僕のピアニッシモ 4



















僕のピアニッシモ・表紙

















朝、出勤途中に車の中でクラシックをかけた。
『Chopin』と書かれたCDケースは、かなり年季が入っている。
中学の頃に先生の影響で興味を持ち、小遣いで買った物だ。
先生と会えなくなってから見るのも聴くのも辛くて、実家の机の中に長い間しまったままだった。
先生がよく弾いていたノクターンが、車の中に響く。
優しく優雅な戦慄は、まるで先生そのもののようだ。
窓の外を流れるビルの隙間から朝日が差し込んで、まだ人も疎らな街を白く照らす。
何かが始まりそうな予感がした。






病院へ行けない日は、先生とは電話でやりとりをしていた。
仕事終わりに俺から電話をかけるのが日課になっていたが、今日は珍しく先生から着信が入っていた。
車に乗ると、俺は先生に電話をかけた。

『もしもし』
「電話に出れずすいません。仕事、今終わって」
『いや……。僕の方こそ、忙しいのに済まない』
「気にしないでください。先生から電話をくれるなんて、どうしたんです」

先生は少し黙ってから、遠慮がちに言った。

『これから……病院へ来れるか?』

仕事の後だったが先生に会いに行くのは全く苦ではなく、むしろ先生から誘ってくれた事が嬉しかった。

「勿論です。今から向かいます」
『ありがとう。ユノ』

電話の向こうから嬉しそうな声が聞こえてきて、先生がとても恋しくなった。







「先生」

ベッドに座っていた先生が、俺の呼びかけに振り向いた。

「ユノ?」
「来ましたよ」

先生はにっこりと笑うと、手で宙を探りながら俺を求めた。
俺は直ぐに、先生の手を握って応えた。

「我が儘言って、ごめん」
「我が儘を言われたなんて思ってません。俺に出来ることなら、何でも言って」
「……それじゃあ、もうひとつお願いを聞いてくれるか」

先生は、外へ連れて行って欲しいと言った。
夜遅くに棟内を歩くのは禁止されているので、俺にしか頼めないらしい。
深夜体制だからかスタッフは少なく、部屋からテラスまで誰にも見付かる事なく移動できた。
扉を開けた途端、先生は寒そうに身体を震わせた。

「今日は星が綺麗らしいから。見えはしないけど……この澄んだ空気を感じたくて」

俺は、上着を脱いで先生の肩に被せると身体を引き寄せた。

「風邪、ひかないようにね」
「ありがとう」

二人でベンチに腰敷けると、俺はキラキラと瞬く星達や星座の場所を先生に教えた。
流れ星が数回流れ、はしゃぐうちについ声が大きくなった。

「バレたら怒られるかな……」

人目を盗んで悪い事をする。
小さい頃そんな事をしてはよく叱られていたが、大人になり素直に楽しむ事が少なくなったので、懐かしい感覚だった。

「巻き込んですまない。嫌だったら、遠慮しないで言ってくれ」
「嫌じゃないです。むしろ楽しい」

俺がそう言って笑うと、先生も笑った。

「そういえば、お前はいたずらっ子だったね。初めて会った時は大人しいのかと思ったが、よく知ると気が強くて真面目で、優しくて……けどたまに、いたずらをされて困ったんだ」
「ふふ。そうでした」
「今も……楽しそうに笑っているんだろうな。出来る事なら、お前の顔をもう一度見たかった」

決して合うことのない視線。
それでもいい。
心の瞳で、俺を見つめて欲しい……
俺は先生の手を取り自分の顔へ持っていくと、目の回り、瞼や鼻筋を指で辿らせた。

「先生が誉めてくれた、目と鼻だよ。分かる……?」

先生は瞳を潤ませながら、こくこくと頷いた。
そのまま下の唇へ誘導すると、俺は形のよい指先にキスをした。

「ユ、ユノ……?」

感触で解ったのか、先生は戸惑っている。
俺は構う事なく、今度は先生の唇にキスをした。
触れるだけの、長く優しいキスを。
やがてそっと唇を離すと、俺は想いを告げた。

「貴方が好きです」
「ユノ……」
「ずっと、側に居させて」

すると先生は、俺の胸にそっと額を寄せた。

「僕も、ユノが好きだよ」
「先生……嬉しい」

その言葉に舞い上がり、先生を抱き締めようとした時だった。

「でも、駄目なんだ」

先生は、苦しげに顔を歪めて首を振った。

「僕は醜い。暗い世界にずっと一人で、誰も側に居なくて寂しかった。そんな時にお前が現れたから……僕は都合よくお前を頼ったんだ。いい歳をして、こんな年下のお前に……。僕は何の力もない、ただの弱い大人なんだよ……」

先生の言葉が痛々しくて、俺はその続きを遮るように先生をきつく抱きしめた。

「もういい。もう何も言わないで」
「ユノ……」
「俺は、俺は……先生が俺を好きでいてくれるなら、それだけでいい」
「……うっ……くっ……」

先生は俺にしがみつきながら、それから暫くの間泣き続けた。









◇◇◇


いつもば~っと書くので、誤字脱字に後から気付きます。
そして後からちょこちょこ修正するという……(^_^;)
不可解な文章があったらごめんなさい。

拍手、たくさんどうもありがとうございます。
ショパンを聞いて頑張っております。
こんなにも受け受けしいチャミを書くのは久々……
完全に受けっぽくしたい時、わたしはどうやら僕と言わせる傾向があるようです。

それはそうと、ユノが髪を切りましたね。
随分可愛くなりました。
彼、髪で本当に変わりますね(笑)





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