小説家は夢想する



小さい頃から、本を読むのが好きだった。
休日は家に引き籠もって本と向き合い、簡単に一冊読み切ってしまう事もよくあった程だ。
そんな俺の仕事は、小説家専属の編集者だ。
編集者は、本の題材について必要な情報を提供したり、内容について助言しなければならない。
小説家との関係を上手く築かないと、やっていけないのだ。
俺はコミュニケーションが決して得意ではないから、毎回それに気を遣う。
でも、やっぱり本の世界観は好きだし、それに関わることは楽しいと感じている。
俺はある時、大きな仕事を任された。
今まで担当していた先生が引退し、他の先生に付くことになったのだ。
先生の名は、チョン・ユンホ。
作品の売上は毎回10万部以上と、ヒット作を生み出す名人である。
俺のアパートは壁一面本だらけなのだが、その中にチョン先生の作品も沢山ある。
ずっとファンだったので、チョン先生の編集者を務めると決まった時は、緊張と興奮で心が震えた。



チョン先生は、都心から外れた山奥に書斎を持っていた。
俺はある日、挨拶をすべくチョン先生の書斎を訪れた。
木々が生い茂った中に、古風な木造作りの小屋がひっそりと建っている。
近くに川があるのか、耳を澄ますと微かにせせらぎが聞こえてくる。
安穏として心が休まる、現実世界とは切り離されたような空間だ。
俺は深呼吸して緊張を逃がすと、小屋の引き戸を叩いた。

「こんにちは。シムです」

暫くすると、ゆっくりと戸が引かれた。

「いらっしゃい。待ってたよ」

姿を見せた男性は、にっこりと笑って言った。

「あの・・・・・・チョン先生ですか?」
「そうとも」

俺は固まってしまった。
小説の作風からして、もう少し歳がいっていると思っていたのに・・・・・・
見る限り、まだ四十にも至っていなさそうだ。
若々しさに加え、整った顔のパーツとすらりとした長身。
完璧なビジュアルだった。

「どうかした?」
「いや・・・・・・俺、先生はもっと年輩の方だと思っていたので・・・・・・」

先生は、口に手を添えながらくすりと笑った。

「それ、よく言われる。作品のせいかな。僕は中身が老けているから」
「あ、そんなつもりで言った訳じゃ・・・・・・」
「いいよ。別に気にしないさ」

先生は、優しい笑みを浮かべたままだ。

「おいで」
「失礼します」

俺は一礼すると戸を潜った。
小屋の中は、先生の部屋の他に一室ある以外は、簡易的な調理場と風呂場、便所だけといったシンプルな作りをしていた。
先生の部屋は書類や本の山だったが、その他の場所は殺風景であまり生活感が無かった。

「基本的に、この部屋でばかり過ごしているんだ。料理もしないしね」
「いつも、何を食べているんですか?」
「宅配の弁当だよ」

衣服も、部屋に掛かった地味な色の浴衣に、白いシャツが数枚と、ズボンが二本あるのみ。
先生は、もしかしたら創作以外に興味が無いのかも知れない。
部屋を案内されながら、俺はそんなことを思った。
案内が一通り終わると、先生は俺を向かい合わせに座らせて言った。

「いつも、編集者とは初対面の時に約束をするんだが・・・・・・君にも聞いて欲しい」
「はい」
「僕の作品には、遠慮なくアドバイスをくれ。一人で書いていると、どうしてもマンネリ化してしまって、新鮮味が無いから」
「分かりました」
「まぁ・・・・・・僕は構わないと思っているのだが、出版社はそれじゃあ困るだろう」
「そうですね・・・・・・」

先生がヒット作を打ち出し続ける理由は、周りの言葉を聞き入れるこの姿勢にあるのかも知れない。
そう思と同時に、先生は商売に興味は無さそうだと思った。






ある夜の事だった。
打ち合わせをするため俺は書斎を訪れたが、夕方になって天気が荒れ始めた。
車で来ていたのだが、この山奥じゃ安全に帰れそうになかった。
黒ずんだ空を見上げる俺を見て、先生が言った。

「今日は泊まっていきなさい」
「いいんですか?」
「ああ。この様子じゃ、暫くは落ち着かないだろうし」
「ありがとうございます」

俺は先生の言葉に甘えて、小屋に泊まることにした。



夜も更けた頃、俺はふと目を覚ました。
部屋の障子に目をやると、人影が浮かび上がっているのが見えた。
俺は障子の側まで移動すると、そっと戸を開けた。
浴衣姿の先生が、縁側に腰掛けていた。
天候はもうだいぶ落ち着いて、辺りはしんと静まり返っている。
しっとりとした夜の空気の中、月明かりに照らされる先生の横顔がとても綺麗だった。

「先生・・・・・・」

そっと話しかけると、先生はゆっくりと俺の方を向いた。

「おや。起きたのかい」

それだけ言うと、先生はもう一度庭へ視線を戻した。

「眠れないんですか?」
「いや・・・・・・。夢を見ていた」

先生は、ぽつぽつと話し始めた。

「僕は、どうしてこんなに仰々しく扱われるんだろう。不思議で仕方ない」
「・・・・・・・・・・・・」
「君は、何故僕が小説を書き続けているか知ってる?」
「いいえ・・・・・・」
「僕は随分と打たれ弱くてね、現実を見るのが難しいんだ。だからこうして、夢の世界にばかり思いを馳せている。僕の小説は、心の弱みの産物なんだよ」

先生は、月を見上げたまま続けた。

「もう充分生きた。苦しい訳でも辛い訳でも無く、僕はとっくに満足しているんだ。あの世がどんな場所なのか、とても興味深いよ」

今にも消えてしまいそうなその横顔を見て、俺は悟った。
先生は、精神を患っているのだと。
精神的に異常なボーダーなど分からないが、言っていることは明らかに普通じゃない。
過去に名作を残した偉人達は、皆変わっていたという。
先生も、似たような気質の持ち主なのかも知れない。
だけど死んでもらっちゃ困る。
俺は、先生の隣へ移動すると腰を下ろした。

「もう、生きることに執着は出来ませんか」
「そうかも知れないね」

先生は毎晩こうして、生きるか死ぬかについて考え込んでいるのだろうか。
いつ居なくなってしまっても、おかしくないような気がする。
俺は思わず、先生の手を握った。

「周りの為に生きるのは、難しいですか」
「え?」
「俺は、先生に生きていて欲しいです。この先も先生の作品が読みたいから」
「シム君・・・・・・」
「先生の作品が、もし心の弱みから生まれていたとしても・・・・・・別に良いと思います。結果、それが沢山の人にパワーを与えているんですから。先生の心も含めて、芸術なんじゃないでしょうか」
「ありがとう。君は優しいね」
「いいえ・・・・・・。生意気に済みません」

俺の想いが伝わったのかは分からない。
だけど、先生は先程の切なげな顔じゃなく、柔らかな笑みを浮かべていた。

「こんなに褒められたのは初めてだ」
「実は俺・・・・・・ずっと、先生のファンだったんです」
「そうなのか」

隠していた訳じゃないが、改めて伝えるのはなんだか恥ずかしくて、俺は下を向いた。
心なしか、顔が熱い気がする。

「顔を上げてごらん」

優しい声色に誘われるように、俺は前を向いた。
直ぐ近くに先生の顔があって、ビクリと心臓が跳ねた。

「君は・・・・・・綺麗な顔をしているね」

そう言うと、先生は微笑みながら俺にそっと口付けた。
押し付けられた唇は、柔らかくて少し冷たく、かさついていた。








◇◇◇



暗い感じアゲイン。
変態ばっかなので、いい加減真面目な話再開しました。
うちのサイトでは、ユノは初めての一人称“僕”呼びキャラでございます。
今回、チョン先生にはユノらしさというか、男らしさはあまりありませんね。
リアルではいつも前を向いているユノが、マイナスな言葉を吐く。
不謹慎ながら、ちょっと興奮してしまうのです。
君のいない夜 の 未来に進むばかりが 良いとは思えなくて
のとこ、ユノが歌うからこそ、なんだかキュンとしてしまうんですよねー。
この話、クライマックスがあるというよりは、平坦な感じで続きそうです。
多分、5話以内で終わると思われます。(やっぱり長期連載ニガテ)
好みにはまったよ!という方はお付き合い願います♪

ユンホ店長の恋シリーズも、あと1、2数話続く予定です。



気に入って頂けたら、ポチッとお願いします(*^^*)
   ↓

     

人気ブログランキングへ

にほんブログ村 二次BL小説


スポンサーサイト

8 Comments

NB  

Re: 毎朝(隔日?)の楽しみ♪

ココ○なさま


こんばんは!
いつもありがとうございますm(__)m

ミンホテイストホミン、共感します。
肉体的にはホミンだけど、精神的にはミンホぐらいの感じ……で合ってますかね?
私昔から、何故か可愛い要素100%のチャンミンを想像出来ないんです。
右設定でも、男らしい方が萌えてしまいます♡

おじユノは一応攻め男ですが、ちょっと頼りないですね……
これから頑張ってもらいます♪

兵役つらいですね。
チャンミンは行かんようなので、三年は確実ですかね……
一緒に妄想して二人の復帰を待ちましょう!

2015/06/13 (Sat) 00:14 | EDIT | REPLY |   

NB  

Re: タイトルなし

ちゃー○んさま


こんばんは♡
いつもありがとうございます。

あ、そうです!
甘いしょっぱいの循環と同じ感じです。
変態の自重も含めなので、襟を正す、あながち間違いじゃないかも……(笑)
私も書いてる途中、キャラの言い回しや雰囲気が、あれ?ピアニッシモと被った~と思いました。
更に山奥だから、屋外えっちまで行かずとも、家を開け放して……とか思ってました。
ちゃー○んさまと、考えがシンクロしすぎて驚きです。
そして、私は勝手に一人で喜んでました♡笑

ヒューマノイドは初期の作品故長く続いたのかも。
今は話数30台までいかないです……
私のはそんな大した作品ではないですが、沢山の素晴らしいサイトさまが存在するなか、ここを選んで頂けて本当に嬉しく思います♡
これからも頑張ります!

ちゃー○んさまの御名前見ると、やっぱり嬉しいですよ~
毎回書いて下さるから、今日も書いてくださったなぁ♪と(^.^)
あ、でも忙しい時などに無理はしないで下さいね!

私も、利府でちゃー○んさま探してしまうかも。
お顔存じ上げないのに……
キョロキョロしてるお一人様が居たら、それは私かもしれません。笑

2015/06/13 (Sat) 00:03 | EDIT | REPLY |   

NB  

Re: タイトルなし

ゆ○んさま


こんばんは~!
いつもありがとうございます。

そうですよ~
ちゃっかり、そんなことを書いていました。
コメント欄、折り畳んであるから気付き難いかと思うのですが……
おまけにスローペースですが、返信はしてますので……(^.^)

このサイトはじめて、もう一年半程になります。
初期の頃は、特にはちゃめちゃな文と内容で……
いまもそんな大差ないですけども(汗)、見守って下さりありがとうございますと言いたいです。
ゆ○んさまは貴重な方のお一人なんですよ~
毎回、充実したご丁寧なコメントを頂き、いつも嬉しくなります。
本当にありがとうございます!

今回のお話はい今の時期に合うような、しっとりした雰囲気を出したいなぁと思ってまして……
ユノがふけてしまってる気がしますが……
変態と相殺できるくらいの割合で、こんなのも書いていきたいと思います♪
宜しければ、お付き合い願います♡

2015/06/12 (Fri) 23:25 | EDIT | REPLY |   

NB  

Re: タイトルなし

ま○かさま


いつもお世話になります。
ライブビュの件は、本当にありがとうございましたm(__)m
幸せを噛み締めています。
沢山楽しんできます!

ユノだけなら二年間、チャンミン不在時も加えたら何年になるんでしょうね……
私寂しさを打ち消すために、ひたすら創作してるとおもいます(^_^;)
是非お付き合いください♪

今回は切ない、というかおっとりした風なお話を書いてみました。
三話くらいで終わりそうな予感ですが(汗)
ゴールまであと少し、頑張ります(^.^)

2015/06/12 (Fri) 23:08 | EDIT | REPLY |   

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2015/06/10 (Wed) 08:24 | EDIT | REPLY |   

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2015/06/09 (Tue) 18:32 | EDIT | REPLY |   

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2015/06/09 (Tue) 16:59 | EDIT | REPLY |   

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2015/06/09 (Tue) 13:52 | EDIT | REPLY |   

Leave a comment