常闇の魚は愛を知るか? 11










常闇



















オペ室前の廊下に、俺は居た。
俯いて目を瞑りながら、ただじっと沈黙を貫く。
隣に居るシウォンも、同じように無言のままだ。
「手術中」の赤い光が消え、オペ室の中から医者が現れた。

「坊っちゃんは・・・・・・」

シウォンがそう問うと、医者は深刻な顔で答えた。

「何とか一命は何とか取り止めましたが・・・・・・それだけでも奇跡です。いつ急変が起きてもおかしくありません。このまま、意識が戻らない可能性もあります」
「・・・・・・そうですか」
「重症室でモニター管理にしましょう。何かあれば、直ぐに連絡します」

チャンミンはまだ生きている。
例え意識が無くても、命が続いている。
その事実に救われた。

「少し休んで下さい。長い間一睡もせず、疲れたでしょう」

そう言って、シウォンが俺の背中を撫でる。
チャンミンが撃たれてから手術が終わるたった今まで、時間を気にする余裕などなかった。
とっくに、日は跨いでいる気がする。

「俺は部屋に残る」
「しかし、少しは休まれないと・・・・・・」
「そうしたいんだ。いいだろ?」
「・・・・・・分かりました」

交代でチャンミンの側につくことにして、シウォンは一旦、如月の本部へ戻るため病院を出た。
病室へ足を踏み入れると、俺はベッドで眠るチャンミンの元へ歩み寄った。
青白い顔。線の細い身体。
ピクリとも動かない、瞼で覆われた瞳。
それらを見て、せり上がって来る熱いものをぐっと耐えた。
絶対に泣くもんか。泣いたら死を認めたことになる。

「馬鹿かてめえは・・・・・・」

返事は無い。

「誰が庇えなんて言った」

目を開けてくれ。

「こんな事させっために、お前を教育したんじゃねんだよ」

―――『どうしたの?そんな恐い顔して』 何時もみたいに、悪気のない顔でそう言って笑ってくれよ。

「チャンミン・・・・・・」

無機質で平淡なモニターの音だけが、部屋に響いていた。









再び来院したシウォンが、組織の様子を俺に伝えた。

「貴方を狙った三下の男は処分しました」
「そうか」
「始末する前に全て吐かせましたが、単独で行った様です。我々の管理が甘かった。本当になんと詫びれば良いのか・・・・・・」

遺憾そうに呟くシウォンに、俺は小さく笑いながら返した。

「アンタらとは長年対立してたんだ。若頭の俺が、こんだけ無防備な状態で普通に仕事して来れた。そっちの方がすげえよ」

シウォンは暫し黙ってから、また口を開いた。

「貴方も坊っちゃんも、如月の男・・・・・・紅蓮の後継ぎの貴方が二月に誕生し、そして二年後の二月には坊っちゃんが誕生した。その時から、噂されていましたよ。もしかすると、分裂したふたつが元に戻るんじゃないかってね・・・・・・」
「へぇ。ただの偶然を大袈裟に言ったもんだな」
「実際貴方は、あの坊っちゃん相手に見事信頼関係を築かれた。坊っちゃんは如月にとって偉大な存在だが・・・・・・坊っちゃんを更生させつつある貴方も同じ。全員が敵意を持っている訳じゃない。貴方は組織にとって有益だと、一目置いている人間も沢山居ますよ」

俺はそんなに特別なことをしただろうか。
チャンミンは一見残虐な異常者の様に見えるが、殻を破ってしまえばガキみたいに純粋だった。
きっと、愛に飢えていただけだ。
俺じゃない誰かがチャンミンを救えなかったのか。
こんなにも、孤独に陷ってしまう前に。
苛立ちを感じ拳を握り締めた。
俺は初めて、チャンミンを思い周りの人間に腹を立てた。









チャンミンが搬送されてから丸三日が経った。
依然として覚醒する様子がない整った顔に語りかける。

「お前、俺と同じ二月生まれだって?知らなかったよ。死なねぇで生きてたら、俺が祝ってやる」

返事が無くても、装着した酸素マスクは呼気で白く曇っている。
息をしている。生きている。
でも今の状態は、機械で何とか命をつなぎ止めているだけだ。
一向に目を覚ます気配がないチャンミンは、もしかするともう、生きる事を望んではいないのかも知れない。
俺がチャンミンの立場なら、間違いなくそう思う。
なあ、俺は一筋の光にもなれなかったか?
お前を少しでも救う事が出来たと感じたのは、俺の思い違いか?

「お前は俺を振り回して満足かもな。でも俺は違う」

無反応なチャンミンを見て、切なくなる。
知らぬ間に、ぽつりと本音を呟いていた。

「置いてくな・・・・・・。お前が居ないと、寂しい・・・・・・」

まるで俺じゃない様な、自分でも聞いたことの無い弱々しい声色だ。
もうこれ以上、此処に居られない。
弱く惨めな自分を、感じたくない。



事務所へ戻った俺を、夜遅いというのにジョンヒョンが出迎えた。

「おかえりなさい、兄貴・・・・・・」
「ああ」
「飯、ちゃんと食ってます?窶れたんじゃないですか」
「食ってる。気のせいだろ」

本当は食欲もロクに湧かなくて、一日一食無理矢理口に押し込み、病室に張り付いて過ごしている。
ジョンヒョンが苛ついた様子で、頭を乱暴に掻きながら言った。

「もう俺・・・・・見てらんないっすよ。アイツが死ぬのがそんなに悲しいすか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「俺は、アイツに兄貴を庇って死ぬ程の前科があると思ってます。大事な若頭の兄貴を、監禁したうえまるで玩具みたいにっ・・・・・・そうでしょ?!」
「だな・・・・・・」

きっと誰しもが同じ事を言うだろう。
けど俺は、それを望んではいない。

「じゃあ何で・・・・・・そんな悲しい顔すんだよ・・・・・・」

ジョンヒョンは、顔を歪めながら俯いた。
かつて最大に情けない姿を曝す俺に、戸惑っているのかも知れない。

「見たまんまだよ。悲しいんだ。あいつが、死ぬかも知れないと思うと・・・・・・」
「兄貴・・・・・・」

ずっと、チャンミンが俺に依存していると思っていた。
でも今になって気付かされた。
チャンミンの生死に執着して、取り繕えない程に落ち込んでしまう俺もチャンミンに依存している。
俺は、俺は――――・・・・・・


「・・・・・・好きなんだ。アイツの事が」

俺の告白を聞いて、ジョンヒョンは苦し気に目を瞑った。
呟きは、深夜の暗い廊下にぽつりと落ちて、消えた。









◇◇◇



チャミ、誕生日おめでとう!
イラストUPしたかったけど無理でした。
センイル記事もUPせずこんな暗ーい話の更新すみません!
でもケーキは食べたよ!一人でね・・・・・・

実は今、前回の記事で紹介した新しい話
卑屈男チャンミン × 精神病のユノ
の話が書きたくて書きたくてたまらないのです。毎日妄想してます。
でもまずは連載中のものを消化してからですね。
常闇も後半に差し掛かりました。
たぶん私の作品の中で一番悲しいお話ですが、残り数話、心を込めて頑張って書きます。



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3 Comments

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2016/02/21 (Sun) 23:03 | EDIT | REPLY |   

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2016/02/21 (Sun) 21:07 | EDIT | REPLY |   

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2016/02/20 (Sat) 23:33 | EDIT | REPLY |   

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