ミッドナイト・ガイズ 1



高層ビルの屋上に立ち、僕は幾つもの光の粒が浮かび上がる夜の海を見渡した。
一流と賞されるこの煌びやかな夜景も、今の僕には色褪せて見える。
男娼達が硝子越しに眺める、最早お決まりの風景。
悲しい運命を生きる男達の、庭の様だと思う。
男でありながら、女の格好をして客を接待する。
そんな風変わりな店で、僕はフロアのボーイとして働いている。
世間一般からはおかしな店にしか思われないだろうが、これだけの人間が存在すればアブノーマルな趣向の持ち主も多い。
男が好きな男。女が好きだが、女装した男ならイケる男。色んな奴が居る。
男娼達は、夜になると派手なドレスを身に纏って客を接待する。
フロアの奥には、ベッドルームが何部屋かある。
酒がある程度進むと、男娼は客とベッドルームへ向かい身体を開く。
金を稼ぎ立場を安定させるための、最大の武器はやはり身体なのだ。
悲しいかな、客の愛が強過ぎるために傷を負ったり、酷いケースだと命を落とした男娼も居る。
己の命と引き換えにする覚悟で、皆必死で客と向き合っている。
男娼では無くとも、こんな場所で働いている僕もやはり、男が好きな男だ。
此れまで務めた職場も似た類の場所で、僕は一度もまともな職に就いたことが無い。
この世界しか知らないのは、男娼も僕も同じだ。
ただ、客の相手になるか雑用か、その違いだけだ。
僕は男娼になりたいとは思わない。
彼らの悲しい末路を目にしながら、それでも金を稼ぐ為に、同じことをする気にはなれなかった。

あの日あの時まで、男娼になるなど考えたこともなかった。




















ミッドナイト・ガイズ・表紙






















酒を席へ運んでいた時のことだった。
前方から、ある男娼と客が寄り添いながら歩いてきた。
二人を通そうと僕は道を空けた。
しかし次の瞬間、背後を誰かがぶつかって通り過ぎたため、僕は前に押し出された。
持っていたトレイが、目の前まで来た客の胸元に当たった。
振動で溢れた酒が、客のジャケットを濡らしてしまった。

「す、すみませんっ」

客の顔を見る余裕などなく、僕は青ざめながら勢いよく頭を下げた。
上質そうなワインレッドのジャケットが、僕の零した酒で濡れている。
それしか目に入らなかった。
頭を上げる前に、僕は客を接待していた男娼に店の裏へと連れて行かれた。



「客の服汚すとか、仕事舐めてんのか」
「・・・・・・すみません」
「分かるよな。お前が失敗すると俺にも迷惑がかかんだよ。客が気悪くして帰ったらどうするつもりだ。オーナーに言いつけてクビにしてやろうか?」
「本当にすみません」
「謝れば済むと思うなよ、糞が」

男娼は、僕の胸ぐらを乱暴に掴んだ。
格好は女を装っていても、身体も中身も立派な男だ。
顔面に拳が飛んで来てもおかしくない。
そう思って目を瞑っていた。
その時・・・・・・

「ストップ。そこまでだ」

一人の男性が、怒り立つ男娼の肩を掴んだ。
シャツにスラックス姿の男性は、手にワインレッドのジャケットを持っていた。
顔はよく把握していなかったが、先ほど僕がジャケットを汚してしまった客だと分かった。
セットされた前髪が、すっと横に伸びた切れ長の瞳にかかっている。
筋の通った鼻、厚い唇。整った顔をしていて、背も高くガタイが良い。
とても男らしい外見をした人だった。

「折角お洒落をしてるのに、そんな汚い言葉を吐いたら台無しだ」
「は、はい」
「いつものように笑ってごらん」

男性は男娼の肩を抱くと、顔を覗き込みながら優しい口調で言い聞かせた。
男娼は先ほどの形相が嘘かのように、顔を紅くして笑って見せた。

「よし。それで良い」

男性は、手に持ったジャケットを僕に見せながら言った。

「だいぶ着古して、もうそろそろ替え時だと思ってたんだ。丁度良かった」
「そんな・・・・・・。本当に申し訳ありませんでした」
「いいんだ。気にするな」

男性は男娼の肩を抱いたまま、フロアの方へ向かって歩いて行った。
途中僕を振り返ると、ウインクをした後にっこりと微笑んだ。
どこか薄汚れたこの世界で、男性は浮いているように見えた。
立ち居振る舞いから、人の良さや上品さが良く伝わってくる。
あのジャケットは言うまでもなく、捨てるつもりなど無かったのだろう。
ただ感謝をするつもりで、僕は男性の背中を見えなくなるまで見つめていた。



後に仲間から聞いたが、男性の名前はチョン・ユンホというらしい。
とある財閥の御曹司で、最近よくこの店に顔を出すのだそうだ。
外見は勿論性格もそれに劣らず完璧で、彼に指名された男娼は皆、飛び上がる程の勢いで喜んでいる。
この店で見せる姿だけじゃ性格まで断言出来ないと思うが、僕は先日助けられた事もあり、その話は間違っていないような気がしていた。
僕に微笑みかけた時の、あの優しくも色っぽい顔が、ずっと頭に焼き付いて離れない。
彼と触れ合うことが出来る男娼達を、少し羨ましく思った。









「シム」

夜が開けた頃、フロアを掃除しているとオーナーに呼びかけられた。

「お疲れさまです。何でしょう」

オーナーは、僕の顔を何も言わずにじっと見つめた。

「・・・・・・何ですか?」
「お前・・・・・・男娼をやる気はないか」
「え・・・・・・?」
「可愛らしい顔をしているのに勿体無いと思ってな」

僕は小さく笑みを零しながら、首を横に振った。

「ありません。あんな過酷な仕事・・・・・・耐えられる自信が無い」
「そうか・・・・・・」

オーナーは立ち去ろうとする様子が無く、まだ何か言いたげに見えた。

「実は・・・・・・一人体調を崩した奴が居てな。直ぐに復帰出来る状態じゃ無いそうだ。明日以降お前に、変わりに穴埋めをして欲しと思っていたところだ」
「僕が、ですか?」

オーナーはにやりと笑って言った。

「ああ。外見も良し。酒にも強い。代理を任せるには、お前が最適の人物だと考えていた」
「でも、客に毎回抱かれるなんて・・・・・・僕に出来るかどうか・・・・・・」
「暫しの穴埋めなのだから、そこまでする必要は無い。ただ客の横に座って笑って居ればいいだけだ。給料も、今の二倍に上げてやる」
「本当ですか?」
「ああ」

決して贅沢出来ない暮らしの僕からすれば、それは魅力的な話だった。
決められた期間だけ客の接待をすれば良い。
元々男が好きなのだから、多少の触れ合いは耐えられるだろう。

「それなら・・・・・・やってみます」
「よし、言ったな」

僕は契約書にサインをし、体調を崩した一人が復帰するまで、代わりを勤めることを約束した。



金の誘惑に負け、契約を結んだ僕が馬鹿だった。
後になって、冷静に考えてから気付いた。
体調を崩した男娼が何時までも戻って来なければ、僕はずっと代わりを続けなければならない。
それにほんの数日だとしても、酒を零したくらいでびびってる僕が、客を奪い合う過酷な世界へ入り込むことがどれだけ辛いか・・・・・・
考えただけで打ちのめされそうだった。



でも、そんな戦争みたいな世界に足を踏み入れた僕の前に、彼はまた現れたんだ。
あの時と同じ、ワインレッドのジャケットを羽織って。
まるで、荒野に咲く一輪の薔薇のように・・・・・・









◇◇◇



お久しぶりです。
ずーっと更新せずすみません(^_^;)

新連載は、御曹司ユノ×男娼チャンミンの恋です。
男娼とか・・・・・・またまた暗めのお話になりそうですが・・・・・・
気に入って下さった方、お付き合い願います(^_^)
ちなみに、ワインレッドのジャケット着たユンホさんは、U KNOW Y のジャケ写のユンホさんを想像して書きました~♡
Rise As God を聴きながら書いてます。
Dominus って曲聴きながら、このお話の雰囲気に合うなぁと思いました。
結末はざっくり考えてあります。
いつもの感じで、悲しい気持ちで終わるようにはしないつもりです。
頑張ります!

ユノが去って、チャンミンももうすぐ入隊でしょうか。
坊主で敬礼するユノ、頭の形がイイなぁと思いながら・・・・・・(笑)
私の目には、ユノユンホでは無く完全にチョン・ユンホに見えました。
二人共沢山のプレゼントを残してくれたので、なんとか二年凌げそうな気がします。
取り敢えず、ユノが怪物になって戻ってくるまでカウントダウン開始ですね♪
残される方が辛いってよく言うので、チャンミンがちょっと心配ですが・・・・・・
彼はそんな弱くないと思うので、きっと大丈夫と信じてます。
チャンミンの気持ちに寄り添うような気持ちで、チャンミンの入隊までの期間過ごしたい
と思います。



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4 Comments

NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

さえ○んさま

こんにちは!、いつもありがとうございます♪
この間も(笑)お話できてたのしかったです(^.^)
さえ○んさま、ほろ酔いだったのか!
いえいえ、いつも通り楽しかったですよ~う♡
いつかさえ○んさまと、飲みながら東方神起語りたいなぁ。

ユノって絵に描いたような格好いい!って役似合っちゃうんですよね。
普通なら臭くなるような台詞さえピッタリ(*^^*)

チャンミン、早くもユノに惚れそうな感じです。
男娼チャンミンって色っぽいですよね!
上品さのあるエロさ…!最高です。
ノーメイクでも全然いけるに違いありません!
展開としてはかなり暗くなりそうですが…
ラストまで考えている今も、面白いのか謎ですが(´-ω-`)
ゴールまで見守って頂けたら嬉しいです。

またお待ちしてます。
あちらでもお話しましょうね~♡

2015/08/02 (Sun) 18:17 | EDIT | REPLY |   

NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

ちゃー○んさま

こんにちは!
最近本当に暑いですね…!
体調は大丈夫ですか?
私は汗だくになりながら毎日過ごしてます(^.^)

新しいお話、妄想が進むばかりで文字になりません(^^;
頑張ってパソコンぱちぱちします!
男娼チャンミン、これからどうなるのか…
明るい展開にはあまりならないと思うのですが…
宜しければお付き合い願います!

2015/08/02 (Sun) 15:44 | EDIT | REPLY |   

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2015/07/28 (Tue) 07:47 | EDIT | REPLY |   

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2015/07/26 (Sun) 10:26 | EDIT | REPLY |   

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