僕のピアニッシモ 3

  25, 2014 07:12


















僕のピアニッシモ・表紙

















先生の座る車椅子を押しながら、陽のあたる廊下を歩く。
柔らかい風が吹くテラスへ出て、先生を車椅子から降ろすと二人でベンチに座った。

「ユノ、今年でいくつだ」
「24になります」
「そうか。随分大人になったな。顔を見れないのが残念だよ」

先生は、遠くを見つめながら続けた。

「実は……小さい頃から弱視があってね。ゆっくりだけど、成長するにつれて症状が進行してたんだ。暫くは教師をやっていられたけど、限界が来てしまって。今は何も見えなくなってしまった」
「そうだったんですか……」
「お前には、別れも告げず居なくなった事をずっと申し訳無いと思っていた。本当に済まなかった」
「謝らないで下さい。でも……少しでもいいから助けになりたかった。何も知らずに、今まで呑気に生きていた自分に腹が立ちます」
「そんな風に言うな。お前に迷惑をかけるのは間違いだろう。こうやって会えただけで、とても嬉しいよ」

迷惑なんかじゃない。
俺は先生のためなら、何だってしたいのに。
話を聞くと、先生は世話をしてくれる親族が居ないらしかった。
両親は幼い頃に離婚し、先生は父親に引き取られた。
父親は世界中を飛び回る音楽家で、年に一度しか会えない程忙しく働いているらしい。
彼は先生のために、街の一等地に立派な屋敷を建てたうえ、毎月高額な仕送りを欠かさないそうだ。

「父さんは解ってないんだ。僕が本当に欲しいのは、お金でも高価な物でもないのにね」

笑った先生は、どこか寂しそうに見えた。

「だけどこれも彼なりの愛し方だから……お金は好きに使わせて貰ってるよ。屋敷に一人で居ても、不便だしつまらないだろう。ここに居れば看護師が尽くしてくれるから、金はかかるけど一人よりずっといい」

頼れる人が居ないなら、俺が先生を支えたい。

「先生」
「ん?」
「俺、時々来てもいい?先生と話したい」
「嬉しいけど……悪いよ。お前のプライベートの時間を奪うなんて」
「俺が先生と居たいんだ」
「お前がいいなら……」
「だから、そう言ってるでしょう」

手を握ると、先生は頬をほんのりと赤く染めて笑った。
心がじんと温かくなり、トクトクと波打つ鼓動が少し速くなった気がした。
その日から俺は、仕事が早く終わった日や休日を使って、よく先生に会いに行くようになった。









ある晴れた日の午後。
俺は外出許可を貰って、先生を病院から連れ出した。

「一体、何処へ連れて行くつもり?」

滅多に外出をしないからか、俺に問いかける先生はわくわくしている様に見える。
そんな先生を可愛いと思った。

「秘密」

車の助手席に先生を乗せ、俺は小高い丘にある教会を目指した。
教会の外見や内装も、佇む場所も好きだ。
風に揺られて踊る木々や花々。
丘の向こうには海が広がり、水平線を境に青と緑のコントラストが綺麗に見える。
景色が見えなくても、穏やかな空気や潮の匂いを含んだ風を、一緒に感じて欲しかった。
到着すると、俺は先生に寄り添いながら丘の上をゆっくりと歩いた。

「風が気持ちいい。長い間目が見えないと、空気でどんな場所か解るようになるんだよ。ここは素敵な場所だね」
「そうでしょう。俺のお気に入りの場所なんです」

教会が近くなると、開け放たれた扉から讃美歌が聞こえてきた。
先生が居なくなって寂しかった時、辛い思いをした時、いつも俺は、ここへ来ては歌を聞いて元気を貰っていた。

「教会があるのか?行ってみたい」
「こっちです」

先生の手をひいてそっと中へ入ると、隅に腰掛けて讃美歌を聴いた。



Amazing grace how sweet the sound

That saved a wretch like me

I once was lost but now am found

Was blind but now I see……



この曲は昔、よく先生と二人で歌った。

「懐かしいね、ユノ」

先生が、微笑みながら俺の肩にもたれる。
目が見えない先生にとって、これは視覚を補うためのスキンシップなのかもしれない。
だけど、再び先生を好きになり始めていた俺は、意識せずにはいられなかった。


やがて誰も居なくなり、教会には俺と先生だけが残された。
俺は先生の手を引き、祭壇の前へ連れて行くと向かい合った。

「ユノ……?」

不思議そうに問いかける先生に罪悪感を感じつつも、俺はそれを実行した。

「先生、目を閉じてみて」

俺がそう言うと、先生はそっと目を閉じた。

神様。
どうかわたしに、この美しい先生をください。
先生にそっと顔を近づけると、俺はキスの真似をした。
この人を、ずっと側で支えたい。
俺が先生の目になって、生涯守り続けたい。
昔、俺を助けてくれた貴方を、今度は俺が助けたいんだ。



先生……
俺は今でも、貴方を愛しています。









◇◇◇


たーくさん拍手ありがとうございます!
コメントもどうもですm(._.)m
エナジー補給もぐもぐ……♡

ピアニッシモは8話くらいでさらっと終わるかも。
どうぞお付き合い下さい。





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