愛することは、君が教えてくれた 9





































『やっぱり、俺と関わらない方が良かったでしょ』
『・・・・・・・・・・・・』
『さよなら、チャンミン』

あの日。
ユノはそう言い残すと、頼りない足取りで去って行った。
今はもう、ユノと連絡を取っていない。
性行為に依存するのは俺には理解しがたいことだが、ユノはどうやらそれに苦しんでいるようだ。
そして、以前クラブで聞いたあの言葉の意味がやっと分かった。

―――『俺だから言ってる!辛さが分かる、俺だからっ・・・・・・』
―――『俺みたいになるな、チャンミンッ!!』

ユノは、性行為に依存している現状が辛い。
そんな立場だからこそ、俺には簡単に寝ない方がいい、慎重になれと忠告したのだろう。
あんなに泣いて取り乱されたせいで、俺は怒りのやり場を無くしてしまった。
綺麗さっぱり忘れてしまえば楽なのに、気が付けばあの日のことを思い出している。
性行為への依存について頭を捻らせている。
どうしてあんなに面倒臭い奴に執着するんだ俺。
ああ、俺の頭が一番面倒臭い。









「いらっしゃいチャンミン。どうしたの?」

急な訪問を、イトゥクさんは今日も笑顔で迎えてくれる。

「いや・・・・・・ちょっと、相談があって・・・・・・」
「どうぞ」

ソファに俺を座らせ、何時も通りコーヒーを出してくれる。
俺は、マグカップの中の深い茶色を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。
これまでのユノとのエピソードを、辿々しくなりながらも出来る限り話した。
勿論、ユノの名前は伏せて。

「そっか。その友達、辛いだろうだね・・・・・・」
「セックスに依存なんて・・・・・・実際あるの?」
「勿論。性依存症という病気だよ。認知度はまだ低いけどね。チャンミン、アルコール依存症は知ってる?」
「うん」
「その対象が、性行為だと考えてごらん」
「・・・・・・まあ、ちょっと納得」
「線引きが難しいとこだけど・・・・・・本人が性行為に罪悪感を持ってたり、生活に支障が出てるなら深刻だね」
「うん、正にそんな感じだよ・・・・・・」
「彼等は、いけないと思っていても止められないんだ。悪化すると、自分の身体を酷使するようになる。それは凄く危険だし、自傷行為と同じようなものだ」
「自傷・・・・・・」

電話で聞いた乱暴な男の声が蘇ってきて、俺は眉を潜めた。
確かに、あんな奴に進んで抱かれようとするなんて自傷行為だ。

「どうして依存なんてすんだろ」
「僕は、根本に依存の原因となる何かがあると思ってる。これまで診てきた患者さんも殆どそうだったからね。性依存が目立つけれど、それを引き起こしてる本人の問題を解決しないと、完治に至らないのさ」
「例えば?」

追求したがる俺に、イトゥクさんが言い聞かせる。

「これは一概には言えないことだから、あくまで参考程度にね。僕も、その友達を直接診療しないと何とも言えない」
「分かってる」

俺が頷くと、イトゥクさんは続けた。

「通常よりもストレス過多なケース・・・・・・一般人より注目される著名人に多いってデータもある」
「著名人、ね・・・・・・」
「親と良い関係を築けないとか、性的虐待を受けた経験がリスク因子とも言われてるね」
「ふうん・・・・・・」

ユノの家庭の事情なんて、全く知らない。
まだ数えるくらいしか会ってないのだ。

「その友達とはもう、連絡取ってないの?」

俺が頷くと、イトゥクさんは優しい笑みを浮かべた。

「でも気になるんだ、チャンミン」
「・・・・・・・・・・・」
「その子の事が好き?」

イトゥクさんには、ユノが男だと伝えていない。

「・・・・・・そう見える?」
「友達が病気だとしても、傷付けられた事に変わりは無いでしょう。それなのに気にかけてあげるなんて・・・・・・ね?」

そう見えるんだな・・・・・・
俺は、素直な気持ちを打ち明けた。

「自分でも、こんなこと初めてで動揺してる」

イトゥクさんが、笑みを浮かべたまま頷く。

「多分・・・・・・好き・・・・・・なんだと思う」

そう口にした途端、顔も身体も急激に熱くなって狼狽えた。
遂に、ユノへの想いを認めてしまった。
物凄く恥ずかしいのに、以外にも心は軽くなったような気がした。
これまでは、格好つけて気持ちを押し込めてていたから、今堂々と好きと言える、それがなんだか気持ち良かった。

「もしその子と仲直りしたら、僕で良ければ診察するよ」
「ん。ありがと」

また会えるかどうか、それは分からない。
だけど・・・・・・
こんなに傷ついてもまだ、再会を望む俺が居る。









俺はひとつの事に夢中になると、のめり込むタイプだ。
それは趣味に限らず、恋愛も同じらしい。
会わない時間が続くと、俺はむしろユノの事ばかり考えるようになってしまった。
泣きながら殺してくれと叫ぶなんて、いつ変な気を起こしてもおかしくない。
心配は絶えないが、自分から連絡する勇気はなかった。
ユノの存在を確認するために、毎週ラジオを聴いて自分を安心させていた。
会おうと誘って拒絶されるのが怖かったし、ユノの病気を受け止める自信も無かった。



今夜も俺は、ステレオ越しにユノの声を聞く。

『あっという間に終わりの時間が来てしまいました。今日も、僕から一曲お届けします。・・・・・・“偉大な男に、ヒーローになりたい訳じゃない。ただ、一緒に足掻く仲間が欲しい”そんな歌詞には共感します。この曲は「6歳のボクが、大人になるまで」という映画の主題歌にも使われました。Family of The Year で “Hero” どうぞ』

テンポの良いギター前奏とともに、歌が始まった。
どこか懐かしさを感じさせるメロディで、爽やかなイントロが続いたあと、後半にかけバックミュージックが重なり盛り上がっていく。
聞いているうちに、すごく惹きつけられた。

「ほんと期待を裏切るよな。その外見でラップのひとつも聴かないのかよ」

ユノの選曲は悪く無いが、毎回見た目とのギャップを感じさせる。
いかにも主流の曲を聴いてそうに見えるから。
「6歳のボクが、大人になるまで」をレンタルして見ると、ひとりの少年が離婚などの家庭問題に揉まれ、ある時には初恋を経験し、成長してゆく過程を描いた話だった。
淡々とした成長記のような内容で、その中には暴力を振うアル中の義父も登場した。
いつもの俺ならサラリと流すのだろうが、イトゥクさんの話を思い出し、つい敏感に反応してしまった。










ユノと最後に会った日から、一ヶ月以上が過ぎた。
俺は未だ連絡出来ずにいる。 
でも、どうしてもユノの顔が見たかった。
会社帰り、俺は直帰せずに、クラブのある方向に向かって電車を乗り継いだ。

「コソコソ偵察するなんて、情けないよな。でも仕方ないだろ?俺はこういう男なんだ」

ボソボソと独り言を漏らしながら、電車に揺られた。
駅に到着すると、夜にしては随分明るい通りを歩いてクラブへ向かった。
苦手な人ごみを失神しない程度に彷徨い、店の周辺も回ったが、とうとうユノを見つけることは出来なかった。
多分、今日はもう会えない。

「帰るか・・・・・・」

帰り道、ふと視線を横にやると、ネオンで飾られた狭い通りが目に入ってきた。
何軒も並ぶホテルの中に、微妙なセンスの名前を見つけて俺はぼやいた。

「“ホテルごっこ”かよ・・・・・・。真面目にやれこの野郎」

まあいい。俺には縁の無い世界だ。
通りを横切ろうとした、その時。

「もう、離してってば・・・・・・!」

聞き覚えのある声が聞こえた。
ピタリと歩みを止め、もう一度通りに目をやると

「あ・・・・・・」

探していた姿が、そこにあった。
大柄の男と何やら揉み合っている。

「今日はそういう気分じゃない」
「我侭言うんじゃねえ!黙って俺の言うこと聞いてりゃいいんだよ、お前は」

男がユノの身体を、路駐した車に向かって突き出す。
車からもう一人男が出てきて、二人がかりで乱暴にユノを引きずり込もうとしている。

「ユノ・・・・・・」

俺は硬直しながら、掠れた声で名前を呼んだ。
ユノが危ない。でも怖い。いや、迷ってる場合じゃないだろ俺。

「嫌だ、嫌っ・・・・・・!」

ユノが叫んでいる。
俺は・・・・・・

「誰か助けてっ」

俺は、ユノを助けたい。
もしこの身体が、ボロボロになってしまったとしても。
ここで逃げたら、俺はきっと一生後悔する事になる。
ユノの身体が車に消える直前。

「うあああああああ!!!」

気付いたら俺は、叫びながら男めがけて走り出していた。
勢いに任せ、ジャンプして、男にとび蹴りを食らわした。
蹴ったポイントが良かったらしく、男はバランスを崩して尻餅をついた。
俺を見た途端、ユノは目を見開いた。

「チャンミン・・・・・・!?なんで・・・・・・」
「ったく・・・・・・あんた、男の趣味悪すぎだぞ!」

その直後のことだった。
背後から突然身体を拘束され、腹にパンチが直撃した。
しまった・・・・・・
男が二人いるのを忘れていた。

「ぐっ・・・・・・げほっ・・・・・・」
「チャンミンッ!」

地面に蹲った俺に、二人分の強烈な蹴りが炸裂する。

「邪魔しやがって!死ね糞坊主!」

目を瞑って、ひたすら痛みに耐える。
ああ、このまま本当に死ぬかもしれない。
っていうかユノ、性欲処理にしても相手を選べよ。
こんな気性の荒い奴らに手出して、馬鹿だな・・・・・・・

「もう止めてぇっ!」

叫び声が聞こえたあと、蹴りの衝撃が和らいで、俺は暖かいぬくもりに包まれた。
ユノが俺に覆い被さっている。

「離れろユノ、邪魔だ!」

男達は、ユノが庇っていようとも遠慮無しに蹴り続ける。
だけどユノは、俺にひっついたまま離れない。
もの凄く痛いだろうに。
俺の肩に顔を埋めながら、ユノが嗚咽を漏らした。
泣いているのか・・・・・・?
暖かい体温に、優しさに心が痛む。
もう、ユノを悲しませたくない。傷付けたくない。
自分でも知り得なかった、強いパワーが湧いてくる。
弱くても、立ち向かえる。
負けてたまるか!
俺は力を振り絞って起き上がった。
姿勢を崩したユノを支えて、じっと見つめる。
俺を信じて任せてくれ。震える瞳に訴えた。
素早く立ち上がると、勢い良く目の前の男に殴りかかった。
拳が顔面にめり込んだ途端、男は「ぐあっ」と声を上げた。

「チャンミン危ない!」

ユノが叫んだ。
後ろから、もう一人の男が殴りかかってくる。
ユノの声に反応して、俺は背後から飛んできたパンチを何とかかわした。

「お前、結構やるじゃねえか・・・・・・」
「ハハ、まあね・・・・・・」

男二人に囲まれる。
殴った男の口元は切れ、頬も腫れている。
どうしよう、初めて人を殴ってしまった・・・・・・
動揺で、拳がぶるぶると震えた。
男二人にじりじりと迫られ、ユノを背後に庇いながら後ずさる。
今のはマグレだ。
これ以上続けても、喧嘩慣れしてない俺にきっと勝ち目は無い。
男がニヤリと笑い、ポケットからあるものを取り出した。
手に握られているのは、ギラリと光るサバイバルナイフ。
鋭い刃先を向けられて、身体が硬直した。

「ヤバイ・・・・・・」

気付かれないように、そっとユノの手を握る。

「・・・・・・・・・・・・逃げるぞユノッ!」
「わっ」

そう叫んだのを合図に、俺はユノの手を引きながら全力で走り出した。

「待てコラ!!」

手を強く握り合いながら、背後を何度も振り返り、全力疾走する。
暫くの間は足を動かすのに必死で、ただ互いの息継ぎだけを聞いていた。
ここは、若い俺達の方が有利だったようだ。
男達は、少しずつ遠くなってゆく。
緊張が緩んでネジが飛んだのか、可笑しさが込み上げてきて俺は笑った。

「くっ、はははっ・・・・・・」

目が合うとユノもクスリと笑い、そのまま声を上げて笑った。

「くふふっ、ははっ!」

ああ。俺はずっと、その笑顔が見たかったんだ。
逃げている最中だというのに、俺もユノも笑っていた。
握り合った手はそのままに。



頭の中で、ユノのラジオで聞いたHeroが流れている。
俺は別に、立派な男になりたい訳じゃない。
ユノのヒーローになれるとも思っていない。
でも・・・・・・
こうして隣で、一緒に足搔いていたい。
なあ、君もそう思うだろ?ユノ。









To be continue



◇◇◇



おや、いい雰囲気ですね。
これからラブラブ傾向ですよ、うふふ♡
それにしてもユノ、本当に趣味悪すぎ( ´_ゝ`)
チャンミンは、外見かっこよく変身しても中身のオタ感は失われないように書いてます。独りゴト言ったりね(笑)
思いのほか沢山の拍手、こめとってもうれしいです!ありがとんです~(*´ω`*)
読者さまもミンホブームなのか、旧作のミンホ作品(ROCK YOU、turn over、店長シリーズ、常闇)にも連日拍手を頂いております。凄くうれしい!
もりもりがんばります♪
コメは明日までにお返し致します。
まとめる形になりまして申し訳ありませんm(__)m

あ、皆様例のサジン見ました?
公式で過去最大級のやっちゃいましたね・・・・・・
チャミのチャック開いてるのは何で?(笑)
ユノの瞳が濡れてる気がする・・・・・・ミンホ派向け?(笑)
ってか、あそこの会社って毎回ベーコンレタス風の写真ですよね。
社長がそういうの好きとか?
え、私は勿論嫌いじゃないです。



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2016/04/10 (Sun) 21:30 | EDIT | REPLY |   

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2016/04/10 (Sun) 16:48 | EDIT | REPLY |   

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