ロスト バージン 2


















ロストバージン・表紙

















「なんだ、お前か……」
「なんですかその反応。せっかく慰めに来たのに」
「いらねぇよ、そんなの」

素っ気なくそう返したが、チャンミンは去らずに俺の隣へ並んだ。
手刷りに寄りかかり、俺の顔を覗き込みながらチャンミンは言った。

「ねぇ、先生」
「んー?」
「俺、ここで働き始める前に一度、先生に会ってるんですよ」
「……嘘つけ」

冗談だと思ってそう返したが、チャンミンは以外にも真剣な顔をしていた。

「一度看護師を辞めてから、暫くバーで働いてました。酒が好きで」
「へぇ……」

チャンミンが話した内容はこうだった。
ある日目の前のカウンターに座った男が、酒を何杯も頼みべろんべろんに酔いながら、ずっと呟いていたらしい。

『俺は神様じゃない。何でこうなった。何でだ』

それは、確実に俺のことだった。
チャンミンが入職する前、自分の立場を受け入れられなかった俺は、全て忘れたいが為にバーへ入った事があった。
滅多に飲まない酒を、弱いくせに浴びるほど飲んだ。
あの時、俺に酒を出していたのはチャンミンだったのか。
まったく覚えていない。

「よく解んないけど……この人、凄く大変なんだなって思って見てた。まさか、新しい職場で貴方に再会するなんて……本当に驚きました」

チャンミンには、全て知られているということか。
俺の弱い心も、本音も全て。

「参ったな……。忘れてくれ」

いつものように皮肉が返ってくると思ったが、違った。

「先生、手かして」

言われるまま差し出した俺の手を、チャンミンが指先でつねった。

「痛ぇよ」
「切れたら血だって出る。神様は命の大切さを知らせる為に、人間に痛みを与えたんだって。先生はちゃんと人間だよ、大丈夫」
「…………」
「周りの言ってる事なんか気にするな……って言いたいけど、先生は立場が立場だしね。俺でよかったら、愚痴るなり好きに使ってください」

チャンミンはよく周りを見ているし、気を遣える優しい奴だ。
いつもは調子良く振る舞い、繊細な面は隠しているが。
今日だけ、手を差し出してくれたチャンミンを頼りたくなった。

「お前、これから予定は?」
「何も無いです」
「じゃあ飲みに付き合え」
「いいけど、先生の奢りね」
「はいはい」






飲み始めてからしばらくすると、酒に弱い俺は完全に酔ってしまった。

「先生、あまり無理しない方がいいよ」
「駄目だ、まだ飲む」

チャンミンは、ボトルに手を伸ばした俺を止めることなく、呆れ顔で呟いた。

「こんなになるまで溜め込むなんて」
「仕方ないだろ。言える奴なんて居ないんだから」
「恋人は」
「作る暇がない」
「そうなんだ……」

チャンミンはグラスを回しなから続けた。

「あっちの方はどうしてるんですか」
「は?」
「溜まりません?」

何でそういう話になるんだ。

「欲求を充実させるって大事でしょ。睡眠も食事もろくに取ってないのに、性欲も押し込めちゃったら先生の身体が可哀想」
「そんなん、気が向いた時にひとりでやってる」

生活の殆んどが仕事に埋め尽くされて、心に余裕が無いことの方が多い。
熱を解放する行為も、ただの作業のようになっていた。

「駄目ですよ、身体にちゃんとご褒美あげなきゃ。セックスでもしますか」
「お前と一緒に店に行く気になんてならん」

ふたりで、適当に店に入って一発ヤる。
チャンミンの言葉をそう解釈したが違っていた。
俺より目線が低くなるように姿勢を崩し、上目使いになったチャンミンが言った。

「そうじゃなくて、俺と……」
「げほっ……!」

俺は思わず吹き出した。
酒が気管に入りかけ派手に咳をする俺を、チャンミンは涼しげな顔で見ている。

「動揺し過ぎ」
「そりゃするだろ馬鹿っ……」
「で、どうするの?」
「断るに決まってるだろ」
「はは、だろうね」

ワインを一気に流し込むチャンミンの横顔を、俺はぼんやりと見つめた。
整った中性的な顔立ちと、うっすらと赤みがかった綺麗な肌。
こいつがオンナ役なら、以外といけるかもしれない。
一瞬、そんな考えが頭を過った。

何を考えてるんだ、俺は……








◇◇◇



沢山の拍手、コメントありがとうございます♪♪
たぶん、あと1話か2話で終わります。





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