隣りの男 2

  20, 2015 18:00


「ふたりとも・・・・・・知り合い?」

ソフィのその一言で、俺は我に返った。

「う、うん・・・・・・。学生時代の先輩」

俺がそう答えると、先輩の奥さんが笑顔で言った。

「あら、凄い偶然じゃない!もし良かったらお茶でもして行って。ねえ、貴方」

同意を請われた先輩は、ああ、とそれだけ口にした。
気まずい雰囲気に耐えられず、今直ぐこの場から居なくなりたかった。
お茶なんて悠長なことをしてる場合じゃない。

「あ、いや・・・・・・。ありがたいんですけど、まだ部屋の片付けとか残ってて・・・・・・。今度、ゆっくりお邪魔させて頂きますので」
「あら、そう?」
「はい」

俺は一礼すると、ソフィと一緒に先輩の家を後にした。



それからというもの、片付けをしている最中も、夕食の時も、風呂に入っている時もずっと、先輩の事が頭から離れなかった。
長年密かに、心の底で先輩への想いを温め続けていた。
この先もずっとそうやって、心穏やかに過ごして行けると思っていた。
会ってしまえばいとも簡単に、頭の中は先輩のことで埋め尽くされてしまった。
二階の自室へ入ると、部屋の窓から隣りの先輩の家が見えた。
そこにも丁度窓があり、部屋の中の様子が伺えた。
先輩の部屋だろうか。机やパソコン、書類などが置いてある。
部屋に明かりが灯り、先輩が部屋へと入って来た。

「・・・・・・っ」

先輩に気づかれるより前に、俺はカーテンを引いた。









翌朝。
朝食を食べていると、ソフィが俺に尋ねた。

「ねえ、何かあった?」
「どうして」
「なんだか様子がおかしいから」
「そんなこと無いよ」

俺は笑って見せた。
まさか隣りの家の旦那が、昔の恋人で今も好きだなんて言える訳無い。

「誤魔化せると思ってるの?」
「え・・・・・・?」
「チャンミン、態度に出易いんだもん。そんなんじゃ、嘘ついたって丸分かりよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「ご馳走さま」

ソフィは、食器を重ねるとシンクへ片付け、すぐ仕事へ向かってしまった。
きっと、僕が何も打ち明けないことに怒ったのだろう。
気が強い彼女だから、俺も上手くやれるところはある。
けど今は、ソフィのことを気遣ってやれる余裕が無くてなんだか苛々した。



職場へ向かおうと家を出た時のことだった。
丁度隣りの家の扉が開いて、スーツ姿の先輩が姿を現した。
俺は咄嗟に先輩へ背中を向けると、その場から逃げるように早足で歩き出した。

「おい、ちょっと待て」
「・・・・・・・・・・・・」

先輩が、背後から俺を呼び止めた。
びくりと身体を震わせ固まると、先輩が俺の目の前までやって来た。
怯んでしまう程のまっすぐな視線に、俺は思わず俯いた。
先輩は昔と変わらない。
時にズルいと思ってしまう程、格好よくて逞しい。
堂々と前に出て行く強さがある。まるでヒーローみたいな男。
俺は、そんな先輩への劣等感に負けたんだ。


「ちゃんと俺の顔を見ろよ」

先輩が言った。
何時かも聞いたその台詞に、まるで過去に戻ったかのような錯覚に陥った。
俺がゆっくりと顔を上げると、先輩は俺を見つめたまま続けた。

「俺のこと、避けたくなる気持ちは分かる。お前に嫌な思いさせてたからな・・・・・・」

――――『男としてのプライドを、ずっと傷付けられてきた。もう耐えられない。自由にして下さい』

俺は確かにそう言った。でも、本当は違う。
あれは先輩を振るための口実に過ぎなかった。
そう打ち明けたくなるのを、ぐっと耐えた。

「でも、もう止めようぜ。こんな風にぎくしゃくすんの」
「・・・・・・・・・・・・」
「これからずっと、隣同士で暮らしてくんだろ。あれはもう過去の事だし・・・・・・。まぁ、お前がどうしても俺の顔見たく無いってんなら、顔合わせんのは避けるようにするけど」

今は俺をなんとも思っていない。
そんな風に思わせる先輩の言葉に、失望するなんておかしい。
分かってる。俺は自分勝手だ。

「そっか・・・・・・。先輩はそうやって、簡単に割り切れるんですね」
「え・・・・・・?」
「っていうか、俺のことなんて忘れてたんじゃないですか?嫁さんだけじゃなく、もう子供も居るくらいだし」

先輩が訝しげな顔をしたが、それでも本音が溢れ出すのを抑えることは出来なかった。

「俺は・・・・・・そう簡単に忘れられない・・・・・・」
「チャンミナ・・・・・・」
「俺、俺・・・・・・今でもっ・・・・・・・・・」

先輩が、戸惑った顔をして俺を見つめている。
俺は口を開いたまま、次の言葉が出掛かるのを何とか耐えた。
すぐ近くを自動車が通り過ぎた途端、俺ははっとして我に返った。
先輩に背を向けると、急いでその場から立ち去った。

「あ・・・・・・おいっ!」

背後から呼び止める声が聞こえたが、先輩が俺を追ってくることは無かった。
俺は歩きながら、心の中で自分を責め立てた。
今俺は、先輩に何を言おうとした?馬鹿、馬鹿、俺の馬鹿。






ねえ先輩。
先輩は俺のことなんて、とうの昔に忘れてしまっていたのでしょう。
でも、俺は違ったんです。
先輩を振ったのは、先輩と不釣り合いな自分が嫌だったから。
今他の人が先輩の隣に並んでいるのを、俺は祝福すべきなのかもしれない。
でも出来ないんです。
あの時先輩を選んでいたなら、今は俺が先輩と一緒に歩んでいたかもしれない。
そんなことを考えてしまう。
貴方ともう一度出会わなければ、こんな醜い自分と向き合うことも無かったのに。
俺と貴方が再会してしまった。今はただ、この運命がとても憎い。









ソフィが家を出て行ったのは、それから数日後のことだった。
ある朝起きると、家にある彼女の日用品が綺麗に無くなっていた。
ひとつだけ、リビングのテーブルの上に婚約指輪を残して彼女は消えた。
窓の外から差し込む陽の光を受けて、指輪がきらきらと輝いている。
俺は指輪を見つめて、ただぼんやりと立ち尽くしていた。
その輝きが、この先にあるだろう暗い未来とはとても不似合いに思えて、俺は小さく笑った。









◇◇◇



暗い・・・・・・。暗すぎる。
作者の好みですが、秋が深まると暗い話書きたくなるんですよ。
そういえば去年の今頃も僕のピアニッシモという話を書いてましたが、あれも途中の経過が暗いというか、切ない内容ばかりでした。
このお話はあと2、3話くらいで終わる予定です。
相変わらず短いですがどうぞお付き合い下さい。
あ、トレスマラソンにも沢山の拍手あありがとうございます!
創作意欲の源です~(>_<)もぐもぐ♡



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Comment 4

NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

ゆ〇んさま


こんばんは~(^_^)♡ちょっとお久しぶりですね♪
いつもありがとうございます。
うん・・・・・・暗い話好きじゃないと、きっと私の話に付き合えないと思うので、そう言われると納得しちゃいます。

あわわ、ユノが怒られちゃった(笑)
確かに、私の話に出てくるパパユノは二回とも子持ちでしたね(-_-;)
きっと私が、ユノ=恋人ではなく=お父さんってイメージを持っているからかも。
なので子持ちユノ妄想するの、好きなんです。
現実でもし子持ちになっても、アイドルとしてのマナーを弁えてくれれば応援すると思います。
もちろん、複雑な気持ちになると思いますが・・・!
実は、このお話のユノは奥さんと愛の無いセッ〇スをした訳じゃ無いんです。
ちゃんと愛してるんですよ。後で続きの話の中で書きますけど。
そこで、語り手側では表現されないユノの気持ち、ちょっと書こうと思ってます。
心の中で一人の人をずっと愛しながら、別の人も大切に・・・・・・
それって私は有りかと思ってしまうんですが、駄目ですかね(>_<)?
もし考えが合わなかったら・・・・・・そこは済みませ~ん!!!

ユノが居なくなって、ゆ〇んさま寂しかったんですね。
自分では気付かないうちに傷付いていたって、切ないなぁ・・・・・・(/_;)
でも、悲しさに気付いてなかったのに気付いたって、もしかしたら前進でもあるかもしれませんね。
沢山素敵なサイトさんがある中、こんなとこを選んで頂いて本当に感謝です。
私にできることなんて、作品作ることくらいなんですけど・・・・・・
一緒にユノのこと待ちましょう。
きっとユノは、一段とかっこよくなって帰ってきますよ。2年の寂しさなんて埋めちゃうくらい。
だってユノ・ユンホですから!

長い辛抱ですから、時には息抜きしながら乗り切っていきましょうね~!(私は息抜きすぎ(笑))
こちらこ創作のエネルギーになる素敵なコメント、いつも本当にありがとうございます。
またお待ちしています。

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NB(のぶ)  

Re: No title

ちゃー〇んさま


こんばんは♪
いつもお付き合い頂きありがとうございます。
隣の男、最後は何とかまとめるつもりですが、今回は設定が設定なので・・・・・・(笑)
できる範囲でのまとめ方になるかと思います。
浮気してくっつくホミンちゃんはあまり需要が無いかと思うし、くっつくだけが幸せでもない気がしています。
最後まで見ていただけたら嬉しいです。

ユノにはひとつしたのサイズのきつきつスーツ!うわぁ~~最高ですね!
ぴっちぴちの太ももとか、ちょい飛びそうなジャケットのボタンとか、日々めちゃ萌えてるので共感です♡
好みが一緒で嬉しいなぁ~♪

イラストまで見ていただいてありがとうございます~
なんか言わせた感があってすみません(T_T)
全然すごい方じゃないんです。
本当に、興味持てることが東方神起と文字書き絵描きしか無いだけで。
あ、もちろん嬉しいんですけど恐れ多くて・・・・・・
勿体無いお言葉ありがとうございます。
これからも頑張りますね~!
また声かけて頂いたら喜びます(*´ω`*)

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