常闇の魚は愛を知るか? 8










常闇




















「おや、お休みになられたのですか」

運転席に乗り込んだシウォンは、俺の膝に頭をのせて眠るシム・チャンミンを見て、小さく微笑んだ。

「疲れたんだと。車に乗せられただけでこんなだぜ?困った坊っちゃんだ」
「お優しいですね、貴方は」
「下手に反抗するとコイツ直ぐに銃向けるからな。こんくらい我慢するよ」

シム・チャンミンが、小さな寝息を立て始めた。

「おい、本当に寝たのか?」

返事は無い。
ハンドルを操作しながら、シウォンは言った。

「坊っちゃんが、他人相手にこんなにも気を抜くとは・・・・・・本当に驚きだ。幹部の人間でさえ近付けようとしないのに」
「・・・・・・・・・・・・」
「貴方がテリトリーに入る事を受け入れたのでしょうね。我が儘ばかりで、思いやりには欠けますが」
「何で俺なんだ。さっぱり分からん」

すると、シウォンがポツリと呟いた。

「凍りついた心を溶かす何かが、貴方にはあったから・・・・・・」
「は?」

シウォンは、真剣な声色で問いかけてきた。

「貴方には、坊っちゃんを見捨てずに育てる覚悟がありますか」
「まぁ・・・・・・出来るこたぁやろうと思ってるよ」
「・・・・・・今日、本部へ着いたらお話が有ります。お付き合い頂けますか」
「別に良いけど」

真剣な口調から、それが深刻な話題である事を悟った。



その後、土地を幾つか回ってから如月の本部へ到着した。
眠気の抜けないシム・チャンミンを二人で部屋まで送り届けてから、シウォンに連れられある部屋へと向かった。

「こちらです」

シウォンが扉に鍵を差し込み、中に俺を通した。
狭ぜまとした部屋の中に、幾つもの棚が置かれている。
棚には何かの資料と思われる紙の束やCDROM、ビデオテープが並んでいる。

「此処は?」
「うちの役員の資料庫ですよ。全員の個人データを此処に仕舞い、管理しているんです。勿論、坊っちゃんのデータもね」

棚の中から一本のビデオテープを取り出し、シウォンは言った。

「私の部屋でこれを見ましょう」



シウォンの部屋は、仕事の資料で溢れかえっていた。
本来若頭が勤める筈の業務を受け持ち、会長やシム・チャンミンのサポートもしているシウォン。
負担は大きいだろうと思う。
それがまざまざと感じられる部屋だった。
シウォンが再生機にビデオテープを差し込むと、やがて、真っ暗だったテレビ画面がある映像を映し出した。

『おいで。こっちよ、ほら』
『ママァー』

女性の声がけに応えながら、小さな子供が覚束無い足取りで歩いている。
ニコニコと笑っていた子供は、こてんと転んだ後、顔をくしゃっと歪ませて泣き始めた。
すると、画面の外から女性が駆けてきて子供を抱き上げた。

『泣かないの。痛いの痛いの、飛んでけーっ』

それでも泣き止まない子供を、女性は困ったように笑いながらあやし続けている。
今度は、別の場面へと切り替わった。
先程と同じ子供が、河川敷で花を摘んで集めている。

『それ、どうするの』
『ママにあげるの。喜んでくれるかなぁ』

そう言って笑う子供は、見た目喋りとも、始めの映像よりも成長している印象を受けた。
画面が映し出すのは、ある家庭のありふれた幸せ。
今ではそれとかけ離れた世界に居ながらも、懐かしく微笑ましいもの。
子供からは、よく知る顔の特徴をしっかりと読み取れる。

「これって・・・・・・」
「坊っちゃんですよ。幼い頃の。女性は坊っちゃんの母親。撮影しているのは会長さまです

シウォンは、画面を見つめたまま続けた。

「坊っちゃんは、奥様をとても慕ってらっしゃった。その心から当然、人を思いやる事も学んだに違いない。坊っちゃんが小さな頃から傍で見てきましたが、誰にでも優しく、滅多に怒らない穏やかな子供でした」
「・・・・・・・・・・・・」
「しかし・・・・・・奥様は組員の男と恋仲になってしまった。そして坊っちゃんを残し、男と此処を出て行ってしまったのです。会長さまは当然激怒し、組員に二人を追って殺すよう命じました。捜索を始めて半年程経った頃、都内のアパートで二人は見付かりました。既に・・・・・・亡くなった状態で」
「・・・・・・自殺、か」
「ええ」

如何にも悲劇的な展開に、俺は眉を寄せた。

「きっと二人は、組や坊っちゃんを裏切った罪悪感に耐えられなかったのだと思います。それからです。会長さまが、坊っちゃんを狂ったように痛め付け始めたのは」
「マフィア連れてきて喧嘩の練習させた、とか?」
「よくご存知ですね」
「本人から聞いた」
「坊っちゃんは、見た目、中身とも奥様にそっくりでしたから・・・・・・。会長さまは、奥様に似た坊っちゃんが怖かったのでしょう。坊っちゃんを強くさせようと夢中でした。次第に笑わなくなる坊っちゃんを、私は助けることも出来ずにただ傍観するしかなかった。あんなにも残酷な教育は、ただの暴力だと思いました」
「・・・・・・・・・・・・」
「そして精神的なショックから、坊っちゃんは記憶を失ってしまった。奥様と過ごした事を全て忘れてしまったんです」

狂った教育よりも奥様を忘れてしまったのは、奥様に捨てられた事の方が辛かったからでしょう。
シウォンはそう付け足した。

「会長さまは、主治医にこの事を話していません。主治医も・・・・・・本人でさえ、今の病的な性格が後天的なものだと知らない。元の坊っちゃんは、ちゃんと人を思いやれる優しい人間です。精神病質者などでは・・・・・・」

そう話すシウォンの声は、最後震えていた。

「話してくれてありがとな。大事なこと、分かって良かったよ」

背中を叩いて礼を言うと、シウォンは小さく笑って言った。

「会長さまには、この事は内密でお願いします」
「ああ。分かってる」








シウォンと別れ本部を出る直前、俺はふと進む方向を変えた。
今もまだ眠っているだろうか。
地下へ降りて、シム・チャンミンの部屋を目指す。
少し前まで、もう二度と来たくないと酷く嫌悪感を抱いていたこの場所。
今は、自然と足を踏み入れることが出来る。
そっと扉を開けると、ベッドの上で静かに眠るその顔を見つめた。
コイツは、人を愛せない訳じゃない。
愛することを忘れてしまっただけだ。
冷徹な父親の手によって・・・・・・
無知故に残酷で、同時に子供のような純粋さも持ち合わせている。
複雑な人間像を造り出しているのは、哀しみに満ちた残酷な過去。
完全に悪の塊のような奴なら、簡単に嫌いになれたのに。
恨み続けることが出来たのに。
それをさせてくれないお前は、ズルい。










◇◇◇



ユノのチャンミンへ対する気持ちがちょっと変わり始めました。
次回はむふふ、アレです。
会員証をご準備下さいヽ(´ー` )ノ
雰囲気は非変態ですが・・・・・・

あ、わたくし仕事で腰をやられて動けなくなりました(笑)
皆さん、腰には気を付けて下さいね!



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9 Comments

NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

Pe○n○sさま


こんにちは、コメント嬉しいです(*^^*)
チャンミンは初めはちゃんと普通の子供でした。ママが大好きな♡
おちちのにおい、わかる気がします~
ちっちゃい子供って、何もつけていないのに、甘くて優しいにおいがしますよね(*´ω`*)
ユノの性格からして、育てようとしなくても、自然と付き合っちゃうところはありそうですよね。
ユノ、これから頑張りますよー
人を育てる・・・以前聞いたお話から推測して新人さんとかでしょうか?
私はまだ育てられる立場のことが多いです。
迷惑かけてるだろうなぁとよく胸が痛みます~(/_;)
明らかにおかしな人見かけることも、確かに有ります・・・

腰は少しずつ良くなってきたみたいです。
動くとまた直ぐぶり返すから、油断なりません!
安静を貫きます(>_<)

2015/12/12 (Sat) 11:31 | EDIT | REPLY |   

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2015/12/11 (Fri) 22:35 | EDIT | REPLY |   

NB(のぶ)  

葉○さま


こんばんは!いつもどうもです♪
腰痛持ちでらっしゃいますか?
辛いですよね((T_T))
職場が病院なので、直で受診できるのが救いです。
暫く絶対安静だそうです。
そう、くの字でちょぼちょぼ歩くんですよね、腰痛の時って。
町の窓ガラスにそんな自分が映っていて思わず笑いましたよ( ̄▽ ̄)

そうですね、この二人は依存にも似た関係になりそうな予感ですね・・・・・・
特にチャンミンですかね~
むふー、次回は会員証が必要ですから、ご準備下さいね!

2015/12/11 (Fri) 20:24 | EDIT | REPLY |   

NB(のぶ)  

Re: No title

かお○んさま


こんばんは、いつもどうもです♪
チャンミンの異常な性格は後天的なものでした。
治る希望が出てきましたね。
お父ちゃんは立場が立場なので、犯罪を犯したも同然と自覚していて、敢えて話さないんです。
酷いですけど、これも歪んだ愛の形かもしれません。

チャンミン、軍隊の人にチャンミン様とか、萌えーとか言われてますね!
私、チャンミンはノンけオーラ全開だからと安心しきっていましたが、ちょっと焦りました(笑)
きっと、男女の常識を吹き飛ばす美しさがチャンミンにはあるのでしょうね!
軍隊の皆さまは、変な気を起こしても抱かれる側を希望して頂きたい。
その方がまだマシですもん(笑)

2015/12/11 (Fri) 20:14 | EDIT | REPLY |   

NB(のぶ)  

Re: 腰‼︎大丈夫ですかっT_T

ちゃー○んさま


こんばんは!
いつもありがとうございます♡
雨降りましたね、久々に。
雨降りなだけで、朝がくらくてビックリです。
私も、雪は降りすぎると嫌です((T_T))
通勤に困るし!

チャンミンの過去、とても暗いです。
でも愛は心の中に確かにあるはず・・・・・・
ここからはユノの力の見せどころです。
ユノ頑張れ~!

私も、腰痛に負けずに頑張ります!
辛いですよね腰痛。
私も腰痛持ちで、中学校のバドミントンで発症しました。
バドミントンしてて良かったことは、チャンミンもバドミントン部で嬉しかった。
これくらいですかね(笑)
腰痛って突然きますよね。
ちゃー○んさまも、腰やお身体に気を付けて下さい!
体調崩しやすい時期なので・・・・・・
またお待ちしてますね♪

2015/12/11 (Fri) 19:57 | EDIT | REPLY |   

NB(のぶ)  

Re: No title

さえ○んさま


こんばんは!連投嬉しいな~♡
イヤー、いたいですね。
でも安静にするしかないし、寝た状態でやれることって、スマホで字書きなんです(笑)
妙に更新頻度早いなと思ったら、それは多分、まだ腰が悪い証拠かも(笑)

チャンミンの過去、かなり暗いです。
自分で考えた内容なのに、あの小さい頃の可愛らしいチャンミンのビジュで、過去を妄想すると心が痛みます。
ユノの手によって、チャンミンはこれからどうなるのか。
ひたすらくらーい感じで進みますが、一緒に見守って頂きたいです。

2015/12/11 (Fri) 19:44 | EDIT | REPLY |   

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2015/12/11 (Fri) 09:53 | EDIT | REPLY |   

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2015/12/11 (Fri) 08:48 | EDIT | REPLY |   

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2015/12/10 (Thu) 23:34 | EDIT | REPLY |   

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