カラダノキオク 2


















カラダノキオク・表紙
















煙の香りが鼻を掠め、俺は目を覚ました。
始めはぼんやりとしていた光景が、次第に鮮明になる。
俺は、ついさっきまでのことを思い出してはっとした。
警官に襲われた。
目の前で、呑気に煙草をふかしているこの男に。
交渉に応じないどころか強引に俺を襲い、今も全く焦っている様子がない。
こいつ一体、どんな神経してやがんだ。
今すぐ殺してやりたい。
俺はチョン・ユンホをベッドの上へ押し倒し、拳を胸板に思いっきり叩きつけた。
何度も、何度も。

「うあああああっ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「お前なんて消してやる!写真も襲ったのも全部ばらして、めちゃくちゃにしてやる!」

取り乱す俺と対照的に、チョン・ユンホは抵抗することなく、どこか一点をぼんやりと見つめていた。
そしてぼそりと呟いた。

「好きにしろ」

小さく笑い、チョン・ユンホは続けた。

「警察なんて組織は滅びるべきだ。これで奴らに復讐できる。いや・・・・・・下っ端の俺が問題起こした位じゃ、石ころ投げたようなもんか」

こいつ、何言ってんだ。
今のチョン・ユンホからは、俺達に説教をしたあの時のような正義感は微塵も感じられない。
警官でありながら、警察を中傷するその姿に不気味さを感じた。
漆黒の瞳の中には、限りない絶望が広がっているように見えた。

「早く俺を貶めてくれよ。無駄な時間は嫌いなんだ」
「言われなくてもやってやる」

俺は服を身に纏うと、ホテルを後にした。






翌日、俺は仲間と校舎裏に集まった。

「金は?」
「貰ってない」
「は?」
「奴が交渉に応じなかった。それどころか、俺に暴力振るいやがった・・・・・・」

無理矢理抱かれたとは、とても言えなかった。
いつもとは逆の立場になった俺は、苦しみを吐露出来ない辛さを噛み締めていた。

「その代わり、写真ばら撒いていいってよ。やってやろうぜ」

俺は、仲間と共にチョン・ユンホに復讐を果たすつもりだった。
しかし、返って来た言葉を聞いて俺は唖然とした。

「本当にばら撒く訳ないだろ。そんなあぶねぇことできるか」
「え・・・・・・?」
「相手が悪かった。ハズレを引いたんだよ」
「これで、終わりかよ?」
「やるなら、お前一人でやれば?」

仲間の一人が言ったそのセリフに、残りの数人が笑い声を上げた。
頑張れよと一言残し、仲間は去っていった。
俺を助けようとは思わないのか?
友達だと思っていたのに、見捨てられたことがショックだった。
俺は今になってやっと気づいた。
奴らは、俺をただの道具としてしか見ていなかったのだ。
大人で遊び、金を得るためのツール。
これまでのことを思い返すと、計画は全員で立てても、実際に行動するのはいつも俺一人だった。
奴らは間接的に関わるだけで、何のリスクも背負わない。
万が一何かあっても、全て俺一人に矛先が向かうよう仕向けられていたのだ。
どうして今まで気付かなかったんだろう。
悲しみと怒りが同時に込み上げ、やがて全てが、怒りへと変わるのを感じた。
舐めやがって。
俺一人でも手柄を立てられるということを、分からせてやる。
強さを見せつければ、奴らも俺に服従するだろう。
馬鹿にしたことを、後悔させてやる。






数日後、俺は計画を実行した。
学校から帰る途中、あらかじめ購入していたナイフをポケットに忍ばせた。
俺が向かったのは交番だった。
入口に立つと、チョン・ユンホがデスクで書類を読んでいるのが見えた。
中へ入り目の前まで歩いて行くと、チョン・ユンホが俺を見上げた。

「・・・・・・お前、誰だっけ」
「ふざけんな」

チョン・ユンホは、書類に視線を戻して言った。

「写真はちゃんとばら撒いたのか?こっちは何の変哲も無いんだが」

それに答えないでいると、チョン・ユンホが笑って言った。

「写真ばら撒いてる場合じゃなさそうだな。今にも死にそうな顔だ」
「黙れ」
「何があったか当ててやるよ。仲間に裏切られて身動き取れないんだろ」
「黙れっつってんだろ!」

俺はポケットからナイフを取り出して、刃先をチョン・ユンホに向けた。

「金をよこせ。頭地面に擦り付けて、土下座して俺に謝れ」
「・・・・・・・・・・・・」

チョン・ユンホは、顔色ひとつ変えずに無言で俺を見つめている。
そうやって余裕漕いでいられるのも今のうちだ。
ナイフを振りかざせば、取り乱すに決まってる。
すると、チョン・ユンホは低い声でぼそりと呟いた。

「弱いんだよ、お前は」

そのセリフを聞いて、プツりと理性が切れた。

「ぶっ殺す」

思いっきりナイフを振り下ろした直後、まるで蠅でも捕えるかのように、チョン・ユンホが素手でそれを受け止めた。
そのまま椅子から立ち上がり、俺の胸ぐらを掴むと、勢いよく身体を壁へ押し付けた。
俺の身体を制した手も、ナイフを握る手も力強く、びくともしない。

「はなせっ!うああああっ!」

動きを封じられた俺は、泣きながら叫ぶことしか出来なかった。
しかし、ナイフを握ったままのチョン・ユンホの手から血が伝い落ちるのを見て、俺は我に帰った。
流れ出る血の勢いも量も、次第に増してゆく。
やがて床に作られた小さな血の池を見て、俺は身体から力が抜けていくのを感じた。

「血くらいでビビってる奴が、ナイフなんか持つんじゃねぇ」

チョン・ユンホは、握り締めていたナイフを背後へ投げ捨てると、血まみれの手で俺の頬を掴んだ。

「いいかよく聞け。見た目だけ派手にして周り睨んでても、雑魚が足掻いてるようにしか見えねんだよっ」
「う、くっ・・・・・・」
「本当に周りに認められたきゃ強くなれ。一人でまともに歩いてけるくらい、強くなれ」

痛い程真剣な眼差しから、目が逸らせない。
心をえぐるような、現実的で厳しい言葉に胸が痛くなる。
しかし痛みを感じると同時に、俺はどこかで救われたような気がしていた。
今まで、こんなにも真面目に俺と向き合おうとした奴は居なかった。
どんな大人も馬鹿にしたように、見下したようにいつも俺を見るだけだった。
母親さえも、俺に近づこうとしなかったのに。
大粒の涙が瞳から溢れて、頬をぐしゃぐしゃに濡らした。

「ちょっと先輩、何やってんですか!」

入口から、同僚らしい警官が姿を現した。
放心状態になった俺は床にずるずるとしゃがみ込み、チョン・ユンホとその同僚のやりとりをぼんやりと聞いていた。

「相談所へ通告しましょう」
「いや・・・・・・しなくていい」
「何故です」
「こいつを煽るような事言った俺にも、原因がある」
「それ・・・・・・本当ですか?」
「ああ。今日んとこは帰ってもらう」

かばってくれたのか。同情か。
チョン・ユンホが何を考えているのか、よく分からなかった。
もしかしたら、更生のチャンスを与えられたのかもしれない。
しかし、この暗い世界から立ち直れるとは、到底思えなかった。

チョン・ユンホの言う通り、俺は弱かったのだ。
強くなれない分、外見を派手にして威嚇ばかりしていた。
一人では何も出来ず、しかし仲間と居ても何も得られないと知った。
戦おうとしても、非力な俺は凶器に頼ることしか出来なかった。
そんな自分がとても情けなく、カッコ悪く思えた。



本当は、とっくの昔に分かっていた。
俺が選んだこの道が間違いだということを。
俺はただ、誰かに相手をして欲しかっただけだ。
凶暴に振舞いながらも、この予防線を飛び越えて手を差し伸べてくれる大人を、ずっと待っていた。









◇◇◇



暗い……
NBの根暗要素がたんまり詰まっています。
意味もなくただ暗いのは嫌いなんですけどね……と言って匂わせる。
1話は皆さんの反応が意外と良かったので、嬉しかったです♪

今回は1話分のボリュームが結構あるし内容も重いので、毎日更新よりは一日おきの方が私も読者様も丁度いいと思いました。
ということで、次の更新はあさってです(^_^)
よろしければお付き合いくださいませ。





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4 Comments

NB  

ちゃー○んさま

☆ちゃー○んさま

今晩は♪
いつもありがとうございますm(__)m
冷めてるユノ、いいですよね!(役柄の話に限る)
ご本人が熱いので、真反対の役やらせるとドキッとするというか……
ギャップ萌えしちゃうわ~♡
リアルは勿論激アツ派です(^.^)
ユノが冷めてる理由が今後明らかになるかも……?
宜しければお付き合いくださいね!

2015/04/20 (Mon) 22:26 | EDIT | REPLY |   

NB  

no○zoさま

☆no○zoさま

どうも、お世話様です!
東北は今日も雨です。
雨の降る月曜日の午後、しんみりしますね。
この話、確かに「太陽にほえろ!」の サントラがマッチしそうです。
山さんとゴリさん……すみません(T.T)
詳細を知らないのでイメージだけで似合いそうだなと思いました。
ちょっくらよーつべで探してみます!

ユノって何デカでしょう……
でも、警官よりも刑事のほうが似合うのは確かかなと!
彼激アツなので……(笑)
小説の更新頑張ります♪
いつも本当にありがとうございます。

2015/04/20 (Mon) 13:01 | EDIT | REPLY |   

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2015/04/13 (Mon) 18:32 | EDIT | REPLY |   

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2015/04/13 (Mon) 15:13 | EDIT | REPLY |   

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