ミッドナイト・ガイズ 6



















ミッドナイト・ガイズ・表紙


















ユンホさんはあの夜、僕に告白した。
しかしその後も、ユンホさんの行動に変化は見られなかった。
此れ迄通り、金曜日になると店を訪れ、毎回違う男娼を指名しては奥の部屋へと消えてゆく。
ユンホさんが僕を指名することは無かった。
身体が売買される虚しいこの世界で、真の幸福を手にすることなどきっと出来ない。
誰もが、求めれば求めるほど満たされずに苦しんでいる。
僕は、希望を持つのをやめた。
傷付くのはもう沢山だ。
幸せだった、あの瞬間のときめきだけは心に残して歩いていこう。
いつか失恋の傷が癒え、ユンホさんを忘れることができる、その日まで・・・・・・









仕事を終えた朝方。
更衣室に足を踏み入れた途端、クラッカーの爽快な音が部屋に響き渡った。

「ナンバー1、おめでとう!」

キュヒョンがクラッカーを片手に、にっこりと笑って言った。

「頂点の座は俺が狙ってたのに・・・・・・全く恨めしいぜ」

そう言いつつも、キュヒョンと共に僕を迎え入れてくれたのは、此れ迄よく順位を競っていたウニョクだ。
ミンホがグラスを台に乗せて、部屋へ入ってきた。

「ヒョン、僕の特性カクテルで乾杯しよう」

決して平和とは言えない環境下で、こうして僕を祝ってくれる仲間が居ることが嬉しかった。

「ありがとう、皆」

自然と笑みが溢れた。
僕は、ナンバー1になろうと何か努力した訳じゃない。
自然とこうなってしまったのだ。嬉しさも然程感じなかった。
正直にそれを言ったらウニョクが怒ると分かっていたので、口にはしなかった。

「でも、お前みたいな穏やかな奴が皆をまとめてくれりゃ・・・・・・仲間内の揉めゴトもちょっとはマシになるかもな。期待してるぜ」

ウニョクはそう言うと、にやりと笑ってカクテルを口に流し込んだ。

「参ったな。仕切るのは苦手なのに・・・・・・」

この世界では、下の者が上の者に逆うことはタブー。
上の者が権力を握る、完全なる縦社会なのだ。
これからは僕がその立場になるなんて、全く実感が湧かなかった。









頂点に立った僕には、新しく“マックス”という呼び名がつけられた。
“マックス”は真の僕では無い。
夜という闇に身を潜め、あの限られた空間にだけ存在する、人格も風貌も違ったもう一人の僕だ。
僕は、そんな自分に生活を蝕まれていくのが怖かった。
次第に、普通の男として平凡な日常を感じ、生きる時間が欲しくなった。
オーナーや仲間には秘密で、僕は日中だけ別の店でバイトを始めた。
バイト先は、街角にひっそりと佇むカフェを選んだ。
男娼の僕を知る人物と、偶然はち合わせる可能性が低いと踏んだからだ。
飲み物や簡易的な料理を作り客席へ運ぶ仕事だが、これまでボーイの仕事をしていた経験もあり、それ程時間を要さずに業務に慣れた。
ただの男になれるその時間が、空間が、僕を本来の場所へ引き戻してくれるような気がしていた。









日中、何時ものようにホールで仕事をしていた時のことだ。
数組しか居ない静かな店内に、ドアが開くと同時にベルの音が鳴り響いた。
男女ひと組が入店したのを確認し、いらっしゃいませと口にした。
水を入れたグラスを客のもとへ運ぼうとしたが、テーブルのすぐ側まで近付いた僕は足を止めた。
男性の顔を近くで見た途端、僕は目を見開いた。
髪型も格好もよく知るそれとは違っているが―――男性はユンホさんに違いなかった。
何時もかっちりとセットしている髪は、少しウェーブして額にかかっている。
ジンズ、シャツにジャケットといった、店で見る姿より随分とカジュアルな格好をしていた。
ユンホさんと目が合ってしまう前に、僕は存在感を消すように、速やかにその場から立ち去った。

「チャンミン、何してんの?」

カウンターの下に身を潜める僕を、同じシフトのジョンヒョンが訝しげに見つめた。

「さっき来た客が知り合いで・・・・・・ちょっと・・・・・・」
「そんな必死に隠れるとか、どんな知り合いだよ」

ジョンヒョンはおかしそうに笑っていたが、僕の表情は強ばったままだった。
僕はユンホさんを恨めしく思いながら、心の中で強く訴えた。
貴方は僕の恋心を踏みにじったうえ、安らぎの場にまで侵入して来るのですか?
これじゃあ、僕の心が休まる時間が無いじゃないか。
本当に罪深い人だ。

「チャンミン、悪いけど俺あがりだから」
「え・・・・・・?」
「どんな間柄か知らんけど、後は頼んだ」

ジョンヒョンは退勤処理を済ませると、店の奥へ消えてしまった。
平日の夕方、客が少なく閉店間際のこの時間帯は、一人営業でも充分店を回すことが出来る。
ジョンヒョンが居なくなったら、スタッフは僕一人だけだ。
僕の勝手な都合で、ジョンヒョンを引き止める訳にはいかない。
観念した僕は、項垂れて深い溜息をついた。
ユンホさんのオーダーは、僕が対応するしかない。
しかしユンホさんと連れの彼女が、何かを注文しようとする様子は無かった。
席に着いて直ぐ、話し合いが始まったからだ。
客が少なく店内もそれほど広くないので、聞き耳を立て無くても話し声が聞こえてきてしまう。
ユンホさんは、淡々とした口調で話し始めた。

「率直に言わせて貰うが、君と交際する話は無しだ」

交際・・・・・・
そのワードに動揺した僕は、思わず持っていた皿を落としそうになった。
彼女は、不満そうに言った。

「どうして?パパやママ達があんなに賛成してくれてるのに」
「親の意向は関係ない。君には自分の意志が無いのか」
「勿論あるわ。私は貴方を気に入ったの」
「一度見合いしただけの男を?」
「ええ。貴方の外見も性格も好きよ。これからもっと知っていきたいわ」

彼女はにっこりと笑って言った。
今のやり取りで、二人がどんな関係なのか大体推測できた。
互いに両親に進められて見合いはしたが、交際するまでには至っていない。
ユンホさんに好意を抱いている彼女だが、想いは一方的であるようだ。
彼女の立場を自分に置き換えた僕は、心の中で同情した。
きっと僕と同じように、振り向いて貰えずに傷付くだけだ。
引く様子が無い彼女を見て、ユンホさんは溜息をついた。

「この際、正直に言おう」
「何かしら」
「俺はバイだ」
「え・・・・・・?」
「男も女もイケる。でも、男の方がより好きだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「男がサービスしてくれる店に行ったりもする。そこに本命の男も居る。だから、悪いがあんたとは付き合えない」

彼女は口を開けたまま固まってしまった。
僕も彼女と同じ状況に陥り、手に持っていた皿をシンクへ落としてしまった。
客の目がこちらへ向いて、僕は再びカウンターの下へ身を隠した。
ユンホさんの真剣な表情や語り口調から、先程の発言は、彼女の気持ちをはぐらかすためについた嘘とは思えなかった。
恐らく、全て本当のこと。
バイであることには少し驚きつつも、その後の発言が気になった。
ユンホさんの本命の男が、うちの店の誰かかもしれないということだ。
今までユンホさんに指名され、抱かれた男娼達の誰かだとしたら・・・・・・?
もしその二人の間に愛が生まれたならば、僕は祝福することが出来るだろうか。
あの店で、ユンホさんの恋人となった男と共に働いていられるだろうか。
想像すると胸が痛むのは、まだユンホさんへの想いが残っているから。
結ばれたいという望みを捨てることは出来ても、想いはそう簡単には消えてくれない。

「私たち、これ以上話す必要は無さそうね・・・・・・」
「済まない」
「いいの。正直に話してくれて良かったわ。取り敢えず、何か頼みましょう」

彼女が、テーブル脇に置いてあるベルを鳴らした。



願わくば、僕のことなど何一つ気にかけないで欲しかった。
彼女が一言、僕にまとめて注文を伝えるだけで良かった。

「・・・・・・お待たせしました。ご注文をお伺いします」
「カフェラテをひとつ」

彼女がそう言い終えると、ユンホさんが僕に視線を寄越した。
当然目を合わせることが出来ず、僕は注文用紙へ不自然なほど視線を落としていた。
化粧もせず男の格好をした僕を見て、あの店の男娼シム・チャンミンであると気付かないで欲しい。
そんな願望は、虚しく散った。

「君は・・・・・・マックス?」

一向に逸らされることの無い視線を感じて、僕はゆっくりと顔を上げた。
黒目がちな瞳が、まっすぐに僕を捉えていた。









◇◇◇



ユンホさんの本命とは誰なのでしょう。
さて、ここからどう発展させようかな・・・・・・

皆さん、赤い制服を来たユンホ兄さんご覧になりましたか?
取り敢えず、笑顔でいてくれたことに安心しました。
そして、兵役へ行って、チョン・ユンホとしてもパフォーマンスというか・・・・・・人前に立つ役割を担うのですね。
ユノの負担にならなければ問題ありませんが、少しだけ心配しました。
ユノが楽しいのなら何の問題無いのです。
これからも応援しています。
夜を歩く~のイベントも、チャンミンの入隊間近ということもあり行きたいですよね!
一人でも多くのチャミペンさんが参加できますように!!



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4 Comments

NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

ちゃー○んさま


こんにちは!
ちゃー○んさまの地域は大丈夫でしたか?私の周辺はなんとか・・・・・・
でも街中の川から水が溢れて避難勧告が出ました。
東日本、至るところで被害があって本当に大変でしたね。

お話のほうは、ラストの展開が皆さんのお口に合うか何時ものごとくびくびくです。
まぁ頑張るんですけども・・・・・・!
どうか最後までお付き合いください♡

2015/09/11 (Fri) 17:12 | EDIT | REPLY |   

NB(のぶ)  

Re: やっと~

る○さま


はじめまして(^O^)
コメントありがとうございます♪
やっと更新されて・・・・・・という言葉に申し訳なくなりました。
ほんとうに、いつも亀更新ですみません。
これからも頑張りますので、どうか見に来てくださいね♡
またお待ちしてま~す!

2015/09/11 (Fri) 17:08 | EDIT | REPLY |   

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2015/09/10 (Thu) 23:23 | EDIT | REPLY |   

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2015/09/08 (Tue) 09:43 | EDIT | REPLY |   

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