小説家は夢想する

 09, 2015

小さい頃から、本を読むのが好きだった。休日は家に引き籠もって本と向き合い、簡単に一冊読み切ってしまう事もよくあった程だ。そんな俺の仕事は、小説家専属の編集者だ。編集者は、本の題材について必要な情報を提供したり、内容について助言しなければならない。小説家との関係を上手く築かないと、やっていけないのだ。俺はコミュニケーションが決して得意ではないから、毎回それに気を遣う。でも、やっぱり本の世界観は好きだ...

小説家は苦悶する

 13, 2015

先生の唇が離れた後も、俺は動けずにいた。そんな俺とは対照的に、先生は何時もと変わらず穏やかだった。「済まない。嫌な思いをさせてしまったね」「い、いえ・・・・・・」「今のは忘れてくれ」先生はそう言うと、再び庭へ視線を投げた。俺は突然のキスに大混乱だというのに、先生が俺にしたフォローはたったそれだけだった。納得いかない。俺だけこんなにも動揺して、キスの理由も分からないまま有耶無耶にされるなんて。「あ、あのっ...

小説家は策謀する

 25, 2015

 “ 彼女は、頬を紅く染めると俯いてしまった。   ふと沈黙が落ち、静かな雨の音だけが僕等の間に流れた。   白く細い手を握り締め、彼女はゆっくりと顔を上げると僕を見つめた。   淡い紅色の薄い唇が、うっすらと開いた。   「貴方のことが・・・・・・好きです」 ”原稿に目を通していると、先生が言った。「書いてはみたものの・・・・・・果たしてその流れでいいものか・・・・・・。情け無いことに、恋愛を長らくしていないから自信が...

小説家は愛を綴る

 27, 2015

俺は先生から原稿を受け取ると、並んだ文字に視線を走らせた。“ 『小説家は愛を綴る』  小説家の男は、ある日一人の青年に出会った。 大きな目と、筋の通った鼻、薄く特徴のある唇が印象的だった。 青年は創作の仕事を手伝いながら、少しずつ男の心の中に入り込んだ。 微笑んだ時の、少女のような可愛らしい笑みや、丸みを帯びた頬が男は好きだった。  ある晩青年は、月に連れ去られそうになる男を引き止めた。  優しい心に...

東の空に燃ゆるは、赤く大きな丸い月。闇の中ひっそりと灼熱の光を放つ、君のその姿は美しい。しとやかな見かけの中に情熱を含む君は・・・・・・そう、あの人に似ている。僕の愛しき先生に。ああ。こんな夜は・・・・・・貴方の熱い身体に、のみ込まれてしまいたい。「・・・―――ム君、シム君?」「え・・・・・・?あ、はい!」月を見つめながら心中で詠っていると、先生が不思議そうな顔をして俺の名前を呼んだ。「どうしたんだい、ぼうっとして」「え...