ミッドナイト・ガイズ 2



















ミッドナイト・ガイズ・表紙


















光を放つドレスを身に纏い、唇は真っ赤なグロスで染まっている。
鏡に映っている見慣れない自分の姿を、僕はぼんやりと見つめた。
店が開店する直前の今も、代役を務めるという実感がまだ湧かない。
そもそも、僕のこの姿を気に入る男が居るのかどうか・・・・・・
全てが未知だ。
本来ならば接客を経験している男娼達から指導を受けるべきだが、僕は誰からも指導を受けなかった。
オーナーから、口頭で基本的なルールについて教えられただけだ。
男娼達の大半は、仲間というより敵という感覚で互いのことを見ている。
優しい待遇など期待してはいけない。
視界の隅に、こそこそと耳打ちをして僕を睨む男娼数人が目に入った。
僕は弱々しく溜息をつくと、席を立ち化粧室を後にした。



店が開店してからは、僕は挨拶のためオーナーに着いて客の席を回った。
一通り挨拶を終えた時には、店は混み合う時間になりがやがやと賑わい始めた。
男娼達は皆客の元へ接客に出ていて、挨拶を終えた僕は一人、フロアの隅に立って店の様子を見ていた。
すると、入口の方から姿を現したオーナーが、僕の元へ駆けて来た。

「シム、客だ。お前が接待しろ」
「指名ですか?」
「いいや。客は誰でもいいと言っている。他の奴らは皆出ているからな。お前が行け」
「分かりました」

オーナーはにやりと笑いながら、僕にこっそりと耳打ちした。

「相手は、チョン・ユンホだ」
「え・・・・・・」
「金持ちに気に入られれば、その分給料も上がるぞ。上手くやれ」
「・・・・・・はい」

気に入られるとか金だとか、そんなことを考える余裕なんて無い。
初めて彼に会った時、胸が高鳴ったあの感覚がよみがえってくる。
僕は緊張を逃がすように息を吐くと、いつものポーカーフェイスでフロアへ足を踏み出した。
客席へ向かうと、ソファに腰掛けたユンホさんが、真剣な顔つきで手帳を広げていた。
今日も、赤いワインレッドのジャケットがよく似合っている。

「……こんばんは」

ためらいがちに声をかけると、ユンホさんはゆっくりと顔を上げて僕を見た。
すっと伸びた瞳が、少しだけ大きくなった。

「君は……」
「シム・チャンミンです。よろしくお願いします」

化粧をした顔を晒すのが恥ずかしく思えて、僕は俯きがちになりながら、ユンホさんの隣に腰かけた。

「この間の……」
「あの時は、本当に無礼なことをしてしまいました。申し訳ありませんでした」
「いいんだ。でも、ボーイだと思ってたのに驚いたな」
「本日から、他の者の代わりを任されました。不慣れで至らない点があるかと思いますが、宜しくお願いいたします」
「よろしく」

ユンホさんは、にっこりと笑って応えた。
甘く優しげな微笑みが、今は僕だけに向けられている。
それが嬉しかった。
グラスにワインを注ぐと、ふたりで乾杯した。
僕はやはり、ユンホさんのジャケットが気になった。

「そのジャケット、本当によくお似合いです。やはり大事なものだったんですね……」
「ああ、これか」

ユンホさんは、ジャケットをひらりとつまんだ。

「そうでも無いんだが……実は……」

沈黙を保ちながら、ユンホさんは僕をじっと見つめた。
そして、微笑みながら小声で囁いた。

「また、君が気にかけてくれるんじゃないかと思って……わざと着て来たんだ」
「え……?」

顔が熱くなるのを感じながら、僕は必死に平静を保とうとした。
人を扱い慣れているから、きっと喜ばせるのが上手いんだ。
そう自分に言い聞かせた。

「口がお達者ですね。あまりからかうと、調子に乗ってしまいますよ」

平淡な口調でそう返すと、ユンホさんは困ったように笑いながら頭を掻いた。

「本当のことを言ったんだけど」
「そうであれば、舞い上がる程嬉しいです。ありがとうございます」
「本当にそう思ってる?君はクールだね」
「よく言われます」
「取り乱した顔が見てみたい」
「困ります。クールが売りなんです」

アルコールの力も手伝い、テンポ良く会話が進んで互いにくすくすと笑った。
ユンホさんと過ごす時間は、ほぼ初対面であるというのに居心地が良かった。
言葉の選び方、視線の配り方や気遣い全てがスマートで、かつ押し付けがましくなく、とても自然だ。
御曹司という話を聞いたが、ただの温室育ちでは無い様な気がした。
社会に出て多数の人間と関わらなければ、こうも完璧なコミュニケーション能力は身につかないだろう。
家の教育が良いのかも知れない。
此処を訪れるのは、やはり男が好きだからだろうか。
この店の誰かを、抱いたことがあるのだろうか。
そんなことばかりが気になり、しかし無論聞ける筈も無かった。
僕は仕事上の接客役としてじゃなく、完全に一人の男としてユンホさんを見ていた。
ふと、ユンホさんが時計に目をやり呟いた。

「もうこんな時間か……。そろそろ帰らないと」

僕は名残惜しく思いながらも、帰る支度をするユンホさんを傍で見ていた。
すると、ユンホさんが僕を見つめながら小声で問いかけてきた。

「代役ということは……君も……客に体で奉仕するようになるのか?」
「……契約上、その様な条件は言い渡されていません。恐らくは無いかと……」
「そうか……」

ユンホさんはそれだけ呟くと席を立ち、会計を済ませて出口へ向かった。
店を出る直前、見送りをする俺を振り返り、神妙な面持ちでユンホさんは口を開いた。

「お節介かもしれないが……上の言うことをあまり鵜呑みにしない方が良い」
「え……」
「済まない。君のことが心配になった」
「…………」
「じゃあ、行くよ」

そう口にした時には、ユンホさんはいつもの穏やかな表情を浮かべていた。
遠ざかるユンホさんの背中を、僕は見えなくなるまで見送った。









ユンホさんの忠告とは違った形でだが、僕はその後この仕事の辛さを思い知ることになった。
初めて接客した客がユンホさんだったことが、ある男娼数人の気に障ったらしい。
更衣室に新たに追加された僕のロッカーが、彼らの標的となった。
鍵の差込み口が派手に壊され、その中にある貴重な数着のドレスが切り裂かれてしまった。
扉を開けてそれを目にした時、僕はショックのあまり硬直した。
鏡越しに、僕の反応を見て楽しそうに笑う男娼たちの姿が目に入った。
嫌がらせの実行犯は恐らく、楽しそうに僕の様子を伺っている奴等だ。
その周りで何も目撃していないかのように傍観しているのは、標的になるのを逃れたい奴等。
客絡みでこんな嫌がらせをするとは、まるで嫉妬深い女のようだと思う。
目に見えるリアクションを取るのは、相手の思う壷。
怒りと悲しみに耐えながら、僕は無表情でいるよう努めた。



しかしその後も、嫌がらせが止むことは無かった。
吐き戻したものや残飯が、ロッカーに撒かれていたこともあった。
煙草の吸殻が、大量に入れられていたことも。
ロッカーは、さすがに使い物にならなくなった。
衣裳や化粧道具は更衣室に置いたままに出来ず、僕はそれらを自宅から持ち込む様になった。
毎日客以外の誰とも話さず、一人日々増してゆく胸の痛みに耐えた。
ただユンホさんと再び会う日を、その時には彼が僕を指名してくれる事を待ち望んで過ごした。
こうも酷い仕打ちを受けたのは、ユンホさんを接客したことが原因だというのに……



そして、待ち望んだその日は再び訪れた。









◇◇◇



久しぶりの更新なのにくら~くてすいません!
暫く……いや、ずっと?こんな感じで進むと思います。
ねちょねちょして暗くてエロいって……うーん。
ラストまで考えてますが、話の8~9割暗いです。
そして面白い展開です!とあまり自身を持って言えません……(汗)
お付き合いくださる優しいお方は、どうぞ宜しくです!



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2 Comments

NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

さえ○んさま


こんばんは~!
いつもありがとうございます♪

そっか、今夏休みですもんね。
お家が賑やかそうですね♡
さえ○んさまは息抜きやおやすみの時間取れていますか?
暑いので体調にも気を付けたいですよね((T_T))
時間が有るときで良いので、この変態の話を聞いて下さいm(._.)m笑

ユノはチャンミンの心をわしずかみしちゃいました。
チャンミン、いじめられてもユノへの気持ちが増すばかりです。
しかしあまり明るい展開へは向かわないんですよ~……
ちょっとネタバレですが、今後ユノは話の流れ的に酷い男です。
なので先に謝ります、すみません!
しかしNBが責任を持って何とかしますので!
ねちねちした男娼の世界は、大奥を男に変換したようなイメージで書いてます。
チャンミン、頑張って…((T_T))

Dominusいいですよね!
あとは二人のソロ、PVが無い方の曲も物語のイメージに置き換えて書いてます。
暗い曲、暗い話の掛け合わせ大好きです(^.^)

さえ○んさま、暗い話好きですか!
嬉しいなぁ、またシンクロしました♡
私も店長みたいな明るい甘い話好きですけど、(意味のある)暗い話がもっと好きです。

私のペースで、そのお言葉凄く嬉しいです。
いつも優しいさえ○んさま、本当に大好きです。
暑さに負けず頑張って更新します!

2015/08/09 (Sun) 22:28 | EDIT | REPLY |   

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2015/08/07 (Fri) 23:42 | EDIT | REPLY |   

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