君に送るサランヘ

  16, 2015 07:20


下積み時代から暮らしてきた俺らの宿舎は、ある時まで一番安らげる場所だった。
何時からか痛い程の沈黙が落ちるようになり、俺達は今までのように過ごすことが難しくなってしまった。
明るかった未来図が、次第に色を失っていくのを感じた。
そして俺は、四人の兄のうち三人もの兄を失った。
当然、これ迄のように活動することはできなくなった。
一対四から一対一になり、一人の兄とふたりきり過酷な状況に置かれた。
慣れない環境で理不尽な罵倒に耐えるのは、決して容易なことでは無かった。

俺は別に、特別ユノを慕っていた訳ではない。
それぞれに求めるものは違っても、兄四人とも同じほどの比重で慕っていたと思う。
ただあの時、俺とユノは偶然同じ考えを持ち、東方神起という家に残る決断をしただけだ。
俺はユノと二人の時間を過ごして、東方神起を守るようになって初めて知った。
個人として持った気質は正反対と言える程違っても、仕事に向けた思いや価値観がこんなにも一致するということを。
もし東方神起でなかったら、ユノは友達になるようなタイプとは程遠い。
東方神起という存在が、いつも俺とユノを繋いだ。
同居して喧嘩ばかりだった日々も、個人活動で一人の時間が多かった時も。
今となっては俺の兄はただ一人、ユノだけだ。
しかし兄で済ませるには、今までの時間はあまりにも濃密過ぎる。
ユノは俺を、もうひとりの自分と表現する。
その表現が正しいのかはよく分からない。
でも、そんな風に言ってくれることは正直嬉しい。
俺の人生は殆ど東方神起で成り立っていて、ユノが隣に居ることが当たり前だからだ。
ユノという存在を無くしたら、俺は今度こそ立ち直れるか分からない。
そしてそれはきっと、ユノも同じだと思う。
恋人でも無いのに、どうしてこんなにも大切になってしまったのか。
もしユノがただの恋人だったら、どんなに楽だっただろう。
例え別れてしまったとしても、また他の人を探そうと思える。
でも、東方神起のユノという存在はたった一人だけ。
東方神起は、両翼がなければ羽ばたけない。
ユノという翼を、無くすことは出来ない。






久しぶりに、あの頃の夢を見た。
二人きり残された宿舎で、ユノは俺を抱きしめた。

『チャンミナ・・・・・・俺が、お前を守るから』
『女みたいに扱うな。気持ち悪い』
『そうだな。ごめん』

どんなに身体を突っぱねようとしても、ユノは俺を離さなかった。
口から出る穏やかなセリフとは対照的に、俺を抱き締める腕は力強く強引でびくともしなかった。
俺は抵抗するのを諦めて手をぶら下げ、抱き返すでも無くただされるがままになった。
触れ合うのはあまり得意じゃないから、本当は早く離して欲しかった。
でもユノの体温が痛い程優しくて、それがとても貴重なものに思えて、俺は知らぬ間に涙を流していた。
きっとあの時から、ユノは俺にとって特別な存在だった。


今度は、まるっきり違う場面に切り替わった。
始め、現実なのかと思った。
俺が立っている世界が、比較的最近の記憶の中だったからだ。
パフォーマンスを終え、休憩中、舞台裏の廊下を歩いていた時のことだ。
少し前を行くユノの元へ、仲間の女ダンサーが駆け寄ってきた。
彼女は、パフォーマンスでユノとペアを組むことが多い。
今日もそうだった。
ユノの肩を叩くと、彼女は仏頂面で言った。

「ねぇ、またオッパの唾が飛んだ」
「仕方ないだろ。そのくらい我慢しろよ」
「嫌なものは嫌なの。拭いて」
「は?」
「拭・い・て」

彼女は、ユノに向かって頬を突き出した。

「おまえー・・・・・・」

ユノは、彼女の頬を掌で乱暴に拭った。

「プロ根性が足りない奴め!」
「痛いっ。もっと優しくして」

その光景は、ただ男女がイチャついている様にしか見えなかった。
俺は二人を鼻で笑うと、黙ってその場から立ち去ったのだった。









目覚めると、見慣れた天井が目に飛び込んできた。
まるでユノとの思い出を遡るかのように、過去の夢をみた。
何故だろうと考えて、直ぐにその理由に辿り着いた。
今日は、七月二十日。
暫しの別れを前に、俺がユノと会える最後の日だ。
事務所の謀らいで、夜の数時間は俺達二人のスケジュールは空けてある。
今夜、ユノと夕飯を食べる約束をしていた。



夜になると、ユノが俺のマンションにやって来た。
俺を見ると、いつもと変わらない笑顔で手を上げて言った。

「よう。元気してた?」
「まぁね」

部屋へ向かったユノの後を、俺も追った。
酒を飲み始めると、いつもより気分が高まって口数も増えた。
何よりこうして会うのが久しぶりで、この先それが難しいと分かっているから、出来るだけ楽しみたかった。
どこから発展したのか、そのうち好みのタイプの話になった。

「俺のタイプはなぁ・・・・・・無いな。やっぱり、好きになった子がタイプかな」
「少しでも何かないの。スタイルが良い、顔が良い、胸がでかい、料理が出来るとか・・・・・・あとは仕事熱心で真面目で・・・・・・」
「ストップ。お前さぁ、そんな注文多いと何時まで経っても結婚できないぞ」
「いいんです。女に関して妥協はしないって決めてるから」
「あーそうかい」

ユノは呆れたような顔で笑いながら、再び酒を口へ運んだ。
酔っているせいか、顔はほんのりと紅く目の大きさはいつもの二分の一だ。
ガードが緩そうなユノを見ていると、ついちょっかいを出したくなる。
俺は先日の件について聞いてみた。

「マリちゃんは?」
「マリ?」
「仲良いじゃないすか。顔に飛んだ唾、拭いてあげてたでしょ。カップルみたいだった」

俺がそう言うと、ユノは顔を顰めた。

「ああ・・・・・・可愛いけど、あいつは駄目だ。唾くらい我慢しろよって」
「そうですよねぇ。俺なんて何度ヒョンに唾を飛ばされたことか。総計すると確実に百回以上に及ぶけど、拭かれたことなんて一度も無いです」
「あ、お前もかよ!皆して俺の全力を馬鹿にしやがって・・・・・・」

ユノは、本気で怒っているような顔をした。

「・・・・・・まさか、本当に馬鹿にされたと思ってる?」
「違うのか?」
「ばっかだなぁ。本気で唾が嫌な訳無いじゃん。ヒョンに触って貰うための口実でしょ」
「・・・・・・マジで?」
「鈍いよな、ほんと」

ユノは萎んでいた目をまん丸くして、俺をじっと見つめた。
ふと先ほどのセリフを思い返した俺は、自分の失言に今更気付いた。

「もしかして、お前も触って欲しいの?」
「ちが・・・・・・」
「ヤキモチ?ヤキモチか?」
「うっさい!黙れ」
「ははっ」

苦し紛れにユノの身体を押しやると、ユノはそのまま床に横になって笑い続けた。
暫くするとユノは起き上がり、何でも無いことのように言った。

「俺もさぁ・・・・・・お前の周りの奴に、たまにヤキモチ焼くよ」
「そうですか・・・・・・」

俺もユノも分かっている。
これは恋愛感情のようで、そうでは無い。
俺達は二人共、いつかは女と結婚して家庭を築くという夢を持っている。
互いが大切であるという感情。
嫉妬する理由は、何も恋愛に限らずそれだけで充分だろう。
そして、それを口に出して確認し合ったりはしない。
俺達の間に、無駄な言葉のやり取りは必要無い。
何時も側にいる。それで事足りるのだ。






翌朝の早朝。
ユノはでかいリュックを背負って、ドアの前に立った。
俺は今日、この部屋からユノを送り出す。

「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい」
「お前もな」

ユノに抱き寄せられて、俺も背中に手を回し、それに応えた。
あの頃とは違ってこうして素直に受け入れられるのは、ユノと深い信頼関係を築くことが出来たから。

「連絡するよ」
「うん」

そっと俺から離れると、ユノはドアノブに手をかけてゆっくりと踏み出した。
最後ドアの向こうに消えるまで、ユノは俺を見つめながら微笑んでいた。
そしてついに、視界からユノの姿が消えた。
沈黙が訪れた部屋で、俺は立ったまま暫く動けなかった。
泣く必要は無い。悲しむ必要も無い。
更に成長してステージへ立つため、暫しの間離れるだけだ。
俺達に、悲しみの涙は似合わない。
俺は微笑みながら、小さな声で呟いた。

「ユノヒョン、サランヘ・・・・・・」

これは、特別な“サランヘ”だ。
どの形にも当てはまることの無い、俺とユノの間にだけ、東方神起二人の間にだけ成り立つ、特別なものだ。
この感情の正体はよく分からないし、名前を付けることも出来ない。
だがひとつだけ、確かなことがある。


これ迄も、そしてこれからもきっと・・・・・・
俺の生涯において、ユノを超える存在が現れることは無いだろう。


俺とユノは、ステージの上で人生を全うするため生きてゆく。

「東方神起」 なのだから。









END



◇◇◇



ふたりの入隊記念に書いてみました。
リアルは腐らせたくないと思いつつも、作者は腐っているのでよく分からない内容になりました・・・・・・(^_^)
でもこんな風であったらいいな。という理想とか、こんな感じかな?という予想を含んでいます。

正直私は、リアルのチャンミンが「ひょ~ん♡」って可愛く甘えてるイメージ、あまり持てないんです。
なので、語りも「ユノヒョン」だと上手く想像できなくて「ユノ」にしました。
精神的にはユノよりもドライで図太い。素直で活発。我が道を行くイメージです。
ユノは、チャンミンよりちょっと気にしいで繊細なイメージ。
でも日常生活、例えば身だしなみや自己管理はチャンミンより雑な部分もありますね。
逆に、チャンミンはそこは細かい。二人共一貫性が無いという・・・・・・
でもそういう人、一般人でも割と多いと思ってます。

らぶらぶな二人を期待した方、すみません。
次リアル神起話を書くのは一体何時だろう。これが最後かも(^^;
取り敢えず当日は辛いだろうから、自分のコンディションを考慮して今日UPしました。

※マリちゃんは私の頭の仲の架空の人物です。

二人とも、気をつけて行ってらっしゃい。
待ってるからね~(´;ω;`)
ライズゴッドも雑誌も買うよ!
出費が減らないという不思議・・・・・・
うん、嬉しいことです♡(笑)



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Comment 6

NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

ミ○トさま


今日は!
いつもありがとうございます。

恋愛関係ではない二人も受け入れて頂けて嬉しいです。
自然と身体がくっつくのも、ボディタッチも、見てると萌えますが……♡
触りたいとか厭らしい気持ちではなく、きっとそれが当たり前なんだと思ってます。
風呂に入るとか食事するのと同じくらいのレベルの『当たり前』なのかなって。
東方神起は二人でひとつですからね♪

早く二人が並んでいるのを見たいです゜゜(´O`)°゜
気が早すぎますね(笑)
あと二年……長いなぁ。

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NB(のぶ)  

Re: 腐ってないじゃん

ちゃ○さま


こちらへもメッセージありがとうございます♪
今回は腐ってないですよ~

腐ってない実際の二人を書いて楽しませるって、腐った二人を書くよりずっと難しいなと実感しました。
でも書きたかったので満足してます(^.^)

最近天気も悪いですね。
ちゃ○さま、ご自分の身体大事になさってくださいね。
疲れた日はゆっくり休んでください。
またお話しましょう♪

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NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

さえ○んさま


今日は♡
いつもありがとうございます。
本当に、さえ○んさまと感じ方や考え方が同じ事が多くて嬉しいです。
東方神起以外の時間も、二人がずーっと一緒な必要は無くて……
彼らは仕事が人生の99%ほども占めると思うから、お互いから離れて一人の人間になる時間も勿論必要ですよね。
私も、全くのプライベートで二人を組ませたらドライな気がします。
東方神起という繋がり、その中で相性が良い。それで十分だと思います。
御本人が素晴らしい方々なので、好きすぎて、最近めんどくさい拘りが出て来ちゃって……
リアルでは腐れないし、いっぱい持論を語りたがるしで……
読者の皆様にはすみませんという思いです(*_*)

特別なサランヘ、ユノとチャンミンの間だけのこの世にひとつだけの繋がりがあると思ってます。

ユノがもうすぐ行っちゃいますが、一緒に待ちましょうね!
チャンミンのことも!

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