小説家は策謀する

  25, 2015 08:00


 “ 彼女は、頬を紅く染めると俯いてしまった。
  ふと沈黙が落ち、静かな雨の音だけが僕等の間に流れた。
   白く細い手を握り締め、彼女はゆっくりと顔を上げると僕を見つめた。
   淡い紅色の薄い唇が、うっすらと開いた。
 
  「貴方のことが・・・・・・好きです」 ”



原稿に目を通していると、先生が言った。

「書いてはみたものの・・・・・・果たしてその流れでいいものか・・・・・・。情け無いことに、恋愛を長らくしていないから自信が無いんだ」
「そうですか・・・・・・」
「シム君・・・・・・彼女になったつもりで、僕にそのセリフを言ってみてくれないか」
「え?」

思いがけない要求に、俺はそのまま固まってしまった。

「シム君・・・・・・?」
「は、はい・・・・・・」

俺が、このセリフを先生に言うのか。
本当に自分の想いを伝えるかのようで、凄く緊張する。
でも・・・・・・先生の小説をより良くするために、言わなけば。

「分かりました」

俺は心を決めて、先生と向き合った。
しかし先生と目が合った途端、顔が熱くなるのを感じて俺は下を向いてしまった。
小説のために協力するだけなのに、こんな態度で接したら不自然過ぎる。
緊張で汗ばんだ手を、俺はぎゅっと握りしめた。
図らずとも、俺は小説の中の彼女と同調していた。
ゆっくりと顔を上げて、俺は先生をじっと見つめた。
丸い瞳が、窓から差し込んだ日の光をきらきらと映し出している。
まるで、精巧な硝子細工のように綺麗な先生の瞳。
俺は、そんな先生の視線に負けてしまった。
この際、先生に俺の想いを伝えてしまおう。
小説の中の彼女としてじゃなく、編集者の、先生に恋をしているシム・チャンミンとして。
この状況を利用すれば、先生には気持ちは伝わらず、迷惑もかけずに済む。



月明かりの下、唇を奪われたあの時から俺は・・・・・・

「貴方のことが・・・・・・好きです」

そのセリフはごく自然に、すんなりと口から出ていった。
俺の気持ちを、そのまま乗せて発したから。
どうか先生に気付かれませんように。そう願った。
先生の瞳の水分が、少しだけ増したように感じた。
きらきらとした輝きを秘めたまま、先生は俺から目を反らさない。

「シム君・・・・・・」

先生が、俺の方にゆっくりと身を乗り出した。
この流れって、まさか・・・・・・
段々と先生の顔が近付いてきて、俺は反射的に顔を逸らした。
先生は、また俺にキスをするつもりだ。
愛の告白をした俺が、美味しそうに見えたから。
だけど告白をしたのが他の編集者でも、先生はきっと同じ事をするのだろう。
先生がこうして俺を求めてきても、俺の想いは実ることはない。
そう思うと胸が苦しくて、同時に先生が憎らしくなった。

「ずるいですよ・・・・・・先生は」
「え・・・・・・?」
「そうやって、俺の気持ちを弄んで・・・・・・」

一度自制が外れてしまうと、気持ちを吐き出さずにはいられなかった。
先生のことを、仕事のことを考える余裕など無かった。

「貴方から見た俺は・・・・・・沢山居る編集者の一人に過ぎないんでしょう?でも・・・・・・俺は、俺はそうじゃないんです」
「シム君・・・・・・」
「先生は俺の特別です。編集者じゃなく・・・・・・一人の男として。だから・・・・・・凄く辛い」

恐る恐る前を見ると、先生は困った顔をして俺を見ていた。
途端に冷静さを取り戻した俺は、どうしようも無い罪悪感に襲われた。

「ごめんなさい・・・・・・。ごめんなさい先生っ・・・・・・」

俺は逃げるようにその場を去った。
外まで駆けて行くと直ぐに車を発進させて、速やかに書斎を後にした。
目が潤んで視界がぼやけてしまい、瞳がら溢れそうになる涙を何度も拭った。

「俺の馬鹿・・・・・・最悪だっ・・・・・・」

それから次の打ち合わせまで、先生と連絡を取ることも顔を合わせることも無かった。









ある日、俺は部署のリーダーに呼び出された。

「移動、ですか?」
「B 社の方で欠員が出るかも知れない。まだ確定じゃないが、今のところお前を候補として考えてる」
「そうですか・・・・・・」
「経験年数や家族構成を踏まえてのことだ。済まないが、その時は宜しく頼む」
「・・・・・・分かりました」

上からの命令に、逆らうことはできない。
頭の中に一番最初に浮かんだのは、先生の顔だった。
もし移動が決まったら、先生にはもう会うことが出来なくなる。
そう思うと悲しくて、また涙が出そうになった。









俺はなかなか踏み出せないまま、書斎の前に立っていた。
今日は打ち合わせの予定が入っていて、此処へはどうしても来なければいけなかった。
まずは、この前のことを詫びよう。
だけど、どんな顔をして会えばいい?

「何時までそうしてるつもり?」

不意に背後から声をかけられて、びくりと身体が跳ねた。
後ろを振り返ると、浴衣姿の先生が立っていた。

「あ、あの・・・・・・すいません・・・・・・俺、その・・・・・・」

気の利いた言葉なんて、ひとつも出て来ない。
俺はこんなにも動揺しているというのに、先生はやはり、何時もと変わらず穏やかだった。

「そんなに怯えないでくれ。少し話をしよう。おいで」

先生は浴衣をひらりと靡かせて、庭の方へ歩いて行った。
俺は少し距離を置きながら、先生の後を追った。



二人で縁側に腰掛けた後、先生は庭の紫陽花を見つめて言った。

「君は、紫陽花の花言葉を知ってる?」
「いいえ・・・・・・」
「“心変わり”・・・・・・“浮気心”・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「紫陽花は沢山の色に変わるから、そんな風に言われるんだね」
「成程・・・・・・」
「君の目にも、僕は同じ様に映っているのかな・・・・・・」
「そんなこと・・・・・・」
「君の心を弄んで、いい加減な男だと思ってない?」
「それは・・・・・・」

確かに、あんなことを言ってしまえば、そう取られても仕方ない。
否定するのは、言い訳のような気がしてやめた。

「そんなつもりは全く無かったんだけど・・・・・・辛い想いをさせてごめんね」

そう言うと、先生は俺に原稿用紙を差し出した。

「これは・・・・・・?」
「君に、読んで欲しいんだ」
「新しいお話ですか?」
「取り敢えず、読んでみてくれ」

俺は状況をよく理解できないまま、先生から原稿を受け取った。









◇◇◇



あと一話で終わりになります。
今回で終わりにしようと思ったら、長くなってしまいました。
いつも沢山の拍手、コメント頂き嬉しいです。
恐れ多いのですが・・・・・・本当に嬉しい(;_;)
これからも頑張ります。



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Comment 8

NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

は○さま


こんばんは(^.^)
いつもありがとうございます。

小説家シリーズ、一旦終わりですが番外編を考えてます。
最終話を書き終えても、ちょっと不完全燃焼だったので。

こうしてお話を気に入って頂けると、凄く嬉しいです。
またこのキャラを皆様に見せたい!と創作意欲が湧いてきます。
最終話、頑張って書いたのでお付き合い願います♡

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NB(のぶ)  

Re: 大好きです^^

く○く○さま


こんばんは。初めまして~♪
いつも見て頂きありがとうございます。
いやいや……そんな大層なもんじゃないんですよ。
私、ただの変態ですよ。
お話もイラストもただのじこまんです。

気になってランキング見たら、私の何個か上にいらっしゃった~~!
そんな方に足を運んで頂けるなんて、恐れ多いなぁ。
でもとても嬉しいです!
これからも頑張ります♪

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NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

ゆ○んさま


いらっしゃいませ~!
前回のコメ返致しました。
遅れてすみませんが、ご覧になって下さい。
ゆ○んさまの告白に対して、私の考えを書いてみました。

変態話と非変態話の降り幅が大きいなぁと、よく自分でも思います。
書いているうちに、そんなスタイルが確立されてきたのかも……
読む方々が疲れるんじゃ?と不安なので、ポジティブなお言葉を頂き嬉しいです♡

小説家シリーズ、ひとまず終わりですがまた番外編書く予定です。
楽しんで頂けるよう、頑張って更新します♪

お気遣いありがとうございます。
コメントは、是非返させてください。
お話できるの楽しいので~♪

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NB(のぶ)  

Re: たまには休みますか?

ちゃー○んさま


こんばんは!
いつもありがとうございます。

お休みは……そうだなぁ
ここで語ることが息抜きなので大丈夫です(^^)
返信が遅いのもそうですけど、自分のペースでやらせて頂いていますし。
心配してくださり、ありがとうございますm(__)m

今の時期、紫陽花本当に綺麗ですよね~!
単色じゃないのがまたいいんだよなぁ。
夢想から始まり、次はどんな言葉が来るのか?
多分、ラストが見え見えな題名になるかと……(笑)
あさってアップしますので、どんな題名か見てみて下さい♪

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