ユンホ店長の恋 ~僕のイノセント・ボーイ~



貴方と初めて出会ったあの日・・・・・・
朝から日差しが強くて、俺はサングラスをかけていた。


大きな交差点を、出勤する大勢の人が颯爽と行き交う。
途切れない人波に若干不機嫌になりながら、俺も僅かな人の隙間を縫って足を進めてゆく。
前を見ると、向こう側から一人の男が駆けて来るのが見えた。

「やばい、遅刻だ遅刻!」

そう言いながら、でかいバッグと書類を抱えて俺の横を通り過ぎた。
居るよな、心で考えてることがそのまんま口に出るタイプ。
そんなことを考えていると、背後で再び声がした。

「うわっ!書類が・・・・・・」

後ろを振り返ると、先ほどの男が、地面に散らばった書類を拾い集めているのが見えた。
散らばった書類の一枚が、風に乗って俺の足元へひらりと流れてきた。
拾い上げて紙面を見ると、顔写真と形式ばった文章が並んでいて、直ぐにそれが何なのか分かった。

「履歴書・・・・・・」

男の側まで歩いて行き、俺はそれを差し出した。
しゃがんだ状態のまま、まん丸い黒目がちな瞳で男は俺を見上げた。

「ありがとう」

そう言って立ち上がった男は、俺と同じくらいの背丈で結構ガタイがよかった。
リーチのある外見とは対照的に、にっこりと笑った笑顔はどこか人懐っこい感じがした。

「大事な物だったので・・・・・・ほんと、助かりました」

会釈して去ろうとする俺の腕を、男が咄嗟に掴んだ。

「ちょっと待って!お礼に、これあげる」

男はバッグに手を突っ込むと、飴玉を一粒取り出して俺の手に握らせた。

「こんなものしか無くて、ごめんね」
「いえ・・・・・・どうもっす」

男は腕時計に目をやると、再び焦った顔をして声を上げた。

「やばっ!本当に遅刻しちゃう!じゃあね」

俺に背を向けると、男は慌ただしく人ごみの中に消えていった。
手の平の飴玉を見て、俺はぼそりと呟いた。

「いちごミルクって・・・・・・子供かよ」

知らぬ間に笑みが漏れていて、苛々していた気持ちが少し軽くなったような気がした。









貴方と二度目に出会ったあの日・・・・・・
風邪をひいていた俺はマスクをしていた。



電車の中で、ひと組のカップルが人目も憚らずイチャついている。
すぐ向かい側なので、見ようとしなくても視界に入ってしまう。
特に美男美女でも無く、見ている方は目の毒でしかない。
迷惑だから家でやれと思う。
男が持っている紙袋には”Happy-Valentine”の文字が並んでいる。
そう。今日はバレンタインデーだ。
店先は何処もここぞとばかりに盛り上がっているが、相手が居ない俺には人ごとでしかない。
別に嫉妬する訳じゃないが、こうも馬鹿っぽい男女を見ていると苛々を掻き立てられる。
これ以上視界に入れまいと俺は下を向いた。
電車が止まってドアが開き、また人が数人出入りする。
知らぬ間に、先ほどのカップルは姿を消していた。
丁度俺の隣の席が空いて、そこに男が一人腰掛けた。
何処かで男の顔を見たような気がしたが、直ぐには思い出せなかった。
男はリュックを前に抱えると、俯いて直ぐに眠ってしまった。
男の寝顔に何度か視線をやりながら、果て何処で見たのだろうと、俺は過去を振り返っていた。



終点が近づくにつれ、乗客は次第に減っていった。
やがて、車両には俺と隣の男だけが残された。
電車が揺れる度男も身体をゆらゆらと揺らして、遂に俺の肩に凭れかかってきた。
熟睡しているせいで、遠慮無しに寄りかかられて結構な重さだ。
俺は起きるように催促するつもりで、男から身体を離した。
バランスを崩せば起きると思ったのだが、男は空いたスペースに身体を横たわらせてそのまま眠り続けた。

「嘘だろ・・・・・・」

よくそんなに寝れるな・・・・・・
呆れるのを通り越して、俺は感心していた。



最終駅に着いても男は起きる気配が無く、俺は仕方なく男の肩を揺らした。

「おい」
「んー・・・・・・」

男はゆっくりと目を開けると、ぼんやりと俺を見つめた。
黒目がちな丸い瞳と目が合った瞬間、この男と何時どこで会ったのか、俺はやっと思い出すことができた。
あれは、半年以上も前のことだ。
この男は、交差点で書類を落として慌てていたあの男に違い無い。
本当に、人に世話を焼かせるのが得意な人だ。
居るよな、そういう人。
男は目を覚ましたようだったので、俺は電車から降りると改札へ向かった。

「ちょっと待って!」

駅を出ようとした時、俺は男に呼び止められた。
男は俺の元まで駆け寄ってきて、リュックに手を突っ込み何やら漁り始めた。

「起こしてくれてありがとう。良かったら、これ・・・・・・」

差し出された物を見て、俺はぎょっとした。
男が手に持っているのは、“Valentine”の文字がプリントされたチョコだったからだ。
直ぐには受け取れずに戸惑っていると、そんな俺を見て男は慌てて言った。

「あっ・・・・・・俺コンビニで働いてるんだけど、売れ残りのチョコいっぱい貰っちゃって。一人じゃ食えないから・・・・・・」

バレンタインに、知り合いでも無い男からチョコを貰うって・・・・・・
気は進まなかったが、断るのは悪い気がして、俺は渋々それを受け取った。

「どうも」
「こっちこそ、起こしてくれてありがとう。じゃあ」

男は背を向けると、俺とは逆方向に向かって歩いて行った。

「あの・・・・・・チャック、空いてますよ」
「え?・・・・・・あ、本当だ!ありがとうございます」

途中通行人に、ぱっかりと口の空いたリュックを注意されながら。
その後ろ姿を見つめながら、俺はまたも笑みを零した。
きっといい大人だろうに、こんなにも周りに手をかけさせる人は見た事が無い。
普段の俺ならただ苛つくのだろうが、何故か彼のことは憎めなかった。









新しく担当することになった配達先のコンビニで、俺は男に再会した。
男は初めて俺に会ったかの様な反応をしたので、これまで俺と会っている事に気付いていないのだと分かった。
男は始め、俺をじっと見つめたまま動かなかった。

「俺の顔に何か付いてます?」
「え・・・・・・?い、いや・・・・・・何も・・・・・・」

ついでにレジへコーヒーを持っていくと、男がその会計をした。
レジに置かれたコーヒーを取ろうとした時、コーヒーを袋へ入れようとした男と偶然手がぶつかった。

「あ、すみません・・・・・・」
「いえ。袋、要らないんで」

男は、顔を赤くして手を引っ込めた。
これ迄に二度会っているが、俺はサングラスやマスクをしていたので、男に素顔を晒したことは無い。
顔が良かったのか、作業着姿が良かったのかよく分からないが、どうやら俺は一目惚れされたらしい。
本当に、心が行動にそのまま出た様に分かり易い人だ。
人と関わる時はまず疑ってかかる。
そんな俺だから、裏表の無い男の態度は見ていて微笑ましかった。



その男というのは、後に俺の恋人となったユンホさんな訳だが・・・・・・
仕事で出会う以前に二度も会っていることを、ユンホさんは今も知らない。
その事実は、俺だけの秘密にしている。
ユンホさんの心の中に、俺と初めて出会った時の思い出は、“一目惚れ”のまま残しておきたいから。









自宅でまったりしていると、ユンホさんの腹がぐうーっと音を立てた。

「あー・・・・・・小腹が減った」

腹を撫でるその仕草さえも、とんでもなく可愛く思えてしまう。

「じゃあ、いいものあげる」

俺はユンホさんに飴を差し出した。
初めて会った時、ユンホさんがお礼にくれたあの飴だ。

「いちごミルクだ!」
「好きでしょ?」
「うん。大好き」

ユンホさんは早速、包装を解いて飴を口に放り込んだ。

「でも・・・・・・何で知ってんの?教えたこと無いよね」
「俺、ユンホさんの事なら何でも分かるから」

不思議そうな顔をするユンホさんを、俺は腕を掴んで引き寄せた。
別に甘いものは好きじゃないけど、ユンホさんの口からその匂いが香ると、凄く美味しそうに思える。

「俺にも頂戴」
「ん・・・・・・」

甘い甘いいちごミルクを、俺はユンホさんの唇ごと味わった。









END



◇◇◇



店長シリーズ、全然終わってないじゃないか・・・・・・
今回は、二人が仕事先で出会う前のお話でした。
好きになったのはユノが先だけど、その前からチャンミンはユノのことを知っていました
とさ~
最近このシリーズの二人、変態からあまあまバカップルモードへ移行しつつあるな・・・・・・
まぁそれも良し!



次は何を書こうかなぁ・・・・・・
私連載始めても長続きしないので、ほんと直ぐに終わっちゃうんですよねぇ。
それが悩みです。



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10 Comments

NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

さえ○んさま


いらっしゃいませー♡
店長シリーズ、珍しくほっこりしたお話でした(笑)
変態ネタが入らなかったの初めてかも(笑)
実はちょっとずつ、二人は知らぬ間に距離を縮めていました。
赤い糸ですね~♡

店長シリーズは、あまあまの二人も沢山書いていきたいです。
変態の反動かな……
今までのチャンミン、あまりにもただの変態過ぎて……(笑)

2015/07/02 (Thu) 22:47 | EDIT | REPLY |   

NB(のぶ)  

Re: 可愛いユノチャ

ココ○なさま


こんばんは!
いらっしゃいませ~♪

リアトン不足、私が少しでも解消出来るのであれば嬉しいなぁ。
ドキュメント見て、もっと恋しくなっちゃったんでしょうか。
私も、リアルにはどんな妄想も勝らないと思ってます。
リアルが一番素敵で、心を揺さぶりますよね。

イラスト気に入って頂けて嬉しいな♡
なんちゃって少女漫画のような出来ですが……

これからも頑張りまーす!

2015/07/02 (Thu) 22:26 | EDIT | REPLY |   

NB(のぶ)  

Re: ごめんなさい

ちゃ○さま


こんばんは(^.^)
体調は大丈夫ですか……?

店長を変態って……(笑)
どんだけ変態に思われてるんでしょうか(笑)

2015/07/02 (Thu) 22:18 | EDIT | REPLY |   

NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

Pe○n○tsさま


こんばんは!
いらっしゃいませ♪

お話、短いかも?と心配していたのですが、良かった!
三時間ドラマのようにさらっと見れるもの、 長くても日本のドラマのように十何話のものをイメージして書いてました。

ユンホさん、甘いものとかスナック菓子好きとか、でっかい子供みたいで好きなんです♡
今回は変態ではなく可愛い寄りで書いてみました!
現実は、これからいままでより心も身体も休まらない環境になるんでしょうね……
心配しつつ、気を紛らすために創作頑張ります(^_^)

2015/07/02 (Thu) 22:15 | EDIT | REPLY |   

NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

ちゃー○んさま


こんばんは(^.^)
なるほど!
語り手が誰か明かされないと、ドンへという可能性もありますね。
今回はチャンミンでした♡
チャンミンだけの、メモリアルです。

二人の間を行き来したいちごミルク、舐めたいなぁ……!

2015/07/02 (Thu) 22:03 | EDIT | REPLY |   

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2015/07/02 (Thu) 09:45 | EDIT | REPLY |   

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2015/06/30 (Tue) 08:07 | EDIT | REPLY |   

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2015/06/29 (Mon) 21:43 | EDIT | REPLY |   

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2015/06/29 (Mon) 16:31 | EDIT | REPLY |   

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2015/06/29 (Mon) 08:34 | EDIT | REPLY |   

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