蒼いイト #1

愛が欲しい。ありのままの俺を、受け入れてくれるような。この孤独までも、抱き締めてくれるような。愛が欲しい。静かに、優しく、包み込んでくれるような。気付けば、いつも傍で見守っている・・・・・・そう・・・・・・この、蒼い空のような―――――一日中働いて疲れきった身体で、生気の抜けた随分と酷い顔を引っ下げ、電車に乗り込む。吊革に捕まると、背中を丸め、脱力して長い溜め息をひとつ。窓に映り込む死んでる様な俺の顔と、その回り...

蒼いイト #2

愛の取り引きにおいて、客が売人の個人情報を知ることはタブー。よって俺は、何時も相手の電話番号や住所を知ることは無い。待ち合わせの場所も時間も、予め店長から教えられる。今回の愛の取り引きは、一週間と長い。でも、シムさんの電話番号を知らないので結構不便だ。次何時に何処で待ち合わせるとか、毎回会う時にしか決められないし変更が利かない。今夜の待ち合わせ場所も、丘の上のベンチだった。昨晩、別れ際にこんな会話...

蒼いイト #3

『ごめん。私もう、あんたと一緒に居られない』『え・・・・・・・・・?な、なんで急にそんな・・・・・・』『来ないでっ』 『・・・・・・・・・・・・!』『さよなら、ユノ』『ちょっ・・・・・・』またか。また俺は、独りになるのか――――――??「待ってくれっ!!!」叫んで、身体を乗り出した次の瞬間・・・・・・・・・・「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・」俺は、寝室のベッドの上に居た。息は上がり、就寝着は汗でじっとりと湿っている。「あーもう・・・・・・。嫌な夢見ちま...

蒼いイト #4

勤務中、運転していると、目の前を猫が横切って急ブレーキをかけた。「あっぶねーな!」助手席に乗せた後輩が、驚いた顔で俺に問いかける。「ど、どうしたんすか」「猫だよ、猫」「・・・・・・猫なんて、居ました?」呑気に呟く後輩を見て、ため息をついた。「ったく・・・・・・お前、スマホばっか見てんなよ?」「いやいや先輩、これ立派な業務のひとつですから。アナログはもう古いんすよ。今や情報管理は電子機器が主流で――――」「へいへい...

蒼いイト #5

目の前は、シラける程鮮やかな青い空。真下には、小さくなった人や車が流れている。手摺も何も無い段に乗って、僕は両手を広げた。目を瞑り、唱える。次は風になりたい。今日みたいな、夏雲になりたい。ただ、どっかに漂っていたい。もう・・・・・・心は、感情は要らない。この"こころ"という機能は、僕にはとても管理しきれないから。サヨナラ、世界―――――。右脚を、宙に一歩踏み出した。息も出来ない程の、強い風圧に身を任せ―――――僕は...

蒼いイト #6

無表情な空の下。穏やかな空気の中で。シムさんが消えてしまって、頭が真っ白な、俺。一人だけ、取り残されてしまった。そんな知らんぷりしないで、誰か助けてくれ・・・・・・嘘だと言ってくれよ・・・・・・・シムさんは、幽霊だったなんて――――「くっ・・・・・・・・」優しい笑顔を思い出す。今にも、目の前にふわりと浮かんで来そうな・・・・・・胸が苦しくて、息が出来ない。衝撃が過ぎると、静寂は受けとめ切れない悲しみを連れてきた。「シムさんっ・・・...

蒼いイト #7

僕はまた、暗闇に浮いていた。よく目を凝らしてみると、辺りは木が生い茂る深い深い森だった。地面は木の根や草の鶴ばかりで、油断したら足を絡め取られそうだ。この森は、何処まで続くのだろう。じわり、心に不安が落ちて、広がる。今まで、不安や恐怖を感じることなんて殆ど無かったのに。優しさに触れたあとだから?彼を、知ったあとだから・・・・・・?僕は歩き続け、その途中、頭の中にはよく思い出の彼が現れた。『だって、本当に...

蒼いイト #8

『電話したらちゃんと返して。心配で眠れないのよ』「ごめん・・・・・・次から気をつけるから」『お願いよ』「仕事行くから、切るね」切羽詰まった母さんの声を電話越しに聴いて、こころが痛んだ。僕は自殺未遂で、母さんの心まで殺しかけた。本当に申し訳ないと、今になって思う。僕が母さんを遠ざけ、心が離れても、母さんが毎日新しい家族に囲まれて過ごしていても、僕は大切な子供の一人に変わりなかった。何か特別新しい感動がある...