僕のピアニッシモ 6

  28, 2014 07:26


















僕のピアニッシモ・表紙

















窓から入り込む風が、また一段と冷たくなったように感じる。
外に植えられた木から枯葉が落ちたのか、カサカサと乾いた音がした。

『先生、紅葉が綺麗だよ』

もう暫く顔を見せないユノの優しい声を、聞いた気がした。
手術は、今日施行される。







僕を乗せた車は、昼過ぎにオペを依頼した病院へ到着した。
父さんは仕事のスケジュールを空けられず、今日は僕の元へ来れないそうだ。
放っておかれるのには慣れているので、それを聞いても当たり前としか思わなかった。
僕が側に居て欲しいのはユノだけだ。
素直になれなくてごめん。
心が弱いために、君を遠ざけた僕を許してくれ……
オペ室へ入って暫くすると、周囲はしんと静まり返った。
麻酔を注入された直後、意識は簡単に途切れた。
次目覚める時も、きっと今迄と何も変わらない世界が待っている事だろう。
変わった事といえば、ユノ……
君が居なくて寂しい。
それくらいかな。



日を跨いだのか、それとも数時間の間だったのかは解らない。
深い深い意識の底で、僕はただ鍵盤に指を走らせた。
曲は、ショパンの幻想即興曲。
力強い幾つもの音の波が、心の闇を突き破る程の勢いで生み出されてゆく。
僕にもこんな演奏が出来たんだ。
強く激しく、思いの全てを叩きつけるように。
失明した事を受容できない苦しみ。
この目で、愛しいユノを見つめられない虚しさ。
去り行く彼を止められなかった、僕自身への怒り。
本当は、前を向いて明るい世界を歩んでいきたい。
ユノ、お前と一緒に笑って生きたいんだ。
届け、僕の想い…………




















「…………」
「目が覚めたようですね。お疲れさまでした」

意識が戻った時、目の前は暗闇だった。

「終わったんですか……」
「はい。術後なので眼帯をしています。目はまだ開けないで下さい」

僕はこくりと頷いた。

「あの……手術は……」

返答を聞くまでのほんの数秒が長く感じられ、心臓は煩い程に大きな音を立てた。

「オペは、成功しました」
「本当に……?」
「はい。確実に結果を判定出来るのは眼帯を取った後になりますが、ほぼ成功と考えて間違いないでしょう」
「あ、ありがとうございます……」

これで、再び目が見えるようになるのか。
まだしっかりと実感は湧かなかったが、僕は拳を握りしめて喜びに震えた。
もう一度ユノに会って、傷付けた事を謝りたい。
そして伝えたい。
目が見えても見えなくても、僕はまた、共に歩みたいと思っていた事を。











暫く安静の状態を保ってから、遂に眼帯を取る日がやってきた。
いつもの定位置、ベッド脇の車椅子に座りその時を待つ。

「じゃあ、取りますね」

僕の眼帯に手をかけた看護師がくすくすと笑うので、何故だろうと不思議に思った。
はらりと眼帯が解かれ、目が解放された。
閉眼していても、今迄になかった光の明るさを感じて気分が高まった。
僕は、ゆっくりと瞼を上げた。
白い光が視界を覆い、一瞬ホワイトアウトする。
次第にぼんやりと見えてくる物の色、輪郭。
少し霞がかっているものの、段々とクリアになった視界は、目の前の物をしっかりと捉えた。
見つめる先にあるのは、黒いズボンと革靴を身に付けた脚。
父さん……?
視線を上にスライドさせると、一人の男性が僕を見つめながら立っていた。
赤い薔薇の花束を抱えて。

「先生、手術成功おめでとうございます」

その声は完全にユノで、優しげに笑った顔も幼い頃の面影を残していた。

「君は……ユノ……?」
「はい、先生」

切れ長の目が細められ、形の良い唇が弧を描く。
先生の為にスーツを着てきたんだって、可愛いわねと、看護師が笑って言った。
これは本当に現実だろうか。

「夢、みたいだ……」

久しぶりに目にする光景が眩し過ぎて、本当に幸せで、泣きそうになった僕は慌てて俯いた。

「先生……?」
「…………」
「もしかして、俺の顔期待外れだった?」

ユノが僕の顔を覗き込んだ。
目が合った瞬間、ドキッと心臓が跳ねて鼓動が速くなった。
きっと今、僕の顔は赤い事だろう。

「馬鹿……からかうなよ」
「ははっ」

声を出して笑ったユノが、僕を力一杯抱き締めた。
幸せ過ぎて、どうにかなりそうだと思った。









◇◇◇



おめでとん♡
次回はちょっとだけエッチな感じになるかと。

あと二話。
ふぁいてぃ~ん(*´ω`*)





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Comment 2

NB  

さえ○んさま

★さえ○んさま

こんばんは(^^)
いつもありがとうございます♡

私もクラシックはあまり知りません。
昔少しピアノをやっていた時期があって、ショパンのアルバムいちまい持ってる程度です(^_^;)

さえ○んさまにリクエストして頂いたお話でしたが、どうだったでしょう。
私は、年下ユノ×年上チャンミンという設定に新鮮さを感じながら、楽しく書かせて頂きました。
根倉な思考ですが、チャンミンはユノと付き合う程の価値を自分に見出だせなかったんですね。
ユノより10歳も歳上で、目が見えず生活も自立していない、仕事もできない。
さえ○んさまの解釈の通りです。
手術は成功しました!
失敗とかいう暗い展開は、考えただけで耐えられないです……(;_;)

今回も丁寧に読んで下さって、ちゃんと二人の気持ちを汲み取ってくださって、ありがとうございます。
暖かい応援のおかげで、無事幸せになれました♡

わたしも出国画像見ちゃいました(笑)
2人はもう日本でしょうね!
のびのび、ラブラブしていて欲しいなぁ~(*´ω`*)

確かに、旦那様にはイベント行きたいって、ちょっと言いにくいですよね。
ライブが大丈夫なら、イベントも大丈夫な気もしますが……

一緒に遠くから応援しましょう!
それでは、またお待ちしています。

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