常闇の魚は愛を知るか? 12











常闇



















もしチャンミンが、俺以外の誰かに一番に懐いていたら?
俺はきっと嫉妬してしまうだろう。
会う度抱きついてきた事、身体を重ねた夜、悲しみに気付かずに涙を流していた姿、今となっては全てが愛おしい。
過去に受けた屈辱さえ、互いに解り合うために必要だった出来事だと思える。
養育者のような気持ちで居た筈が、何時から愛に変化していたのか。

「このまま逝くのかよ」

ピクリとも動かないチャンミンに語りかける。

「最後まで振り回しやがって・・・・・・。仕返ししてやろうと思ってたのにこれじゃあ出来ねえよ。お前の命と引き換えに救われて、俺がこの先楽しく生きられると思うか?ほんの一瞬でも・・・・・・」

一向に無反応な寝顔が哀しくて、俺は背中を向け歩き出した。
その時・・・・・・
背後で、これ迄規則的に繰り返されていた呼吸音が僅かに乱れた。
ゆっくりと後ろを振り返ると、チャンミンはうっすらと開眼していた。

「チャンミンッ・・・・・・!!」

俺は直ぐさま駆け寄り、チャンミンの手を握った。
微かに開かれた瞳はゆっくりと動き、しかし確実に俺をとらえた。

「ユ、ノ・・・・・・・・・・・」

呼気だけで、チャンミンは俺を呼んだ。

「そうだチャンミン、俺だ解るかっ?」

チャンミンは小さく笑うと、ぽつぽつと言葉を紡いだ。

「・・・・・・どうしたの?泣きそうな、顔をして・・・・・・」

本当に、気を緩めたら一秒先には泣いてしまいそうだ。

「・・・・・・・・・・・・気付いたんだ。俺は、お前が好きだって」

チャンミンのぼんやりとした瞳が、少しだけ揺れた。

「僕も、ユノが好きだよ」

俺はチャンミンを見つめながら、自然と微笑んでいた。

「・・・・・・おかしいな。ユノが凄く可愛く見える」
「ばか。嬉しくねえよ」
「でも、笑ってる」
「いいから、もう黙りな」

しかしチャンミンは口を閉じずに、思いがけない要求をした。

「キス、したい」
「は?」
「キス、して・・・・・・」
「お前なぁ・・・・・・」

目覚めて直ぐそんな事を強請るなんて、思ったより元気みたいだ。
場所を考えるとマズいが、酸素マスクをした状態じゃ出来そうにない。

「今は駄目だ」
「ユノ・・・・・・・・・」
「駄目だっつの」

チャンミンは弱々しく俺の袖を握りながら、潤んだ瞳でじっと見上げてくる。
諦めないのサインだ。

「・・・・・・あーもう、ちょっとだけな!?」

俺が折れるとチャンミンは口元を緩めた。
それを見て、可愛いし許してやろうと思う。
俺もだいぶ重症だ。
酸素マスクに手をかけ、口から浮かせたその時・・・・・・
アラーム音が鳴り響いて、看護師が部屋の外から駆けつけた。

「どうしました?」
「いやあの・・・・・・コイツ、ついさっきを覚ましたんですが、水を飲みたいみたいで・・・・・・」
「意識が戻ったんですね!先生に連絡しましょう。お水はもう少し待って下さい」

看護師はそう言うと、慌ただしく部屋を出て行った。

「僕が欲しいのは、水じゃない」
「分かってるよ。後で好きなだけしてやっから、今は我慢しな」

勢いでそう口走ると、チャンミンは嬉しそうに笑った。

「全く・・・・・・」

顔が熱い。
意識が戻った直後から振り回されるとは思っていなかった。
俺はため息をつくと、携帯を手に取り如月に連絡を入れた。

『もしもし』
「シウォンか?俺だ」
『どうなさいました?』
「ついさっき、チャンミンの意識が戻った」
『ほ、本当ですか!』
「ああ。会長にも伝えてくれ」
『分かりました。すぐ向かいます』



暫くすると、シウォンと会長が幹部の数人を引き連れて来院した。
会長はチャンミンを見下ろしながら言った。

「やっと目を覚ましたな。今回はお前にしてはまともな事をしたじゃないか」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「今はゆっくり休みなさい」
「・・・・・・・・・・・・・・」

チャンミンはうっすらと目を開けながら、黙ってそれを聞いていた。

「ユンホくん、ちょっといいか」
「はい」

病室の外へ向かった会長の後をを、俺は追った。
俺と会長は、待合のソファへ対面で腰掛けた。
まるでホテルかのような広々とした空間だ。
会長は、何処か遠くを見つめながら呟いた。

「チャンミンはもう、目を覚まさないと思っていた・・・・・・。もしかすると君に会いたくて、生きる事を選択したのかも知れないな」
「・・・・・・どうでしょう。取り敢えず、意識が戻って一安心です」
「誰かを庇うなど、今までのあいつなら考えられん事だ。君に相当懐いているようだが、それだけの関係では無いな?」

チャンミンに似た、くっきりと大きな瞳が俺を捉えた途端、心臓が跳ねた。

「ユンホくん・・・・・・チャンミンに抱かれているんだろう」
「・・・・・・・・・・・」

動揺を無表情の下に隠す。
監禁生活の頃から続いて来た事だ。
周知される事は覚悟していたが・・・・・・
俺の無言の肯定に、会長はため息をついた。

「困ったな。まさか、こんな事になるとは・・・・・・・」
「・・・・・・俺たちの関係が不満ですか」
「君を慕うだけなら構わん。しかし愛情が絡むと厄介だ。愛する感情が行き過ぎると、時に人は弱くなり己を見失う。そうなった人間は、組織の人材としては欠陥品だ」
「今のチャンミンがそうだと?」
「私の妻は、愛に溺れた挙げ句生きる目的も見失い、最後には自死した馬鹿な女だった。見たところ、チャンミンも随分と君に依存している。同じ道は行かせたくない」

平静を装いつつも、怒りが心の中で渦巻いている。
もしチャンミンではなく他の誰かなら、ただ同情して終わる事だろう。
でも想いを自覚した今、黙ってはいられなかった。
仕事として、教育者としてじゃなく、俺は完全に一人の男としてチャンミンを見ている。
それで感情的になっている事も分かっていた。

「・・・・・・それは、俺しか受け入れる奴が居なかったからだろ」

会長が、僅かに眉を寄せた。

「長年孤独なまま生かされて、まるで生きる屍みたいだった。そんな奴がいきなり仕事なんか・・・・・・んな器用な事、出来る訳がない」

声が震える。
胸が、焼けるように熱い。

「チャンミンはただ、愛されたかったんだ・・・・・・誰かを愛したかったんだ!」

俺の声が、静まり返ったホールに響いた。

「父親の立場より会長の立場を優先する。昔からそうやって生きてきた。今さら変えられん」

会長は立ち上がると、去り際俺の肩に手を置いて言った。

「状態が安定するまでは、チャンミンの側に居てやってくれ」
「・・・・・・・・・・・」

どんなに足掻こうとも、絶対的な権力を持った会長には敵わない。
交流が取り引きのようなこの世界では、真面目に人と向き合ってる奴の方が馬鹿のように映る。
何処か性に合わないルールに、自分を騙し騙し何とか着いてきた。
でも今回は、チャンミンという存在が大切で、そう簡単に妥協することが出来ない。
組織の枠に捕らわれ、逃げる事を選んだチャンミンの母親の気持ちが、今なら少し分かる気がした。

「絶対に離さない。何があっても・・・・・・」

拳を、強く握締めた。









◇◇◇



うーん、暗い。
チャンミンが折角目覚めたのに~
コメントは本日中にお返し致します!
あ、皆さんSTAY2買いますか?
あれって、一冊めと全く違うんでしょうか?
悩み中だけど結局買う予感(笑)



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2 Comments

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2016/03/07 (Mon) 22:46 | EDIT | REPLY |   

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2016/03/07 (Mon) 19:49 | EDIT | REPLY |   

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