小説家は夢想する

  09, 2015 08:00


小さい頃から、本を読むのが好きだった。
休日は家に引き籠もって本と向き合い、簡単に一冊読み切ってしまう事もよくあった程だ。
そんな俺の仕事は、小説家専属の編集者だ。
編集者は、本の題材について必要な情報を提供したり、内容について助言しなければならない。
小説家との関係を上手く築かないと、やっていけないのだ。
俺はコミュニケーションが決して得意ではないから、毎回それに気を遣う。
でも、やっぱり本の世界観は好きだし、それに関わることは楽しいと感じている。
俺はある時、大きな仕事を任された。
今まで担当していた先生が引退し、他の先生に付くことになったのだ。
先生の名は、チョン・ユンホ。
作品の売上は毎回10万部以上と、ヒット作を生み出す名人である。
俺のアパートは壁一面本だらけなのだが、その中にチョン先生の作品も沢山ある。
ずっとファンだったので、チョン先生の編集者を務めると決まった時は、緊張と興奮で心が震えた。



チョン先生は、都心から外れた山奥に書斎を持っていた。
俺はある日、挨拶をすべくチョン先生の書斎を訪れた。
木々が生い茂った中に、古風な木造作りの小屋がひっそりと建っている。
近くに川があるのか、耳を澄ますと微かにせせらぎが聞こえてくる。
安穏として心が休まる、現実世界とは切り離されたような空間だ。
俺は深呼吸して緊張を逃がすと、小屋の引き戸を叩いた。

「こんにちは。シムです」

暫くすると、ゆっくりと戸が引かれた。

「いらっしゃい。待ってたよ」

姿を見せた男性は、にっこりと笑って言った。

「あの・・・・・・チョン先生ですか?」
「そうとも」

俺は固まってしまった。
小説の作風からして、もう少し歳がいっていると思っていたのに・・・・・・
見る限り、まだ四十にも至っていなさそうだ。
若々しさに加え、整った顔のパーツとすらりとした長身。
完璧なビジュアルだった。

「どうかした?」
「いや・・・・・・俺、先生はもっと年輩の方だと思っていたので・・・・・・」

先生は、口に手を添えながらくすりと笑った。

「それ、よく言われる。作品のせいかな。僕は中身が老けているから」
「あ、そんなつもりで言った訳じゃ・・・・・・」
「いいよ。別に気にしないさ」

先生は、優しい笑みを浮かべたままだ。

「おいで」
「失礼します」

俺は一礼すると戸を潜った。
小屋の中は、先生の部屋の他に一室ある以外は、簡易的な調理場と風呂場、便所だけといったシンプルな作りをしていた。
先生の部屋は書類や本の山だったが、その他の場所は殺風景であまり生活感が無かった。

「基本的に、この部屋でばかり過ごしているんだ。料理もしないしね」
「いつも、何を食べているんですか?」
「宅配の弁当だよ」

衣服も、部屋に掛かった地味な色の浴衣に、白いシャツが数枚と、ズボンが二本あるのみ。
先生は、もしかしたら創作以外に興味が無いのかも知れない。
部屋を案内されながら、俺はそんなことを思った。
案内が一通り終わると、先生は俺を向かい合わせに座らせて言った。

「いつも、編集者とは初対面の時に約束をするんだが・・・・・・君にも聞いて欲しい」
「はい」
「僕の作品には、遠慮なくアドバイスをくれ。一人で書いていると、どうしてもマンネリ化してしまって、新鮮味が無いから」
「分かりました」
「まぁ・・・・・・僕は構わないと思っているのだが、出版社はそれじゃあ困るだろう」
「そうですね・・・・・・」

先生がヒット作を打ち出し続ける理由は、周りの言葉を聞き入れるこの姿勢にあるのかも知れない。
そう思と同時に、先生は商売に興味は無さそうだと思った。






ある夜の事だった。
打ち合わせをするため俺は書斎を訪れたが、夕方になって天気が荒れ始めた。
車で来ていたのだが、この山奥じゃ安全に帰れそうになかった。
黒ずんだ空を見上げる俺を見て、先生が言った。

「今日は泊まっていきなさい」
「いいんですか?」
「ああ。この様子じゃ、暫くは落ち着かないだろうし」
「ありがとうございます」

俺は先生の言葉に甘えて、小屋に泊まることにした。



夜も更けた頃、俺はふと目を覚ました。
部屋の障子に目をやると、人影が浮かび上がっているのが見えた。
俺は障子の側まで移動すると、そっと戸を開けた。
浴衣姿の先生が、縁側に腰掛けていた。
天候はもうだいぶ落ち着いて、辺りはしんと静まり返っている。
しっとりとした夜の空気の中、月明かりに照らされる先生の横顔がとても綺麗だった。

「先生・・・・・・」

そっと話しかけると、先生はゆっくりと俺の方を向いた。

「おや。起きたのかい」

それだけ言うと、先生はもう一度庭へ視線を戻した。

「眠れないんですか?」
「いや・・・・・・。夢を見ていた」

先生は、ぽつぽつと話し始めた。

「僕は、どうしてこんなに仰々しく扱われるんだろう。不思議で仕方ない」
「・・・・・・・・・・・・」
「君は、何故僕が小説を書き続けているか知ってる?」
「いいえ・・・・・・」
「僕は随分と打たれ弱くてね、現実を見るのが難しいんだ。だからこうして、夢の世界にばかり思いを馳せている。僕の小説は、心の弱みの産物なんだよ」

先生は、月を見上げたまま続けた。

「もう充分生きた。苦しい訳でも辛い訳でも無く、僕はとっくに満足しているんだ。あの世がどんな場所なのか、とても興味深いよ」

今にも消えてしまいそうなその横顔を見て、俺は悟った。
先生は、精神を患っているのだと。
精神的に異常なボーダーなど分からないが、言っていることは明らかに普通じゃない。
過去に名作を残した偉人達は、皆変わっていたという。
先生も、似たような気質の持ち主なのかも知れない。
だけど死んでもらっちゃ困る。
俺は、先生の隣へ移動すると腰を下ろした。

「もう、生きることに執着は出来ませんか」
「そうかも知れないね」

先生は毎晩こうして、生きるか死ぬかについて考え込んでいるのだろうか。
いつ居なくなってしまっても、おかしくないような気がする。
俺は思わず、先生の手を握った。

「周りの為に生きるのは、難しいですか」
「え?」
「俺は、先生に生きていて欲しいです。この先も先生の作品が読みたいから」
「シム君・・・・・・」
「先生の作品が、もし心の弱みから生まれていたとしても・・・・・・別に良いと思います。結果、それが沢山の人にパワーを与えているんですから。先生の心も含めて、芸術なんじゃないでしょうか」
「ありがとう。君は優しいね」
「いいえ・・・・・・。生意気に済みません」

俺の想いが伝わったのかは分からない。
だけど、先生は先程の切なげな顔じゃなく、柔らかな笑みを浮かべていた。

「こんなに褒められたのは初めてだ」
「実は俺・・・・・・ずっと、先生のファンだったんです」
「そうなのか」

隠していた訳じゃないが、改めて伝えるのはなんだか恥ずかしくて、俺は下を向いた。
心なしか、顔が熱い気がする。

「顔を上げてごらん」

優しい声色に誘われるように、俺は前を向いた。
直ぐ近くに先生の顔があって、ビクリと心臓が跳ねた。

「君は・・・・・・綺麗な顔をしているね」

そう言うと、先生は微笑みながら俺にそっと口付けた。
押し付けられた唇は、柔らかくて少し冷たく、かさついていた。








◇◇◇



暗い感じアゲイン。
変態ばっかなので、いい加減真面目な話再開しました。
うちのサイトでは、ユノは初めての一人称“僕”呼びキャラでございます。
今回、チョン先生にはユノらしさというか、男らしさはあまりありませんね。
リアルではいつも前を向いているユノが、マイナスな言葉を吐く。
不謹慎ながら、ちょっと興奮してしまうのです。
君のいない夜 の 未来に進むばかりが 良いとは思えなくて
のとこ、ユノが歌うからこそ、なんだかキュンとしてしまうんですよねー。
この話、クライマックスがあるというよりは、平坦な感じで続きそうです。
多分、5話以内で終わると思われます。(やっぱり長期連載ニガテ)
好みにはまったよ!という方はお付き合い願います♪

ユンホ店長の恋シリーズも、あと1、2数話続く予定です。



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Comment 8

NB  

Re: 毎朝(隔日?)の楽しみ♪

ココ○なさま


こんばんは!
いつもありがとうございますm(__)m

ミンホテイストホミン、共感します。
肉体的にはホミンだけど、精神的にはミンホぐらいの感じ……で合ってますかね?
私昔から、何故か可愛い要素100%のチャンミンを想像出来ないんです。
右設定でも、男らしい方が萌えてしまいます♡

おじユノは一応攻め男ですが、ちょっと頼りないですね……
これから頑張ってもらいます♪

兵役つらいですね。
チャンミンは行かんようなので、三年は確実ですかね……
一緒に妄想して二人の復帰を待ちましょう!

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NB  

Re: タイトルなし

ちゃー○んさま


こんばんは♡
いつもありがとうございます。

あ、そうです!
甘いしょっぱいの循環と同じ感じです。
変態の自重も含めなので、襟を正す、あながち間違いじゃないかも……(笑)
私も書いてる途中、キャラの言い回しや雰囲気が、あれ?ピアニッシモと被った~と思いました。
更に山奥だから、屋外えっちまで行かずとも、家を開け放して……とか思ってました。
ちゃー○んさまと、考えがシンクロしすぎて驚きです。
そして、私は勝手に一人で喜んでました♡笑

ヒューマノイドは初期の作品故長く続いたのかも。
今は話数30台までいかないです……
私のはそんな大した作品ではないですが、沢山の素晴らしいサイトさまが存在するなか、ここを選んで頂けて本当に嬉しく思います♡
これからも頑張ります!

ちゃー○んさまの御名前見ると、やっぱり嬉しいですよ~
毎回書いて下さるから、今日も書いてくださったなぁ♪と(^.^)
あ、でも忙しい時などに無理はしないで下さいね!

私も、利府でちゃー○んさま探してしまうかも。
お顔存じ上げないのに……
キョロキョロしてるお一人様が居たら、それは私かもしれません。笑

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NB  

Re: タイトルなし

ゆ○んさま


こんばんは~!
いつもありがとうございます。

そうですよ~
ちゃっかり、そんなことを書いていました。
コメント欄、折り畳んであるから気付き難いかと思うのですが……
おまけにスローペースですが、返信はしてますので……(^.^)

このサイトはじめて、もう一年半程になります。
初期の頃は、特にはちゃめちゃな文と内容で……
いまもそんな大差ないですけども(汗)、見守って下さりありがとうございますと言いたいです。
ゆ○んさまは貴重な方のお一人なんですよ~
毎回、充実したご丁寧なコメントを頂き、いつも嬉しくなります。
本当にありがとうございます!

今回のお話はい今の時期に合うような、しっとりした雰囲気を出したいなぁと思ってまして……
ユノがふけてしまってる気がしますが……
変態と相殺できるくらいの割合で、こんなのも書いていきたいと思います♪
宜しければ、お付き合い願います♡

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NB  

Re: タイトルなし

ま○かさま


いつもお世話になります。
ライブビュの件は、本当にありがとうございましたm(__)m
幸せを噛み締めています。
沢山楽しんできます!

ユノだけなら二年間、チャンミン不在時も加えたら何年になるんでしょうね……
私寂しさを打ち消すために、ひたすら創作してるとおもいます(^_^;)
是非お付き合いください♪

今回は切ない、というかおっとりした風なお話を書いてみました。
三話くらいで終わりそうな予感ですが(汗)
ゴールまであと少し、頑張ります(^.^)

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