ミッドナイト・ガイズ 3

  14, 2015 07:02


















ミッドナイト・ガイズ・表紙


















ある晩、店が開店して間も無くユンホさんが来店した。
ユンホさんが来店した瞬間は、直ぐに分かった。
彼が来たことを察知した男娼数人が、化粧室で騒ぎ始めたからだ。
暫くすると化粧室のドアがノックされ、オーナーが顔を出した。

「御曹司からご指名だぞ」

オーナーがそう言うと、化粧室の空気が一変した。
誰もが指名されたいという望みと、それを譲らんとする敵対心を露にする。
緊張感が漂う中、唇を釣り上げたオーナーはゆっくりと口を開いた。

「シム・チャンミン、お前だ」

その一言が放たれた瞬間、周りの空気が凍りつくのが分かった。
殺気を含んだ視線が、次々に僕へ突き刺さるのを感じる。
執拗な嫌がらせは、これから更にエスカレートすることになるだろう。
しかし未来に対する恐怖心よりも、これからまた彼に会えるという事が、指名してくれた
事への喜びの方が何倍も大きかった。

「今・・・・・・行きます」

睨みを効かせる男娼達を横目に、僕は化粧室を後にした。



客席へ腰かけたユンホさんは、今日も真剣な顔つきをしながら手帳へ視線を落としていた。

「今晩は」

声をかけると、ユンホさんは顔を上げて僕に視線を向けた。

「ご指名頂き、ありがとうございます」

ユンホさんは目を細めてにっこりと笑うと、ソファの空いたスペースをとんと叩いた。

「さ、座って」
「はい」

ユンホさんに会うのは一週間ぶりだ。
前回彼が来店したのも金曜日の夜だった。
グラスにワインを注いで、二人で乾杯した。

「やっぱり、ここの酒はうまいな」
「分かります。実は・・・・・・この店の酒が好きで、此処で働こうと決めたんです」
「そうなのか。酒は強いの?」
「割と。沢山飲んでも、あまり酔いませんから」
「それじゃあ、付け込むところが無いなぁ」
「え・・・・・・?」
「クールビューティーを攻略しようと思ったんだが・・・・・・酒も強いとなると、さて・・・・・・どうしようか?」

ユンホさんは頬杖を付きながら、僕を見つめて楽しそうに笑った。
音が聞こえてしまいそうな程、鼓動がどくどくと波打ち始める。
もう、とうに攻略されている。
貴方の甘いフェイスと囁き、僕をじっと見つめ捉えて離さない、その視線に・・・・・・
僕は今、いつも通りの自分を貫けているだろうか。
顔が熱を持つのを感じて、僕はユンホさんから逃げるように下を向いた。

「ずるいですよ、貴方は」
「え?」
「僕はまだ、接客に慣れていないんです」
「・・・・・・・・・・・・」
「これ以上、からかわないで・・・・・・?」

僕はつい、本音を口にしてしまった。
きっと既に、冷静では無かった。
恐る恐る顔を上げると、僕はユンホさんを見つめた。
ユンホさんは、少し驚いた顔をして僕を見ていた。
やがて、いつもの魅惑の微笑みを浮かべたユンホさんは、僕の口元に手を伸ばした。
すっと細く長い指は、唇のグロスをゆっくりとなぞった後、離れていった。

「やっぱり・・・・・・。化粧なんかしなくても、君は充分美人だ」
「何を、言って・・・・・・」
「俺は君をからかってなんかいないよ。本当のことを言ってるだけだ」

ユンホさんの言葉、表情に、全てを奪われそうになる。
冷静であれと、何処かからもう一人の僕が呼びかける。
客の言葉を一言一句信じていたら、この仕事は務まらない。
しかし違う客であれば、こうも取り乱すことは無い。
僕がユンホさんに心を揺さぶられるのは、ユンホさんを客としてじゃなく、一人の男として見ているから。

「この店でしか触れ合えないのが惜しい」

ユンホさんの手が、僕の手の上に重ねられた。
もう、取り繕うことは出来なかった。

「ユンホさん・・・・・・」

僕は期待を含んだ目で、ユンホさんをじっと見つめ返した。
その時、ユンホさんのポケットの中の携帯が、着信を告げた。

「・・・・・・済まない、電話だ」
「はい・・・・・・」

ユンホさんは携帯を持って席を立った。
それから暫く、ユンホさんは通話に時間を取られた。
ユンホさんは、席へ戻ってくると申し訳無さそうに言った。

「急だが、用事が入ってしまった」
「そうですか」
「また来る」
「はい。お待ちしています」

店を出たユンホさんは、見送りをする僕を振り返り、微笑みながら手を振った。
僕は、礼をしてそれに応えた。



仕事あがり。
更衣室で着替えていると、男娼のひとりが衣装を纏ったまま僕の元へやってきた。
嫌がらせの実行犯の彼は、男娼達の中でもリーダー格のような存在だ。
綺麗な外見をしているが、嫉妬深さや人を妬む感情が、纏った空気からにじみ出ている。
片手に持ったグラスに口をつけると、彼は僕を睨みながらごくりとシャンパンを飲み込んだ。
周囲の男娼達の目が、一斉に僕に向いた。
これから何が起こるのかと、誰もが注目している。

「指名、おめでとうさん」

彼はもう一口シャンパンを口に含むと、次の瞬間、思いきり僕の顔面へそれを吹き付けた。

「っ・・・・・・!」
「調子に乗んなよ。一回指名されたくらいでよぉ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「女みたいな顔しやがって・・・・・・。気に食わないんだよお前」

頭上にグラスが掲げられ、頭の上から冷たい液体が一気に流れ落ちた。

「あははっ。きったねぇの」

彼は満足そうに笑うと、僕に背を向けて出口へ向かった。
濡れた髪から雫が長れ落ちて、頬を伝ってゆく。
酒が床に溜まるのを見つめながら、僕はユンホさんを思い浮かべた。
荒れ果てた野に咲く、一輪の花の様な人。
あの人が、こんなにも薄汚れた心の持ち主に狙われている。
それがとても悲しくて、許すことができなかった。
ユンホさんとこんな男が触れ合うなんて、絶対に受け入れられない。
強い独占欲と苛立ちが、心の底からふつふつとこみ上げてくる。
今まで経験したことが無い程の、激しい感情の昂ぶりを感じた。
僕は、履いていたハイヒールの片方を手に持つと、前方へ向かって思い切り投げつけた。
ヒールは狙い通り、彼の後頭部へ直撃した。
周囲の空気が一変して、誰もが息を呑む気配がした。
彼は、怒りを含んだ険しい形相で、僕を振り返った。
ぎらついた瞳で睨み付けられても、僕は怯むことは無かった。

「外見は、必ず心を映し出すもの。そんな醜い心で彼に好かれようなんて、本気で思っているのですか」
「何・・・・・・?」
「僕は負けない。貴方なんかに・・・・・・あの人は渡さない」

僕も、強い意思を込めて彼を睨み返した。
バッグを手に持つと、着替えかけのドレスも濡れた髪もそのままに、更衣室を後にした。






リーダー格の彼に啖呵を切ったことが、嫌がらせをエスカレートさせたのは言うまでも無い。
しかし、僕は挫けることは無かった。
僕の世界はユンホさん中心に回っていて、彼とまた会えることが、指名して貰えることが全てだったからだ。
再会の時を思えば、嫌がらせなんて幾らでも耐えられる気がした。









◇◇◇



なんという修羅場・・・・・・(^^;
チャンミン、頑張ってー!
ユンホさんの本性が次回あたりから分かると思います。

更新頻度が減っても沢山の拍手、暖かいコメントを頂きとても嬉しいです。
お盆休みとか関係ない職場ですが(`_´メ)
頑張ります♡



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Comment 6

NB(のぶ)  

Re: こんばんは。

ちゃ○さま


こんばんは!
あれ…何でそんな詳しいんだろう。
もしやちゃ○さま、経験者…!?なんてね!

このメタメタ感、くらーい感じこれからエスカレートしますが、皆さんに受け入れて貰えるか激しく不安です。
うん、でも頑張ります!

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NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

ちゃー○んさま


こんばんは、いつもありがとうございます♡
掃除のおばちゃん、そのポジション私もやりたいなー(笑)
チャンミン、頑張ってます。
今回のお話、チャンミンが頑張る割合が凄く多いです。
カラダノ~に引き続き…私、チャンミンが傷付きながら頑張る展開が好きみたい(^^;
でも、傷付いた分幸せにしてあげたい!それはいつも思ってます。
今回も最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
更新、週一くらいで出来るように頑張りま~す!

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NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

ゆ○んさま


こんばんは!
いつもありがとうございます。
ユンホさんは一体どんな人なのか…?
更新後の皆さんの反応が恐い…そんな描写です(^^;
先に謝りますごめんなさーい!
でも私なりに色々考えた結果です。
男娼達に揉まれるチャンミンと一緒に、更新頑張ります!

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