小説家は苦悶する

  13, 2015 08:35


先生の唇が離れた後も、俺は動けずにいた。
そんな俺とは対照的に、先生は何時もと変わらず穏やかだった。

「済まない。嫌な思いをさせてしまったね」
「い、いえ・・・・・・」
「今のは忘れてくれ」

先生はそう言うと、再び庭へ視線を投げた。
俺は突然のキスに大混乱だというのに、先生が俺にしたフォローはたったそれだけだった。
納得いかない。
俺だけこんなにも動揺して、キスの理由も分からないまま有耶無耶にされるなんて。

「あ、あのっ」
「ん?」
「その・・・・・・何故俺に・・・・・・キスを?」

先生は腕を組みながら、うーんと首を捻った。

「何故だろうね・・・・・・?美味しそう、だったから」
「えっ」

その回答を聞いて、俺は思わず声を上げてしまった。
おっとりとしているのに、随分と大胆な発言をする。

「近くに美味しそうな食べ物があると、つい手が伸びてしまうだろう。きっとそれと同じだ。君が綺麗な顔で、優しい言葉を言うから・・・・・・美味しく見えたんだ」
「はぁ・・・・・・」

喜んでいいのかよく分からない。
食べ物に例えられたこともそうだが、発言の色々な部分が気になって、その意味を追求したくなった。
編集者という仕事柄、仕方ないのかもしれない。

「美味しい食べ物っていうと、沢山あると思いますけど・・・・・・」
「うん」
「俺が美味しい食べ物 A だとして、美味しい食べ物 B が側に居たとしたら、先生は同じ事をしましたか」
「そうだなぁ・・・・・・。僕が君を美味しそうだと思った条件としては、顔が綺麗だったこと、優しい心の持ち主だったこと、この二点が挙げられるが・・・・・・同じ条件を持った他の編集者を食べ物 B と過程するならば・・・・・・キスしたかもしれないね」

つまり、先生は俺限定でキスをした訳では無かったのだ。
何故か、少しだけ落ち込んだ。






それから、先生が再び俺にキスをしてくることは無かった。
今までと同じように、ゆっくりと穏やかに日々は流れた。
変わったことと言えば、使われていなかった台所が、俺が持参した調理道具や食材で充実したことくらいだ。

「先生、昼食が出来ました」

書斎へ食事を運んでいくと、先生の腹がぐうーっと音を立てた。
先生はくすくすと笑って言った。

「おかしいなぁ。僕はそんなに腹が鳴るタイプじゃ無いんだが・・・・・・君の美味しい料理のおかげで、食いしん坊になったのかも知れない」
「先生のお腹に貢献できて、嬉しいです」

俺も、先生につられて笑った。

「食べていいかな」
「どうぞ」

俯いた拍子に、先生の長い前髪がさらりと流れて、目に掛かった。
先生は前髪を耳にかけると、手を受け皿にして料理を口へ運んだ。
ひとつひとつの動作が綺麗で、俺は先生が食事をするのをじっと見つめてしまった。
心の中で、先生に内緒で何度もシャッターを切る。
伏せ目がちの、切れ長の瞳。
箸を持つ長い指。
うっすらと開いた唇・・・・・・
全てが俺を惹きつける。
俺の頭の中には、もう何枚も先生の写真が積み重なっている。
様々な場面の先生が、何時までも消えずに記憶に残っているのだ。

「美味しいよ。凄く」
「良かった」

その言葉が、料理じゃなく俺に向けらたものならいいのに。
特別な一人じゃなくていい。
美味しそうな食べ物 A でいいから、もう一度キスして欲しい。
無論、そんなことは言える筈も無かった。






6 月に入り、梅雨がやってきた。
書斎を訪れる度、庭は咲始めた紫陽花に少しずつ彩られてゆく。
爽やかな青、淡い紫に、深みのある桃色。
それらが混ざり合って色付く庭は、とても綺麗だった。
浴衣を着た先生と紫陽花のツーショットが、俺のお気に入りだった。



「先生、世界の城の写真、集めてきました。これなんてどうです」

先生は、俺の差し出した写真を一瞥してから溜息をついた。

「済まない。今日は休ませてくれないか」

先生は最近、こうして打ち合わせを拒否することが多くなった。
以前に比べ笑顔も見られなくなり、いつも切なげな瞳で、どこか一点を見つめるばかりだ。

「先生、何かお悩みですか。俺でよければ、話相手になりますよ」

先生はゆっくりと俺に視線を向けると、寂しげに笑って言った。

「残念ながら、君には話せないんだ」
「・・・・・・そうですか」

前は心を打ち明けてくれたのに・・・・・・
落ち込んだ俺を見て、先生が言った。

「傷付けて済まない。本当は君に一番相談したいんだが・・・・・・今は、その勇気が無いんだ。
この先、相談できるかも分からない」

先生に気を遣わせてしまった。
俺は、ぶんぶんと首を横に振った。

「いいえ、先生が謝ることじゃありません。俺が生意気なことを言いました」
「そんな風に言わないでくれ」

先生は、また寂しそうな顔をした。

「君とはだいぶ対等になれたと思っていたが・・・・・・僕の勘違いだったのかな・・・・・・」
「だって・・・・・・先生はやっぱり凄い人だし・・・・・・対等で居て良い人なんて、ご家族くらいかと思ってました」

先生は小さく笑うと、俺をじっと見つめて言った。

「君には・・・・・・僕を同じ目線で見て欲しい。パートナーなのだから、そうしてくれ」

先生のその言葉に、少しドキッとした。
仕事のことを言っているだけと、分かっているのに。

「先生がそう言うのなら、対等に見れるように努力します」
「有難う。嬉しいよ」






その数日後。
書斎を訪れると、先生は机に向かい、原稿用紙にペンを走らせていた。

「先生、書く気になったんですね」

声をかけると先生は振り返り、少し驚いた顔をした。

「来ていたのか・・・・・・。気付かずにごめん」
「いいえ。どんなお話を何を書いていたんです?」
「読んでみてくれ」

渡された原稿を見て、俺は驚いた。
原稿の内容は、恋愛ものだったからだ。
先生は、恋愛小説を滅多に書かない。
恋愛を取り入れたとしても、サスペンスや戦いといったような、他の題材がメインのことが多い。
分かり易い愛の言葉ばかりが並んでいて、俺は呆気に取られてしまった。

「それを仕上げたいんだが・・・・・・協力してくれるかい?」

先生にじっと見つめられて、俺はまた心が波立つのを感じた。









◇◇◇



紫陽花とチョン先生のツーショット、絶対きれいや~
いつも沢山の拍手、コメントをありがとうございます。
そしていつも返信が遅れてすみません……(T_T)

ライブビュ、とうとう明日ですね。
行かれる皆様、心残りの無いように騒ぎましょうね~♪



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Comment 8

NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

ひま○りさま


こんばんは!
お久しぶりです。
コメント遅れてしまい、大変申し訳ございません。

ユノって浴衣似合うと思いませんか♡
顔が少し古風というか(誉めてます)、綺麗だからでしょうか。
チャンミンは一体、どんな要求をされるのか?
えへへ、お楽しみに~♪

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NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

ゆ○んさま


こんばんは♪
今回もお返事が遅れまして、大変申し訳ございません!
私もゆ○んさまから毎回コメント頂くと、凄く嬉しいですよー!
沢山書いてくださるので、にやにやしながら数回は読み返します。
気持ち悪くてすみませんm(__)m

ユンホ先生、一体どうした!
今回はなんとまぁ分かりやすい(言っちゃった)お話ですが、読み易いかなとは思います。
あと一話で最終回ですが、 どうぞお付き合いください。

チャンミン、ユノと行くんですね。
時期はずらすようですが。
本当に何を聞いても知っても、この話題に関しては辛いし、苦しいですよね。
二年間の空腹をどう埋めようか悩みますが……
ビギ止めたらなんにもやることなくなるので、どんなかたちであれファンは続けていると思います。
例え妄想ばかりしていても(^_^;)

アンコン、素晴らしかったです。
DVD化希望です♡

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NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

ちゃー○んさま

こんばんは♡
いつも本当にありがとうございます。
確かに、美しいイケメンに躊躇いなくキスするのは、自信が無いと出来ないですね。
赤紫の紫陽花+浴衣ユンホ♡
えろいですが品もありつつ、妖艶な感じがたまらんです。
いつかチャンミンにも、ユンホ先生の浴衣を着せたいと思っております。

ライブビュ、お一人様沢山いらして何方がちゃー○んさまか分からなかったです(笑)
ちなみに私はG列の端で一人悶えておりました。
本当に最高のコンサートでしたね!

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NB(のぶ)  

Re: タイトルなし

は○さま


こんばんは!
コメントありがとうございます。そしていつもありがとうございますm(__)m

おや!
良い感じの予測をなさって下さいました。
ユンホ先生が何を考えているのか……あと一話で分かります♪
チャンミンの恋の行く末を、最後まで見守ってくださいね。

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