隣りの男 3



――――『おかけになった電話は電源が入っていないか 電波の届かない場所にあるためかかりません』

何度目かのそのアナウンスにため息をついて、俺は通話を切った。
ソフィが出て行った当日。
仕事先の昼休み、帰宅後も何度か電話をかけたが、一度も繋がらなかった。
結婚指輪を置いて出て行ったくらいだから、俺を避けて敢えて電話に出ないのだろう。
自室のベッドに腰かけながら、俺はソフィが置いていったリングを掌で転がしながら考えた。
ソフィはもう、俺と別れるつもりなのかも知れない。
それなら、離婚の手続きが必要になる。
決心がついた頃、ソフィはこの家に帰って来るかもしれない。
もう一度会うチャンスがあるとしたら、離婚の決意が固まっているだろうソフィを俺は説得できるだろうか。
ソフィを引き止めようとする自分を、上手く想像出来ない。
そもそも、彼女が居なくなってしまったこの状況で、淡々としている俺は夫としてどうなんだろう。
離婚を切り出されることを前提に、この先どうするか冷静に考えるなんて。
黙って出て行く程追い詰められていた事にも、気付いてあげられなかった。
本当にソフィを愛していたのか、今はそれもよく分からない。
俺は学生時代から、一歩も前に進んでいない。
先輩からも自分の気持ちからも逃げ、ソフィの愛に甘え続けていただけなのかもしれない。
考えれば考えるほど、暗がりに転げ落ちていくような気がする。

「もうやめよう」

俺は弱弱しく呟くと、電気を消そうと立ち上がった。
今日はもう眠って、思考をシャットアウトしてしまおう。
立ち上がった直後のことだった。
窓の向こう側、偶然にも部屋の中に居た先輩と、目が合ってしまった。
ずっと考え込んでいたので、いつもは注意を払うのに、先輩の存在に気付くことが出来なかった。
先輩とは、以前出勤前に話した時以来会っていなかった。
先輩のことを避けていたのに、目が合った瞬間、俺はそのまま視線を逸らすことが出来なくなってしまった。
先輩との学生時代の思い出が、途端にフラッシュバックする。
辛い時、悲しい時、先輩はいつも俺を助けてくれた。
厳しい事を言う時もあったけど、俺の為を思ってくれているのがしっかりと伝わってきた。
その優しさを思い出して、俺は先輩を見つめたまま、知らぬ間に涙を流していた。
先輩が、驚いた顔で俺を見ている。
窓を開けて何か言っていたが、俺はそれに応えなかった。
この救いの手を、俺は簡単に取っちゃいけないんだ。

「ごめん、先輩・・・・・・」

それだけ呟くと、俺はカーテンを閉めた。
すると数分後、家のインターホンが鳴った。
モニターを見ると、画面には先輩の顔が映し出されていた。
応答しないで待ってみたが、先輩は帰る気配が無い。
家に居るのを知られている以上、会うのを避けるのは難しいと思った。
躊躇いがちにドアを開けると、扉の向こう側に立っていた先輩はしかめっ面で言った。

「早く出ろよお前は。さてはまた、どうやって避けようとか考えてたんだろ」
「・・・・・・よく分かったね」
「全く。こんなに心配させといて冗談じゃねーよ。入るぞ」

先輩は勝手知ったる様子で、扉をすり抜け家の中へと入って来た。
変に気を使わず、普段通りに接してくれる先輩の態度が有り難い。
家のリビングへ通すと、先輩は辺りを見回しながら言った。

「すげー綺麗。生活感無いっつーか・・・・・・。まあ、引っ越したばっかだからな」

俺はソファに座り込むと、テーブルの上の指輪を見つめて言った。

「嫁が・・・・・・出て行ったんです」
「え・・・・・・」
「一人で弁当買って食べて、風呂入って寝るだけだから・・・・・・散らからないんですよ」

先輩が、俺の横へそっと腰かけた。

「だから、んな死にそうな顔してんのか」
「・・・・・・・・・・・・」
「連絡は取ってんの」
「かけても繋がらない」
「職場へは」
「一度行きましたけど・・・・・・面会拒否られたんです。あまり強引に行くと良くない気がして、それ以来行ってません」
「そっか・・・・・・」

頼るつもりは無かったのに、先輩の優しい口調に促されて、ついソフィとのことを打ち明けてしまった。

「何か、心当たりはあんの?」
「俺がいけなかったんです。最近、引っ越して環境が変わって、俺精一杯で・・・・・・彼女のこと、ちゃんと思いやってあげられなかったから」
「ふうん・・・・・・」

テーブルの上の指輪を見つめていたら、瞳に涙が溜まって視界がぼやけてしまった。
俺は震える声で、先輩に尋ねた。

「先輩は・・・・・・どう思う?やっぱり俺って、魅力無いよね・・・・・・」

自分でそう口にして、たまらなく惨めな気持ちになった。
涙が溢れて、ぽろぽろと頬を零れ落ちてゆく。
厳しい言葉でもいい。叱ってくれてもいい。先輩に、何か言って欲しかった。
でも、先輩が俺に返した言葉は思いがけないものだった
先輩は暫く沈黙を保った後、ゆっくりと口を開けた。

「正直に、言うぜ」

先輩は、俺の瞳をまっすぐに射抜いたまま続けた。
先輩の瞳も俺と同じように、ゆらゆらと揺れていた。

「何があったか知らないけどさ・・・・・・お前の事悲しませてる嫁さんのことが、殺したい程憎い・・・・・・」

学生時代、愛し合っていた頃と同じ先輩の顔を、俺は確かにそこに見た。

「引いた・・・・・・?」

小さく笑ってそう言った先輩に、俺は無言のまま、首を振って応えた。

「お前優しいだろ。思いやりが足りないどころか、思いやり過ぎて自分が病むくらいじゃん」
「そんなこと・・・・・・」
「あるんだよお前は。大丈夫。きっと嫁さんも目覚まして、そのうち帰ってくっから」

先輩の暖かい言葉が胸に染みる。
俺のいいところも悪いところも、沢山知っている先輩。
心から俺を愛してくれて、俺自身もずっと愛していた大切な人。
今でも、大切な人・・・・・・
俺は啜り泣きながら、震える手で先輩の腕をつかみ、肩に顔を埋めた。

「う、くっ・・・・・・せ、先輩っ・・・・・・」
「何だよ。大丈夫、大丈夫だって」

優しく穏やかな声が、俺を宥める。
暖かい掌が、背中を何度も撫でる。
涙もあふれ出す想いも、止まらない。
俺はもう完全に、箍が外れてしまっていた。

「お願い、先輩・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「今夜だけでいいから・・・・・・抱いて・・・・・・?」

二人とも既婚者である。先輩には子供も居る。
その事実から目を逸らし、俺は想いのまま先輩を求めた。
ただあの頃と同じように、先輩の優しさに包まれていたかった。
背中を撫でる先輩の手が止まった。
先輩は俺の両肩にそっと手を添え、顔を近づけると優しく微笑んだ。

「目ぇ、閉じな」

俺は言われるままに、そっと目を閉じた。
暖かく柔らかいものを唇に感じた途端、あとはもう、俺と先輩だけの世界になった。









今夜だけ。一度だけ。
どうか、どうか・・・・・・

この過ちを、赦して欲しい―――・・・・・・









◇◇◇



わーやってしまった。
既婚者の皆様、そうでない方もどうか、2人に幻滅しないであげてください・・・・・・
次回はもっとやってしまう予定ですが、宜しいでしょうか~
ミッドナイト~に引き続き浮気ネタですみません(/_;)



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4 Comments

NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

チャミ1〇〇1さま


こんばんは~♪
いつもありがとうございます♡
やっぱり2人がお互いを相手に浮気しても、腐ってたら許しちゃいます・・・よね?笑
っていうか本音を言うと、私はその浮気される妻になって2人の様子を見ていたいくらいです。
自分の恋愛より2人の恋愛に興味ありますから(^-^;
チャンミンの嫁は戻ってくるのか?最終話で分かります。
リアルでは、チャンミンのヨジャ絡み私も得意な方では無いです。
でもフィクションでは・・・・・・
寧ろヨジャを絡ませたい時があります。
男っぽいチャンミンが大好きなんです~♡

どんなラストが良いかよく考えました。
自分的には納得のいくラストにするつもりですが、みなさんはどうかなぁ。
ちょっとびくびくです。最後まで見ていただけたら嬉しいな。
あと一話頑張ります!
またお待ちしていま~す(^ω^)

2015/10/22 (Thu) 21:45 | EDIT | REPLY |   

NB(のぶ)  

Re: はじめまして

かお〇んさま


初めまして、こんばんは(^^)
こちらへ足を運んでくださった理由がびっくりなんですけど・・・・・・!
そんな、紹介して頂く程のところでは無いのですよ~
作者はただの変態の塊なんですよ~(笑)
いやでもすごく嬉しいです。
かお〇んさまも、紹介して下さった先輩もありがとうございます。
かお〇んさま腐女子歴数ヶ月ですか・・・?
私のサイトの話、暗い話だけじゃなく下品な程エロイのもあるんですけど大丈夫かなぁ。
先に謝ります済みません(笑)

浮気ネタ大丈夫で良かった~
嫁が居てすみませ・・・・・・(笑)
チャンミンはリアルが女の子好きですから、やきもきしちゃいますよね。
ユノペンの私も、ヨジャネタはユノよりもチャンミンの方がビビりますしショックが大きいです。

チャンミンが俺呼びなのは、実はリアルでチャンミンって僕じゃなく俺呼びなんじゃない?って妄想を私がしているからです。
そして可愛くて受け受しい受け男より、男っぽい受け男の方が好きという私の好みもあります。

イラストも見ていただきどうもです!嬉しいなぁ~
絵と文字どっちもそんな出来はしないですが、やってるとやはり楽しいです♪
どちらも頑張って参りますので、よろしければまたお越しください(^_^)♡

2015/10/22 (Thu) 21:36 | EDIT | REPLY |   

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2015/10/21 (Wed) 22:44 | EDIT | REPLY |   

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2015/10/21 (Wed) 22:32 | EDIT | REPLY |   

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