愛することは、君が教えてくれた 10




































俺達は暫く走り続け、やがて公園に辿り着いた。
背後を見ても男たちの姿は無い。
どうやら、完全に撒くことができたようだ。
徐々に平静を取り戻した俺は、繋いだままのユノの手を慌てて離した。
ユノがまん丸い目で俺を見上げ、笑って言った。

「ビックリした、急に出てくるんだもん。何であそこに居たの?」
「あー・・・・・・偶然?丁度近くに用があってさ」
「そうなんだ」

咄嗟についた嘘だが、ユノは信じたようだ。
誤魔化してどうする・・・・・・
会いたくて探してた。本当はそう言いたい。
気持ちを伝えるなら今このタイミングだと思うのに、一歩が踏み出せない。
ひとり悶々としていると、ユノが再び口を開いた。
小さな声で、躊躇いがちに問いかける。

「何で・・・・・・助けてくれたの?俺、チャンミンのこと散々傷付けたのに・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「もうとっくに、嫌われたと思ってた」

ガラス玉みたいな瞳が、不安定にゆらゆら揺れながら俺を捉える。
じわじわ、愛しさが込み上げてくる。

「何でだと思う・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・」

返事は無い。
ユノは俺の頬に手を当てると、涙目になり、奮える声で言った。

「ありがと。助けてくれて・・・・・・」

頬を撫でる掌が優しくて、心がじんわり熱くなる。

「これで借りは返したな」
「借り・・・・・・?」
「初めて会った時、助けて貰った」
「あんなのは・・・・・・ただ、口挟んだだけだから・・・・・・」

ユノが切なげに眉を寄せ、親指で俺の口をなぞる。
突然のそれに、ドキッとした。

「ここ、血が出てる」
「え?ああ・・・・・・」
「うちに来て。ここからそんなに遠くないから。手当てしないと」
「え・・・・・・」

思いがけない誘いに、上ずった声が出た。
ダサいぞ俺。
戸惑う俺を見て、ユノは眉をハの字に下げた。

「嫌なら別に・・・・・・」
「ちがっ・・・・・・んなこと言ってないだろ?行くよ。手当て・・・・・・してくれよ」
「・・・・・・じゃあ」

歩き出したユノを、俺は追った。
ユノはともかく、俺はゲイじゃないのに、家に行く行かないでギクシャクするなんておかしい。
俺の気持ちはもう、伝わってしまったかもしれない。
ユノは、俺をどう思っているのだろう。
家に着くまで、あまり言葉は交わさなかった。



ドアをくぐると、正面奥にこじんまりとしたリビングがあり、そこに通された。

「座って待ってて」
「ん」

促され、赤いロングソファに腰掛ける。
キッチン、寝室、各スペース壁で区切られているが、ワンルームの作りなのでリビングからでも全て目に入る。
必要最低限の家具しか置かれていないが、デザインが効いたアンティーク調の物が多い。
カフェで働いてるだけあって、センスが良い。
空いたスペースには雑誌やCD、洋服などが散在している。
片付けが苦手なのかもしれない。
ちらりと寝室のベッドが見えて、ドキッとしてしまった。
暫くすると、ユノがケースを抱えて戻って来た。
ソファに座る俺の前に立ち、手当てを始める。
必然的に、俺がユノを見上げる状態になる。
ぱちり。また目が合って、暫く見つめ合った。
もう・・・・・・気持ちは隠さない。
じっとユノを見ていると、心なしかユノの頬が赤く染まった気がした。
不意に視線を逸らして、ユノは作業を再開する。
傷の具合を見ようとしたのだろう、頬にそっと、細い手が添えられた。
直ぐ離れて行こうとしたその手を、ぎゅっと握る。
心を決めたら、自分でも意外な程すんなりと行動に出ていた。
俺はやはり、好きなものには積極的みたいだ。

「ユノ・・・・・・」
「・・・・・・ん?」

そんなに潤んだ瞳をして、知らんぷりするなよ。
気付いてるんだろ・・・・・・?

「俺・・・・・・ユノが好きだ」

しんと静まり帰った部屋に、告白が落ちた。

「チャンミン・・・・・・」
「俺を・・・・・・恋人にしてくれ」

ユノの手を強く握り直すと、目を閉じながら身体へ額を寄せた。
伝われ、俺の想い。
暫くそうしていると、頭にそっと、手が添えられた。
顔を上げると、泣きそうに微笑むユノと目があった。
俺の髪に指を絡め、頭を優しく撫でながら、ユノ
言った。

「嬉しい、チャンミン」

ポロリ。
瞬きをしたユノの瞳から、涙が一粒、俺の頬に落ちた。
確信した。ユノも俺を想っている。
胸が、焼けそうな程熱い。
今すぐユノが欲しい。

「イエスなら・・・・・・キスして」

ユノは黙り込んでしまった。
俺の手を握る力が、強まったり弱くなったりする。
何か躊躇っているように感じた。
ユノは俺の頭を抱えると、胸にぎゅっと抱き寄せた。
キスは・・・・・・してくれないらしい。

「・・・・・・駄目、なのか?」
「だって・・・・・・本当に大事なものは、汚せない」
「何言って・・・・・・汚れるなんて・・・・・・」

ユノが懸命に首を振って、その拍子に涙が散った。
自分の価値を否定するその姿が、見ていてとても痛々しい。
俺は、ユノを見上げながら訴えた。

「何してもっ・・・・・・もしユノとそうなっても、俺は汚れたりなんかしない。これまで相手した男達だって皆そうだ。汚れるなんて・・・・・・」

俺の言葉を遮って、ユノは言った。

「それだけじゃ無い。今日みたいに、チャンミンを巻き込む事になったら俺・・・・・・」
「その時は・・・・・・また戦えばいい」
「駄目、そんな事させられない」

一番早い方法は、男達との関わりを絶つことだ。
その為にはまず、病気の完治が必須だが。
今直ぐ治せるなんて思っちゃいないが、それでも傍に居て支えてやりたい。

「・・・・・・俺のこと、どう思ってんの・・・・・・?」

鼻を啜りながら、小さな声でユノは言葉を紡ぐ。

「・・・・・・凄く、凄く大事」
「なら・・・・・・」
「大事だから・・・・・・!そんな簡単に、手出せない・・・・・・」
「じゃあ、すぐ出さなくていいから付き合って」
「・・・・・・・・・・・・」

それでも、ユノの返答はこうだった。

「・・・・・・考えさせて」
「何時まで待てばいい?」
「分からない」
「無責任なこと言うなよ」
「・・・・・・覚悟が、出来るまで」

どうしても、今直ぐ了承する気は無いらしい。

「じゃあ予約する。いいだろ?」

もう見つめるって言うより、睨んでいる気がする。
じっと視線を送っていると、ユノは沈黙の末やっと、コクりと頷いた。

「はああぁっ・・・・・・・・・・・・!」

心の中で強くガッツポーズを決め、安堵の溜息をついた。
それでも、今は恋人じゃないから手を出しちゃいけない。
生殺しってこういうことだな。
俺も真面目過ぎる気がする。

「俺、面倒臭くてゴメンね」

ユノが弱々しい声で言った。

「とっくに知ってる」
「う・・・・・・」
「それでも、一緒に居たいんだ」

泣き笑いを浮かべるユノが、凄く愛おしい。
俺の全部、ユノに持ってかれる。
今迄恋愛出来なかったのが嘘みたいだ。



手当てが終わった後は、ユノに出されたココアを飲みながらだらだら話した。
告白に必死で気付かなかったが、時計に目をやるともう随分遅い時間だった。
駅は直ぐそこなので、終電には間に合うだろう。

「そろそろ行くよ」
「心配だから・・・・・・その、泊まってく?」

これから一晩、ユノに何もしないで過ごすなんて拷問にも程がある。
家に着いたら一報入れることにして、誘いは流石に断った。
俺の気持ちを汲んでか、ユノもそれ以上誘っては来なかった。
家を出る間際。

「・・・・・・あのさ」
「ん?」

俺は意を決して申し出た。

「その・・・・・・セックスしたくなった時は・・・・・・俺を呼べよ」
「え・・・・・・?」

沈黙を埋めるようと、慌てて言葉を紡ぐ。

「違っ・・・・・・!!変な意味じゃ無くてその・・・・・・よく、分かんないんだけど・・・・・・一緒に居てやることは出来るから・・・・・・。だから、遠慮しないで呼んでくれよ」

ユノは、小さく微笑みながら頷いた。

「ありがと、チャンミン」



外に出ると、ユノの部屋を見上げた。
ベランダに立ってこちらを見ながら、「おやすみ」と口を動かし、笑う。
少しは元気になったみたいだ。

「おやすみ、ユノ・・・・・・」

何度か振り返りながら、俺はユノの家を後にした。








ユノに出会ってから、確実に世界は変わり始めている。
今迄じゃ有り得ない経験の連続だ。
疲れてもおかしくないのに、不思議な事にエネルギーが湧いてくる。
きっとユノの傍に居られることが、俺の一番の喜びなんだ。
ユノのぬくもりを思い出し、身体の芯からジンと痺れる。
セックスしたかったら俺を呼べなんて、いつか堂々と言ってみたいもんだ。
妄想の世界に意識を飛ばして、口を緩めながら俺は呟いた。

「きっと、世界一幸せな童貞卒業だな・・・・・・」

その日まで・・・・・・
耐えろ、シム・チャンミン。









To be continue



◇◇◇



結局そこですか(笑)
10話でキスさえしないでハグ止まりなんて、このふたりNBのお話史上最高のピュアーカポーじゃないでしょうか(笑)
ああでも、最終回までそんな描写書きますよ、勿論♡
このチャンミンは趣味でも何でも、標的にロックオンするともう一途に突っ走るタイプですね。
これからもっと凄くなりますので、応援してください(笑)
次回から更に展開が動いていきます。
色々問題ありますが、あったかい雰囲気大事にしたいなぁ。
そして、たっくさんの拍手ありがとうございます!
コメントもいっぱい頂いて、飛び跳ねながら喜んどります~(*´ω`*)
エネルギーむしゃむしゃ♡



気に入って頂けたら、ポチッとお願いします(*^^*)
   ↓

     

人気ブログランキングへ


にほんブログ村


スポンサーサイト

2 Comments

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2016/04/10 (Sun) 17:04 | EDIT | REPLY |   

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2016/04/10 (Sun) 12:31 | EDIT | REPLY |   

Leave a comment