとは思えなかった。
これから暫くの間、雑誌やメディアの撮影が集中していてプレジールへは出ないらしい。
朝ユノの顔を見れなくなる。
ちゃんと仕事をしているかも、確認出来ない。
ユノが男と寝ている可能性を捨てきれない俺は、酷い男だろうか?
おっと、ここは頷かないで欲しい。
何故なら・・・・・・ユノが男を求めるのは、単なる個人の趣向でなく病気だからだ。
病気はその人の意志や生活をも蝕む、残酷で容赦無いものだからだ。









家を出て施錠する。その瞬間を今日もムービーに収める。
俺の毎朝の日課だ。
この作業をしないと、安心して外へ出られない。
帰宅後、確実に施錠を解いた状況でやっとデータを削除出来る。
万が一施錠場面をムービーに取り忘れたその時は、俺は会社に遅刻してでも約束の時間に遅れてでも、家に戻って再確認するに違い無い。
まったく馬鹿らしい。
しかし、矛盾に気付いていても止められない・・・・・・それが強迫症だ。


仕事帰り、俺はキュヒョンの家へ寄った。
キュヒョンは実家暮らしなのだが、おばさんが料理を作り過ぎるらしく、俺もテミナもよく余りを恵んでもらっている。
一人暮らしで、食事内容が偏りがちなので有難い。
キュヒョンの家に顔を出すと、おばさんが気持ちいい笑顔で出迎えてくれた。
「どうせなら上がって食べて行きなさい!」と笑い、俺の返事も聞かないうちに中へ消えてしまった。
未だ戸惑いつつも、家族同然のようなこの扱いが嬉しい。
俺は、自分の家族ともそれなりに円満だと思っている。
他人とはあまりコミュニケーションが取れない俺だが、身内や数少ない友達には恵まれている気がする。
中に入ると、仕事帰りのキュヒョンと偶然帰省していたイトゥクさんが、既に出来上がった状態で閑談していた。

「あ・・・・・・兄貴、シムが来た!早速祝ってやって」

俺に気付いたキュヒョンが笑って言った。
イトゥクさんは俺の顔を見るや否や、破顔しながらこう言った。

「おめでとう!おまえは男だ、男の中の男!!」
「え・・・・・・?」
「あのユンホと付き合ってるって?凄いじゃないか!何かぶっ飛んでる気がするけど!」

キュヒョン、喋ったのか・・・・・・
そりゃあ、しゃべるよな。
筒付けになる事を、俺はキュヒョンに打ち明けた時点で覚悟すべきだった。

「うん。ありがと・・・・・・」

そうだ、これで心おきなくユノの事を相談出来る。
良かったじゃないか。
キュヒョンが風呂に入っている間、俺と二人きりになると先程のテンションとは一転し、イトゥクさんは穏やかな表情を浮かべて言った。

「まさか・・・・・・チャンミンの恋の相手があのユンホだったなんて、驚いたよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「彼のことだろう?この前話してくれた、性依存症の・・・・・・」

俺は黙ったまま頷いた。

「その後は?大丈夫なのか・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・それが、さ」

俺は、先日のユノのパニックについて話した。
イトゥクさんだから信用して話せる。
それに、この類のことを相談出来る知り合いは他に居ない。

「父親の手、か・・・・・」
「暫くうなされてた。まさか・・・・・・幻覚?」
「色々な可能性が考えられるよ。統合失調症であれば、幻覚は主症状として現れる」
「統合、失調・・・・・・」
「でも・・・・・・普段一緒に居て、幻覚を見ているような様子は?」
「無い。見る限り」
「起床時であれば、一時的に悪夢を引きずっただけかもしれない。とにかく、ユンホ君がお父さんの事で酷く悩んでいるのは確かだ」
「うん・・・・・・」
「話を聞いてると、この先良くなるとは考えにくい。悪くなることはあっても・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「酷くならないうちに、一度受診した方が良いんじゃないか?」
「だよな・・・・・・」

そもそもユノは今、自分が病気であることを自覚しているんだろうか。
この先もユノと一緒に居るならば、ユノの心をもっと知らなきゃ駄目だ。
ユノがどれだけ苦しんでいるのか、そして、どんな過去を過ごしてきたのか・・・・・・
その日の夜。
俺は帰宅後ユノに電話をかけたが、ユノは電話に出なかった。
翌朝 『昨日、疲れて寝ちゃってた。出れなくてごめんね』とメッセージが入っていた。
その言葉を信じるべきだと、俺は自分に言い聞かせた。
暫くは多忙そうな事を言っていたし、会うのは数日待とう。
その判断が、間違いだった。









カトクへメッセージを入れても既読がつかず、通話にも出ない。
一昨日からそれが続いていた。
そして今日本体へ電話をかけたが、

『――――おかけになった電話番号は、現在使われていないか、電源が入っていない為、かかりません』

聞こえてきたのはアナウンスだった。
嫌な予感がする・・・・・・
いくら忙しいにしても、ユノならばメッセージを見て返信を寄越す筈だ。

「一体何やってんだよ・・・・・・ユノ」

俺は居ても立っても居られず、携帯と財布をポケットに突っ込むと家を飛び出した。
ユノが居そうな場所を、走って探し回った。
ラジオの収録スタジオ、プレジール、クラブにもユノの姿は無かった。
クラブを出る間際、俺は見覚えのある男に話しかけられた。

「あ、お前この間の・・・・・・」

こいつは確か、俺がテミンと作戦を実行した時に、ユノが連れていた男だ。

「悪い、今急いでんだ」

立ち去ろうとした俺を、男が再び呼び止めた。

「ちょっと待てよ」
「・・・・・・何か用かよ」
「あいつと・・・・・・ユノと連絡取れてっか?」
「え・・・・・・?」

次の瞬間、男が口にした言葉に俺は凍りついた。

「数日前に会ったっきり、全く音沙汰無しなんだよ」
「・・・・・・会った、のか?」
「ああ。今そう言ったろ」

事実を聞くのが怖い。
でも、確かめたい気持ちが勝った。

「まさか・・・・・・寝た・・・・・・のか?」

やっとの思いで絞り出した問いかけに、男は・・・・・・

「ああ。寝たけど?」

当たり前のように、そう答えた。
唖然として立ち尽くす俺に、男は呑気に笑って言った。

「ユノに会ったら伝えてくれよ。また相手しろって」
「・・・・・・・・・・・・」
「あいつ後腐れ無くて、一番ラクなんだわ」

男はそう言い残すと、人ごみの中へ消えた。
ドンドンと鳴り響く低いビート、飛び交うライトに眩暈を覚える。

「はは・・・・・・」

一人俯きながら、俺は小さく笑った。
分かってるさ。現実は、そう甘くない。






ふらふらと記憶を頼りに歩き続け、俺はついに目的の場所へ到着した。
ユノのマンションに。
見上げたユノの部屋に、灯りは点いていない。
部屋にも居なかったら、もう今日は諦めよう。
というか、衝撃的な事実に打ち拉がれながらも、此処までやって来た俺を褒めて欲しい。
俺の心は今、ボロ雑巾のようだ。
いや・・・・・・豆腐メンタル状態だ・・・・・・
もう、豆腐より柔らかい表現を誰か教えてくれ・・・・・・
泣きたくなるのをぐっと堪えながら、俺はインターホンを押した。
応答も無ければ、ドアが空く気配も無い。
もう一度押しても、やはり応答は無かった。

「ユノ・・・・・・居ないのか?」

ノックした後、躊躇いがちにドアノブに手をかけると、閉まっていると思ったのに扉が開いた。
じわり。嫌な予感が込み上げる。

「・・・・・・入るぞ」

部屋はどこにも灯りがついておらず、真っ暗闇だ。
目が少しずつ慣れ、部屋の中が見えてくる。
そこら中に目をこらしたが、リビングにもキッチンにもユノの姿は無かった。
残るは・・・・・・
寝室へ目を向けたその瞬間、身体が凍りついた。
ベッドの上に、身体が横たわっている。
ピクリとも、動かないまま・・・・・・
ベッドまで駆け寄ると、脱力して目を閉じたユノが、そこに眠っていた。
床には、散在した錠剤と空瓶、テーブルの上にはグラスを横たえて。

「ユノッ・・・・・・!!!」

身体を揺すっても、ユノはグッタリとしたまま動かない。
下手に刺激を加えたらマズいかも知れない・・・・・・
頬をぱちぱちと叩いても、一向に起きる気配が無い。
空瓶に視線をやると、ラベルにハルシオンと記名があった。
何処かで聞いた名前だが、テンパっていて思い出せない。

「とにかく、電話っ・・・・・・」

手がガタガタと奮え、番号をタップするのもやっとの状態で、俺は救急車を呼んだ。

「す、すんません!ユノッ・・・・・・友人の意識が無いんです、今すぐ来て下さい!―――・・・・・・」









ハルシオンは睡眠導入剤だった。
ユノは眠剤を何十錠も服薬し、意識を失っていた。
水を張ったバスタブに、携帯を沈めて。
病院へ運ばれた後は、点滴と眠剤を中和させるための補液をした。
ユノが眠っている間、俺はずっと考えていた。
ユノは一体どうするつもりだったのだろう。
以前、泣きながら叫んでいたあの台詞が頭を過る。

――――『不安な時も寂しい時も、気が付くといつもセックスに走ってる・・・・・・ふとした瞬間、凄く虚しくなって死にたくなる!!』
――――『ぶん殴るなら殺してっ、殺してよっ・・・・・・殺してぇっ・・・・・・・・・』

まさか、とは思うが・・・・・・
浮かんだ思考を打ち消すように、俺は頭を振った。
ユノ、俺は少しの希望にもなれなかったのか?
もし寂しさや衝動に襲われていたなら、遠慮無しに俺を呼んで欲しかった・・・・・・









ユノの意識が戻ったのは、翌朝だった。
真っ白い壁に覆われた個室の中。
ベッドの背に凭れたユノが、窓の外をボンヤリと見つめている。
俺は無言のままドアをすり抜け、ベッドの端に腰掛けた。
不貞腐れた顔でユノをじっと睨む。
ユノは、眉を下げて俯いた。

「色々、不満だらけなんだけど」
「・・・・・・・・・・・・」
「一つ目・・・・・・。いつの間に男と寝てたんだよ」
「・・・・・・・・・ごめん」
「二つ目・・・・・・。ODなんて・・・・・・一体何考えてんだ」
「・・・・・・・・・ごめんなさい」
「殴ってもいい?」

俺の一言に、ユノははっとして顔を上げた。
了承の意だろう。
暫くするとぎゅっと目を閉じて、その瞬間、涙がぽろりぽろりと頬を伝い落ちた。
俺だって辛いのに、ユノの泣き顔が痛々しくて、それを見てる方が辛くて・・・・・・・・・・・・愛おしくて、堪らない。

「本当に殴る訳無いだろ。馬鹿だな」

目を閉じて身構えるユノを、優しく抱きしめた。

「チャン、ミン・・・・・・」
「・・・・・・辛かったな」
「・・・・・・うっ・・・・・・くっ・・・・・・」
「次は・・・・・・絶対に呼んでくれ。じゃないと・・・・・・」

頬を摘んでぐにぐに揺らすと、ユノはたちまち顔を皺くちゃくにした。
俺にしがみつくと、子供のように声を上げて泣いた。

「う、ううっ・・・・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・・!」
「ん」
「嫌いに、ならないでっ・・・・・・」
「なる訳ない」
「どこにも、行かないでっ・・・・・・」
「行かない。側に居る」

ユノを抱き締める腕に、ぎゅっと力を込める。
怒りはもう湧いて来なくて、ただユノに寄り添っていたいと思う。
苦しんでいるのが、痛いほどに伝わってくるから・・・・・・
知らぬ間に、俺はユノを許してしまっていた。
悲しいと、優しくなれると知った。









To be continue



◇◇◇



チャミが優しすぎるよう。
山が果てしない・・・・・・
こっから暫く山続きですけどどうか応援してあげてください。
拍手数減るなこれは(笑)
ちなみに豆腐メンタルはオタク用語です!
なーんかユノが、典型的な構ってちゃん風めんどくさい奴みたいになってますが・・・・・・(´・_・`)
ユノだから許して~(笑)
次回はユノがODした理由を書きます~



□地震について□
皆様、遅くなりましたが一昨日の地震、大丈夫でしたか?
余震、それも大きいのが続いているので本当に心配が絶えないですよね・・・・・・
読者さまのお一人が、コメントで私のことを気にかけて下さったのですが、私は宮城県住みですので被害は全くありませんよ~!
心配してくださりありがとうございます!
少しでも早く復旧が進みますように、そしてこれ以上被害が拡大しませんように・・・・・・(>_<)



気に入って頂けたら、ポチッとお願いします(*^^*)
   ↓


にほんブログ村

     

人気ブログランキングへ


スポンサーサイト

2 Comments

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2016/04/17 (Sun) 16:05 | EDIT | REPLY |   

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2016/04/17 (Sun) 16:03 | EDIT | REPLY |   

Leave a comment