ミッドナイト・ガイズ 10



















ミッドナイト・ガイズ・表紙


















開店前、着替えも化粧も済ませた男娼達がフロアに集まる。
ナンバー1の挨拶は毎日の日課だ。
今日も全員が僕のひと言を待っている。
姿を現したオーナーが、僕の背中を叩き、言った。

「マックス、格好良く締めてくれよ」

汚い手で触るな。
心の中でそう呟きながら、僕はオーナーを睨んだ。
本当ならば、笑顔を貼り付けたその裏の顔を、今この場で暴いてやりたい。
でも、あのことは他言しないとユンホさんと約束した。
僕も既に、共犯者なのではないだろうか・・・・・・?
これ以上、自分を見失いたくない。
僕は息を吐き出してから、ゆっくりと口を開いた。
これは僕自身、そしてメンバー全員へ向けて送るメッセージだ。

「周りの刺激に振り回されるな。自分を強く信じ、信念を貫くこと。以上」

男娼たちが各々返事をし、僕は真剣な顔つきで全員を見つめた。
どうか、誰も傷つきませんように。
犯罪という闇に、のまれませんように。
そう、強く願った。



僕は本当にこのまま、ふたりの取引を見逃して良いのだろうか?
葛藤すると同時に、いつオーナーに麻薬を盛られるだろうと怯えながら過ごす毎日。
誰にも苦悩を打ち明けられず、どうにかなってしまいそうだった。
ユンホさんの姿を、店で見かけることも無かった。
そしてまた、金曜日がやってきた―――



店の営業準備が始まる夕方。
空が分厚い灰色の雲に覆われ、ぽつぽつと雨が振り始めた。
雨は次第に強くなり、ゴゴゴ、と低く唸るような不気味な音が、空に響き渡った。
窓の外を見つめながら、共に準備をしていた男娼のひとりが言った。

「積乱雲だ・・・・・・」

何だか、嫌な予感がする。
そしてある瞬間、それは確かにしっかりと、僕の耳に聞こえた。
聞き覚えのある足音が、コツ、コツ、コツ・・・・・・と鳴り、近付いてくるのが。
あの人が、来た。
メンバーが準備を継続する中、僕一人だけそれを察知してフリーズしていた。

「マックス、どうした?」
「・・・・・・・・・・・・」
「マックス?」
「済まない・・・・・・。用事を思い出した」

僕はフロアを出てエントランスへ向かった。
すると丁度ユンホさんの背中が、オーナーの部屋の方へ消えてゆくのが見えた。
まだ開店していないこの時間に、ユンホさんが此処を訪れた理由は・・・・・・
取引き、それしか考えられない。
やっぱり、このまま傍観することなんて出来ない。
僕は控え室のキャビネットから、果物ナイフを取り出してポケットに忍ばせた。
ユンホさん、もし貴方が本当に犯罪者ならば、僕はどんな手を使っても仲間や自分を守るため、そして貴方のために、最悪の事態になるのを防ごう。
ユンホさんが部屋に入ったのを確認すると、僕は扉の前まで歩いて行き部屋の中を覗き込んだ。

「待っていたぞ」

オーナーは吹かしていた煙草を灰皿へ押し付け、ユンホさんを見つめてニヤリと笑った。

「俺にシャブをせがむとは・・・・・・教えた店で手に入らなかったのか?」
「いいや。此処に来るついでに、あんたから譲って貰った方が手間がかからないと思ってな」
「成程」
「俺を、最初の客にしてくれるんだろ?」
「ああ。勿論だ」

ふたりのやりとりを聞きながら、僕は恐怖に押しつぶされそうになるのを必死に耐えた。
オーナーは座椅子から立ち上がり、ユンホさんの前に立ってある物を掲げた。
オーナーが手に持っているそれは・・・・・・
白い粉末状のものが入った、小さな袋。
シャブだ。
僕は汗でぐっしょりと濡れた手で、ナイフを強く握り締めた。
僕にしか、二人を食い止めることは出来ない。

「さぁ・・・・・・受け取れユンホ」

ユンホさんの手が、ゆっくりと宙に浮いた。
僕は割り込むタイミングを見計らい、今にも緊張で崩れそうな足を一歩踏み出した。
そして次の瞬間・・・・・・
ユンホさんの手が捉えたのは、オーナーの手首だった。
ユンホさんに手首を握られたオーナーは、訝しげな顔をして呟いた。

「・・・・・・おい、どうした?」

ユンホさんが、オーナーを見つめながら無言でニヤリと笑った。
その笑みは、背筋がゾクリとするような冷酷さを含んだ笑みだった。
もう片方の手で、ユンホさんは黒く光る手錠をポケットから取り出し、オーナーの両手にはめた。

「オーナー、あんたを麻薬所持及び、密売の容疑で逮捕する」
「なっ・・・・・・!」

オーナーは青ざめながらユンホさんを睨み、震える声で言った。

「ユンホお前っ・・・・・・嵌めたな!」

ユンホさんは冷笑を浮かべたまま、平坦な口調で返した。

「アンタみたいな下衆な人間の餌になるなんて、まっぴらごめんさ。シャブに溺れようなんて、これっぽっちも思わないしな」

オーナーは肩を落として、観念したように小さく笑った。

「まさか、お前に騙されていたとは・・・・・・。名演技だったよ」

そういうことだったのか・・・・・・
一気に緊張が抜けた僕は、ずるずると床に崩れ落ちて尻餅をついた。
丁度その時、遠くからサイレンの音が聞こえて来た。

「さぁ、お迎えだ。行くぞ」

ユンホさんが、オーナーの肩に手をかけて歩くよう促した。
部屋の外に出た二人は、ナイフを握り締めながら尻餅を付く僕を見て、驚いた顔をした。

「マックス・・・・・・」

僕は気力を振り絞って立ち上がり、まずはユンホさんに頭を下げた。

「貴方を疑ったことを、深くお詫び致します。申し訳ありませんでした」
「構わない。仕方の無いことだ」

ユンホさんは、そう言って僕に微笑みかけた。
僕はオーナーに視線を移すと、オーナーの首筋にナイフを突き立てた。

「っ・・・・・・」
「僕たち男娼は、貴方に信頼を置き、従い、尽くしてきました。僕たちを裏切ろうとした代償は大きいですよ」
「す、済まなかった・・・・・・」
「しっかりと、罪を償ってください」

僕がナイフを取り去ると、二人は再び歩き始めた。
二人の背中を後ろから見送ってから、僕もフロアへと戻った。

フロアは、警察が店に現れたことで騒然としていた。
突然の事態に、男娼達は皆混乱している。
それぞれが警察と言い争ったり揉み合ったりする中、オーナーはユンホさんに連れられ、出口へ向かって歩いてゆく。
すれ違いざま、手錠をかけられたオーナーの姿を見て、皆驚きの表情を浮かべた。
ある一人の男娼が、ユンホさんの腕を掴んで言った。

「おいあんたっ。オーナーを何処に連れてく気だよ!?」

するとユンホさんが口を開くより先に、別の男娼が言った。

「その人から手を離せよ」
「お前、何で止めないんだっ」
「オーナーは・・・・・・麻薬の密売に関わってる。そのうえ、俺達も客も利用しようとしたんだ」
「そんな・・・・・・嘘だろ?」

僕はその言葉を聞いて、驚きを隠せなかった。
オーナーの行動を把握しているのは、この店で僕一人だけだと思っていた。
見ると、発言をした男娼以外にも数人、オーナーをじっと睨みつけている男娼達が居る。
きっと発言した彼と同じく、オーナーの素顔を既に知っていたのだ。
落ち着きはらったその態度は、まるで今日この時を、逮捕の瞬間を待っていたかの様だ。
そして僕は気付いた。
彼らは皆ユンホさんに指名され、ベッドルームへ連れて行かれた過去があるという事に。
ユンホさんは暫く沈黙してから、口を開いた。

「君たちのオーナーは・・・・・・麻薬所持の容疑で送検することになった。この店へもこれから捜査が入る。暫く営業が難しくなると思うが、我慢してくれ」

そう伝えて去ろうとするユンホさんに、僕は思わず声をかけた。

「待って下さい」

ユンホさんが、歩みを止めた。

「貴方は一体、何者なんですか?」

ユンホさんはゆっくりと振り返り、答えた。

「・・・・・・政府から送り込まれた潜入捜査員・・・・・・御曹司なんかじゃなく、ただの国家公務員だ。騙して済まなかったが、君たちを犯罪から守るためやむを得なかった。許して欲しい」

それだけ残すと、ユンホさんはオーナーと共に、扉の向こうへ消えていった。
僕は扉を見つめたまま、暫く立ち尽くしていた。









◇◇◇



はい、こんな感じです。
予想当たった方、いらっしゃいますか?
展開を不満に思われた方、申し訳ありません・・・・・・
ユンホさんのお仕事は、民間の警察ではなく司法警察という職種に分類されます。
あと一話くらいで本編終わると思います。
本編終了後は、多分何時もの流れで番外編書くと思います。
宜しければお付き合いください♪



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