ミッドナイト・ガイズ 7



















ミッドナイト・ガイズ・表紙


















「知り合い・・・・・・?」

連れの彼女が、首をかしげながら僕とユンホさんを交互に見た。

「まぁな」

ユンホさんは彼女へそう返すと、再び僕へ視線を寄越して微笑んだ。

「驚いたな。こんなところで会うなんて。仕事、掛け持ちしてるのか?」

動揺している僕と違って、ユンホさんはごく普通の態度で接してくる。
それもそうだろう。
ユンホさんは、僕をただの男娼の一人としか思っていないのだから。
僕を前にして、気不味い態度を取る必要なんて無い。
ユンホさんを既に諦めた僕も、それに腹を立てたりはしない。

「ええ、まぁ」

それだけ返すと、僕はユンホさんの注文を取った。
僕が飲み物を運ぶと、二人はそれらを口にしながら数回やりとりを交わして店を出た。
二人が帰ったのは夕方の16時。丁度カフェが閉店する時刻だった。
一気に緊張が解けた僕は、だらだらと締めの作業をしてから17時過ぎに店を後にした。



歩道へ出た時、すぐ近くに停車していた白いベントレーのクラクションが鳴った。
車へ視線を向けた途端、運転席の窓が開いた。
乗っていたのはユンホさんだった。

「お疲れさん」
「・・・・・・どうも」

戸惑いながら頭を下げる僕に、ユンホさんは悪気の無い笑みを浮かべて言った。

「俺とデートしないか?マックス」



デザインを重視した、ベージュとブラウンがベースの煌びやかな車内。
ユンホさんの好みなのか、ステレオからはゆったりとしたジャズが流れている。
来店する時に比べラフな格好をしていても、ハンドルを握るユンホさんからは、この高級車に溶け込めるだけのオーラを感じる。
僕はふと、サイドミラーに映った自分自身に目をやった。
髪はセットせずに流しただけ。
白シャツにベストといった、外も中身も庶民丸出しの外見をしている。
ユンホさんの隣りに並んでいることがおかしく思えてきて、僕は小さく笑った。
ユンホさんは、不思議そうな顔をして僕に尋ねた。

「どうした?」
「この高級車・・・・・・なんて僕に不釣り合いだろうと思って」

ユンホさんは僕を見つめた後、正面に再び視線を向けて言った。

「どんなに金があっても、それだけじゃ無意味・・・・・・持つべき財産は、金じゃなく経験だ。どんな姿勢で生き何を学ぶか、それがそいつの、人間としての本当の価値を決めるんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「マックス、君は外も中身も綺麗だろう。それで充分さ」
「・・・・・・貴方は、本当によく口が回りますね。人をその気にさせるのが上手い」

僕はユンホさんから目を逸らし、窓の外へ視線を投げた。
もう、ユンホさんの言葉を間に受けたりはしない。
窓越しに流れる町並みを眺めながら、僕はふと違和感を覚えた。
こんなにも正論を語れる人が、どうして毎週違う男を抱きに店に通いつめ、無反省に人を気付けることが出来るのだろう。
ユンホさんは口だけの男なのだろうか。
そう思えないのは、惚れた弱みだろうか。

「・・・・・・怒ってるんだろ」

ユンホさんが、正面を向いたまま呟いた。

「君が・・・・・・誘いを断らなかったことに驚いた」

段々と日が暮れ暗くなる車内で、ユンホさんの横顔を、過ぎ行く街灯が断片的に照らし出す。

「そんな風に言うということは・・・・・・僕を傷付けた自覚があるのですね」

ユンホさんは何も言わなかった。
僕は静かに話し続けた。
悩みに悩んで導き出した、自分なりの答えを。

「僕は怒りもしないし、貴方を恨みもしません。以前は、そんな時期もありましたが・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「貴方の心は僕のものにならない。それはもう、痛いほど分かっています。貴方と僕が結果どうなるか・・・・・・今の僕にとって、それは重要じゃない」

トラックが全て終わったのか、ステレオから流れるジャズの音が止み、薄暗い車内に沈黙が落ちた。

「暗い世界で、貴方は唯一僕に夢を見せてくれました。一時だけれど・・・・・・好きな人と恋に落ちる素敵な夢を。僕はそれで満足しています。今も、その気持ちは変わりません」

だから・・・・・・
いつか、貴方を忘れられる程の恋に落ちる、その日まで・・・・・・

「僕にまた、思い出をください。僕を・・・・・・貴方の好きにして?」

信号が赤になり、ユンホさんはブレーキを踏んだ。
ユンホさんは、下を向いて黙ったままだ。
横顔は、腕で隠れてよく見えない。

「何をされても、愛を求めはしません。ただ、貴方との時間が欲しい・・・・・・」

ユンホさんが、ゆっくりと顔を上げて僕を見た。
ゆらゆらと揺れて、不安定な瞳が僕を捉えた。
心が見えにくくクールなユンホさんが、こうも感情を顔に出すのは珍しい。

「本気で、言ってるのか・・・・・・?」

声も、震えていた。

「本気です。僕は便利な存在でしょう?後腐れなく、面倒臭くもない」

ユンホさんは、悲しそうな、それでいて怒っているような複雑な顔をした。
信号が青に変わり、ユンホさんは再びアクセルを踏んだ。
前方に視線を移したユンホさんは、ハンドルを強く握り締め、低い声で呟いた。

「なら・・・・・・好きにさせて貰おう」

声も横顔も、何時もの穏やかなユンホさんとは別人のようだった。









都内のあるホテルに入り、ユンホさんは地下の駐車場にベントレーを滑り込ませた。
車から出たユンホさんは、助手席の外へ周り込むと、ドアを開けて僕に手を差し出した。
僕は無言でユンホさんの手を握った。
ユンホさんは指を絡めるように僕の手を握り直すと、そのままホテルの入口へ向かって歩き出した。
ホテルへ入るとユンホさんは、受付けの前をスタッフに視線を送るだけで通り過ぎた。
手を引かれたまま、エントランスを抜けた先のエレベーターへ乗せられる。
エレベーターの後壁は、一面硝子張りになっていた。
透明の小さな箱が、僕とユンホさんを乗せて高く高く浮かび上がってゆく。
やがて壁一面を、闇に散らばる無数の光が埋め尽くした。
毎日職場で嫌という程見飽きている夜景が、隣りにユンホさんが居る、それだけで、とてもかけがえの無い素敵な物のように思える。

「逃げるなら今のうちだぜ」

隣でそう囁いたユンホさんに、僕は静かに微笑みながら首を振って応えた。



部屋は広々としていて、ロングソファと一人がけのソファが3脚、その他にキッチンもついていた。
テーブルの上に車の鍵を置くと、ユンホさんは僕に言った。

「先にシャワーを浴びてくれ」
「・・・・・・分かりました」

シャワールームで身体を洗い流した後、僕は鏡に映った自分の姿をぼんやりと見つめた。
ユンホさんは、これから僕を抱くつもりだ。
鏡の中に映っているのは、どこからどう見ても男の自分。
化粧もドレスアップもしていない、ただの一人の男だ。
これ迄こんな姿を晒していたことを今更後悔しつつ、ちゃんと抱いて貰えるのか不安を覚えた。
僕が部屋へ向かうと、ユンホさんはソファから立ち上がりシャワールームへ向かった。
すれ違い際、僕の肩に手を置き「待ってろ」と、耳元に甘い声を残して。
耳が熱を持つのを感じながら、僕は窓際へ歩み寄り夜景を見つめた。
店で見るものとは、価値が全く違う。
こうしてプライベートで彼と共有する時間、風景、全てが尊い。
ユンホさんが、以前僕に言った言葉を思い出した。

―――――『もし君が許してくれるなら・・・・・・いつか抱かせてくれ。客としてじゃなく、一人の男として・・・・・・』

もしそれが、今日なのだとしたら・・・・・・?
この時間だけでもいい。ユンホさんに、僕を男娼の“マックス”としてじゃなく、一人の男として見て欲しい。
窓硝子を見つめていると、バスローブを羽織ったユンホさんが後ろから歩いてくるのが見えた。
段々と近付いて来たユンホさんに、僕は背後から抱き締められた。
前に回された腕に手を添え、僕はユンホさんに問いかけた。

「着飾った僕じゃなくても・・・・・・“マックス”じゃない、シム・チャンミンを・・・・・・抱いてくれますか?」

ユンホさんは僕の肩に顔を埋め、肌に唇が触れそうな距離で囁いた。

「勿論・・・・・・。言ったじゃないか。君は何もしなくても、充分綺麗だって」

ユンホさんは僕の頬を掴み、窓ガラスを見るよう視線を誘導した。

「俺との思い出が欲しいんだろ?よく見て覚えておけよ。抱かれる自分の姿を・・・・・・」

ユンホさんの熱を含んだ声が、熱い体温が、僕の心、身体を、麻痺させるかのようにじんじんと痺れさせてゆく。
何もかも忘れられるような、遠い世界へ誘ってくれる。



今宵僕はきっと、生涯で一番幸せな夢を見るだろう。









◇◇◇



皆様、台風の被害は大丈夫でしたか?
私は避難勧告ドンピシャのとこに住んでましたが、高台に家があるので被害は受けませんでした。
街なかは川から水が溢れて大変だったようです。
皆様が、おひとりでも被害無く、無事であることを心から願っております。
NBにメールやメッセージを下さいました読者の皆様、本当にありがとうごさいます(;_;)♡

さて、お話は金曜仕事が午後休だったので、ばーっと一気打ちしました。
やっぱり小説書くのって楽しいですね~。
そんでもってラブシーンが一番好きです。
次回はエロなのでご注意ください。
ユノはおバカで可愛い受けが似合うと思ってますが、チャンミンはこう・・・・・・
クールで美人、どこか冷めた人、そんな色っぽい受けがとってもはまりますよね~。
声質とかしゃべり方、外見、雰囲気がそう思わせるのかも。
うーん、受けチャンミン、王道で大好きです♡
ミンホは変態なチャンミンばかり書いてますが・・・・・・
NBは可愛いチャンミン凄く好きなんですよ、これでも(^_^;)!



☆拍手ボタンからコメント下さった方へ


>よ○よ○さま

いつもありがとうございますm(_ _)m♡
ホミン、ミンホの変態話しから持論語りまで、優しくお見守り頂き感謝しています。
私の趣向や意見を受け入れて、こうしてコメントを下さる読者さまが居るって、改めて恵まれているなぁと感じます。
これからも少しでもお返しできるよう、更新頑張ります!
また、いつでもお待ちしています(^O^)♪



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4 Comments

NB(のぶ)  

Re: コメントありがとうございます

ちゃー〇んさま


こんにちは♡
おお、やはり大〇でしたか(^_^)
仙台住みですが私はちょくちょく実家に帰って来てます。
ふふふ、私もどこかですれ違ったかも?と思うとどきどきしちゃいます。
気持ち悪いですけど許してください(笑)

本当にいつも応援してくださりありがとうございます。
同じ県内にたちゃー〇んさまがいると思うと嬉しいです。
これからも更新と、そして返信もスムーズにできるよう・・・・・・(-_-;)!頑張ります!

2015/09/13 (Sun) 11:42 | EDIT | REPLY |   

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2015/09/13 (Sun) 10:45 | EDIT | REPLY |   

NB(のぶ)  

Re: NBさん…まさか?ご近所?

ちゃー○んさま


こんにちは♡
いつもありがとうございます(^_^)
チャンミン、もう辛い想いをしすぎて悟りの域です。
言ってることは本音ですが、やっぱり叶う可能性のある恋の方が幸せですよね。
チャンミンが最終的にどんなかたちの幸せを手に入れるのか、見届けてあげてくださいね。
バスローブユンホが背後から近付いてきたら・・・・・・
もう想像するだけでにやにやしちゃうわぁ~♡(笑)

川が決壊って多分・・・・・・ふ○川、大○周辺ですよね?
以前県北と伺ったような気がしますし・・・・・・
私の実家は、その直ぐ近くなんです。
でも今は独居で仙台市に居ます。
数キロ先の七○川が、今回危なかったようです。
現在住んでいる場所ではありませんが、実家が近くかもしれません♪
昔、どこかですれ違っていたかも!?
お話のコメントだけでなく、地元トークもどしどし待ってます!
同じ宮城県住み、嬉しいですし(*^_^*)
今日は汗かくような暑さですね!
ウォーキングももうすぐ再開でしょうか?
私もちゃー○んさま見習って運動しないと~!
またお待ちしてます!

2015/09/12 (Sat) 14:30 | EDIT | REPLY |   

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2015/09/12 (Sat) 09:39 | EDIT | REPLY |   

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