turn over 11

  06, 2014 19:21


翌日。
ふと目覚めると……

「げっ」

時計が目に入った途端、俺は飛び起きた。
昼を通り越して夕方だったからだ。
今日は各自フリーで練習だから時間のノルマはない。
でも、全く何もしないのはマズイ。
事務所はライセンスを記憶して、その日にグループのメンバーが訪れたかを管理している。

「ヒョン?」

チャンミナが、微かに目を開けて俺を見ていた。

「いま何時ですか」
「16時」
「あー、マジかぁ……。練習……」
「今日は止めとくか」
「ヒョンだけでも行ってきたら?」
「けどお前……」
「いいから行ってきて。ポカリとアイスが欲しい。事務所行くついでに買ってきて」

これはチャンミナなりの、仕事で手を抜けない俺への気遣いだ。

「ほら、いってらっしゃい」
「……うん」

俺は結局、チャンミナの優しさに甘えることにした。

「俺は調子悪いことにして下さい。もし行けそうだったら、後から行きますんで」
「無理はするなよ」
「はいはい。ねぇ、高級なアイスがいい」
「わかった、5個でも10個でも買ってきてやる」
「そんなには、いいです」

くすくす笑うチャンミナにキスを落として、俺は支度を始めた。












何故俺は今、幾つもの熱い視線とカメラを向けられているのだろう。
まるで、動物園の人気者にでもなった気分だ。
こんな表現は、今俺の回りに集まっている女の子達に対して、失礼かもしれない。
けどプライベートでこうも取り囲まれると、やはりいい気分とは言えなかった。
自己管理がなっていなかった俺に、原因があるのだが。
事務所に着き、入り口の前で気づいた。
バックの中に入館証が無いことに。
心当たりを探ると、入館証の在処は直ぐに思い浮かんだ。
家に忘れたに違いない。
さてどうしようと考えているほんの数分のうちに、俺の回りはたちまち人混みへと化してしまった。
きゃあきゃあと上がる高い声は止む様子がない。
悲鳴なんてコンサートやイベントで散々聞き慣れているが、私用でこんな状況下に置かれるのは恥ずかしくて、出来るなら即刻姿を消したかった。
家に取りに戻りたいが、ここから迂闊に動いたら収拾がつかなくなるに決まってる。
どうする。
どうするんだ、俺……






『あんた、いい歳して子供ですか?』

入館証を忘れた事、今俺が置かれている状況を伝えると、携帯の向こうから呆れたような声が聞こえてきた。

「ごめんね?」
『まぁこんなのは今に始まったことじゃないし、んな驚きませんけど』

その口調から怒っているような印象は受けない。
むしろ……

「おい、なぁに笑ってんだよ」
『今……ふっ……!ヒョンが囲まれてるの想像したら、ぷっ……笑えてきて……くくっ……』
「お前、酷いぞ」
『ごめんなさい、怒んないで……くっ」

笑っているのは気に食わないけど、頼ることに免じて反抗はしない。
とにかく!

「俺こっから動けないし、マネヒョンに取りに行ってもらうように頼むから。入館証、ソファにかかってるコートのポケットに入ってんだ。渡してくれないか」
『俺が届けに行きますよ』
「疲れてるだろ、いいから休んで」
『ヒョンより強いんですよ、俺は。ずっと受けてきたから慣れてるの』
「でもなぁ……」
『マネヒョンに運転頼むなら納得する?乗せてもらって、一緒にいきます』

ただでさえ疲れているチャンミナを、こんな状況に巻き込みたくはない。
返事を躊躇していると、チャンミナが強い口調で言った。

『頼ってよ。格好良い相棒を』
「……ありがとう。じゃあ、頼む」

ここまで言わせて、断る気にはなれなかった。

『マネヒョンには俺が電話します。大勢の前で余計なこすると、色々勘繰られて良くないから』
「はい……。お願いします」

通話を切ると携帯をポケットに入れた。
昨晩はあんなに可愛かったのに。
いざと言う時には、頼もしい言動で俺を助けてくれるお前はやっぱり格好いい。
これからチャンミナが来てくれると解ったら、この言い様のない心細さが随分と軽くなった気がした。



程無くして、見覚えのある車が事務所の前に到着した。
それまで俺に集中していた視線は、次々と車へ移った。
電話していたことを知っているから、俺が助けを呼んだことは大体予測できる。
一体誰が登場するのかと、興味津々な様子が見てとれた。
ああ、巻き混んでごめん。
けど、助けにきてくれて死ぬほど嬉しいよ。
ドアが開いて、チャンミナが姿を現した。
再び、きゃあきゃあと甲高い声が上がる。
すとん、と軽やかに車から降りるその動きは、ぐったりと眠っていたあの姿を微塵も感じさせない。
チャンミナは、俺を見つけると身に付けていたサングラスをずらし、ばかヒョンと口だけ動かして笑った。
沢山の人に揉まれながら、回りにはこれっぽっちも目をやらず、俺の方へ向かって歩いてくる。
大勢の中にいても、回りがまるで白黒になったかのように、俺の目はチャンミナしか捕らえなかった。
その姿は、なんだかやけにかっこよくて、男前で……
次にチャンミナが抱きたいと言った時には、好きなだけ抱いてくれ!と言おう。
そう、心に誓ったのだった。









END





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